プチデポットが企画開発し、メビウスよりリリースされたプレイステーション Vita用ソフト『グノーシア』は、2019年にリリースされた注目作の1本だ。

 端的に言うと、本作はSFの世界観を舞台にした人狼ゲーム。プレイヤーは宇宙船の乗員のひとりとして、宇宙船内に紛れ込んだ未知の敵“グノーシア”を見つけ出すべく、悪戦苦闘していくことになる。

 『メゾン・ド・魔王』などで知られるプチデポットの最新作ということで、2017年の発表以降注目を集めてきた『グノーシア』だが、発表から2年を経て発売された同作は、その期待に違わぬ評価を獲得することとなった。ゲームライター・戸塚伎一も、そんな『グノーシア』に魅せられたひとり。2017年5月に開催されたA 5th of Bitsummitでいち早く『グノーシア』に触れていた戸塚伎一は、同作が発売されるやすかさずプレイ。「開発者にインタビューしたい!」との思いを募らせていた。

 今回お届けするのは、そんな戸塚伎一が、自身の思いの丈を、『グノーシア』のプロデューサーであるめづかれ氏と、プログラマー兼シナリオライターであるしごと氏にぶつけたインタビューとなる。『人狼』には少し抵抗があるという戸塚伎一氏が、いかにして『グノーシア』に魅せられたのか……。改めて、『グノーシア』の魅力を紐解いてみよう。

[編集部注]インタビューを実施したのは2019年夏。記事作成を進めているさなかに、『グノーシア』のNintendo Switchでの発売というニュースが飛び込んできた! というわけで、 Nintendo Switch版を楽しみにしつつ、このインタビューをチェックしてくださるのもいいかも。なお、あらかじめお断りしておくと、今回の記事中で掲載しているゲーム画面は、すべてNintendo Switch版のものとなる。

※『グノーシア』ニンテンドーeショップサイト

祝スイッチ版リリース決定!『グノーシア』はいかにして2019年注目作の1本たりえたか。いま改めて開発秘話をクリエイター陣に聞く_01

めづかれ氏

『グノーシア』プロデューサー。ゲーム会社勤務を経てプチデポットを設立。本名の“川勝徹”名義で各メディアに露出する。

しごと氏

『グノーシア』のプログラマー兼シナリオライター。

ひとり用人狼ゲームへの挑戦

――『グノーシア』の制作が始まったきっかけは、人狼ゲームをモチーフにしたとあるスマホアプリの実況配信を観たことが人狼ゲームの入り口になったんですね。

しごとはい。これはひょっとしておもしろいのかな、と思って実際にやってみたら、それなりにおもしろいんです。ただそのアプリでは自分の役職を選べなかったりと消化不良な部分があって、ことりさん(プチデポットのグラフィックデザイナー)が「ちゃんと遊べる人狼ゲームを作ってよ」って言いだしたのが実質上のスタート地点です。

――このアプリを知る前に人狼ゲームを知っていたり、遊んだりしたことは?

しごとまったくなかったですね。後に『人狼読本』っていう本を読んで、詳しいルールを知りました。

めづかれ参考にしたのはそれだけですね。

――(笑)。

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『グノーシア』の人狼ゲーム部分を支えたという『人狼読本』(2013年)。あえて強調するつもりはないが、ファミ通BOOKSだ。

しごとこの本1冊と、『グノーシア』の作り始めのタイミングで友人に誘われて、実際に人狼ゲームをやってみた経験がベースになっています。やったときは初日に吊られちゃいました。

――いきなり洗礼を。

しごと最初に誰が何の役なのかカードが配られるんですけど、「そのカードをめくる手つきがプロっぽい」みたいな理由で。

めづかれそんな理不尽なことあります?(笑)。

しごとあと、初めてで慣れていないからあまりしゃべらなかったんですけど、それが“慣れているからあえて目立たないようにしている”と見えたみたいです。

――わかります、その納得いかなさ。私も数年前に一度だけ人狼ゲームをやって、いきなり嘘をつかないといけない役になりました。でもすぐにゲーム慣れした人にしゃべりかたや矛盾点を徹底的に指摘されて、あっさり初日吊りされました。

