2019年9月12日から15日までの期間(12日、13日はビジネスデイ)、千葉県・幕張メッセで開催された東京ゲームショウ2019。大阪に拠点をおくインディーゲームパブリッシャーPLAYISM(運営・アクティブゲーミングメディア)は、例年のようにインディーゲームコーナーの一角を占める形での出展はなく、企業ブースを構えての出展 (ホール8) を敢行。イベント前に発表された10近くのタイトルがプレイアブルな状態で展示され、他マーケットはひと味違う、良質でアーティスティックなインディーゲーム体験を来場者に提供した。
とくに人気を集めたのが、近未来バーテンダーAVG『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』の続編『N1RV Ann-A: Cyberpunk Bartender Action』のプレイデモ出展。入れ替え制のブース横に、多くのファンが待機列に加わっている様子が印象的だった。
今回は、ショウのために来日していた、『N1RV Ann-A』を開発するベネズエラのインディースタジオSukeban Gamesと、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』にインスパイアされた世界観が特徴的なパズルアクション『Ministry of Broadcast(ミニストリー・オブ・ブロードキャスト)』を開発するチェコ共和国のFUCHS+DACHSの主要スタッフに、ゲーム内容に関する踏み込んだ話を伺うことができた。
ゲームタイプは異なるものの、“PLAYISMが全面的に支援する海外デベロッパー”という共通項がある両者に同じ質問をぶつけた結果をお届けしよう。
――PLAYISMのブースが盛況でしたが、プレイしている人々の様子を見ての率直な感想は?
フェルナンド東京ゲームショウに参加するのは今年で3回目ですか、まったく飽きが来ないですね。ふだんは毎日必死に作業していて、気が狂いそうになりながらも何とか正気でいられるのは、こうしてショウに来て、ゲームに対して期待してくれるファンの喜んでいる姿を見られるおかげです。
――ファンの“ラブ”がダイレクトに伝わってくるんですね。
フェルナンド私だったら、もうすぐ発売されるとわかっているゲームを並んでまで遊びたいとは思いませんが(笑)、あんな長い列にわざわざ並んでくれることが嬉しいし、開発者としてモチベーションが上がります。
ドゥシャン1年半前から開発してきて、こうして日本のショウにきて、プレイヤーが遊んでいる姿を見ることが一番嬉しいです。なぜかというと、このゲームの難易度は“日本向き”だからです。ヨーロッパやアメリカだと「こんなの難しすぎる」と言われてすぐに投げ出されるんですけど、日本の皆さんは「難しいね、いいね!」と言ってガッチリ遊んでくれます。こういう風景を見ると、感情がおおいに揺さぶられます。
――作品のやや複雑なコンセプトがどのように受け入れられるかについては、懸念はなかったのでしょうか?
ドゥシャン(日本のアニメやゲームの影響を受けている)Sukeban Gamesさんのタイトルとは違って、『Ministry of Broadcast』はほぼ完全に欧米文化をベースにしています。最初は受け入れられるか不安だったのですが、ファンの皆さんの反応を見ているうちに「このゲームのテーマって、じつは世界共通ではないだろうか」と気づきました。現在の資本主義のありかたとか、個人の私生活や人生をエンターテイメントにするテレビ番組、表現や報道に対する政府のセンサーシップ(検閲)……といった事象に、欧米独特のユーモアやサーカズム(表面上は穏便な皮肉)で突っ込んでみようというスタイルが日本でも受け入れられて、嬉しい限りです。
――それぞれのゲームは“ピクセルアート”を特徴のひとつとしています。今回出展した作品に限っての、ビジュアル面でのコンセプトやみどころを教えてください。
フェルナンド『N1RV Ann-A』は『VA-11 Hall-A』の続編ですが、アートスタイルは“ファミコンのゲームの続編がスーパーファミコン用タイトルとして出た時に、グラフィックはハード性能に応じて強化されているけど、同じシリーズ作だとわかる要素やムードを持っている”という状態を再現するつもりで作っています。
――グラフィックのボリュームや工数は、前作から相当増えているのではないでしょうか。
フェルナンドボリューム面に関しては、前作とほぼ同じくらいというリミットを自主的にかけています。登場キャラクターや舞台の数を増やすのではなく、『VA-11 Hall-A』で作り上げた環境に、もっと細かいディティール……背景の雲が流れていたり、樹木が風で揺れているといったアニメーションを取り入れる方向での強化です。とはいえ、初めて制作するタイプのゲームでもないし、これまでのノウハウの蓄積で効率的な進めかたもわかっているので、開発ペース自体はスムーズです。
