バーチャルレースの世界チャンピオンがリアルレースのチャンピオンと同じ舞台で世界チャンピオンのトロフィーを獲得

 世界自動車連盟(FIA)は12月6日(現地時間)、フランス・パリのルーブル美術館にて、同団体が主催・管轄する公認レースの年間表彰式、“FIA PRIZE GIVING 2019”を開催。

 同イベントは、FIA公認のレースイベントであるフォーミュラ1世界選手権(F1)や世界ラリー選手権(WRC)、世界耐久選手権(WEC)、世界ラリークロス選手権(WRX)、世界ツーリングカー選手権(WTCR)など、世界各地で行われているさまざまなモータースポーツカテゴリーのチャンピオンを表彰するセレモニーとして毎年開催。

 レーシングドライバーやモータースポーツに関わる人間ならば誰もがこの舞台に立つことを夢見る、名誉あるイベントである。

『グランツーリスモSPORT』のドライバーが世界自動車連盟(FIA)の表彰式に出席し、FIA公認世界チャンピオンのトロフィーを獲得!_01
表彰式が行われた会場の入口には、2019年のFIA公認チャンピオンシップで優勝したフォーミュラ1、世界耐久、世界ラリークロス、カート、世界ラリー選手権のマシンが勢揃い。

 この栄えあるイベントに、先日モナコで開催された“FIA グランツーリスモチャンピオンシップ 2019 ワールドファイナル”のマニュファクチャラーズシリーズ・ワールドチャンピオンの山中智瑛選手(日本)、イゴール・フラガ選手(ブラジル)、ライアン・デルッシュ選手(フランス)と、ネイションズカップ・ワールドチャンピオンのミカイル・ヒザル選手(ドイツ)が参加。

 F1で6度のタイトルを獲得した英国人ドライバー、ルイス・ハミルトン選手や、2019年のWRCで初戴冠を果たしたオット・タナク選手、モータースポーツ界のレジェンド、フェルナンド・アロンソ選手など、世界で名を馳せる名ドライバーらとともに、FIA公認世界チャンピオンのトロフィーが贈られた。

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写真左よりマニュファクチャラーシリーズ世界チャンピオンの山中智瑛選手、ライアン・デルッシュ選手、イゴール・フラガ選手、ネイションズカップ世界チャンピオンのミカイル・ヒザル選手。

 『GT SPORT』は、昨年度よりFIAとタッグを組み、同作を用いたFIA公認のeモータースポーツ世界選手権を実施。開催2年目となる今年は、フランス・パリに始まりドイツ・ニュルブルクリンク、アメリカ・ニューヨーク、オーストリア・レッドブル・ハンガー7、日本・トーキョーと、3大陸5ヵ国を転戦。

 いまから約2週間前の2019年11月22日〜24日(現地時間)、最終戦となるワールドファイナルがモナコで行われ、マニュファクチャラーシリーズとネイションズカップ、ふたつのカテゴリーのチャンピオンが決定していた。

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モナコで行われたワールドファイナルで、“FIA GT チャンピオンシップ 2019”のチャンピオンとなった選手たち。

 FIAは2019年10月31日〜11月3日(現地時間)、世界各国でさまざまなレースをプロモートするSROモータースポーツグループと共同でモータースポーツのオリンピックとも呼べるイベント“FIA モータースポーツゲームズ”を開催。

 このイベントはGTカップ、ツーリングカーカップ、フォーミュラ4カップ、ドリフトカップ、カートスラロームカップと、リアルなマシンを使うレースに加え、『GT SPORT』を用いたデジタルカップも併催しており、このデジタルカップでは“FIA GT チャンピオンシップ”にも参戦しているコディ・ニコラ・ラトコフスキー選手が参戦し、金メダルを獲得。

 そのコディ選手も、今回の“FIA PRIZE GIVING 2019”に“FIA モータースポーツゲームズ デジタルカップ”チャンピオンとして招待されていた。

 eスポーツ大会のチャンピオンが、リアルスポーツのチャンピオンらとともに表彰されるというのは、フットボール(サッカー)ゲームの『FIFA』シリーズでも同様の試みが行われており、実際に『FIFA2018』の世界チャンピオンが、国際サッカー連盟(FIFA)が行う年間表彰式“ザ・ベスト・FIFAフットボールアウォーズ”の舞台に招待。