めづかれ・しごと(笑)。

――初回プレイで完膚なきまでに初心者狩りされたっていう印象もあるんですけど、人狼ゲームって「参加者全員がルールを完璧に把握した上で適切な行動を即興でできないと成り立たないゲームじゃないのか?」という引っかかりが、それ以来できましたね。

めづかれ『グノーシア』を人狼ゲームのように作っていくにあたって、僕の立場から言うと、おっしゃる通りルールがめんどくさいし、ややこしいなという思い込みがありました。ゲームとして苦手というか、“一見さんお断り”の雰囲気だったり、吊られる理由が理不尽だったりするから、なかなか前向きな気持ちになれなかったんです。つまり、チームリーダーが人狼ゲームに対して否定的だったと。

――なるほど、「俺をおもしろがらせてみろ」くらいの立ち位置ですね。

しごと試しにプレイステーションモバイル用に、自分たちで遊べるくらいの形のものを作りました。2015年の初頭から作り始めて、同じ年の3月にプレイステーションモバイル終了のお知らせが来たんですけど。

――タイミングが(笑)。その時点でのめづかれさんの印象は?

めづかれしごと君たちは僕が遊ぶ様子を「ここでその選択をしますか!?」っておもしろそうにみているんですけど、人狼ゲームの基本を知っていることを前提に作られたものだから、自分が何をしているのかよくわからなくておもしろくなかったんです。ルールについてその都度質問すれば、メンバーは教えてくれるんですけど、言いかえれば、そういうサポートがないと僕にとってはゲームとして成立しないなと。

――人狼ゲームが“対人の駆け引きのゲーム”として成立するギリギリのバランスの部分をネックに感じた、ということですね。

めづかれただ、プレイステーション Vita用のゲームソフトを作るチャンスをメビウスさんからいただいていたので「じゃあこれを本格的に作ってみようか」と。先ほど言ったネックの部分を解消しつつ、オリジナルタイトルとしてやりたかったいろんな要素を入れつつ。

しごと最初の企画書で、ストーリーを入れてRPG要素を入れて……って書きましたよね?

めづかれ書きました。

しごと“何度もループしながらストーリーの謎が明らかになる”って書いている時点で「本当に明らかになるのかな」と思っていました(笑)。

――(笑)。

めづかれ実際に作るにあたっては、シナリオは置いておいて、まずは人狼ゲームパートの仕組みにずっと取り組んでいました。

――つまり初期段階では“ごくふつうに遊べる人狼ゲーム”ができあがっていたんですね。

しごと『グノーシア』にあるスキルはまだなくて、役職などの基本ルールがすべて入っていて“疑う”や“かばう”といった基本的なアクションを起こせる状態にはなっていました。人狼ゲームシュミレーターとしてフリーゲームで出すぶんにはぜんぜん問題ない出来だったのですが、本気で遊ぶものとしては物足りなかったですね。

めづかれずっとプレイしていると飽きてくるんです。僕だけじゃなく、メンバー全員がそう感じていました。

――入れ込むストーリーの規模はどの程度のものを考えていたのでしょうか?

しごとイメージは広いけれど、ストーリー自体はコンパクトにしたいなと思っていました。イベントのテキスト分量をあまり膨大にしたくなかったので。

――それはつまり“読み物”にしない、ということでしょうか?

しごとはい。人狼ゲームをやりたい人の邪魔になっちゃいけないことを意識していました。

――確かに『グノーシア』をプレイしていて、人狼ゲームパートでいままでと違う展開があったときに気持ちがグンと跳ねて、その勢いでゲームプレイを楽しんでいたところがありました。それは単純に“ストーリーがおもしろい”とは違うゲーム体験だと感じていました。

めづかれ人狼ゲームとストーリーが完全に分かれていると気持ちが切り替えられないので結果融合させたんですけど、僕としては、あまり一回ごとのイベントで満足させたくないというか、腹8分目くらいの理解度で「えーと……どういうこと?」と感じでほしかったんです。

――そこまで計算されていたのですね。

めづかれ人狼ゲーム1回やってその後のストーリーが1時間続いたら、それを観終わった時点で満足してやめちゃいますよね。でも人狼ゲーム10分・ストーリー5分なら何回もやりたくなるじゃないですか。

――ぜんぜんやれますね。布団に入って横になってプレイして、翌朝起きて寝落ちした続きをやってとなると、1回では終わらないです(笑)。

めづかれ地の文(登場人物のセリフ以外の、状況を説明するテキスト)は、しごと君の意見もあって極力抑えました。

しごとめづかれさんは、もっとストーリーを読みたい派でしたね。

めづかれ説明があまりにも不足していると状況がわからなくなるから、ここはもう少し……といった話はその都度しました。ストーリーを作るときは、イベントを1週間に1本とか3日に1本ずつというのをメールのリレー形式で確認っていうのを何回もくり返しましたね。

――それは、何個くらいあるのですか?

