N高等学校に『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)最強JKがいると聞いた。
最初の感想は「ふーん」だった。まあ、そういう女子もいるだろう。最近は女子ゲーマーの話題も増えているし、ちやほやする必要もないよなー。
と、斜に構えていたら、どうやら少し変わった娘らしい。何でも真剣に『LoL』に取り組むために通信制のN高に転校したとのこと。そこまでやる?
ちょっと興味がわいたので、話を訊かせてもらうことにした。
やりたいことを全部やるため、N高へ
『LoL』は5対5のチーム戦がメインのPC用オンライン対戦ゲーム。世界的に人気の高いeスポーツタイトルとしても知られている。
日本には高校生を対象にした大規模な大会がふたつある。毎日新聞社&サードウェーブ主催の“全国高校eスポーツ選手権”とテレビ東京&電通主催“STAGE:0”だ。『LoL』は両方から競技タイトルに選ばれている。
ふたつの大会で好成績を収めているのがN高の『LoL』チーム“KDG N1”だ。2019年春の第1回 全国高校eスポーツ選手権の準決勝進出に始まり、夏開催の第1回 STAGE:0で優勝。2019年12月29日に行われた全国高校eスポーツ選手権の第2回大会でも優勝し、夏冬の連覇を果たした。
くだんの女子は、そんな強豪校で『LoL』をやるために転校した。完全にスポーツマンガの世界だ。彼女のサモナーネーム(プレイヤーネーム)は“shakespeare(シェイクスピア)”。ドラマチックすぎやしないか。傑作戯曲が生まれようとしている。
この取材を行ったのは2019年12月27日。本番の2日前である。最後に練習とミーティングをするというので、その様子を見学させてもらった。
shakespeareさんの予定入り時間より少し前に練習場所の教室に入ると、ほかのメンバーはのんびりした雰囲気でPCをセッティングしていた。
本番前でぴりぴりしているかと思ったら、そういうわけでもないらしい。ここまで来たら焦っても仕方ないということか。みんな肝が据わっている。
準備の様子を撮影したり先生方と世間話したりしているうちに、shakespeareさんがやってきた。『LoL』を通してチームメンバーと交流しているものの、直接会ったことのない人もいるとのこと。どんな反応を示すのか。
ものすごくふつうだった。よろしくーくらい。
初対面の男子メンバーがどきどきするような展開を期待したのだが、そんなことはなかった。冷静に考えたら当たり前だ。人生にはそうそう波風は立たない。
甘酸っぱい展開を期待したのには理由がある。ここまで書き忘れていたが、shakespeareさんは女子高生ミスコンのファイナリストなのだ。つまり、美少女ということである。
N高の女性広報さんも初対面だったようで「写真より実物のほうがかわいい。はるかにいい!」と大絶賛だった。
興奮する広報さんはひとまず置いといて、shakespeareさんから話を訊かせてもらうことに。

『LoL』歴はどれくらいですか?

中学2年生の頃からやってました。日本サーバーができたときくらいかな。

どうしてN高の『LoL』チームに合流しようと思ったんですか?

高校1年生まではふつうの高校に通ってたんですけど(いまは2年生)、もともと学校に通うのが好きじゃなかったんです。せっかく全国高校eスポーツ選手権って大会があるのに、いまの高校に通ってたら出られないのも悔しくて。
2年生になってミスコンにもエントリーしてみたから、うまくいくかわからないけど、思い切って7月からN高に転校した、みたいな感じです。

全国高校eスポーツ選手権が転校のきっかけなんですか?

そう……ですね。なかったらN高には来てなかったと思います。

ご両親はどういう反応をされましたか?

うーん、けっこう、あきれた感じというか、そんなに止められたりもしなかったですね。「好きにやりたいことやりな」みたいな感じだったんですけど、いろいろ成功してからは前より面倒を見てくれるようになりました(笑)。
家族仲は悪くないようで何よりだ。とはいえ、両親の反応は少し気になる。怒られたでも、止められたでも、応援されたでもなく、あきれられた。僕はたぶんshakespeareさんの両親と歳が近いけど、子どもはいないので、気持ちを想像することしかできない。
気を取り直して、質問を続ける。

いちばん好きなチャンピオン(キャラクター)は?

ジャンナです。

ジャンナいいですよね。美人のお姉さん的なビジュアルもかっこいいし。これまでの最高ランクは?

グラマスまでいきました。グランドマスター。
これには驚いた。『LoL』はシーズンごとにプレイヤーの強さがランク分けされる。グランドマスターは上から2番目のランクで、だいたい上位0.1~0.2%くらい。始めてから2年少しで到達したというからさらに驚いた。軽く引いた。

ところで、どうして『LoL』をやろうと思ったんですか?

