2015年のKickstarterでの資金調達に始まり、“ついに”という表現が相ふさわしい形で、2019年10月24日に国内向けに家庭用ゲーム機版がリリースされた『Bloodstained: Ritual of the Night(ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト)』(※)。

※Nintendo Switch版、プレイステーション4版、Xbox One版が発売。Xbox One版はダウンロード専売。パッケージ版はGame Source Entertainmentより、ダウンロード版は505 Gamesよりそれぞれ発売。

 世界が待望していた五十嵐孝司氏によるアクションゲームは、どのようにして完成したのか。ArtPlay本社にて、五十嵐孝司氏に話を聞いた。

五十嵐孝司氏

ArtPlay 代表取締役プロデューサー。
ファンのあいだではIGAでおなじみ。

 さて……先にインタビュー時の感想を述べておくと、「五十嵐さんは率直な人だなあ」というのが素直な印象。何となく、「これはあまり語りたくないのでは?」と、こちらが微妙に忖度してしまうような内容でも、淀みなく語るその姿勢は(リリースが延期したり、開発会社を変えたことなど)、人に対して真摯でありたいという姿勢だと思われた。これはKickstarterのバッカーに対するスタンスにも共通しているのではないかと思われるが、“自分のゲーム作りはサービス業的な考えかたである”と明言するところなど、清々しい覚悟のようなものを記者は感じた。インディーゲームに対する意見なども、極めて興味深い……。

 というわけで、『Bloodstained: Ritual of the Night』完成記念のインタビューをどうぞ。

お客さんに納得してもらえるクオリティーを追求

――2015年にKickstarterで開発資金を集めてから4年が経ちました。ついに国内で家庭用ゲーム機版が発売されることについて、率直なご感想をお聞かせください。

五十嵐正直に言うと、当初は発売までにここまでの時間がかかるとは思っていませんでした。Kickstarterで目標額を遥かに超える資金が集まり、ストレッチゴールも大量に増やした時点で開発期間が長くなることは想定していましたが、日本語版の発売が海外版よりも遅れてしまったことは完全に想定外でした。流通に関するトラブルが原因なのですが、日本の皆さんには本当に申し訳なく思っています。ですので、いまは発売できてホッとしているというのが率直な感想です。

――4年という期間はやはり長いですよね。

五十嵐本作は505 Gamesさんが全世界のパブリッシング権利を持っていて、開発資金の援助もしてくださっていました。それに4年も応えられずにいたわけですから、本来さじを投げられていてもおかしくない立場なんです。それでも、彼らは僕たちの可能性を信じて待ち続けてくれました。本当に感謝しています。

――時間がかかっても、妥協を許さず最後までこだわり抜く姿勢にこそ、信頼を置かれているように感じます。

五十嵐もちろん、我々のこだわりを追い求めた部分もありますが、お客さんに納得してもらえるクオリティーに仕上げることを最重要視して開発を行いました。僕の開発者としてのスタンスは、基本的にサービス業なんです。作り手のこだわりを第一に考えるのが製造業的な考えかただとすれば、とにかくお客さんが納得するものを作ることが、サービス業的な考えかたです。お客さんが買ってくれて初めて、その作品は商品として成立します。とくに、今回は前もってお金をいただいてしまっていますから、なおさら意識しなければいけませんでした。

――開発途中で行われたビジュアルのアップデートも、お客さんに納得してもらえるクオリティーを追求した結果ということでしょうか?

五十嵐その通りです。ビジュアルに関しては、(それまでのバージョンは)とくに海外からの評価がものすごく悪かったんです。505 Gamesさんとも議論をした結果、これは改善しなければならないということになったのですが、いちから作り直すわけにはいきませんでした。ですので、中でも意見が集中していた背景にフォーカスして、やれる限りのことを尽くしました。

――すべての意見に応えるというのは難しいところですよね。

五十嵐ユーザーの生の意見を拾えるのは、Kickstarterのいいところだと思います。でも、やはりいただいたご意見のすべてを拾うことはできません。その際に重要なのは、「これはこういう理由があるのでやりません」と、理由を明確にすることだと思います。

――開発を行っていくうえで、ターニングポイントとなった出来事は何かありますか?