ドゥシャンこのゲームを制作する最初の段階で決まっていたのは“ピクセルアートを使ったゲーム”ということだけでした。その後さまざまなアイデアを出してくうちに物語性を重視する方向性になり、であるならば「ゲームのありとあらゆる要素を物語に直結させよう」となりました。もちろんそれは、ビジュアル面にも徹底されています。『Ministry of Broadcast』は、典型的な悪党政府と戦うストーリーですが、敵勢力の表現をステレオタイプなものにしたくはありませんでした。そういう政府が現代に実際にあったとして何をやるだろうと考えた結果、「まずはPR会社を雇うだろう」となりました(笑)。その会社は、かつてのソビエト(※ロシア連邦の前身となった社会主義国家“ソビエト社会主義共和国連邦”)のようにアグレッシブな印象を与える“赤”ではなく、あえて民衆の心を落ち着かせる空色をイメージカラーとして使うことを進言するだろう……といった想像から、ゲーム画面のトーンを決めていきました。使用フォントやピクセルアートを含め、“どこか違和感があるけど決して不自然ではないアートスタイル”を徹底している点に注目してもらいたいですね。
――プレイデモを観る限り、キャラクターのアニメーションパターンも豊富そうです。
ドゥシャンええ、残念ながらそうです。そのアニメーションをさらに作らなければならないのは自分自身なので(笑)。主人公が死ぬアニメーションパターンは現時点で30~40個くらいあり、それは今後も増える予定です。アニメーションパターンを充実させる理由は“ゲームに登場するキャラクターを実際に生きているように感じてほしい”ということと、“主人公が決してヒーローでないこと”をわかっていただきたいからです。彼はたまたま選ばれて「家族にまた会いたければこの番組に出て生き延びろ」と言われ、なんとか死なないようにあがいているだけの男なので、たまに何でもないところでコケたり、情けない形での死にざまをしっかり描くことも大事だと考えています。
――ちなみに、パブリッシャーであるPLAYISMとの関係はいかがでしょうか?
フェルナンドあなたが私からどんなコメントを引き出したいのかだいたいわかりますが (笑)、正直言って不満は一切ないです。今回の東京ゲームショウに『N1RV Ann-A』を出展したいと申し出たら「(開催まで)あと2ヵ月しかないのに!」と言いながらも、何とか応えていただけました。『VA-11 Hall-A』で、いかにも初心者らしい愚かな失敗を犯したときも、怒らず長い目で見てくれたり、ゲームのことだけでなく私生活面でも大いにサポートしてもらっています。
ドゥシャン私もこれが引っかけ問題とわかっているので慎重にお答えすると、関係はまだそれほど長くはありませんが、これまでは何もかもスムーズです。あとは実際に売り上げが入金されたら、もっと言えることが増えるでしょうね(笑)。まじめに答えると、こうして東京ゲームショウに出展する機会をいただけて感謝していますし、ローカライズのクオリティーなど、いろいろな面ですごく助かっています。もともとゲーム内には「“◎◎イズム”とつくものは何もかも最悪」というセリフがあったのですが、そこは変更しました(笑)。
――最後に、それぞれのタイトルのリリースを期待している日本のユーザーに、東京ゲームショウの出展バージョンでは公開されていない要素や作品の魅力に関して、可能な範囲で教えてください。
フェルナンド現在話せる範囲でいうと、カクテルのレシピについてです。『N1RV Ann-A』では、ゲーム内のレシピ本にない組み合わせのお酒を自由にミックスできるようになっています。オリジナルの組み合わせを保存して“自分だけのレシピ本”も作れますよ。
――あえての“激マズチャレンジ”もできそうですね。
フェルナンド製品版では素材がさらに増えるので、「もう皆さん自由にやってください」と(笑)。あと、前作と異なるのは、現実世界にも実際にある素材を用意していることです。皆さんが日常で飲んでいるカクテルをゲーム内でも再現できるのは、とても楽しい経験になると思います!
ドゥシャン『Ministry of Broadcast』は、“ストーリー重視のアクションアドベンチャー”としても、“アーケードライクなアクションゲーム”としても楽しめる作品です。ストーリーパートをスキップしても問題なく遊べるよう考慮してゲームデザインしている……ともいえます。そしてこのゲームはエンディングが4種類用意されていて、どの結末になるかの条件に“セリフをスキップしたかどうか”も関わってきます。ストーリー重視の人も、アクション重視の人も、自分の好みのスタイルでプレイし終えた後に、反対のプレイスタイルで再挑戦してみてください。また“主人公の死(ゲームオーバー)”もストーリー展開に影響する作りになっているので、お楽しみに。
――そうしたメタな要素は、物語の核心部分にも関わっているのでしょうか?
ドゥシャンこれ以上話すとネタバレになるので詳しく説明しませんが、「このゲームには本当に“選択の自由”が存在しているのか?」といったことをどこかで考えながらプレイすると、また違った面が見えてくるかもしれません。