1989年12月15日に、携帯ゲーム機向けとしては初のRPGとなる『魔界塔士サ・ガ』が発売されてから30年。その後も数々の『サガ』作品が発売され、同シリーズはユニークなテイストを持つRPGとして、いまにいたるまで多くのユーザーに支持されている。

 2019年10月31日にサービスインしたスクウェア・エニックスの新作ゲーム『インペリアル サガ エクリプス』(Yahoo!ゲーム ゲームプラス、DMM GAMESにて配信。PC/スマートフォンにてプレイ可能)も、『サガ』シリーズの作品のひとつだ。『インペリアル サガ』(以下、『インサガ』)の続編にあたる同作では、新たな主人公リベルと、歴代『サガ』キャラクターが織りなす物語が楽しめる。

 この『インサガ エクリプス』のオリジナルキャラクターをデザインしているのは、これまで数々の『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズ作品に関わってきた直良有祐氏だ。

 直良氏と言えば、『アンリミテッド:サガ』(以下、『アンサガ』)、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』(以下、『ミンサガ』)のアートディレクターを務めたことでも知られる。そこで本記事では、『サガ』の生みの親である河津秋敏氏と、直良氏のインタビューをお届け。『アンサガ』、『ミンサガ』から『インサガ エクリプス』にいたるまでの、アートへのこだわりを語ってもらった。

河津秋敏氏(かわづ あきとし)

スクウェア・エニックス 『サガ』シリーズ総合ディレクター。『サガ』の生みの親。シナリオ執筆やゲームデザインなど、その業務は多岐にわたる。『インサガ エクリプス』ではエグゼクティブプロデューサーを担当している。

直良有祐氏(なおら ゆうすけ)

IZM designworks 代表取締役。『インサガ エクリプス』のメインキャラクターデザイナー。スクウェア・エニックス在籍時には、『ファイナルファンタジー』シリーズや『サガ』シリーズなどを手掛けた。

新しい絵作りに挑戦した『アンサガ』、『ミンサガ』

――直良さんが『サガ』シリーズに関わるのは『ミンサガ』以来ですが、河津さんとともにインタビューを受けた経験はありますか?

直良ないですね。いやぁ、照れます……(笑)。

河津うん、変な感じがするよね(笑)。

ふたりでインタビューは初……とのことでしたが、じつは『アンサガ』発表時、週刊ファミ通でインタビューしておりました。こちらも覚えておらずすみません!

――ぜひ貴重なお話をお聞かせください(笑)。直良さんは長年、『FF』シリーズのアートディレクションなどを担当していましたが、『サガ』シリーズに参加することになったのは、どのような経緯から?

河津『アンサガ』の前身となる携帯機タイトルがあったのですが、その開発に直良くんを誘ったのが最初です。

直良そうでしたね。じつはそのころ、『FFX』の開発が終わったら、僕は会社を辞めて海外で絵の勉強をイチからやり直そうと考えていたんですよ。ですが、都合が合わず海外へ行けなくなってしまって。どうしようか迷っていたそんなとき、河津さんから新しいプロジェクトに誘われたんです。

――そこから『アンサガ』へとつながっていくわけですね。そもそも直良さんが、一度会社を辞めようと考えた理由、そして『サガ』への参加を決めた理由はなんだったのでしょうか。

直良僕はもともとドット職人で、パソコンで絵を描けるからデザイナーだったわけですが、そこからハードの進化とともに、ゲームの絵作りも進化していきましたよね。そんな最中、上国料(上国料勇氏。『FFXII』や『FFXIII』などでアートディレクションを担当)など、本当に絵がうまい人たちが会社に入ってきまして。僕はあくまでゲームの絵作りの延長戦で絵を描いていたので、この先も食べていくには、本気でイチから絵の勉強が必要だと考えたんですよ。結果、海外には行けませんでしたが、『サガ』シリーズなら、『FF』と違う表現へのアプローチができると思いました。ならば、『サガ』で新しいことに挑戦しようと考えて参加することを決めたんです。

――『アンサガ』といえば、絵が動くかのようなグラフィックが特徴でした。ああいった表現が、直良さんが挑戦したポイントなのでしょうか?