好きな人がやってたんです。すすめられて始めました。
急に甘酸っぱさという名の剛速球を投げ込んできた。恋は女の子を強くする。

ふだんはどれくらい練習してますか?

ミスコンが始まる前は1日12時間以上やってました。

おおおおおお。

始まってからはほんとに忙しすぎて。ノーマル(ランクには影響しないゲーム)で1~2戦やったくらいで、全然練習できないときもありました。スクリム(本気の試合を想定したゲーム)なら3~4時間やったりするんですけど。

12時間やってた頃、体調は大丈夫でした?

もうーダメでしたね。不健康でした。いまは全然大丈夫ですけどね。ミスコンに参加する前はご飯を食べる時間ももったいないくらいで、37.5キロとかだったんです。身長163センチで。

僕も人並み外れて軽量小型だけど、37キロて。

ミスコンに参加したら「太らないとやばいぞ」って言われたので、きれいに体型を作りたいんですよ。ジムに通って筋肉をつけながら体重を増やしたいと思ってます。時間はあるので。

ミスコンでファイナリストになって、モデル活動を始めたりもするんですか?

そうですね。やりたいです。

いまいちばんの目標にしているのはモデル活動での成功? それともゲーム?

まだ全然決まってないんです。決まってないから、ゲームもモデルも大学進学も全部、同時進行でやっていこうと思ってます。
強い。シンプルにそう思った。
正直に言うと、取材前は不安もあった。ゲームをしたいから通信制高校へ行く。単に不真面目なだけの子だったらどうしよう。そういう不安だ。
shakespeareさんと話しているうちに、その不安はどこかに消えた。受け答えはしっかりしてるし、僕に気を使った発言も見られる。適度に大人だ。しっかり者だ。
彼女はやりたいことを全部やるためにN高を選んだ。何らかの活動をする場合、ふつうの高校は夕方まで授業があるので使える時間が限られる。一方、N高は通信制高校なので、時間をコントロールできる。この差は大きい。
“学校が好きではなかった”という気持ちはあるものの、逃げではなく、前向きだったのだなと思う。

チームメイトとはN高に来てから知り合ったんですか?

そうですね。あ、でも、かまぼこくん(※)とは中学2年生のときにランク戦で会っていて、そのときはミッドとトップ(※)でデュオしたりしてました。
※かまぼこ:チームメイトのWhite And Pink選手のこと。白とピンクだから、かまぼこ。
※ミッドとトップ:『LoL』におけるロール(役割)のこと。

いまのメインロールはどこですか? それと、スタメンですか?

サポートです。リザーブなんですけど選手登録はしています。1戦くらいは出られるかなーって。
リアルのスポーツもeスポーツも、基本的には実力主義の世界だ。このために転校してきたとはいえ、決勝戦の舞台に立てるとは限らない。
このときはshakespeareさんがプレイしている様子は見られないかもなーと、半分あきらめの気持ちもあった(伏線)。
shakespeareさんの実力やいかに
2019年12月29日、第2回 全国高校eスポーツ選手権『LoL』部門の本番がやってきた。オフライン決勝トーナメントには4校が進出。
N高の準決勝戦の相手は、前回大会の優勝校を予選でくだした横浜市立南高校だ。強敵には違いないが、N高にはアマチュア日本代表に選ばれたmarimo選手もいる。中盤の戦いを制した勢いで横浜市立南高校を圧倒して、決勝戦進出を決めた。
準決勝戦のオーダーにshakespeareさんの名前はなかった。彼女がチームに加わったのは2019年7月。ほかのメンバーと比べて練習時間も短いだろうし、仕方ないとは思う(伏線)。
幕間のチーム紹介が終わり、2本先取の決勝戦の準備が始まる。
そのとき、shakespeareさんはステージのプレイヤー席に座っていた。N高はメンバーチェンジを選択したのである。うおー!
野球やサッカーと違って、『LoL』を含めてゲームの競技シーンでメンバーチェンジは珍しい。体調不良でもないかぎり、だいたい固定メンバーが出場し続ける。
shakespeareさんの参戦にはかく乱の意味合いがあった。対戦競技は相手を研究して対策を練るものだ。決勝戦でぶつかるクラーク記念国際高校は準決勝戦を見たうえで作戦を決めたはずなので、N高のメンバーチェンジには驚かされたに違いない。
たとえ意表をつけてもスタメンより腕が劣っていたら意味はないが、shakespeareさんなら大丈夫。「カバーが見事ですね。N高が安定的にゲームを進める要因にもなっています」と解説者が感心するほどの働きでチームに貢献。1本目を勝利で飾った。
ここでshakespeareさんが下がってWhite And Pink選手がイン。クラーク記念国際高校はまた戦いかたを変える必要があるので、そうとうやりにくいはずだ。
2本目は一進一退の攻防が続いた。クラーク記念国際高校が優位のまま後半戦に突入したが、最後はN高のエース・marimo選手の神業が炸裂。2連勝で優勝の座をつかみ取った。
本当にやりたいことがあるのなら、実現に向けて動くことが大切
大会終了後、shakespeareさんから感想を訊かせてもらおうと、N高の控え室にお邪魔した。緊張から解放されて、みんなリラックスしている。

