2018年に放送されたテレビアニメの中でも視聴者からの評価が高かった『宇宙よりも遠い場所』。2018年12月30日(日)24:00からニコニコ生放送での一挙放送が予定されている本作について、改めてその魅力に迫る。

 2018年12月30日(日)の24:00からニコニコ生放送での一挙放送が予定されている、テレビアニメ『宇宙よりも遠い場所』。

 “少女たちが南極を目指す”という物語が主軸となる本作は、東京アニメアワードフェスティバル2019の“アニメ オブ ザ イヤー部門”、“みんなが選ぶベスト100 テレビ部門”にて第2位に輝くなど、2018年のベストアニメに選ぶ人も少なくない作品だ。加えて、米紙ニューヨーク・タイムズにて、アメリカ国外の優れたテレビ番組を選ぶ“ベストTV 2018 インターナショナル部門”でも第8位に選出。国や文化を問わず高く評価されるアニメといえる。本記事ではそんな作品の魅力について掘り下げていきたい。

4人の個性豊かな少女たちが“なにか”を求めて南極へ向かう物語

 『宇宙よりも遠い場所』(以下、『よりもい』)は2018年1月2日から3ヶ月間放送されたオリジナルテレビアニメーション。監督は『ノーゲーム・ノーライフ』や『ハナヤマタ』などを手掛けた、いしづかあつこだ。ゲームファンにとっては『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』や『ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ』のオープニングアニメを手掛けた監督と言えばピンと来るかもしれない。脚本は『ラブライブ!』シリーズで知られる花田十輝。アニメーション制作は最近では映画『若おかみは小学生!』でも話題となったMADHOUSE(マッドハウス)が担当している。

 本作の主人公は、玉木マリ、小淵沢報瀬、三宅日向、白石結月という個性豊かな4人の少女たち。そんな彼女たちが、日常にはない“なにか”を求めて南極へと向かう物語となるわけだが、4人が求める“何か”はそれぞれ微妙に異なっている。

 高校二年生の玉木マリ(声:水瀬いのり)、通称キマリは高校に入学してから自分が青春らしいことを何ひとつしていないと気づき、それでも思い切った行動が取れない自分にもどかしさを感じていた。そんなある日、キマリは同じ高校の同級生で、校内で変人扱いされている少女、小淵沢報瀬(声:花澤香菜)が落とした100万円入りの封筒を拾ってしまう。この100万円が南極に行くために貯めた資金であることに加え、報瀬の母親が南極観測隊員で、数年前南極で消息を絶っており、これをきっかけに報瀬が南極を目指していることを知ったキマリは、それまでになかった胸の高鳴りを感じ、いっしょに南極を目指す決意をする。

 その後ふたりは、高校を中退しアルバイトに精を出していた三宅日向(声:井口裕香)、アイドルの仕事として南極観測隊に同行することになっていた白石結月(声:早見沙織)と出会い、4人で南極に向かうことになる。一見、ムードメーカーでしっかり者に見える日向は南極に行く動機として「いまのうちに何かしておきたい」と、キマリに近い想いを語るのだが、わけあって高校を辞めている彼女からは、どちらかといえば“いまいる場所から離れたい、ずっと遠い場所に行きたい”という願望が動機として見え隠れする。また、もともとは南極行きに乗り気ではなかった結月には、幼いころから芸能活動で忙しく、友だちがいたことがないという背景が。そんな彼女は、キマリ、報瀬、日向のあいだに芽生えつつあった“絆”のようなものに惹かれ、4人でいっしょに行くことを条件に、南極行きを決めるのだ。