直良そうです。『サガ』シリーズは、小林智美さん(数々の『サガ』作品に携わるイラストレーター)の水彩画のタッチがベースにあります。それが動いて見えたらスゴいと思ったんです。それと、ハードが新しくなったこともあり、皆さんに改めて『サガ』に注目してほしかった。“絵が動く”ということが、フォーカスするポイントのひとつになれば、『サガ』に貢献できるんじゃないかと思いまして。

河津そうそう、『アンサガ』ムービーの水彩画が動いているかのような表現は、直良くんが発案して、自分で全部実現してくれたんです。彼は自分のやりたいことがあったら、とにかく自分で動く人間ですから、その期待を込めてチームに誘ったんです。本当に正解でした。

直良東京ゲームショウで出したムービーを見た植松伸夫さん(『FF』シリーズ作曲家)に「直良、絵が動いてる!」と驚かれたときは、本当にうれしかったですね。

当時の週刊ファミ通に掲載された『アンサガ』の広告。右下には、河津氏と直良氏の名前が並んでクレジットされている。
絵のようなグラフィックを動かす技術は“スケッチモーション”と名づけられた。

――また、『ミンサガ』も、原作とは印象がガラリと違う、非常に斬新なリメイクでした。『アンサガ』後、すんなりと『ミンサガ』の制作に移行したのですか?

直良コアなメンバーはいっしょに移りましたね。「一度は3Dを通らないといけない」と思っていたので、河津さんに「つぎは3Dにしないといけないと思う」と伝えて。

――直良さんは、『サガ』のグラフィックが大きく移り変わるターニングポイントにいたのですね。

直良技術職のスキルのステージを、ひとつ上げないといけない時期に来ていたのは確かです。『ミンサガ』を作る際は、“アートに関するアイデアを出し合って、それをスタッフが自分でモデリングしてスキルを伸ばす”ということを行いました。そこで伸びてくれたスタッフが、いまもあちこちで活躍しているので、スタッフの成長の場になったと思っています。河津さんは、よく許してくれたな、と思いますけど(笑)。

――オリジナルの『ロマサガ』から大胆に変えるのは、怖くはなかったですか?

直良当時から、原作からガラリと変えることに恐怖はあったのですが、“これが『ミンストレルソング』だ”と言える覚悟で作り込んでいました。グラフィックも特徴的なので、当時は批判も多かったです。もう少し旧作のユーザーの思いにうまく配慮できる力量があればよかったとは思ってます。ただ、時間が経つにつれて「これがいい」という意見も多くいただいています。受け入れてもらえてうれしい限りです。

河津変えるのならば、しっかり変えたかったんです。まあ、かなりね、大きく変えてきたけどね。あれは鈴木くん(鈴木康士氏。現在はイラストレーターとして活躍中)が入ってきたのが大きかったけど。前から『サガ』に関わっていたメンバーだけだったら、あそこまでは変わらなかったでしょうね。

直良彼は当時、キャラクターまわりのリードデザイナーをやってくれていました。ちょっと斜に構えたトーンが持ち味で、それが出ていたと思います。欲を言えば、キャラクターの頭身はもっと上げたかったですけどね。そうすれば、斜に構えたトーンや耽美なテイストが、いい意味で『サガ』らしさとして出たと思うんです。

河津本当は『FF』クラスの頭身の高いモデルにしようと思ったのですが、それをやっていたら発売はもっと遅かったでしょうね。パーティーのメンバー数は決めてありましたから、それぞれのキャラクターに割り振れるポリゴン数はこのくらいだよね……という限界もあって。

直良工数の事情もありますが、やはりボコスカ戦うのが『サガ』シリーズです。頭身の高いキャラクターたちがボコスカと戦う表現を、当時の技術ではどうしてもできなかったのです。かなりスタッフたちのあいだでも揉めました。

キャラクターが入り乱れて戦うボコスカ感を、当時、高い頭身で表現するのは難しかったとのこと。

――それだけ熱いチームだったのですね。

直良毎晩のように河津さんやスタッフと飲みに行っては、ケンカばかりで……(笑)。

河津みんなが強いこだわりを持ってるから、1歩も引かないわけですよ(笑)。

アナログで描かれる『インサガ エクリプス』

――そして『インサガ エクリプス』にて、直良さんが『サガ』シリーズに帰ってきました。いまのお気持ちはどうですか?

