リアルとバーチャルの世界で活躍する最速ドライバーが語るモータースポーツの世界

 2019年10月24日〜11月4日の期間、東京国際展示場を含めたお台場エリアで開催されていた東京モーターショー2019。10月25日〜27日には、FUTURE EXPO会場にて、『グランツーリスモSPORT』(以下、『GT SPORT』)を用いた“eモータースポーツ”イベントを実施。

 “eモータースポーツ”イベントの最終日にあたる2019年10月27日には、昨年行われた“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018”の国・地域別代表戦“ネイションズカップ”でワールドチャンピオンとなったイゴール・フラガ選手と、『GT SPORT』のプロデューサー、山内一典氏によるトークセッション“イゴールから君へ”が行われていた。

“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”は、世界各国・各地域のトップドライバーが集い、最速の座を懸けて争われるeモータースポーツカテゴリーのひとつで、F1(フォーミュラワン)世界選手権やWRC(世界ラリー選手権)など、世界トップクラスのレースを統括する国際自動車連盟(FIA)が公認するレース。
2018年に開幕したシリーズでは、ブラジル人のイゴール・フラガ選手がワールドファイナルで優勝を飾り、見事初代チャンピオンの座を獲得した。

 本セッションは、同日に開催された“e-Motorsports都道府県対抗 U-18 全日本選手権”の参加選手を対象に、これからモータースポーツを目指す人たちに向けて、リアルとバーチャルのモータースポーツで活躍するイゴール選手のこれまでの経験を伝える場として用意されたもの。幼い頃からクルマに興味を持っていた同選手のこれまでの活動に準える形で、イゴール・フラガ選手の半生が語られていった。

“e-Motorsports都道府県対抗 U-18 全日本選手権”は、18歳未満の若い選手を対象にしたeモータースポーツイベント。未来のレーサー候補といえる選手が多数集まっていた。
ステージ上には山内一典氏とイゴール・フラガ選手が登壇。若きeモータースポーツドライバーたちを前に、トークセッションが行われていった。

日本人の魂を持つブラジリアンが辿ってきたモータースポーツ活動の歩み

 イゴール選手は国籍こそブラジルながら、じつは1998年に日本の石川県金沢市出身。12歳までを日本で暮らしていたため、日本語が堪能という一面を持っている(というよりも、もともと最初に使用していた言語が日本語で、ポルトガル語はあとから身につけた形である)。そのため日本にも友人が多く存在し、日本語でのコミュニケーションも問題なく取れるという一面を持っている。

 そんなイゴール選手は、3歳の頃にクルマ好きだった父親に『グランツーリスモ』とハンドルコントローラを買ってもらい、モータースポーツの第一歩を記すことになったそうである。

 また、同時にキッズカートにも挑戦。幼い頃よりバーチャルとリアルでの走行経験を積むこととなった。

3歳の頃に、父親に『GT』を与えられ、モータースポーツへの第一歩を記したイゴール選手。ちなみに、“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”で活躍するドライバーの大半は幼い頃に父親の影響で『GT』を始めた選手ばかり。こういった事実は、登場から22年という歴史を持つ『GT』だからこそなせる業と言えるだろう。

 6歳の頃には、地元の中部地方だけでなく、近畿地方にまで赴くなど、各地のカートレースに挑戦。7歳の頃には、現在フォーミュラF2で活躍しているホンダのワークスドライバー、牧野任祐選手に勝利。

 同じく、現在国内で走っているレーサーの小高一斗選手や阪口晴南選手ら、同年代の選手らとも競い合っていたそうで、2008年にはアジアシリーズのタイトルも獲得。まさに、将来が有望なドライバーのひとりとしての活躍を見せていた。

少年時代のイゴール選手は、現在の日本のモータースポーツシーンで活躍する同年代の選手たちと、カートで速さを競い合っていた。

 順風満帆かに思われたイゴール選手のレース活動だが、2009年に訪れた世界的不況、リーマンショックで状況は一変。仕事が立ちゆかなくなってしまった父親とともに、ブラジルに帰ることに。

 日本で生まれ育ったイゴール選手は、本国ながら異国でもある日本とブラジルの文化の違いに直面。学校などに慣れる必要などもあり、一時モータースポーツ活動を中断することとなってしまった。

