“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018 ワールドファイナル”ネイションズカップの初代チャンピオンに輝いた、イゴール・フラガ選手(ブラジル)。

 イゴール選手は、2018年11月16日~18日(現地時間)に、モナコで開催された“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018 ワールドファイナル”のネイションズカップ(※)で王者に輝いた、バーチャルレースの世界チャンピオン。

 昨年に引き続き開催中の“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019”シリーズでも、目覚ましい活躍を見せており、2019年6月22日(現地時間)、ドイツ・ニュルブルクリンクで開催されたワールドツアー第2戦でも貫禄の優勝を見せている。

※ネイションズカップ……『GT SPORT』を用いて行われている、“eモータースポーツ”の世界大会。北米・中南米・欧州/中東/アフリカ・オセアニア・アジアの5地域でオンラインレースによるシリーズ戦が行われ、ポイント上位の選手によるオフラインイベントのワールドツアー、ワールドファイナルを経て、年間チャンピオンが決定する。優勝者は、FIAが主催するF1(フォーミュラ1世界選手権)やWRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)といった、モータースポーツのトップカテゴリーのチャンピオンらとともに、FIA授賞式(FIA Prize-Giving Ceremony)にてFIA公認チャンピオンの栄誉が与えられる。

イゴール選手は1998年9月生まれのレーシングドライバー。“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019”ワールドツアー第2戦では昨シーズンに見せたような速さを披露し、見事な優勝を遂げた。

 “FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2019”ワールドツアー第2戦・ニュルブルクリンクのレースの詳細は、『グランツーリスモSPORT』公式サイトのライブレポートにて紹介されている。

 そんなイゴール選手は幼い頃のカートに始まり、アメリカで行われているインディカーレースの下部カテゴリーに属するU.S. F2000などにも参戦するなど、バーチャルなレースのみならず、リアルレースにも本格的に取り組んでいるレーシングドライバーで、U.S. F2000の2018年シーズンでは、年間ランキング4位を獲得するといった活躍も見せている。

 現在は欧州で開催されているフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権に参戦中だが、2019年7月14日(現地時間)、オーストリアのレッドブル・リンクサーキットで行われた同シリーズ選手権第4戦で見事、初優勝を果たした。

写真中央の青いレーシングスーツが、イゴール選手。レース中は、ブラジルの英雄、アイルトン・セナを思わせるカナリア・イエローカラーのヘルメットで目覚ましい走りを披露。今回の勝利により、総合ランキングも4位に進出。勝ち方を覚えたであろう同選手の今後の活躍にも期待したいところだ。

 以下は、イゴール選手が自身のTwitter(@1gorFraga)で公開している、フォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権第4戦のダイジェスト映像。「The best moments of the race!(これまでのレースで最高の瞬間!)」との書き込みとともに、よろこびの声があげられていた。

 この優勝を受けて、『グランツーリスモ』シリーズのプロデューサーを務める山内一典氏も、自身のTwitter(@Kaz_Yamauchi ‏)を通じて、イゴール選手を祝福。

 筆者は、昨年モナコで行われたワールドファイナルでイゴール選手の走りを目の当たりにしたのだが、そのときに圧倒されたのは予選アタックなどで魅せる一発のタイムの速さ。他を寄せ付けないほどの走りは圧巻で、名だたるトップドライバーが集結する大会の中でも、別格といっていいほどの風格が感じられた。

 ただ、このときの決勝レースでは若さ故か、焦りによるミスも散見されていたが、最終的には実力を出し切り大逆転での勝利を収めるなど、魅せるレース展開で初代チャンピオンの座を獲得している。

昨年開催された“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018 ワールドファイナル”ネイションズカップでは、リアルレースに勝るとも劣らない名バトルがくり広げられた末、タイトルを獲得。最終戦まで展開された日本の山中智瑛選手との激しいタイトル争いは、後世に語り継いでもいいほどの名バトルであった。

 このヤング・ブラジリアンのイゴール選手だが、じつは日本の石川県生まれという経歴の持ち主。10歳頃まで日本で育っていたこともあってか日本語も堪能で、幼い頃より『グランツーリスモ』でドライビングテクニックを学び、日本で行われていたカートレースにも参戦してレースの腕を磨いていた実力派である。

 普段は物腰がやわらかく、受け答えも丁寧な好青年なのに、レースになると他を寄せ付けない走りと激しいバトルで多くの観客を魅了してくれる、生粋のレーシングドライバーといえるだろう。

 ちなみに、イゴール選手は日本人の友人やファンも多く、前述のTwitterで日本人からのコメントには、きちんと日本語で返信をするという対応も見せてくれている。

レースでは情熱的な熱い走りを見せてくれるが、普段は本当に気さくな好青年といった印象。しかし、ことレースになるとその人なつこさは形を潜め、戦闘モード全開の激しいバトルを魅せてくれる。

 このように、『グランツーリスモSPORT』では世界一を獲得し、現在もトップクラスの活躍を見せながら、リアルレースの世界においても目覚ましい走りを披露するなど、リアルとバーチャルの両方の世界で頭角を現している、新世代のドライバーといえる。