めづかれめちゃめちゃあります(笑)。

しごとそのやりとりの期間が1年くらいですね。最初にある程度大雑把には作ったのですが、実際にシナリオを書き起こしていく段階で増えたり内容が変わったりで、最初に書き起こしたものとはかなり変わっています。

めづかれイベントの数は当初の倍になりました。説明が足りないからということでどんどん追加して。そうして完成度が上がってくると、だんだんみんな楽しくなってきて“開発ハイ”になるんです(笑)。とくに去年(2018年)の後半は、自分たちで足りないと思った要素を入れていくいちばん楽しい時期でした。ストーリーと人狼ゲームのシステムの境界線を超えたり、中に戻したり、その上でどうシナリオで体験してもらうかといったことをしていましたね。

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アフォーダンスと“遊びの耐久値”

――人狼ゲームのルールを逸脱するストーリー展開は、企画当初からあったのでしょうか?

しごとたまにあったらいいなと思っていました。人狼ゲームのルールの中で起きるイベントってすごく制約が多いんです。ですので、ときどきそういう制約から離れてもおもしろいんじゃないかなと。ゲーム全編を通してせいぜい2、3回だろうなというイメージでバランスをとっていきました。

――デスゲーム系のシナリオで何か参考にしたものはあったのでしょうか?

しごとレイジングループ』は開発が始まった後に遊びましたが、すごくおもしろくて一気にクリアーしました。『レイジングループ』に関しては本当にただのファンで、玄関にもポスターを貼っています(笑)。

――人狼ゲームを題材にした作品ということで、正直「先を越された!」って思いませんでしたか?

しごと『レイジングループ』はストーリーの中で人狼ゲームをやるので、アプローチのスタイルは被っていないとは思いました。そのぶん、自分たちのスタイルで楽しいものにしないといけないなと改めて思いましたね。

めづかれ僕らは『レイジングループ』も『シュタインズ・ゲート』みたいなループものもプレイヤーとして体験しているわけですが、そういったゲームをリスペクトしながら“人狼ゲームとループものの組み合わせ”をこれまでになりアプローチで挑戦する価値はあると確信していました。

――じつは私も『レイジングループ』を始めたら止まらなくなったクチで、ほかにやらなければいけないことを差し置いてエンディングを見るまでひたすらプレイしてしまいました。そしてそれは『グノーシア』のときもまったく同じでした。そこで気づいたのは、「人狼ゲームは、その外枠の物語があってこそ活きるものではないだろうか?」ということです。もちろん人狼ゲームそのものを純粋に楽しんでいる方々がたくさんいることは承知の上ですが、じつはエンターテインメント作品の一部になることで“完全体”になれるというか、冒頭で私やめづかれさんが指摘したウィークポイントも補完・昇華されるんじゃないかと思うんです。

しごと僕が思ったのは、人狼ゲームを通すと、登場人物のキャラクター性がよりはっきり見えてくる、ということです。『レイジングループ』もキャラクターがいいし、魅力を出しやすいルールなのかなって思います。

めづかれそういえば初期のころは“ギャルゲーみたいにしたい”ってあったよね。

――人狼恋愛ゲームだったってことですか!?

しごとことりさんは「もっと恋愛要素を強くしてほしい」と強く主張していました(笑)。

めづかれ同じメンバーで同じことをくり返すので、徐々にキャラクターの新しい側面が……っていう見せかたは演出しやすいですよね。今回作りかたとして特殊だったのが、ストーリーありきで各キャラクターのパラメーターを設定していないということです。どちらかというとキャラクターのパラメーターありきでストーリーが決まっていきました。パラメーターを設定して何度も遊んでいるうちに、各キャラクターのAIの癖がみえてくるんです。「たぶんこのキャラはこの動きするよね」と考えた後に、ぼんやりとストーリーが見えてくるように。「こいつはこういう嘘をつくんだ」みたいな、遊びながら自分たちが体験した感覚を参考にストーリーを作って、組み込んでいくやりかたです。

――キャラの性格と人狼ゲームパートでの立ち振る舞いがピッタリ合っていたのは、ストーリー側が寄せていたからだったんですね。ジョナスのヘンテコな感じとかすごいなと思っていました。

しごとジョナスだけは自分で設定した性格からはみ出るんですよね、なぜか。

めづかれジョナスってバグっているよね?