 普通なら、この段階でモータースポーツの世界からはきっぱりと離れてしまう者もいるかもしれないが、「人生はいいときもあれば、悪いときもあります。悪いときでも、いいときが来たときのために準備をしておかないといけないので、一生懸命努力していました」とイゴール選手は語る。

 夢を諦めていなかったイゴール選手はその後もレースに戻る日のことを考え、練習は継続。さらに、世界中のドライバーとコミュニケーションを取るために『GT5』のオンラインチャットで英語も習得するなど、未来に向けた活動に力を注いでいた。

 ちなみに、現在は母国のポルトガル語、日本語、英語を巧みに使い分け、自身のTwtter(@1gorFraga)でも、さまざまな国のファンや友人たちとコミュニケーションを取っている。

 このように、いろいろな努力と準備をしてきたイゴール選手は、5年のブランクを経てレース活動に復帰。フォーミュラ1600でリアルレースにカムバックすることになる。

 翌2015年にはブラジルF3選手権に参戦。シリーズ3位という成績を収めた。年間で3位という好成績ながら、じつは選手権の参戦中は資金難に直面し、満足いく走りができなかったことによるフラストレーションも抱えていたそうで、当時は「モータースポーツはすごくアンフェアなスポーツなんだ」という思いを持っていたとのこと。

15歳になったイゴールは、シングルシーターの1600ccマシンを使ったフォーミュラカーレースに復帰。約4年ぶりのレース活動再開となった。
2008年より始まった、『グランツーリスモ』のトッププレイヤーをプロフェッショナルなリアルドライバーにするためのプロジェクト。イゴールはこのGTアカデミーの予選を通過するものの、当時17歳と規定年齢に満たなかったため、本プロジェクトへの参加は叶わなかった。
以降も限られた資金面でやりくりをしながらレース参戦を継続。従来持っている速さもあってか、2017年にはブラジルF3で16戦10勝の成績を収め、チャンピオンの座に登りつめることとなった。

 2018年には活躍の場をアメリカに移し、インディーカーの下位カテゴリーに当たるUS F2000シリーズに参戦。14戦中3度の表彰台フィニッシュ(2位2回、3位1回)を飾り、年間4位でシーズンを終えることに。

 同時に、2018年より始まった“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018”にも参戦。持ち前の速さを披露し、見事ネイションズカップ 初代チャンピオンの座を獲得した。

 そして2019年にはモータースポーツが盛んな欧州に渡り、フォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権に参戦。第4戦レッドブルリンクの第3レースで、見事初優勝。

 続く第5戦イモラの第1レースでも優勝と調子を上げていき、最終戦となるイモラでは第1レース、第2レースで優勝。通算でシーズン4勝、3位表彰台5回、第3戦ハンガリーの第2レース以外はポイント圏内でフィニッシュするなど目覚ましい活躍を魅せ、シーズンを3位という成績で締めくくっている。

 とくに最終戦イモラの第1・第2レースではポールポジション、ファステストラップ、優勝と、ハットトリック(※)を決めるなど、持ち前の速さを発揮してのシーズン終了となった。

※モータースポーツではポールポジション、レース中の最速タイム(ファステストラップ)、優勝を同時に遂げることをハットトリックと言っている。

F3カテゴリーのマシンを駆ってレースに挑むイゴール選手。フェラーリジュニアチームの強豪を抑えるなどして、今シーズンは4度の表彰台の頂点に立った。

 そんなイゴール選手は“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019”にも、ディフェンディングチャンピオンとして参戦し、ワールドツアー第2戦・ニュルブルクリンクと第3戦・ニューヨークで連勝。

 2019年11月にモナコ公国で開催されるワールドファイナルで、ワールドチャンピオンの連覇がかかる勝負に挑むことになる。

フォーミュラ・リージョナルでは、決して強豪チームからの参戦ではなく、苦戦をするものの徐々にチーム、マシンに適合していき、シーズン後半戦に好成績を収める結果に。シーズンを終えたイゴールは「こんないい成績を収めることができてうれしかったけど、これからもっとがんばらなくてはいけない」と語る。

 最後にイゴールは「皆さんは何らかの夢を持っていると思いますが、夢を諦めないことが重要です。先ほど、人生はいいときも悪いときもあるという話をしましたが、諦めずに努力をし続けていれば、きっと何かがおきます。ですので、努力をし続けてがんばってください」と、会場に訪れていた未来のドライバーたちにメッセージを送り、セッションは締めくくられた。