五十嵐これはよかったところも悪かったところもあるのですが、ひとつは開発会社を大きく変えたことだと思います。もともとお願いしていた会社さんに問題があるわけでは決してなくて、「ここから物量を作っていく」という段階になって、Unreal Engine 4でこのやりかただと、かなりきびしいということが分かったためで、物理シェーダー側に寄せて大量開発をしていこうという方針に変えたんです。これによって大量生産する手法は整っていったのですが、一方で大きな問題点が生じました。我々はこれを“画角問題”と呼んでいたのですが……。

――“画角問題”ですか?

五十嵐本作のような一体感をゲームで出そうとすると、画角が広くなるんです。すると、手前にせり出した壁が大きくなって、当たり判定が分かりにくくなるんですね。これではジャンプアクションがとてもやりづらいということで、じつは画角をかなり狭くしてあります。そのうえで伸ばして立体化して、というようにちょっとしたインチキをしているんですよ(笑)。
 そのインチキと物理シェーダーの相性がすこぶる悪かったんです。それを解決するべく、インチキを正当化するための技術が開花していくのですが(笑)、そこには問題点も多くありました。

――それが開発会社を変えた理由ということですね。

五十嵐そうなります。後は、505 Gamesさんがパブリッシャーに決まったときですね。ここまで作り上げられたことも、クオリティーを高められたことも、すべて505 Gamesさんといっしょに取り組めたおかげだと思っています。

――4年間という長期間の開発ともなると、いろいろなドラマがありますね……。開発中にとくに苦労したのはどんなところですか?

五十嵐たいへんなところはいっぱいありました。たとえば、とにかく作り直しが多かったところです。できあがったものが仕様に沿っていなかったり、デキがよくなかったり。はたまた、このあいだまで動いていたものが動かなくなったり。

――こんなことを言うのは極論かもしれませんが、それは開発者の実力不足なのでしょうか?

五十嵐実力と言ってしまえばそうなのですが、開発環境に慣れていなかったというのもあったと思います。ひとつ確実に言えることは、大手にはすばらしい人材が揃っているということです。それもチームの内側だけでなく、外側から技術支援をしてくれる人もしっかりしている。何かに困ったとき、そのトラブルについて詳しい人が大手には必ずいるんです。

――改めて大手の開発環境のすばらしさを実感したということですね……。ですが、小規模だからこその利点も当然ありますよね。

五十嵐そうですね。とにかく自由に動ける点がいちばん違います。上の判断を待つ必要がひとつもないので、やりたいことが何でも俊敏にできます。たとえば開発ツールにしても大手では指定されることがありますが、今回はすべての決定権を自分が持てたので、そういうところは楽でした。

――クリエイティブ面でも、何にも縛られない自由な発想ができたのではないですか?

五十嵐確かに制約は何もないのですが、逆に技術的にできないことが出てくるので、これについてはどっちもどっちだったかなと思います。

――うーん、あちらを立てればこちらが立たずという感じなんですね。100%自由にゲームが作れるという状況はあり得ないのでしょうか?

五十嵐僕はインディーならあり得ると思っています。こう言うと「五十嵐はインディーじゃないのか」と思われるかもしれませんが(笑)。もしかすると、僕のインディーに対する考えかたはほかの人と異なるところがあるかもしれません。
 僕には作品を楽しみにしてくれているお客さんがいて、その人たちに向けて作っています。要するにお客さんのための商品を作っているわけで、それは言ってしまえばビジネスなんです。顧客がいて、我々デベロッパーがいて、それらを繋ぐパブリッシャーがいて。そういった関係性ができている時点で、僕はそれをインディーとは呼ばないと思っています。
 とはいえ、僕の作品はお客さんに向けたものであると同時に、僕が作りたくて作っているものでもあります。そういう意味では、インディーの側面もあるとは思います。

――なるほど。

五十嵐では本当のインディーは何なのかと言えば、100%自分のために作っているものだと思います。自分が満足すればそれでいいので、そこにお客さんはいないんです。言うなれば、お客さんは自分ですよね。それを形にしたときに、共感してくれる人だけが喜んでくれればいいというスタンスで作られているものが、本当のインディーなんだと思っています。

――それはそれで茨の道であるように感じてしまいますが……。

五十嵐そうかもしれません。でも、ロマンがあるとも思います。ビジネスとしてゲームを作る場合、そこに商品価値を見出さなければなりません。僕の場合は、過去のタイトルでファンを獲得しているぶん、逆にそこに縛られる面もあるわけです。
 一方で、本当のインディーは何かに縛られることがないので、これまでに見たことがないゲームが作れるんですよ。お客さんに向けた作品を作らなくていい分、自分がおもしろいと思うものをどこまでも追求できます。もしその価値観に合致する人たちがいれば、爆発的にヒットする可能性があるんです。例を挙げるなら、『Minecraft』とかはまさにそういったタイトルだったのではないかと思っています。

これまでの集大成でもあり、新たな挑戦の第一歩でもある

――『Bloodstained: Ritual of the Night』の話に戻りましょうか。本作の開発においてとくに注力されたのはどんなところですか?

