2019年9月12日(木)から9月15日(日)まで(12日・13日はビジネスデイ)、千葉・幕張メッセにて開催中の、東京ゲームショウ2019(TGS2019)。スパイク・チュンソフトが出展中の『サイバーパンク2077』ブースでは、“E3 2019”などで公開されたデモプレイ映像の日本語吹き替え版を見ることができる。
本記事では、その内容を改めて紹介するとともに、CD PROJEKT REDのジャパン・ローカライズマネージャーを務める西尾勇輝氏に行ったインタビューを掲載する。
プレイヤーのあらゆる選択がゲームプレイに影響を及ぼす
デモプレイ映像では、まずキャラクタークリエイトの要素を紹介。『サイバーパンク2077』では、主人公V(ヴィー)のカスタマイズ要素が豊富に用意されており、その中にも、ゲームプレイに影響を与えるものがある。
スタイルや見た目のカスタマイズのみならず、ステータス、スキルツリーの伸ばしかたなどもプレイヤーの自由だ。
キャラクタークリエイトの後は、ハッキングなどの能力に長けた“ネットランナー”タイプのVと、戦闘に特化した能力を持つ“ソロ”タイプのVを切り換えながら、ふたつのプレイスタイルで物語中盤のゲームをプレイ。
なお、これはデモプレイ映像のための仕様であり、実際のゲームではワンボタンでキャラクターの切り換えを行うことはできない。
今回のデモプレイでは、“ヴードゥー・ボーイズ”と呼ばれるハッカー集団の幹部であるプラシドという男の命令で、敵対するギャング“アニマルズ”の拠点に潜入。
おもに敵からばれないように、ステルスプレイで進行していたため、敵の視線をかいくぐりながらギャングのアジトに潜入していたが、正面突破することもできるようだ。
また、敵に後ろから忍び寄って締め上げ、そのまま移動して、近くにあったダストシュートの中に隠してしまうという、周囲のオブジェクトを利用したアクションも披露された。
ちなみに、敵を締め上げたときには、“テイクダウン”と“非殺テイクダウン”の選択肢が表示されていた。プレイヤーの攻略次第では、敵をひとりも殺さずにゲームをクリアーすることもできるとのことだ。
ネットランナータイプのVでのプレイでは、監視カメラをハッキングして敵の監視をかいくぐったり、自動販売機を故障させて敵の気を引いたりといったアクションを使いながら、アニマルズたちが乗っ取った施設の奥深くまで侵入。
道中で扉があったのだが、こちらのVでは腕力のステータスが足りなかったため開けられなかった。一方、ソロタイプのVのプレイでは、この扉をこじ開けて別のルートを開放していた。
このように、同じシチュエーションでも、プレイヤーがVの能力をどのようにカスタマイズするかによって、異なる選択肢を取ることができるようだ。
戦闘においても、ネットランナータイプのVは、設置されたタレットにハッキングアビリティを使って敵を攻撃させていたのに対して、ソロタイプのVは、力まかせにタレットを銃座から引き抜いて自分の武器として使っていた。
このほかにも、敵を盾にして攻撃を防いだり、敵を直接ハッキングし、体の一部を乗っ取って倒したりといった戦いかたも紹介されていた。
また、ストーリーの中で、キアヌ・リーブスさんが演じるジョニー・シルヴァーハンドも登場。彼は、意識をデータ化した実体のない存在で、Vの身体に埋め込まれたチップに宿っている。
デモプレイ映像の終盤には、このチップのおかげで、Vが九死に一生を得る場面もあった。どうやら、ジョニーのチップには大きな秘密が隠されているようだ。ゲーム本編でその謎をすべて解き明かせるかどうかも、プレイヤーの選択次第であることが明かされて映像は終了となった。ゲーム中のあらゆる場面で、プレイヤーの選択がゲームプレイに大きな影響を及ぼす本作。自分だけの『サイバーパンク2077』をプレイできる日が待ち遠しい。
キャラクターの特徴を最大限に表現する
西尾勇輝(にしおゆうき)
CD PROJEKT RED ジャパン・ローカライズマネージャー
――ローカライズの作業の進捗はいかがでしょうか?