 なお、本トークセッションの様子は、以下の動画(12分35秒〜)にて確認することができる。

トラックサイドトーク “From Igor to You”「イゴールから君へ」

 山内氏は「モータースポーツの起源は、貴族が自分たちがプライドを賭けて戦うものだった」と語っており、その言葉が表しているように、参加するには相応の資金が必要となるだけでなく、勝利を目指すにはとてつもない運営費が必要になる世界として、モータースポーツは長年行われていた。

 リアルレースの最高峰となるF1選手権も、商業的な面と背後で巨大な金額が動く世界となっているためか、もはやドライバーの腕だけでシートが獲得できなくなっているというのは、少しでもモータースポーツに興味を持っている人なら知っていることだろう。

 現在のF1のシートは20席のみと、参戦するだけでも狭き門と言えるうえに、この世界で勝つとなると、メルセデス、フェラーリ、レッドブルというトップチームに所属しなければならないという、さらに厳しい世界となっている。

 そんなモータースポーツの方向性に危機感を覚えたFIAと山内氏が、今後100年のモータースポーツの在り方をデザインするために立ち上げたのが、現在2シーズン目が行われている“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”というわけだ。

 山内氏は、このeモータースポーツ選手権を「極めてクリーンでフェアなレース、コンペティション」と説明している。その理由としては、まずは大会参加に必要なものがプレイステーション4と『GT SPORT』のソフト(それと通信環境)だけということ(ハンドルコントローラなどもあるといいが、なくても参加可能)。

 また、前述したようにリアルレースでは参戦したあともマシンの差が激しく、純粋なドライバーの腕だけで勝利をつかめないことも多々あるが、『GT SPORT』であれば全員がイコールコンディションで、競技に挑むことができる。

 モータースポーツは参戦するための敷居が高く、さらに結果がマシンという外的要因に大きく左右されるスポーツではあるが、eモータースポーツにおいては敷居の高さもマシンコンディションもみな等しい。つまり、誰もが平等なレースに挑めるというわけだ。

 このeモータースポーツの世界のトップに君臨し、リアルモータースポーツでも活躍しているイゴール・フラガ選手に、レースにかける意気込みなど話を聞く機会が得られたので、ここで紹介していこう。

イゴール・フラガ

1998年石川県金沢市出身。リアルモータースポーツとeモータースポーツで目を見張る速さを見せ、2018年にはFIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018 ネイションズカップ初代王座を獲得。2019年もリアルとバーチャルのレースで目覚ましい活躍を見せている。

――今年のフォーミュラ・リージョナルではレッドブル・リンク、イモラ、モンツァと、3つのサーキットで見事な優勝を見せてくれました。リアルレースでの活動に『GT』での経験は役立ってますか?

イゴールもちろん、役に立っています。実際のレースでは走行できる時間は限られていますが、『GT SPORT』であればいくらでも練習できるので、スキルの向上ができます。いくつかのコースではライバルたちよりもいいタイムを出すことができましたが、『GT』のお陰だと思ってます。

――フォーミュラ・リージョナルで優勝したレッドブル・リンクとモンツァは、『GT SPORT』にも登場してますが、レース前に練習などはしましたか?

イゴールもちろん練習しました。ただ、第6戦のカタロニアも練習していたんですが、このレースは予選のときに雨が降っていて、セットアップが決めきれませんでした。でも、『GT SPORT』で走り慣れているサーキットでのレースは、ほかのコースよりも走りやすいですね。

――昨年、モナコで行われたFIA グランツーリスモ チャンピオンシップ ファイナルで優勝した時は、よろこびの声を聞かせてもらいました。その後ロシアで行われたFIA授賞式の雰囲気はどうでしたか?

イゴールFIAの表彰式はF1のトップドライバーなど、FIAに認定されているいろいろなカテゴリーで活躍している人たちが集まっています。そんなスゴイ人たちと同じ舞台で表彰されるというのは、夢を見ているような気分でしたね。

――11月にモナコで行われるワールドファイナルでは、ライバルたちに追われる立場になりますね。追われる者として、どのように挑んでいきますか?

イゴールほとんどのドライバーが、僕に勝つつもりで挑んでくると思っています。ただ、僕自身は自分でできるベストを尽くすだけなので、このあともしっかりと練習をして、去年よりも強くなって戻ってくるつもりです。

――今年もチャンピオンは狙っていますか?