しごとバグってはないです(笑)。

――(笑)。パラメーターの特殊な相関関係でそうなってしまったと。

しごとそうです、人間としてバグっているんです。

めづかれ人狼ゲーム中のキャラのセリフはプリセットで決まっていて、パターンはたくさんあるけども、ストーリー展開や進行度次第で同じセリフでも印象が変わってくると思います。この仕組みは『メゾン・ド・魔王』から使っているものです。あれもいろんな設定の中で自由に生きているキャラクターたちの生活を覗き見るみたいな感じなのですが、新たなストーリーが生成されているように見える点は『グノーシア』も割と近しいと僕は思っています。

――プレイヤー側で勝手に物語を読み取ってしまう、みたいな感じでしょうか?

しごと根っこがアフォーダンスっていう生態心理学の概念──“モノが人間に行動させる”という考えかたなんです。たとえば「ドアの形は人間が開けやすい形になっているから、それを見たら自然に開けてしまう」みたいな。もともと『シムピープル』がそういう設計で、『メゾン・ド・魔王』のときはけっこう参考にしました。『グノーシア』でも基本設計ではかなり参考にしているので、キャラクターの行動原理に関しては、自発的に考えて行動するみたいな一般的なAIとは別物なんです。

めづかれ『グノーシア』のアプリケーション容量は300メガバイトしかないし、『メゾン・ド・魔王』に至っては200メガバイトくらいしかない。すごく軽いんですよ。だから容量と関係なく、ゲームデザインやゲームルールといった仕組みでどうおもしろくさせるかについて、ひとつのカタチにできたんじゃないかと思っています。

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――ファミコンなどのプログラム容量が少ない昔のハード用のゲームに世界の広がりを感じられたのには、ひょっとしたらそういうテクニックが駆使されていたからかもしれませんね。

めづかれ僕はそこに関しては“遊びの耐久値”って表現を用いて考えています。一回のゲームのサイクルに何回耐えられるという意味で、『グノーシア』だったら1回10分の人狼ゲームを100回以上やってもらうと想定したときに「それに耐えられるだけのゲームシステムになっているか?」という点がすごく気になるんです。たとえば経験値の入りかたですね。『ドラゴンクエスト』の戦闘シーンでメタルキングが出るとドキドキするじゃないですか。そこで倒しかたを工夫すれば経験値がたくさん入るっていう喜びがあるし、そういうチャンスがたまに訪れることによってくり返しの戦闘に緊張感ある楽しみがあると思うんです。『グノーシア』ではその最適なバランスの調整を、とにかくずっとやっていましたね。

しごとあとは僕がそうなんですけど、このゲームを人狼ゲーム部分だけで楽しみたい人向けの作りにもしています。仮にメインストーリーがなくても、1回のプレイでどのキャラがどう動いたのかという経過から自分なりのストーリーを作れる人もいるはずなので、そういう人たちにとって余計な情報やサポートを極力入れないように気をつけました。

めづかれこのゲームで起きることって、制作者がどこまで意図的に作ったものなのか判断がつきにくいと思うんです。こちらの意図しない偶然だったりするかもしれないし。だから仮に本当の不具合があったとしても、それさえも許容できるゲーム設定なので、「なんかヘンだけど自分なりに辻褄が合っているからいいか」って肯定的に受け止めやすいかもしれません。だからリリース後もバグ報告が少なかったですね。判断しにくいので(笑)。

――ゲーム世界を支える大きなストーリーと、1回ごとの人狼ゲームで発生する小さなストーリーの両方で満足させる作りを……というのは、よく考えたらとんでもないことですね。ちなみに、何ループくらいでメインストーリーのエンディングにたどり着けるように設計していたのでしょうか?