西尾 滞りなく進んでいます。今回のTGSで日本の皆さんに吹き替え版のデモプレイ映像をお見せすることに集中したため、そのための微調整もありましたが、本編のローカライズ作業も同時進行中です。
――吹き替え版トレーラーの公開に合わせて、主人公Vを含む吹き替えキャストも一部公開されましたが、こちらのキャスティングの意図をお聞かせください。
西尾 Vを含む一部キャラクターに関しては、オーディションを行いました。オーディションは私自身にとっても初めての経験だったのですが、時間をかけてじっくりと考え、男性は小林親弘さん、女性は清水理沙さんに演じていただくことにしました。
――Vのオーディションでおふたりを選ばれた理由は?
西尾 Vは、これからナイトシティという危険な街で名を上げようとしている若者で、まだまだ未熟な存在です。
最初から完成された主人公というわけではなく、ストーリーを通して成長していくので、オーディションでは、そういった若さ、未熟さを表現していただけるかどうかを重視していました。その点、おふたりの演技はすばらしく、我々が求めていたものにすごくマッチしていたんです。
とはいえ、Vは危険なナイトシティを生き抜いてきているので、強く、たくましい面もあります。そうした、恐れ知らずなところや、生意気な一面を表現していただけることも、オーディションで重視していた要素のひとつです。
もちろん、V以外にもオーディションを行ったキャラクターはいますし、我々が指名させていただき、キャスティングしたキャラクターもいます。
キャスティングでは、開発サイドからキャラクターの情報を共有されたあと、本間(覚氏。CD PROJEKT RED ジャパン・カントリー・マネージャー)と台本を調整していくなかで見えてきたキャラクターごとの特徴を演技で表現していただくうえで、最適だと思われる方々に依頼させていただきました。
――女性のVを演じる清水さんの演技は落ち着いた印象のトーンでしたね。
西尾 清水さんの演技は、小林さんの男性ボイスに比べてトーンは落ち着いた印象を受けるかもしれませんが、負けん気の強い雰囲気がとても魅力的で、ぴったりでした。一方で小林さんは、Vの“夢見る若者”感を繊細に演じていただいています。
Vは相手が誰であっても自分が思ったことをためらわずに口に出すようなキャラクターなのですが、清水さんはすごく繊細な演技で、その怖いもの知らずな面を表現されていました。一方で小林さんのVからは、“夢見る若者”感と、芯にあるタフさを感じ取ることができるかと思います。
――ちなみに、ジョニーを演じる森川さんは、映画などでもキアヌ・リーブスさんの吹き替えを担当されていますが、こちらはキャスティングだったのでしょうか?
西尾 はい。それに加えて、ジョニーは破天荒で、皮肉屋な一面もあるんです。そのシニカルな雰囲気を演技で表現していただけるのは、やはり森川さんだろうと。
――キアヌさんも、ジョニーは破天荒なキャラクターだとおっしゃっていました。
西尾 現代を基準にして考えると、『サイバーパンク2077』の世界観自体が破天荒なのですが、なかでもジョニーはそのなかでも別格だと思います。それを表現するために、我々もいろいろな考えを巡らせながら吹き替えを行っています。
――ちなみに、キアヌさんのオリジナルの演技はいかがでしたか?
西尾 声を張っているわけではないのに、感情の高ぶりを表現するのがとてもお上手だなと思います。
ジョニーは皮肉屋なので、声を張って不快感をあらわにするようなシーンはあまりないんですけど、「いまジョニーはすごく怒っているな」とわかるシーンもあります。その表現力はさすがだなと。
――そんなジョニーはVにとってどのような存在なのでしょうか。
西尾 ゲーム序盤のVからしたら、頭の中にいるジョニーは邪魔な存在でしかありません。そのため、ジョニーを頭から追い出し、自分の身体を取り戻したい、というのがVの目標になります。
ただ、ゲームを進めて物語を体験する中で、ふたりの関係性は変わっていきます。プレイヤーがどのような選択を取り、どういった会話をジョニーとくり広げていくかによって、Vとジョニーが築く関係も変わるんです。
オリジナルに近づけるための苦労と工夫
――収録はオリジナル版の音声をもとに進めていくのですか?