イゴールもちろん狙います。今年はネイションズカップだけでなく、マニュファクチャラーシリーズも勝って、ダブルタイトルを取れるといいんですが(笑)。

――リアルレースのほうでは、来年参戦するカテゴリーは決まっているんですか?

イゴールこちらはまだ決まっていません。できれば上のカテゴリーに参戦したいのですが、バジェット(予算)的に難しい面がありいろいろと厳しいところもあるので、どうなるかはまだわかりません。いまはスポンサー探しをしながら、どこで走れるか検討しているところです。

――日本にはイゴール選手を応援してくれるファンや友人がたくさんいると思います。最後に、そんな声援をくれる方たちにコメントをお願いします。

イゴール日本にいる友だちやライバルだったり、いろいろな人たちからのサポートには、本当に感謝しています。これからも上を目指してがんばっていくので、応援してください。

――F1で走る姿も見てみたいので、ぜひがんばってください。応援しています。

イゴールありがとうございます、がんばります。

 今回の東京モーターショー2019で行われていた“GR Supra GT Cup”を終えたあと、トヨタ自動車の代表取締役社長、豊田章男氏はeモータースポーツに関して以下のコメントを発している。

リアルの世界のレーサーたちは、バーチャルのモータースポーツでも、かなりの腕前を持っているようです。
逆に、最近ではe-Motorsportsの選手から、リアルのレースに転身し、トップカテゴリーで活躍するドライバーも出てきています。
リアルのクルマの動きをバーチャルの世界が忠実に再現し、選手たちもリアル同様にクルマや道の声を体で感じ取りながら戦っているからこそ、バーチャルとリアルの間を行き来するようなことが生まれているのだと思います。
今後、リアルの世界の”もっといいクルマづくり”に向けバーチャルの選手たちの力も大きな力になっていくだろうと改めて感じました。
100年に一度の自動車の大変革、そして、モーターショーも大きく変わっていかないといけないという危機感で迎えた今回の東京モーターショーにおいて、このようなe-Motorsportsの大会が始まっていったことには大きな意味があると思っております。
出典:TOYOTA GAZOO Racingプレスリリースより抜粋

 これはまさにイゴール・フラガ選手にも当てはまる内容であり、また山内氏が掲げる今後100年のモータースポーツをデザインするという理念にも共通していると言えるだろう。

 今年行われていた“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019”のワールドツアーに参戦し、好成績を収めたトップドライバーが集結する“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019 ワールドファイナル”は、11月にモナコ公国で開催される。

 つい先日開催されたワールドツアー第5戦・TOKYOでも激しいバトルが見られたが、スポーツは応援する選手がいると俄然、おもしろさが増してくるものである。

 筆者は、昨年の“FIA グランツーリスモ 2018 ワールドファイナル”の会場でイゴール選手と初めて話をし、その気さくな人柄とレースに対する情熱に惹かれて以来、ひとりのファンとして彼の活躍を応援している。

 もちろん、ワールドツアーでは日本人選手を強く応援する気持ちはずっと変わらすに持っている。

 国内eモータースポーツを牽引し続けている山中智瑛選手や、ワールドツアー第5戦・TOKYOで劇的優勝を果たした國分諒汰選手、卓越したスピードと目を見張る戦術で今年急激な速さを見せている宮園拓真選手などは、どのレースでも注目したい選手たちだ。

 また、国外に目を向けてみると、先ほど紹介したイゴール・フラガ選手を筆頭に、欧州で圧倒的な速さを見せるドイツのミカイル・ヒザル選手や、アグレッシブな走りでつねに上位争いに食い込んでくるオーストラリアのコディー・ニコラ・ラトコフスキ選手、2019年ワールドツアー第1戦で力強い走りを見せ、優勝を果たしたチリのニコラス・ルビラー選手など、強豪が勢揃い。

 個人的には、どの選手もがんばっている姿を見てきているだけに、誰にも勝ってもらいたいところだが、スポーツであるがゆえに最終的な勝者は一人(または1チーム)だけ。

 イゴール選手が有言実行の連覇を遂げるのか。またはほかの選手が栄冠を手にすることになるのか。今年最大のeモータースポーツ大会“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019 ファイナル”はもう間もなく幕を開けることになる。