2020年1月21日にSteamで早期アクセスがスタートした『ごく普通の鹿のゲーム DEEEER Simulator』。タイトルに反して全然普通じゃない鹿っぷりは本作の開発発表時から話題になっており、「なんとなくは知っている」という人も多いだろう。
しかし、「どうやら、変なゲームらしいぞ」ということは分かるものの、具体的にどういうゲームなのかが分からず、二の足を踏んでいる人もいるかと思う。筆者もそのひとりだった。というわけで、筆者が“変な鹿のゲーム”という以外の前知識なしで挑んだ模様をお送りしてみたい。
常識があぶない
ゲームを起動すると、冒頭のスクリーンショットのようなタイトル画面が現れる。早速、鹿の首が画面外へ伸びているが、これは鹿の頭がマウスカーソルの位置に反応するため。マウスカーソルを左へ動かせば海に落ちるし、上に動かせば宙に浮かぶ。これから始まる奇特な世界へのウォーミングアップといったところだろう。
“はじめる”を選ぶと、ごく普通の鹿が眠りから覚めて起き上がる。水平線の彼方に巨大な牛が見える以外は、ごく普通の街の景色だ。
画面右下に“チュートリアル”と出ているように、基本操作の確認が始まる。筆者はPCにXbox Oneのコントローラを繋いでいるので、ボタンの表記はXbox Oneコントローラ準拠。左スティックで移動、Aボタンでジャンプ、LTボタン長押しでダッシュ。ダッシュすると、急に鹿が二足歩行になってビビるが、四足歩行より速いので、ダッシュとしては問題ないだろう。
クルマに近付くと、“Y 乗る”の表示が。クルマの屋根にでも飛び乗るのかなと思ってYボタンを押してみると、普通にクルマを操作する画面に。乗ったらしい。鹿が。クルマに。まあ、二足歩行なら運転もできるだろう。
さっきから、ところどころ様子がおかしい気もするので、確認のためにもう一度乗ってみると、今度はクルマがガランガランと音を立てて横転。クルマの中から馬が出てきて、鹿が馬にまたがった。何を言っているか分からないかもしれないが、起きたことをそのままお伝えしている。
LBボタン長押しで“首伸ばし”だそうなので、とりあえず馬から降りて試してみると……
思った以上に伸びる首。と同時に、画面右下に“あなたは鹿になりました。”と表示され、チュートリアルが完了したらしい。このチュートリアル(と言っていいものか迷うが)を経た結果、鹿になった……ということは、つまり、最初は鹿ではなかったのだろうか。
普通、チュートリアルの完了は、プレイヤーに「よし、これでもう自由自在に動かせるぞ」という自信をもたらすものだが、正直、まったくもって不安しかない。とりあえず、この首伸ばしはフックショットのような物で、“首を伸ばす”というよりは“頭を射出して、刺さった場所に向かって胴体が飛んでいく”と考えたほうがよさそうだ。
街をウロウロしていると、人を発見。なんだ、人間もちゃんといるんじゃないか……と近付いてみると、“挨拶する”、“鹿にする”、“ダンス”という3つの手段が提示される。……まあ、最初は挨拶だろう。
つぎに、“鹿にする”を選んでみると……
最後に“ダンス”。スクリーンショットを見ると、ダンスに見えないこともないかもしれないが、実際は腕を大きく振りながら左右に行ったり来たりする動き。これが二足歩行でなければ、ダンスというよりは威嚇行動という感じなのだが……。
……と、そうこうするうちに、人間の後ろからクルマが! あぶない!
人間のバックステップに当たって、後方へ弾き飛ばされるクルマ。思わず二度見してしまったが、人間は食物連鎖の頂点に君臨するのだから、クルマごときでは相手にならないのも仕方あるまい。
ただし、鹿がクルマに当たると普通に跳ね飛ばされてしまう。Aボタンで何事もなかったのように起き上がれるのでとくに心配は要らないが、クルマがビュンビュン走っている道路などでうかつに当たると、空中に跳ね飛ばされた後、つぎに来たクルマにまた跳ね飛ばされて空中コンボをくらうハメになるので気をつけたい。
そんな感じで、ごく普通……の街をウロウロしていると、“POLICE”と書かれた建物が目に入る。
ただ、紫色のバリアによって、入れなさそうな雰囲気だ。……ん? 入口付近に何か落ちている。近付くと”Y 装備する”の表示。よく分からないが、装備してみよう。
違和感……なくもない……気がしてきた。鹿は前足で蹴ることで攻撃ができるのだが、蹴りよりはハイペースかつ大ダメージを与えられる様子。弾数制限もないようなので、街で破壊活動をするには便利なアイテムだ。
破壊活動を楽しんでいると、警察署から”第1の警官 ひつじ”が登場。警棒を口にくわえている個体もいるが、こっちは頭からダブル拳銃を生やした鹿。羊などに負ける要素がない。
転がっている羊の近くに、違うタイプの銃らしき物が。「おお……現在装備している銃と交換して、もっと強くなるパターンか、これは」と思って装着。
そう来たか……。ちなみに火力は単純に装備した数だけアップしているようで、装備して損はなさそうだ。
そんな感じで建物を壊して楽しんでいると、“第2の警官”が登場。
おお、パトカー……
……じゃない! 先程の羊に加え、背中にパトカーを背負ったシロクマも参戦。羊の数も多く、さすがに攻撃は苛烈になってくるが、こちらも緑色のグレネードを見つけたので、さらにパワーアップを果たしている。高火力で、シロクマも撃退。
画面右上に“鹿災害レベル”というのが表示されているが、街を破壊すればするほど、これが上がっていき、一定レベルごとに新たな警官が出動するようだ。ようやくゲームらしくなってきた。
恥ずかしながら、筆者はこの原稿の執筆直前までインフルエンザの高熱に悩まされ続けていたので、「こういうゲーム……だよな? 自分の脳が高熱でやられてしまったわけではないよな?」と不安しかなかった。この辺りで、念の為、額に冷えピタを貼る。
引き続き大暴れしていると、第3の警官、イヤー・ウォーカーが出現。何やら赤い線が……はっ、まさか……スナイパーライフルか!