優勝おめでとうございます。まずは感想から。

めっちゃ疲れたのと、めっちゃうれしかったのと。1戦目が終わったときは「これ優勝いける」って思いました。

2戦目をステージ裏で観てたじゃないですか。どんな気持ちでしたか?

観るのが怖かったです。ひとりで観ないといけないから。胃が痛くて、画面を観てらんない。観客席にいる友だちとLINEしてました。

後半は攻め込まれてたし、観るのがつらいのもわかるなー。プレイ面はどうですか? 思った通りの動きはできました?

周りからは「いい動きだった」って言われるんですけど……。
と、ここでほかのメンバーが帰ろうとし始めた。

薄情者だなー! でもいいよ疲れてるんだったら。あとでLINEいっぱい送るから。
みんなは2日前よりさらに打ち解けているようだった。いっしょにゲームをして、大舞台を踏んで、お互いに気を使わない関係になっているのかもしれない。
いや、考えすぎだな。男子高校生の女子への対応はだいたいこんな感じだった気がする。

何でしたっけ。あ、プレイの話か。ダメージを出したかったんです。キャリー(※)しないとうまくないって思っちゃうから。敵も倒したかったし。
※キャリー:日本語だと“運ぶ”。“チームに勝利を運ぶ”という意味で、敵を倒したり仲間を先導するプレイを差す。

でも、(役割は)サポートですよね。ガンガン行く人は少ないと思うんですけど。

そうなんです。そうなんですけど、そういうプレイが好きだから。もっと倒したかったなー。

じゃあ、どうしてほかのロールやらないんですか?

サポートの動きが身に付いちゃってるんですよね。いまからほかのロールやって、大会に出られるくらい仕上げることはできないので。

まあ、たしかに。観る側からすると攻撃的なサポートっておもしろいなーとは思います。今日は100点満点中何点ですか?

えー? 周りの人に褒められるまでは「うち、いる意味あるのかな」って思ってました。20点くらいかな。

へー。僕は「途中からチームに加わってこれかー。すごいな」って、ずっと思ってましたけど。

上を見過ぎちゃうんですよ、きっと。

いま2年生ですよね。次回も出場チャンスはあります。やっぱり、スタメン取りに行きますか。

そうですね! むしろ(チームを)仕切ります。

おー頼もしい。男女混成の競技って少ないと思うので、そういうチームは見てみたいですね。姉御が引っ張っていく、みたいな。

(自分に)付いてきてくれるかわからないですけど、無理やりしつけます(笑)。

女傑じゃん。
ミスコンにしてもゲームにしても、目に見える結果が出るまでは家族からの応援はあまりなかったそうだ。
marimo選手によれば、shakespeareさんは“我が強いプレイヤー”。彼女は自我を少しだけ押し殺し、周りの意見を取り入れるように努力した。ストレスの中でがんばってきて、得た称号が高校日本一である。このカタルシスたるや。
shakespeareさんはゲームのために転校したことに多少の負い目を感じていたのかもしれない。「これで青春を取り戻しました」とホッとしていたのが印象的だった。
この記事のきっかけは「ゲームのために通信制高校に転校した女子高生がいる」というものだった。キャッチーな題材だと思う。
だが、ふたを開けたら「本当にやりたいことがあるのなら実現に向けて動くことが大切。高校生だからと言って早すぎることはない」がテーマになっていた。
いい高校・大学に入っていい企業に就職する。その道もすばらしいが、いまは昔と比べて別の道を選びやすくなっている。もちろん、ただの我がままにならないように、結果を出すまで挑み続ける覚悟が必要だ。
スタッフさんが投げかけた「このメンバーと何を目標にしますか?」という質問に、shakespeareさんは「全部の大会で優勝ですね」と、笑顔で返した。