五十嵐本作に限ったことではありませんが、アクションゲームの根幹を支える“操作性”にはかなり力を注いでいます。

――言葉にするのは難しいかもしれませんが、操作性のキモというのはどういうところにあると思われますか?

五十嵐プレイヤーが思ったとおりにキャラクターを動かせるのが理想の状態ですが、完全に動作を制御することはまず不可能でしょう。どうしてもプレイヤーにストレスを与えてしまいます。であれば、このストレスをなるべく少なくしつつも、こちらの狙いどおりの場所で(ストレスを)与えるようにすることが重要です。たとえば、本作ではボタンを連打しても連続攻撃が出ないようになっています。もちろん、バババっと連続攻撃が出せたほうが気持ちいいのですが、ここはあえてストレスを与えているんです。そして同時に、このストレスを解消する手段も用意します。そのひとつが、“着地キャンセル”です。アクションゲームではよくあるテクニックですが、ジャンプ中の攻撃モーションが着地によってキャンセルされることを利用し、その直後に攻撃を放つことで連続攻撃ができるようになります。

――あえてストレスを与える、ですか。

五十嵐なぜこんな回りくどいことをするのかと言えば、“自分のプレイが上達した”とか、“ほかの人にできないことができる”という優越感を感じられるようにするためなんです。さじ加減がかなり難しいのですが、ここにこそアクションゲームのおもしろさが詰まっているのだと思っています。

――肝心のさじ加減はどのように調整されたのですか?

五十嵐完全に感覚頼りですね(笑)。長年の経験を信じて……。そういう意味では、『Bloodstained: Ritual of the Night』はこれまでの集大成とも言えるタイトルだと思います。
 じつは、本作を開発するうえで“大きなチャレンジをしない”ということをコンセプトとして掲げていました。というのも、Kickstarterで支援してくれるようなファンの皆さんは、僕が大手を離れてもこれまで通りの作品が作れるかどうかを見たいのだと考えたからです。

――挑戦はしつつも、これまでの作品と大きく異なるような舵取りはしないということですね。

五十嵐はい。ところで、ゲーム開発って途中で中身がガラッと変わることがあるんですよ。それは、作ってみたらおもしろくなかったときです。これはもちろん皆さんの知らないところで行われますが、本作ではKickstarterの約束事として、シャードを始めとするゲームシステムを最初から宣言しているんです。
 これがもしおもしろくなかったらたいへんなことになりますが、おもしろくないはずがないと確信していました。なぜなら、本作はこれまでに築き上げてきた“おもしろい”の集大成であるからです。

――五十嵐さんの中で確固たる自信があったわけですね。

五十嵐そうです。チューニング次第でおもしろくなくなる可能性はあれど、根本のネタじたいがおもしろくないわけがないと自信を持っていました。

――最初の約束事には“ゴシックホラー”も含まれていました。五十嵐さんがここまでゴシックホラーにこだわる理由は何ですか?

五十嵐もともと個人的に好きな世界観ではありますが、ゴシックホラーというジャンルにこだわっているというよりは、お客さんのニーズにこだわっているといったほうが正しいかもしれません。もし僕が突然和モノを作ると言ったら、ファンの皆さんはどう反応するでしょうか(笑)。ちょっと想像がつきません。でもゴシックホラーであれば、きっとついてきてくれると信じられます。
 さらに言えば、ファンの皆さんにとっても、そのジャンルのタイトルが近年発売されていないことがフラストレーションになっているのではないかと思っていました。そこへ僕が大手を離れたことによって、そういったタイトルを期待もされているのではないかと感じていたんです。ですので、それを裏切ることはしたくありませんでした。独立後の第1作目として、押さえておかなければならないポイントのひとつが、ゴシックホラーだったというわけです。

――操作性やゲームシステムに関して集大成であるというお話もありましたが、ゴシックホラーという世界観についても極めたと言えるのではないでしょうか?