直良スクウェア・エニックスを退職した後も、引き続きスクウェア・エニックス関連のお仕事は受けていましたが、ようやく『サガ』に再び関わることができたんだなと。うれしいですし、感慨深いものがありますね。

河津僕は直良くんが描くのを知らなかったんですよ(笑)。奥州くん(『インサガ エクリプス』プロデューサーの奥州一馬氏)から「直良くんがデザインを担当する」って、後から聞いて驚きました。

――では、直良さんが描かれたキャラクターについてうかがっていきます。主人公リベルは、どのような方向性でデザインを決めたのでしょうか。

直良リベルは奇をてらわずに、ストレートに主人公らしさを表現しました。奥州さんは“器”という言葉にこだわりを持っているようで、そこを表現したつもりです。また、僕は前作『インサガ』についてはそこまで詳しくありません。ですが本作は新作ですから、新しいユーザーの方々もきっとプレイされますよね。ですから、初心者の方々と同じ目線でデザインをしてみようと決めました。ところでリベルは、最初は髪が短かったのですが、奥州さんの判断で長髪になりました。「長い年月の眠りから覚めたので、髪は長いはず」と一応の設定的な説明は受けましたが、実際のところは、奥州さんの好みでしょうね(笑)。

リベルの原画と直良氏。「小林智美さんが確立した『サガ』の水彩画のイメージに、現在なりの向き合いかたをした」とのことです。
リベルの髪が短かったころのラフ画を、特別に見せていただきました。

――(笑)。つぎに、マスコット的な存在であるアモルですが、こういうタイプのデザインをされたことは?

直良マスコット系は初めてです。ですから、本当に困りました。鳥のような生き物、という指定はあったのですが、どうデザインしても、既存のマスコットにどうしても似てしまって。そこで、中学生の姪っ子がいるのですが、その子にアイデアをもらいました。子どもの絵って、大人になった僕たちには描けない想像力がありますよね。その力を借りて、姪っ子の原案をもとにデザインしたんです。

河津鳥なのも、姪っ子発案?

直良いえ、鳥のような姿ということは発注いただいたときに決まっていました。

河津なんで鳥なのか。

直良リスみたいに、口の中にものを入れて頬を膨らませる、というのは姪のアイデアですね。それで、「ログインボーナスをもらうとき、アモルの頬をはたくと何かが出てくるのはどうか」なんてアイデアもあったんですけど(笑)。

河津いやいや、それはダメでしょ(笑)。ギャグマンガの世界ですよ(笑)。

直良そうしたくなる“小憎らしさ”があるのもアモルのポイントなんですよ(笑)。

――(笑)。ところで今回デザイン画は、すべてアナログで描かれていますが、なぜアナログで描こうと思ったのでしょうか?

直良以前、上国料と『ディシディアFF』のライブドローイングのイベントを開催したことがありまして。そこでひさびさにアナログで絵を描いたんですよ。もう、そのときですら何年ぶりか分からないくらいで、手が震えるほど緊張していました。それをきっかけに、アナログで描くことに向き合おうと考えたんです。実際に描いてみると、やはりアナログは巻き戻しができないので四苦八苦しましたが、それが逆に楽しかったりもしました。

ライブドローイングイベントで直良氏が描いたクラウドとノクティス。

※ライブドローイングイベントの詳細は、『ディシディア ファイナルファンタジー』初心者の館のリポート記事をチェック!