めづかれとりあえず中身がひと通りできているという段階でそれぞれテストプレイをして、何ループくらいでクリアーできるか測ったんですよ。そうしたら、180ループを超えてもまったくクリアーできなかった。さすがにそれはしんどいなとなりまして、イベント数から逆算して、うまく進めれば、およそ120~130ループでクリアーできれば嬉しいなと。

――私は140ループくらいでクリアーしたのですが、本当に充実したひとときを過ごせました。遊びの耐久値で言えば、ぜんぜん余力を感じましたね(笑)。

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『グノーシア』のAIは“神々の晩餐”の如し!?

――先ほどお話しの中で、しごとさんはキャラクターの行動原理に一般的なAIを用いていない……とおっしゃっていましたが、ではどのような形のAIが採用されているのでしょうか?

しごとAIというかこのゲームの全体的な仕組みに関しては……少し宗教がかった話ではあるんですけど、『グノーシア』の世界では“シナリオの神”のような存在がいるんです。

――んん? ちょっと待ってください、“シナリオの神”!?

しごと百数十体のシナリオの神がいて、登場人物のエネルギーを食べて活性化するんですよ。

――……すみません、理解が追いつきません。

めづかれまずはシナリオの神について説明したほうがいいんじゃない?

しごとそうですね(笑)。シナリオの神というのは、各キャラクターが取る行動とか、その上でどういったことが起きるかという展開がある程度入ったまとまりの単位のようなものです。最初は全員眠っている状態から始まって、あるキャラクターが何らかの条件を満たしてエネルギーが高くなったときに、シナリオの神がそれを食べようとするんです。

――ええとそれは、シナリオの神が出た杭を打ちにいくような?

しごと自身が起きるためのエネルギーを捕食する感じです。どの神がそのエネルギーを食べられるかは状況によって違うのですが、エネルギーを食べたシナリオの神は動き出して、そのシナリオの神の中で設定された、各キャラクターの取りうる行動が活性化するようになっています。

――人狼ゲームパートの展開にはシナリオの神の数だけのテンプレートがある、ということでしょうか。

しごとそうではありません。人狼ゲーム部分を担当するシナリオの神はそれ自体別にいて、それはほぼ毎回エネルギーがなくても起きだしてくるんです。だいたいの場合に活性化しているから、その中で取り得る行動は毎回選べるのですが、ほかの神が活性化していると、人狼ゲーム中に取り得る行動それ自体がキャラクターを選べるようになる、という感じです。

――つまり、各ストーリーイベントの思念体のようなものが、自身が発生しやすくなる状況を各キャラに取らせようとしてくると。

しごと大まかにはそんなところです。人狼ゲーム部分を担当するシナリオの神は登場人物に対してある程度平等なのですが、ほかには“特定キャラのエネルギーしか食べない”みたいな神もいたりと、シナリオの神ごとにエネルギーの捕食のしかたが違ってくるんです。

――場合によってはエネルギーの取り合いも?

しごと取り合いはよく発生しています。

――その取り合いは、どうやって決着がつくのでしょうか?

しごとそのエネルギーの味をそれぞれの神が判断して食べているんです。

――エネルギーの味……?

めづかれたとえば「これはおいしいから俺が食べるよ」みたいな。

――主張し尊重しあうんですね。ひとつのエネルギーをわけあって食べることはないのでしょうか?

しごとひとつの神が1回食べて、まだエネルギーが残っていたら、ほかの神も食べられます。「この条件をこの神が占有するからこれは取れない」みたいな状況も一応あるんですけど。

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――何となくですが、『グノーシア』のAIの正体がわかってきました。

めづかれキャラクター14人が個別のAIを持っているわけではなくて、14人のキャラクターたちを動かす神様がいっぱいいる……ということです。

しごとじつはその仕組み自体がゲームのストーリーに反映されている部分もあって……(以下、ゲームの根幹にかかわる話題のため割愛)。

――いやぁーそうでしたか! びっくりしました! ちなみに、それぞれの神に名前とかはつけていたりするんですか?

しごと名前はないですけど、デバックしている段階で「これは(通し番号の)何番だな」みたいなのはありました。

――中二病っぽい! カッコいい!!

