2018年に第11回マンガ大賞で見事大賞を受賞、ほかにも様々な漫画賞を総なめにしている少年漫画『BEASTARS』のアニメが、2019年10月からスタートした。

 肉食動物と草食動物が人間のように文化的な生活を送り、肉食が草食を食べることは重罪として取り締まられる世界を舞台とした“動物版青春ヒューマンドラマ”である本作。その一筋縄では行かない魅力を、ご紹介しよう。

アニメ『BEASTARS(ビースターズ)』レビュー。心優しいハイイロオオカミは“食欲”に屈せず、草食動物を愛せるか? 異色の動物版青春ヒューマンドラマ_01

アニメーション制作はハイクオリティなCGに定評があるオレンジ

 原作『BEASTARS』は秋田書店の週刊少年チャンピオンにて連載中の、板垣巴留による少年漫画。コミックスは最新15巻までが発売中だ。ちなみに板垣巴留は『グラップラー刃牙』でおなじみの板垣恵介の娘であることが、チャンピオンの2019年9月19日発売号で公表されている。

 アニメ版は、3DCGを主体とした作品となっている『BEASTARS』。アニメーション制作は『宝石の国』でCGならではの表現が話題を読んだオレンジだ。『宝石の国』では硬質で割れやすい宝石たちの質感がほかのアニメにはない魅力となっていたが、狼やウサギ、鹿といった動物たちが活躍する『BEASTARS』では、モフモフした毛並みなど、これまた人間を描くアニメでは見られない表現に挑戦している。監督は『牙狼 紅蓮ノ月』で助監督を務めた松見真一。脚本は『リトルウィッチアカデミア』をはじめトリガー作品に多数参加、実写邦画『勝手にふるえてろ』でも脚本協力としてクレジットされている樋口七海が手掛けている。

 物語の主人公・ハイイロオオカミ男子のレゴシ(声:小林親弘)は、さまざまな種類の動物たちがともに学ぶ中高一貫校・チェリートン学園に通っている。レゴシは強い腕力や、鋭い爪と牙を持った肉食獣でありながら、口数は少なめで性格は繊細。力を誇示するような行動は取らない。また演劇部に所属しているが、裏方の照明係をみずから進んで担当している。ある日、このチェリートン学園で、草食獣が肉食獣に喰い殺されてしまう食殺事件(しょくさつじけん)が発生する。被害者は演劇部員であるアルパカのテム(声:大塚剛央)。犯人はわかっていない。学園に通う草食獣たちは、肉食の生徒の中の誰かが犯人ではないかと疑い、学園内に亀裂が生まれる。誤解されやすいレゴシも、当然のように疑いの目を向けられる。それから数日経った満月の夜、レゴシは一匹の小さなウサギ女子・ハル(声: 千本木彩花)と出会い、自身の内に眠る本能と向き合うことになるのだった。

獣社会のリアルとは? OPのストップモーションアニメは必見!

 キャラクターたちの内面や、ほかの獣たちとの向き合いかたに関する葛藤など、シリアスなテーマを内包する『BEASTARS』。しかし「もし動物たちが生態はそのままに、人間のような生活を送ったら?」という“もしも”がいたるところに散りばめられており、これらの描写はとてもユーモラスで興味深い。例えば学食では「本日のおすすめメニュー」が“草食向け”のものと“肉食向け”のもの、それぞれの生態に合ったメニューが用意されている。ただし、獣の肉を食べるのは犯罪とされているため、肉食用のメニューでは豆や卵を使った料理でタンパク質を摂取できるようになっているのが文化的だ。

 また学内には、狼には月明かりを模した照明がある部屋、白熊には氷点下の室温に調整された部屋など、それぞれの動物たちが本来生きる環境に合わせた部屋が用意されているという設定がある。これらの部屋で動物たちが本能的に満足して、喜んでいる様子はかわいらしい。人間ならばそこまでの差別化は必要ないが、より多様な生き物が一緒に暮らすのであれば、たがいが快適に過ごすためには確かに必要な配慮だと作品を観ていると思えるだろう。

 こういった原作準拠のリアリティある獣社会について、説得力を持って描くためか、アニメ版の雰囲気はいわゆる深夜アニメの王道からは少し外れたものとなっている。劇伴は効果的なシーン以外ではあえて使用せず、雑踏のざわつきなど環境音にこだわった音響は、むしろ実写ドラマに近い印象を受けるだろう。極めつきはオープニング映像のストップモーションアニメ。かわいらしくも、レゴシの二面性を強調した不穏さも織り込まれたこの映像は、ふだんアニメを観ない層にも新鮮に映るはず。本作を深夜アニメファンの枠を超えて、よりたくさんの人々に注目される作品にしようという意図が見て取れる。

本能と理性の板挟み……青春時代は獣にだって甘くない

 レゴシは本来の穏やかな性格と、狼としての性質の間で揺れる。ふだんは徹底して平和主義を貫いているレゴシ。しかし満月の夜、自分の気配に気付いてとっさに逃げ出したハルを本能的に追いかけ、組み付いてしまう。なんとかハルを喰い殺すことはなかったものの、自分の中に食殺事件の犯人とも紙一重の凶暴な本能があることに気付くレゴシ。しかも彼は翌日、ひょんなことからハルと再会してしまう。どうやら前の晩に襲ってきた獣がレゴシだとは気付いていないらしいハル。そしてこのウサギ女子と思いがけないやり取りをしたレゴシは、彼女に対して異性としての好意を抱くことになる。本能的な食欲と、同じ生き物としての好意。まるで異なった視線をハルに向けたまま、レゴシは彼女と親交を深めていくことになるのだ。

 そんなハルもまた、ほかの獣には言えない生きづらさを感じている。また、演劇部の部長で、プライドが高く、草食動物として見られることを嫌う赤鹿のルイ(声:小野友樹)は、レゴシとは正反対のキャラクター。こちらも物語のキーパーソンのひとり(一匹?)だ。獣として持って生まれた性質や本能は変えられない中で、彼らはどのようにして青春時代を過ごしていくのか? そして食殺事件はどのように決着を迎えるのか? 見どころが多岐にわたり、それらが複雑に絡み合う『BEASTARS』は、その現実の人生にも似た「一筋縄ではいかなさ」こそが、大いなる魅力だ。

 なお本作はインターネットでの配信はNetflix独占となっている。すでにTV放送を終えた1~4話を見逃した方は、ぜひNetflixに登録して、視聴してほしい。

Netflix『BEASTARS』