河津やはりアナログの原画を見ると、かなり印象が違いますね。直良くんの絵はいつも目力が強いのが特徴ですが、リベルの目は少し柔らかいというのもわかります。

直良そこも、“器”の主人公ということを意識したからですね。

――上国料さんたちがゲーム業界に入ったことで、約20年前の直良さんが刺激を受け、そしていま、上国料さんとのライブドローイングイベントを通じてまた刺激を受け……というのは、なんだか縁を感じますね。

直良彼が描く絵は、本当に“肉筆”という言葉を表現したような絵で。京都のお寺の襖絵(上国料氏は、大徳寺真珠庵の襖絵を制作している)も、ずっと描き込んでいるので、やはり観ると触発されますよね。自分も独立して田舎に帰って、そうしていろいろなものを見て、絵に対する考えかたが広がったという気がしています。ゲームだけではないところにも広がりはあって。もともと河津さんが小林智美さんの絵を必要としたのも、ゲームではないところで活躍されているのを見て、「この人の世界観が欲しい」と考えたからだと思うんですよね。それを考えると、もともとゲーム畑にいた自分たちは、もっと外に出なければいけないなと。ひとつずつ挑戦を積み重ねていかないといけない、と思っています。

――よりデジタルを究める、という方向性もあったと思うのですが、アナログに向き合うお方向性を選んだ理由は?

直良やはり、出発点だからですね。授業中のラクガキが自分の始まりなので。それと、デジタルで描くことのハードルはかなり下がっていて、いろいろな人が入りやすいですよね。プロとして絵をやっていくなら、どこかで差別化をしないと、強みを作らないとという気持ちがありましたので、アナログにも向き合う必要があると思いました。

『インサガ エクリプス』のこれから

――『インサガ エクリプス』では、リベルとアモルのほか、敵キャラクターもデザインされていますが、敵陣営のデザインのコンセプトは?

直良ギジェルミナについては、「かわいらしい感じにはしたくない」というお話がありましたね。ゴツい装備をつけてはいないけど、戦う人であることが衣装からわかるようにしたい、目元をベールでしっかり隠したい、というリクエストを受けてデザインしています。

――ベールを取ると……!?

直良どうなんでしょう、そこは自分でも楽しみにしているところです(笑)。それと、『インサガ エクリプス』の世界は、キャラクターたちに「赤!」とか「青!」といった強いイメージがついていない世界だと思ったので、デザインはシックにしています。その中でキャラクターどうしのメリハリをどう出すか、にこだわりましたね。

――バルガスも黒が基調ですし、ラモラールも白や灰色がメインですね。……ちなみに直良さんは、若いイケメン系キャラクターとおじさま系キャラクター、どちらが得意ですか?

直良いやー…… 『戦国IXA』では、立ち上げから考えると、10年にわたって、100人以上のおっさんを描いてたんですよ。だから、おっさん以外のお仕事が来るとすごくうれしいんです!

河津おっさんキャラが多いですからね 、『戦国IXA』(笑)。

直良『インサガ エクリプス』は、『戦国IXA』とは世界が違うので、おっさんでも描きやすかったですけど(笑)。ラモラールにいたってはおじいさんですが、彼は切なさのあるキャラクターなので、それを絵で表現しました。

――今後も物語の展開に合わせて、直良さんが新たなキャラクターをデザインすることもある?

直良いくつかデザインする予定になっています。ちなみに、本作は今後もアナログでデザインを続けていきます。現状でも『サガ』シリーズにはいろいろなタイトルがありますが、『インサガ エクリプス』としての方向性に、絵を乗せていくのが僕の仕事です。

――方向性といえば、『サガ』シリーズにもさまざまなタイトルがありますが、河津さんは『インサガ』シリーズならではの方向性はどのようなものだと考えていますか?

河津『インサガ』はPCユーザーがメインでしたから、コアなファンの方々に楽しんでいただける、ダークな世界観が特徴かなと思います。『ロマンシング サガ リ・ユニバース』は、比較的ライトにしていますけどね。

――最後に、これから『インサガ エクリプス』は、どう育っていってほしいですか?

直良僕としては出発点です。これからもっとアナログで絵が描けるように精進しながら、ぜひプレイヤーの皆さんに愛されるようなキャラクターを描いていきたいです。

河津昨今いろいろなゲームがありますから、自分の好きなタイミングでゆっくりと遊んでください。今回はスマートフォンでも遊べますので、『インサガ』を遊んだことがない人たちにも、ぜひ楽しんでいただきたいです。