五十嵐それはどうでしょうか(笑)。僕はもともとプログラマーですし、シナリオについてはまだ垢抜けていないと感じる部分があります。本作は新たなIP(知的財産)の第1作です。そういう意味でも、むしろ新たな挑戦の始まりであると思っています。
 ただ、じつは今回のネタはずっと温めていたものでもあります。最近はAIが人々の仕事を奪うということがまことしやかにささやかれていますが、大きな時代の変化が起こるときには必ず利益を損なう人と、逆に新たな利益を得る人がいると思うんですよ。

――たしかにそうですね。

五十嵐今回の舞台は、産業革命の時代なんです。ここでも当然、得をする人と損をする人がいるはずです。新たに機械にどんどん投資されていくことを考えると、きっとオカルティズムがどんどん失われていったのだと思います。そう考えると、科学とオカルトの中間にいる錬金術という分野で、損をする人と得をする人がいると思ったんです。このアイデア自体は前のタイトルから持っていて、どこかで扱えればいいなと温めていました。それを本作で実現したという流れなんです。

――長年の集大成であり、新たな挑戦の始まりでもあると。とてもおもしろい位置づけのタイトルですね。

五十嵐そうですね(笑)。

――ところで五十嵐さんと言えば、“メトロイドヴァニア”のイメージがとても強いのですが、本作の開発ではどの程度意識されましたか?

五十嵐海外の取材で、「メトロイドヴァニア系のタイトルがインディーでよく出ていますが、本作はこれらとどう違うのでしょうか?」という質問をよくされるのですが、そこでは「本作は皆さんが目標にするタイトルなので、とくに違いを意識する必要がないのです」と、あえて大見得を切るようにしています(笑)。

――これはまた大きく出ましたね(笑)。五十嵐さんはメトロイドヴァニアの肝はどんなところにあると思いますか?

五十嵐要するに長く遊べるアクションゲームなんです。もちろん冗長になってはいけないので、長く遊べるだけのコンテンツとそのおもしろさを担保することが重要だと思っています。
 その観点で、本作ではこれまでと比べて探索をやや難しめにしてみました。これまでは、ユーザーが途中で迷わないように誘導して、本来1本道のゲームではないのですが、あえて1本道に進めるように作っていました。
 ですが、昨今はネットで情報が開示されてしまいますので、逆に多少難しくしてもそこで詰んでしまうことはないだろうと考えました。開発途中で「簡単だ」という意見をいただいて、「なにくそ!」と思ったことも要因のひとつではあるのですが(笑)。

――実際にユーザーからの反響はいかがですか?

五十嵐難易度については批判意見がないこともないですが、おおむね高評価であると認識しています。海外のメタスコアも85くらいで、Steamでも9割以上の方から高評価をいただいているので、全体的な満足度も高いと思っています。
 ただ、バッカーさんとお約束したものをすべて作り切れていないので、それは早く作らないといけないと思っているところです。

――本作の今後の展開について教えてください。

五十嵐まず、日本の発売が遅れてしまったことについて申し訳ないと思っております。すでに発売されている海外では、かなりセールスも伸びていて、パブリッシャーさんにも喜んでいただけているのではないかと思っています。
 ここまでセールスが伸びていれば、当然続編の期待も高まってくると思います。僕個人、そしてArtPlayとしては、やはりフランチャイズ化を夢見てしまいます(笑)。シリーズタイトルになってくれたらいいなと強く願っていますし、そのための計画は立てていきたいと思っています。

――それは、期待するファンは多いでしょうね。

五十嵐一方で、本作ばかりやっているわけにはいかないという面もあります。単純に、本作のセールスが好調であるということは、我々の足場が固まったということでもあるので、この機会に会社をより成長させたいと思っています。そのためには本作だけでなく、ほかのタイトルも手掛けていく必要があると考えています。

――ArtPlayの今後にも期待しております。それでは最後に、発売を心待ちにしている日本のファンにメッセージをお願いします。

五十嵐長らくお待たせしてしまいましたが、ようやく発売になります。本作は、いまよりももっとゲームに活気のあった時代のおもしろさをいまの時代に味わうことができるタイトルだと思っています。ぜひ手に取って遊んでみてください。そして、評価してください。よろしくお願いします。