“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”のチャンピオンとなったイゴール選手は、2018年11月にロシアのサンクトペテルブルクで行われたFIA授賞式にも参加。FIA公認レースのチャンピオンとして、ルイス・ハミルトン選手らと同じ舞台でトロフィーを受けとっている。

 『グランツーリスモ』ではこれまで、バーチャルドライバーをリアルレーサーにする“GTアカデミー”といった育成プロジェクトも行われており、この“GTアカデミー”出身のドライバーが実車レースの世界で活躍する姿も見られていたが、イゴール選手はまさに現在、バーチャルとリアルの世界で分け隔て無い才能を発揮してくれている注目のモータースポーツ選手といえるだろう。

 “eモータースポーツ”に関して言えば、前述の“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”に始まり、スーパーフォーミュラ選手権やTOYOTA GAZOO Racing、ポルシェといった実在のマニュファクチャラーも独自に、『GT SPORT』を用いたグローバルワンメイクレースの開催を発表。また、『GT SPORT』以外でもF1の参戦チームによる“Formula 1 Esports Series”が行われていたり、F1チームのマクラーレンが“McLaren Shadow Project”と称する活動を行うなど、実在のレース団体や自動車メーカーも近年、積極的に“eモータースポーツ”への取り組みを見せている。

 こういった活動が積極的に行われるようになってきたポイントとしては、『GT SPORT』を始めとするシミュレーターが進化してきたという点があげられるが、何よりもモータースポーツとeモータースポーツで必要な知識、テクニック、スキルがまったく同じである、という部分によるところが大きいだろう。

 実際、現在のF1で活躍しているマックス・フェルスタッペン選手(レッドブル・ホンダ)やランド・ノリス選手(マクラーレン・ルノー)といった若手ドライバーも、シミュレーターやeモータースポーツ走行を得意としているそうだが、今後は彼らのように、幼少期よりシミュレーターでの経験を積んだドライバーでないとモータースポーツの世界で活躍できない……といった時代になってきているのかもしれない。

 このように、モータースポーツの世界はすでに、リアルとバーチャルの境界は曖昧なものになってきているのだ。

※イゴール選手は、実は2018年に行われた“McLaren Shadow Project”でも、5万人以上の参加者の中からし烈な争いを勝ち抜き、優勝を果たしている。

国際自動車連盟(FIA)公認レースとして、2018年より開催されている“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”。2018年11月に行われたワールドファイナルの開催地、モナコにはF1ワールドチャンピオンのルイス・ハミルトン選手も参加選手の激励に訪れるなど、大きな盛り上がりを見せていた。
2001年から“ポルシェ カレラカップ ジャパン”を実施するなど、積極的なモータースポーツ活動を行っているポルシェ ジャパンは、2019年のモータースポーツ活動の一環として、『GT SPORT』を用いたワンメイクEレース、“Porsche E-Racing Japan”の開催を表明。
TOYOTAも、トヨタGRスープラRZを用いたグローバルワンメイクレース“GR Supra GT Cup”の開催を表明。同レースで得られたさまざまな評価や意見は、バーチャルとリアルの垣根を越えて今後のリアルなスープラの商品強化へと活かされるとのこと。
2019年3月のアップデートで追加された、スーパーフォーミュラの2019年仕様マシン“SF19”。同マシンを用いた日本自動車連盟(JAF)認定のバーチャルレースシリーズは、2019年6月より開催されている。

 もともとはバーチャルを追求することでリアルを追い求めてきた『グランツーリスモ』だが、最新作の『GT SPORT』で実施している“eモータースポーツ”への取り組みや、イゴール選手の活躍を見ていると、モータースポーツの分野においてはもはや仮想と現実という境界線はなく、すでに同じ土俵にあがっているという見方もできるのではないだろうか。

 ちなみに、今回イゴール選手が優勝したフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権は、2018年で終了したヨーロッパ・フォーミュラF3(ユーロF3)の後を次ぐ形で、2019年より新設されたカテゴリーのレース。

 ユーロF3と言えば、かつてはモータースポーツの最高峰、F1(FIA Formla1選手権)の登竜門とも呼ばれ、世界中のヤングレーサーが参戦。F1で5度の世界タイトルを獲得し、現在も最多勝、最多ポールポジションなど記録を更新しながら、2019年シーズンのチャンピオンも目指しているルイス・ハミルトン選手や、ロメイン・グロージャン、ニコ・ヒュルケンベルグといった、名だたる名ドライバーが参戦・活躍していたカテゴリーとしても知られている。

 そんなフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権で、イゴール選手はかつてのF1チャンピオン、エマーソン・フィッティパルディの孫であるエンツォ・フィッテパルディや、7度のタイトルホルダーとして知られるF1の皇帝、ミハエル・シューマッハの甥、ダービット・シューマッハといったライバル勢としのぎを削る争いをくり広げており、今回念願の初優勝を果たしたことになる。

 バーチャルレースの最高峰とも言える“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ2019”でも本命視されていながら、リアルなレース活動でも目覚ましい活躍を見せてくれる日本生まれのブラジル人レーサーは、今後リアルとバーチャルのモータースポーツの世界でどんな活躍を魅せてくれるのか。そして、どこまで登りつめていくのだろうか。

 日本生まれのブラジル人ドライバー、イゴール・フラガ。モータースポーツに興味がある方なら、この名前を覚えておいて損はないはずだ。