西尾 収録の前には一度オリジナル版の英語の音声を役者の方に聞いていただいています。もちろん、「このシーンはステルス行動中なので声のトーンを抑えてください」というように、台本にも、演じていただくシーンに関する情報を記入しているのですが、文字だけでは、ゲーム中の雰囲気が正確に伝わりづらい場合もあります。
ただ、どの選択肢を選ぶとどのセリフにつながるのかなど、物語の流れを我々のほうで把握できているため、極論を言ってしまうと、英語音声がなくても収録は可能です。
それでも、たとえばセリフに“!”がついているか、ついていないかだけで、役者さんが文字から想像される演技はかなり変わります。そういった理由もあり、原則としては英語音声ありきで収録を進めています。
逆に、オリジナルの演技と日本語の演技とで、あえて変更している部分もあります。例を挙げると、英語にはユーモアの皮肉の表現がたくさんあるのですが、日本語にはそういった文化があまりないので、そのまま日本語で表現すると、ストレートな嫌味に聞こえてしまうときがあったりするんです。
それがゲーム中のシーンの内容にそぐわないときは、そのセリフを変えて、声のトーンも意図的に元の言語から変更しているところもあります。
――単純に翻訳するだけでなく、日本語として自然に聞えるようなローカライズを行っていると。
西尾 はい。英語音声があるからといって、そのトーンに合わせて吹き替えしているだけではかなりメチャクチャになってしまうと思うので、そういったことも考えて、微調整をしながら収録を進めています。
――先日、カットシーンを含むほぼすべてのシーンが一人称視点になるという発表がありましたが、ローカライズに影響はないのでしょうか?
西尾 UI周りではあるかもしれません。音声としてはあまりありませんが、声の距離感は変わります。一人称視点になると、キャラクターの目を通して見ることになるので、俯瞰で見るよりも、かなり距離感が近く感じるようになるかと思います。
ふつうのカットシーンは映画の一幕を見ているような感覚になると思うのですが、一人称で見ることで、“自分が体験している”ということが強調されます。役者さんにディレクションをするときは、そういったことを意識するようにしています。
――デモプレイ映像で、通行人が会話をしているところでもリアルな距離感がありました。
西尾 自分の位置や向きに応じて聞こえかたが変わるということも、没入感を高めるのにひと役買っていると思います。
――パシフィカの街ではハイチの言葉も聞こえてきました。プラシドはハイチの言葉と日本語をしゃべっていましたが、どちらも収録したのですか?
西尾 ハイチ・クレオール語しか喋らないNPCなどは、もとの音声をそのまま使っていたりしますが、プラシドに関してはハイチ・クレオール語と日本語を両方収録しています。
収録のときには、CD PROJEKT RED本社のほうで収録したハイチ・クレオール語の音声があるので、その音声にできるだけ発音を寄せて収録しています。
収録の前には、我々のほうでセリフをカタカナに落とし込んで台本化していますが、それをそのまま読んでもらうだけではカタカナ語になってしまうので、実際に音声を聞いて微調整していただいています。
――オリジナルの雰囲気に近づけるためにはそうした工程も必要なのですね。TGS2019では『サイバーパンク2077』の世界をモチーフにしたコスプレコンテストの予選も開催されますが、西尾さんも審査に参加されるのですか?
西尾 審査には日本チームのスタッフも参加する予定で、すごく楽しみにしています。特徴的なルックスのキャラクターが多い作品なので、それをコスプレイヤーの皆さんがどうやって表現されるのか、とても期待しています。
今回はTGSという場を借りての世界に向けた予選のひとつなので、15日に会場に来られる方はぜひご覧になっていただきたいです。
また、サイバーパンクはド派手なルックスが特徴なので、コスプレで衣装を見ていただくだけでも刺激的だと思います。お時間がある方はぜひお越しください。
――グランドフィナーレは来年開催予定とのことなので、ソフトの発売とともに、そちらも楽しみです。
西尾 私も楽しみにしています! また、先ほどお話した通り、現在、発売に向けて日本語フル吹き替えでローカライズ作業を進行中です。発売は来年なのでまだ時間はありますが、もう少しだけ待っていただければなと思います。