めづかれ・しごと (笑)。

めづかれプレイヤーの体験としてはそういうことをあまり意識せず、ナラティブなゲームデザインとして楽しんでいただきたいですね。

――みんな同じゲームを遊んでいるつもりでいて、案外まったく違う景色を体験しているかもしれないなと思いました。

めづかれそれはあるかもしれません。僕がテストプレイしていて「ククルシカ嫌いなんだよな」って言ったら、しごと君は「ククルシカすごくいい子じゃないですか」って言ったりと、プレイヤーそれぞれの頭の中で作られるものが違うんでしょうね。その原因は「このキャラ嫌いだからとりあえず初日に吊るそう」みたいな、プレイの手癖にあると思います。ただこれが続くとずっと出てこないシナリオもあるわけで、いろんなストーリーを見るには自分のプレイスタイルを積極的に変えていく必要があるんです。なかなか新しいシナリオが出ないことで、違うプレイスタイルで試してほしいという思いもあります。

――たしかに私自身、メタな視点でプレイすることにだいぶ意識的でした。

めづかれどこまでやってもオッケーで、どこまで遊んだらダメかみたいな切り分けを、いつもギリギリでやっていましたね。僕としてはもっとメタな仕掛けを入れたかったんですけど(笑)。

――そのあたりの調整で、チーム内で険悪にはなったりしないんですか?

しごとならなかったですね。最終的なバランスは、ことりさんにお任せしていた部分があります。

めづかれ男だけで作っていると偏るところを、女性デザイナーの目線を通すことでバランスを取っていましたね。

――グラフィック面だけでなく?

しごとプレイしたときの印象など、全体的な美意識を含めてですね。とくにキャラクターに関しては、デザインした彼女がいちばんイメージを握っているので。シナリオ中のセリフでも「このキャラはこんなこと言わないんじゃないか」みたいな判断もしてもらっていました。

――ちなみに、SFの世界観でいこうとなった理由は?

しごと「人狼ゲームであまり生臭くならないようにするにはSFがいいんじゃないか」と、いうことでそこはわりとすんなり決まりましたね。

――『グノーシア』はBGMも印象的ですが、そこはやはり物語世界に寄せて作ってもらったのでしょうか?

しごと音楽の作りかたは、これが一般的なのかはわからないですけど……だいたいこういうものを作りたいっていうことをQ flavorさん(※プチデポットのサウンド担当)に話すと、勝手に作ってくれるんです(笑)。

めづかれゲームがまだぜんぜん完成しないうちからぼんぼん送られてきて「あとは好きに使ってください」みたいな感じだったので、適切なシーンをこちらではめていきました。付き合いが長いから、お互いだいたいどんな感じかわかるからできている部分ではありますね。

しごと「エンディング用に用意されていた曲を、ここで使っちゃいました」って言うと、「じゃあエンディング用の違う曲を考えます」って言ってくれたり(笑)。

――なんて寛容なんだ!

めづかれ夜間の徘徊パートの曲、あれがもともとエンディング用の曲だったんですよ。そのシーン用の曲がなかったからとりあえず挿し込んで、それでずっとテストプレイしていたらなじんでしまって (笑)。そこで初めてみんなで多数決を取りました。このままいくか、エンディング曲として元に戻すかって。

――結果、そのままになったんですね(笑)。そういう風にできるのは、Q flavorさんがちゃんと寄せてくれるから……ということですよね。

しごとむしろ曲のほうにシナリオが合わせることがあります。その後エンディング用に送られてきた曲を聴いて、「どうすればこの曲にたどり着けるだろう」とシナリオを考えましたね。

――え……ということは、制作が始まった時点では結末は用意されていなかった?

しごとある程度のイメージはあったのですが、具体的にどうするかまでは決めていなかったですね。

めづかれ特記事項が全部埋まったらそこで1回終わりにして、そこからずっとみんなで遊んでクリアーしたときの気持ちの状態のまま、エンディングを作っていったんです。キャラクターごとのイベントもそうなのですが、手法が逆なんですよ、全部。

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“何が起こるかわからない不安定さ”の先にあるもの

――大きいゲーム会社ではまずできない作りかたですね。

めづかれそうかもしれません。プレイヤーとして遊んだときの感覚を後づけでストーリーに乗せていくので、すごくなじむと思うんですよ。僕も体験ありきで内容について文句を言いましたから(笑)。そのときの考えや体験がストーリーに反映していくという……ジャズセッションに近いかもしれないですね。

――だからなのか、あのプレイし終えたときの心地よさは! 個人や少人数開発だと「俺たちの作ったココを見やがれ」みたいな部分が先鋭化されてもおかしくないものですが、そうはならなかったんですね。

しごと“自分たちがゲーム機でこれを買って楽しめるか?”は、絶対の基準にしています。

――語弊のある言いかたかもしれないですけど、作り手としてプロフェッショナルになり過ぎず、遊び手の感触を大事にしていると?