 世界でもっとも活躍したサッカー選手に贈られる年間最優秀選手賞・バロンドールの受賞と同じ舞台で、世界一のeスポーツプレイヤーとしての表彰を受けている。

 このように、リアルスポーツとeスポーツが共同でイベントを行う取り組みとして、国内ではKONAMIと日本野球機構(NPB)が“eBASEBALL プロリーグ”を開催したり、同じくKONAMIがJ1・J2全40クラブによる“eJリーグ ウイニングイレブン 2019 シーズン”を開催するなど、プロスポーツの周知、裾野拡大を目的に、eスポーツを採用する事例は増えつつある。

 ただ、野球やサッカーでは、ゲームのルールはリアルとバーチャルで共通していながらも、プレイするためのテクニックはまったくの別物となっている。しかし、『GT SPORT』の場合はリアルでもバーチャルでも選手が行っているテクニックは基本的に同一となっている点が、eスポーツとeモータースポーツの最大の違いと言えるだろう。

 実際、今回の“FIA PRIZE GIVING 2019”に参加したイゴール・フラガ選手は、前述のFIA GT チャンピオンシップ2019 マニュファクチャラーシリーズだけでなく、昨年のFIA GT チャンピオンシップ2018 ネイションズカップでも優勝するなど、2年連続でタイトルを獲得。

 さらに、昨年F1に参戦している名門チームのマクラーレンが実施したeスポーツ育成プログラムの“McLaren Shadow Project”でも、5万人以上の参加者による争いを勝ち抜いて優勝し、同プロジェクトに参加するなど、eモータースポーツの世界で確かな実績を残している。

 それだけなら極めてレースシミュレーターがうまいプレイヤーとなるが、イゴール選手の場合は幼少期より『グランツーリスモ』と平行して、カートでのレースにも参戦。

 2017年にはブラジルF3選手権でチャンピオンとなり、2018年には活躍の場をアメリカに移してUS F2000シリーズに参戦。年間4位という成績を収め、2019年は欧州でフォーミュラ・リージョナル選手権に参戦しシーズン4勝、年間3位になるなど、リアルレースでも確かな活躍を見せている。

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フォーミュラ・リージョナル選手権で表彰台の頂点に立つ活躍を見せるイゴール選手(写真左から3番目)。

 2020年は、ニュージーランドで2019年1月〜2月にかけて行われる“トヨタレーシングシリーズ2020”への参戦も決定。バーチャルとリアルのモータースポーツで活躍するイゴール選手のこれからの活躍が期待される。

 さらに、2016年5月にイギリスで行われた“FIA GT チャンピオンシップ”のプレシーズンテストイベントのマニュファクチャラーズカップで優勝し、今年の国体(※)にも神奈川代表として参戦し、神奈川県一般の部1位、全国4位の好成績を収めた冨林勇佑選手もいま注目のドライバーのひとり。

※第74回国民体育大会 いきいき茨城ゆめ国体 全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI 文化プログラム『GT SPORT』部門

 今年はリアルレース活動でマツダモータスポーツチャレンジ、ROADSTER Party Race・ND東日本シリーズ戦に参戦し、チャンピオンを獲得したほか、2019年11月7日に行われたeモータースポーツイベント“ROOTS JAPAN CUP FINAL 2019”にも参戦。

 “FIA GT チャンピオンシップ”でも活躍を見せ、モナコのワールドファイナルにも参戦した菅原達也選手や宮園拓真選手らを抑えて優勝するなど、リアルとバーチャルの両方のレースで目覚ましい活躍を見せている。

 そんな冨林選手は、2020年はデルタモータースポーツより、“TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマンエキスパートクラス”に参戦するという報告が自身のTwitterにて行われている。

 イゴール選手と同様、冨林選手のリアルモータースポーツでの今後の活躍にも期待したい。

 筆者はもともとモータースポーツ観戦を趣味としており、昨年より“FIA GT チャンピオンシップ”も追いかけるように観戦しているのだが、参加選手のことがわかってくると、リアルレース同様にレースを観戦するのが俄然おもしろくなってくる。