 このように、同じ目的地を目指す4人の少女たちの背景や心の機微をつぶさに観察することが、本作を深く楽しむ上での補助線となる。ある者は青春を実感するために。ある者は母親の影を探して。ある者はただひたすら遠い場所を目指して。そしてある者は仲間との日々に心を躍らせて。バラバラな個性を持った4人が四者四様の理由で、“宇宙よりも遠い場所”を目指すことになるわけだ。苦楽をともにする4人の少女たちのドラマは、旅を通して絆を深め、たがいが新しい価値観を得て成長していくロードムービーとしての普遍的な魅力を備えている。しかもそれが、南極観測隊が南極に向かう過程と南極に着いてからの生活を丁寧に描くという特殊な環境下で描かれるのだから、多くの視聴者の好奇心を刺激するのも頷けるところだ。さらに本作のドラマには、視聴者を夢中にさせる独特のエッセンスがあるのだが……。

ときとして物語の定石を崩す、新鮮なストーリー

 筆者は、『よりもい』が名作とまで評価される大きな理由として、これまでの類似のアニメ作品では“定石”とされてきたものとは趣が異なるドラマ展開があるように思う。南極探検という意外性のあるモチーフを使いつつも、いまを生きる少女たちの心情が細やかに描かれており、多くの人々にとって共感しやすい語り口で物語が進んでいくのだ。以下、なるべくネタバレに配慮しつつ、少しそのあたりに言及したい。

 本作初見の方に注目してほしいのは、報瀬が初めて南極に足を踏み入れたときに放つ言葉だ。前述の通り、自分の母親が消息を絶った地に足を踏み入れるのだから、厳かな雰囲気になってもおかしくない場面だろう。しかし、報瀬が叫んだのはそんな視聴者の思いを清々しいくらいにぶっ壊しつつも、そこに至るまでの彼女という人間を見続けてきた視聴者にとって“これしかない”と思える言葉なのだ。

 同じく報瀬の言葉としては、ある人々に投げかける言葉も非常に印象的だ。“人と人の目に見えない絆”を丁寧に描く本作だが、その言葉からは同時に、“人と人のわかり合えなさ”をも肯定的に描いてくれていることがうかがえる。自分に嘘をついてまで寛大な心を持たなくてよい、というメッセージと受け取れるこのシーンがどこで登場するのかは、ぜひ本作をご覧になっていただきたいのだが、何かしら他者との関係に躓いたことのある者の心には、きっと優しく染みていくことだろう。

 もうひとり、ここで名前を挙げておきたいのは、『よりもい』の5人目の主人公といっても過言ではないキマリの親友、高橋めぐみだ。物語には必ず主役と脇役がいる。実際に日々を生きている人のほとんどは、物語の主役になれるようなドラマティックな人生を歩んでいないし、多くの場合、その資質も持たない。高橋めぐみもそんな“主役になれない側”の人間なのだが、ある行動によって“持たざる者”である彼女にも、主人公に等しい行動が取れることを証明する。中盤以降、ほとんど名前すら登場しない彼女が最終的にどんな形で本作に関わってくるのかにも注目してほしい。

これから青春したい人、青春を思い出したい人、必見のアニメ

 『よりもい』は、その丁寧な人物描写によって、いまを生きる視聴者の心を解きほぐし、一歩前に踏み出したくなるような新鮮な感動を与えてくれる。まさに、2018年だからこそ生まれた名作だと言える。ずいぶん前に大人になってしまった身としては、彼女たちの悩みながらも自分の意志で前に進もうとするキラキラした姿に、忘れかけていたものを思い出せたような気がした。

 ちなみに、今回触れられなかったのだが、物語の中で主人公たちと関わることになる南極観測隊員の大人たちも、なにかキラキラしたものを喪失してしまった大人の視点から見ると、たいへん魅力的に描かれていることを付け加えておきたい。彼らは各々に弱さを抱えつつも、子どもたちに対しては、背中を見せる立場として強くあろうと振る舞う。その姿には、大人であっても心を打たれることだろう。

 2018年、何か物足りなかった、感動したい、青春したいという方にはぜひ2018年のうちに、この1年を代表するであろう名作に触れてみてほしいと思う。

アニメ『宇宙よりも遠い場所』全13話一挙放送

配信:ニコニコ生放送
配信日時:2018年12月30日 開場:23:30 開演:24:00
放送ページ:http://live.nicovideo.jp/gate/lv317147475
公式HP:http://yorimoi.com/