しかし、火力が高まった鹿の前には敵ではなかった。現時点では、このイヤー・ウォーカー以上の警官は用意されていないようで、画面右上の鹿警戒レベルも“開発中”になってしまう。
倒したイヤー・ウォーカーのそばに、イヤー・ウォーカーが使っていた銃が落ちていた。もしや、この銃も装備できるのか……?
装備できてしまった。ちなみに、これにライフルを加えたのが、おそらくフル装備状態。
カッコいい……気がしてきた。念のため、冷えピタを交換する。
超火力を手にしたので、壊せるオブジェクトを探して片っ端から銃撃していたところ、「そういえば、ビルに巨大なコアラがいたな」と思い出す。
しかし、近くには気になる標識も。これは……コアラを撃つな、ということだろうか。
そう言われると撃ちたくなるのが人情……いや、鹿情。「オラオラー! コアラ、こっち向けや!」と下から乱射してみると……
どっかで見た感じの“YOU DIED”表示。車に激突されてもすぐに復活する鹿を一撃で即死させるとは……。
“やりなおす”で復活すると、いままでに集めて装備していた銃がすべてなくなっていた。ぬう、あのコアラにだけは手を出すなということか。
しかし、さっきの画面、よくよく見ると、体力ゲージのような物が。「もしかして、火力さえあれば倒せるのでは?」と思い、再び銃をゲットして、もう一度撃ってみると……。
コアラは攻撃すると起動して、こちらへビームを撃ってくるが、建物を盾にすれば、ビームは貫通してこないことに気付く。そして一定時間が経過すれば、コアラはビーム照射を止めることも確認。つまり、攻撃してすぐに建物に隠れる、をくり返せば、倒せる……!
怖いものがなくなった街で引き続き大暴れしていると、何やら光る柱が。近付いてみると……“あそぶ”?
唐突に始まるミニゲーム“リバウシ”。その名の通り、リバーシ(オセロ)のコマを牛にしただけなのだが、なにぶん牛なので、各自、気ままに動き出してしまう。つまり、牛が動き出して収拾がつかなくなる前に素早くつぎの一手を打つ必要があり、最近話題の『リアルタイム将棋』にも似た新しい何かを感じる……が、気のせいかもしれない。
かつて、『たけしの挑戦状』のキャッチコピーで“常識があぶない”というのがあったが、このコピーは、このゲームにこそふさわしい。
このゲームは“こういう世界”なのだ、と頭では分かっているのだが、時折、予想を超えたシュールな現象をスッ……と入れてくるので、「ふむふむ……ん!?」みたいな、気を抜いたら洗脳されそうになる緊張感がある。
たとえば、これはクルマに跳ね飛ばされて空中を舞っているときに気付いたのだが、空中で銃を撃つと、銃を撃った方向と逆方向へ飛行できる。一瞬、「なるほど、反動あるしな……」とか思っちゃうわけだが、そんなわけない。
また、オブジェクトを“持つ”操作があるのだが、画面には“ZL長押し 持つ”と表示され、「えーと、ZL、ZL……ZL!?」みたいな感じで、“Xbox Oneコントローラにないボタンを要求される”という斬新な不意打ちも襲いかかる。
早期アクセスということもあり、まだ、マップはひとつのみ。2時間も遊べば、現時点での要素はだいたいしゃぶり尽くせるだろう。本稿で触れていない要素もいくつかあるが、筆者が把握している以外にも、まだ隠し要素的なものがあるかもしれない。コアラに関しても、筆者は建物でビームを遮る方法で倒したが、じつは、建物を使わずに倒す方法もある。ぜひ、試行錯誤してみてほしい。
Steamのストアページで確認できるPVを見る限りでは、今後まだまだ進化していきそうなので、気になる……といえば気になる。どちらかというと、怖いもの見たさだが……。
普通、プレイレビューでは、そのゲームの魅力を挙げて“○○な人にオススメ!”みたいなことを書くものだが、このゲームはどういう層にオススメすべきなのだろうか。……と、オススメする側なのに、思わず尋ねたくなる。
「とりあえず一晩寝てから、改めて考えよう」と思って眠りについたら、その晩は悪夢にうなされた。インフルエンザのせいではないと思う。