しごとそうですね。

めづかれ僕たちは作りたいゲームじゃなくて遊びたいゲームを作りたいんです。ひとり用の人狼ゲームがあればそれを買えば済むんですけど、待っても出ないから作るしかないなと。

――すごく腑に落ちました。

めづかれマーケティングやプロデュースをする以前に“自分自身がどんなゲームを遊びたいのか”っていうのがないと……。“これがウケるウケない”の前に、まずは己にウケてるのかと問いかける。ここがしっかりしてないと長期戦の開発を乗り切ることは難しいです。

しごとあとはあくまで作る側としての基準があるとしたら“できて当たり前のものは作らない。できるかわからないものを作ろう”ですね。

――たしかに『グノーシア』の出発点もそうでしたね。

めづかれ僕は「作り始めてから3年経つけど本当にできるかな?」ってめっちゃ思っていましたもん(笑)。

――(苦笑)。

めづかれ「ひとり用人狼ゲームにいろんなジャンルを合体させて……って大風呂敷広げているけど、それ本当に成立するの?」って、いろいろな人から言われたので、逆に聞いてみたんですよ。「でも、もしそれが本当にできてたら遊びたくないですか?」って。そしたらみんな「もちろん!」って。作っている僕たちは、『グノーシア』の完成形がみえていますが、その時々で徐々に情報公開していったので、皆さんには不安になっていたかもしれませんね。それでも伝える楽しみもありました。

――正直、1年前(2018年)の時点のプレイヤブル状態のものをプレイした段階では気づけませんでした。だから製品版をプレイして「なんか……すみません」ってなりました(笑)。

めづかれ当時そういう芳しくない反応をされればされるほど、僕は「いける」と思っていました。『グノーシア』はこういうゲームですというプレスリリースを3年前に出してから、いま現時点まで同じタイプのゲームがなかったように思います。大手の会社がお金やスタッフを動員すれば先に作れたかもしれないものを作ってこなかったのは、ニッチすぎるとか、市場が読めないといったことがあったかもしれません。ですが、少なくとも僕たち4人の規模であれば、そこが唯一の優位性ですし、ある意味で参入障壁になる。

――『グノーシア』のようなゲームは、あったら絶対おもしろいけど、それが本当にできるかどうかわからないから、大抵のチームはスタート地点に立つ前に諦めてしまう題材である……と。

めづかれむしろ、そこにしか僕たちにはチャンスがないんです。だって無名のインディーゲームですから。

――いや、プチデポットさんは無名ではないと思いますが。

めづかれメゾン・ド・魔王2』じゃなくて完全新作だから、知名度はないんですよ。

――ある意味、背水の陣を敷いての制作だったんですね……。先ほどしごとさんがおっしゃった、完成するかどうかわからないゲームを作りたい、というのは「知らないゲームを遊びたい」ということなのでしょうか?

しごとというよりは、作る側として“どう作ったらいいかわからない状態”が楽しいんです。

――さらっととんでもないことをおっしゃいましたね。つまり曖昧な目標に向かって進んでいく過程が、作り手の楽しみのひとつだと。

しごとそうですね。そこは“ゲームを作る”っていう遊びとして。

――それ、プロデューサーとして許してしまっていいんですか?(笑)。

めづかれ・しごと (笑)。

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――最初は人狼ゲームに否定的だったというめづかれさんですが、ご自身で「これはイケる」と思われたのはどのあたりでしたか?