 先ほど紹介したイゴール選手はリアルとバーチャルで活躍するだけでなく、ブラジル人ながらじつは日本の石川県で生まれ、12歳まで日本で育ったという経歴を持っている。そのため日本語も非常に堪能で、本人も「僕の半分は日本人です」というように、日本の友人やファンも非常に多いドライバーである。

 普段は温厚で物腰の柔らかな青年ながらレース時の集中力は凄まじく、バーチャルレースでもリアルレースでもここいちばんというときは他を寄せ付けない速さを見せつける、いまもっとも注目すべきドライバーと言っていいだろう。

 そのイゴール選手のライバルとも称されるミカイル・ヒザル選手(ドイツ)は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ジャパンスタジオの吉田修平氏もファンとして応援しているドイツ人ドライバー。参戦するレースではつねに上位争いをくり広げ、昨年はヨーロッパチャンピオンとしてワールドファイナルに参戦するも2位に終わっていたが、今年は念願の初戴冠を果たしている。

※そんなミカイル選手も日本語を勉強中で、ちょっとした日常会話程度なら日本語でやりとりができるほど。

 そして、これまでの大会でつねに上位争いに加わりながらもギリギリで優勝に手が届かず、“FIA モータースポーツゲームズ”で初の栄冠をつかみ取ったコディ・ニコラ・ラトコフスキー選手(オーストラリア)や、普段はデュアルショックでプレイしているものの、オフラインイベントではステアリングコントローラで卓越した走りを見せ、混戦となるレースでは必ず這い上がってくるところから“振り向けばソリス”との異名を持つダニエル・ソリス選手(アメリカ)など、個性的な選手が多数参戦。

 eモータースポーツの世界では、今回のFIA表彰式に出席した山中選手を筆頭に、多くの日本人選手の活躍も見られる。山中選手は“FIA GT チャンピオンシップ2019”のマニュファクチャラーシリーズ・世界チャンピオンに加え、今年行われた国体の文化プログラム『GT SPORT』一般の部でも優勝を果たすなど、国内eモータースポーツ界の第一人者といってもいいドライバーだ。

 また、今期の“FIA GT チャンピオンシップ ワールドツアー”で目覚ましい活躍を見せ、ワールドファイナルのネイションズカップで3位となった宮園拓真選手や、昨年度のアジアチャンピオンにして、今年のワールドツアー・トーキョーで悲願の初優勝を果たした國分諒汰選手など、世界を相手に対等か、それ以上の実力を見せるドライバーたちも多く登場しており、来年以降の日本人選手のさらなる活躍にも注目したい。

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2019年のワールドツアー・ネイションズカップで3位となった宮園選手(写真右)。速さに加えレース戦略にも長け、いまもっとも勢いのある日本人選手と言っても過言ではないだろう。
2019年のワールドツアー・トーキョーで悲願の初優勝を遂げた國分選手(写真中央)。レースでは好不調の波が見られることが多いが、走りがはまったときの速さはピカイチと言える。

 今年のeモータースポーツは、FIAが『GT SPORT』を用いた公認イベントを開催するだけでなく、今年の“FIA GT チャンピオンシップ 2019 ワールドファイナル マニュファクチャラーシリーズ”ではメルセデスやBMWといった国際的なマニュファクチャラーが、自社レースチームの契約ドライバーなどをチームアドバイザーとして派遣するなど、自動車メーカーが本腰を入れて取り組んでいる姿を見ることができた。

 国内自動車メーカー最大手のTOYOTAが開催する“GR Supra GT CUP”や、ポルシェジャパンが開催する“Porsche Esport Racing Japan”などを筆頭に多くのeモータースポーツイベントが行われてきたが、来年以降も自動車メーカーや関連団体がバーチャルレースによるモータースポーツ活動に注力していくという流れは継続していくことだろう。

 “FIA GT チャンピオンシップ 2020”の概要はまだ発表が行われていないが、シリーズプロデューサーの山内一典氏は来年の開催もすでに明言していることから、去年や今年以上に多くのドラマが生み出されるに違いない。

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