めづかれストーリーがある程度見えたときです。このストーリーはゲームシステムと絡んでくるんですけど、それって、たとえば『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』など、ストーリーだけでなく、ゲームの仕組みが楽しかったり、そこにテキストADVだけではない新鮮さを感じていましたので、『グノーシア』も同じところまでたどり着けたんじゃないかと。

――なるほど、そう言われてみれば……。では、人狼ゲームというシステムが先行した時点で、すでに「イケる」ゲージは溜まりはじめていたんですね。

めづかれはい。あとはどういうシナリオを乗せるのが最善なのかと考えるのが、いちばん大変でした。じつは一度、途中まで進んでいたアイデアを某ゲームに似ているからという理由でゼロから構想し直したんです。そこからこの形にもってこられたのはよかったですね。個人的にはこのシステムを使ったシナリオは二度と作れないんじゃないかと思っています。

しごとそうかもしれないですね。

――いちプレイヤ―としても、「この先どうなるの!?」という驚きと「こういう風に繋がるのか!」という納得感の連続は、そうそう味わえるものではないと思っています。

めづかれ僕たちも作りながら「どうなるんだ」と思っていましたから(笑)。このヒリヒリした感じがゲームにも無意識ながら入っているかもしれません。だからユーザーの人たちと同じ気持ちなんです。でも “何か起こるか分からない不安定さ”というのが、じつは極上のご馳走なんですよ。僕らはふつうの遊園地じゃなくて、壊れかけの遊園地で遊びたい。観覧車が途中で止まるかもしれないけど乗りたい……みたいな。極上の遊園地は他のゲーム会社さんが作ってくださるので、それを楽しみたいですし。

――(笑)。

めづかれそしてぶっ壊れた遊園地から生きて帰ってきた人たちが「やべーよ、あの遊園地」と噂すれば、怖いもの見たさに行ってみようかという人が徐々に現れてくるかもしれませんよね。そうなるとプレイステーション Vitaというハードは“選ばれし者のための極上のチケット”になるハズです。

――いやー、実際「『グノーシア』のために久しぶりにプレイステーション Vitaを引っぱり出しました」というSNSの書き込みもけっこう見かけましたし、アドベンチャーゲーム好きにはグサグサ刺さりまくったんじゃないかと思います! ……とはいえ、そろそろ“つぎ”の展開があると、またひとつ大きな広がりも生まれるんじゃないかなと。

めづかれいろんな機種にして欲しいというご要望はたくさんいただいているので、もちろん動いています。ただ、うちのチームが少人数で、プログラムも複雑ですから、どのプラットフォームがいちばん作りやすいかを検討している段階です。

――『メゾン・ド・魔王』のように、パブリッシャーのメビウスさんが移植開発をする……というのは?

めづかれしごと君いわく、移植は“自分じゃないと無理”とのことです。

しごとほかのプログラマーはこのゲームの内部の仕組みを理解するのに、すごく時間がかかると思います。

めづかれしごと君だと仮に3ヵ月で済むところが、外注すると下手したら1年くらいかかるかもしれない。それは申し訳ない気がしてます。

――では現時点ではまだ何とも……といったところでしょうか。

めづかれとはいえ、プレイステーション Vitaだけに留まるつもりはありません。「移植したらまた買うよ」と言ってくださる人や、熱烈に応援してくださっている方々がいますので。

――(笑)。

しごともちろんやっていない人たちからの移植希望もあるのですが、やってクリアーまでした人たちが早く移植しろって。

――好きなものにお金を何度も払いたいというファン心理、よくわかります。いざ移植するとなったら、まったく同じというわけではなく、何らかの要素が追加されると思っていいのでしょうか。

しごとシステム面で「ここはもっとこうすればよかった」というのはありますね。

めづかれそのあたりはネットに書かれた意見を参考にしつつ、できる限り検討したいと思っています。今後の展開に関しては、希望的観測ではなくちゃんと決まった時点で発表したいと思います。もうしばらくお待ちいただければと!あと、メビウスさんより『グノーシア』などの関連グッズを販売いただいてますので、もしよろしければ手にしてもらえると嬉しいです。

※メビウスオンラインストアより、『グノーシア』のグッズ販売中!

[編集部注]冒頭でお伝えした通り、『グノーシア』はNintendo Switch版が配信予定。インタビュー時とは状況が変わっているが、別のプラットフォームで展開することに対するめづかれ氏やしごと氏の思いが伝われば……と思い、そのまま掲載させていただいた。インタビューに答えて、“移植はしごと氏じゃないと無理”と明言していたので、たぶんしごと氏ががんばって移植したんだろうなあ……などと思いつつ、Nintendo Switch版を心待ちにしてほしい。

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