昨今、ゲーム業界でも盛んに話題にされるようになったクラウドコンピューティング(クラウド)。話の導入部としてクラウドを改めて説明すると、“インターネットなどのネットワークを経由して、ユーザーにサービスを提供する形態”のこと。先日発表されたGoogleの新ゲーミングプラットフォームStadiaにクラウドが採用されたり、マイクロソフトがクラウドサーバーを活用したクロスプラットフォームのProject xCloudを展開予定であることを明らかにするなど、ゲームというジャンルでも注目を集める領域である。

 そんなクラウドを活用してのゲームの開発者に向けたテクノロジーとして、この3月から提供が開始されているのがクラウドクリエイティブスタジオによるGame Platform for Azure(以下、GPA)だ。クラウドクリエイティブスタジオと言えば、記者の印象にあるのは同社が展開するアーケード向けVRプラットフォームのV-REVOLUTIONが印象深いが、今年はさらにエアソフトガン専用のアミューズメント機器『Airsoft Shooter』をリリースして、専用店舗をオープンするなど、なかなかに幅広い事業を手がける企業である。

 そんなクラウドクリエイティブスタジオが、会社の設立以降基幹事業のひとつとして据えているのがオンラインゲーム運営の環境構築。その中心にあるのがマイクロソフトのクラウドサービスMicrosoft Azureで、同社はAzureのテクノロジーに深い知識があり、マイクロソフトが全世界で展開するパートナー企業向けのCloud Solution Provider(CSP)プログラムのリセラー契約を国内のゲーム関連会社として唯一締結。その流れから、GPAの提供にいたったという。リセラーとは、製品を開発元や販売元、卸売業者などから仕入れて、顧客に販売する事業者のことを指し、つまりAzureのテクノロジーを使って事業を展開する許可を得ている日本で唯一のゲーム関連会社ということだ。

 GPAがゲーム業界にもたらすものは何であろうか? 気になった記者は、クラウドクリエイティブスタジオ 代表取締役 秦泉寺章夫氏に話を聞いてみた。そのまえに、まずはGPAの何たるかをお伝えしておこう。

Game Platform for Azureとは?

 日本マイクロソフトのクラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureを基盤として採用した、ゲーム用のテクノロジー。より安定したサーバー環境と、高負荷を処理する高い技術力を兼ね備えたサービスを提供することで、これまでクラウド対応ゲームを開発する際に必要だった煩雑な環境構築などを、よりスピーディーに実現できるようになっている。また、開発環境にMicrosoft Visual Studioを使うことで、開発や運営などの全体的な作業効率のアップを測ることができ、ゲームへの負荷対策やチューニング作業にも役立てさせられるようになっているのが特徴だ。

Game Platform for Azureの世界対応の簡略図

 利用者のプレイデータをSQL DatabaseやCosmosDB、キャッシュの仕組みを用いることで管理できるように対応。分析ツールなども各リージョンごとで分散せず、集中管理できるように対応している。SQL Databaseはクラウド データベース サービス、CosmosDBはマルチモデル データベース サービスのこと。

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すべてのPaaSで構成しているGame Platform for Azureの簡略化した構成一例

 極力負荷を分散し、かつ運営保守も考えた構成を取り入れている。ゲームの負荷に合わせて柔軟なスケールに対応できる構成にしており、急激な負荷にも耐えられる。なお、PaaS(Platform as a Service)とは、アプリケーションを実行するためのプラットフォームをインターネットを介して提供するサービスのこと。

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秦泉寺章夫(じんせんじあきお)

クラウドクリエイティブスタジオ 代表取締役


Game Platform for Azureはお皿や箸を用意するようなもの

――GPAのサービスを開始することになった経緯をお教えください。

秦泉寺当社は2011年の設立以降、受託開発をメインに事業を行ってきたのですが、中でもサーバー開発や運用には強みを持っています。その過程で、折に触れマイクロソフトさんのクラウドプラットフォームMicrosoft Azure(以下、Azure)は使用させていただいていて、「そのノウハウを活かしてAzureをゲーム開発に役立てていただこう」ということで発想したのがGPAになります。

――Azureのどの点に、とくに魅力を感じたのですか?

秦泉寺クラウドサーバーに関して言えば、アマゾンウエブサービス(AWS)やニフティ、Googleなどが大きなシェアを持っていて、Azureはいわば後発にあたります。それでもサービス開始から8年経つのですが……。Azureの魅力は、開発環境としてMicrosoft Visual Studioをサポートしている点ですね。ゲーム系のツールが使えるので、ゲーム開発には利便性が高いんです。エディタ機能が安定していて、デバッグ機能などでの補助機能がすごいんですね。プログラムだけではなくて、データベースを操作したり、3Dのデータを読み込んだり、Unityも使える。何よりもフォントが好きです(笑)。

――フォント(笑)。

秦泉寺これは、エンジニアやプログラマでないとわからない領域かもしれませんね(笑)。ただ、Azureのゲーム業界における取り組みはまだまだこれからの状態で、今回のGPAは、マイクロソフトがクラウドの分野で、ゲームに本格的に取り組むための戦略の一環でもありますね。

――具体的に、GPAではどのようなサービスを提供するのですか?

秦泉寺GPAは、言ってみればソリューションです。サービスなどが抱えている問題や不便を解消するために提供される情報システムですね。私たちは、ゲームを制作する上で必要なインフラとサーバーの構成を、ひとまとめにして提供させていただきます。個々のゲームの細かい仕様などはゲーム用のサーバーに載せないといけないわけですが、そのベースとなる部分をひとつにまとめて提供するのがGPAとなります。

――ツールを提供するということですか?

秦泉寺ツールではなくて、本体ですね。サーバーを使ったオンライン用のシステムを一式提供すると言ったらわかりやすいかもしれません。言ってみれば、GPAはオンラインゲームの開発に必要な器ですね。たとえば、定食を作ろうと思ったときに、シェフは料理は作れますが、皿や箸、お盆は作れません。皿やお盆を用意するのが私たちの仕事になります。「上に乗る料理はクリエイターさんが作ってください」と。どういった料理を作るかによって、皿の枚数や大きさなど、最適な器を決めるというわけです。ちなみに、ときに「中の料理も作ってほしい」というクライアントさんもいますが、うちは受託開発をしてきた経験もありますので、そのへんも対応できたりします。

――GPAがもたらすメリットは?

秦泉寺まずは作業の効率化です。さきほどの料理の例で言うと、「健康志向の料理を出したい」となったときに、料理人サイドではどういう盛り付けにしたらお客さんに喜んでもらえるのかとか、あるいは量はどれくらいがいいのかというのがわからなかったりします。クライアントさんのニーズに合わせて器を作れるんです。

――プロジェクトに合わせて最適な器を用意できるということですね。

秦泉寺あと、サーバーの場合だと負荷対策。インターネットにはクラウドと物理サーバーのふたつがあって、クラウドの場合は物理的なサーバーの上に仮想的なシステムを載せて分割することができます。たとえば、1000人分を処理できるサーバーがあったとして、いままでの物理サーバーだと、100人しか利用しなくても、そのサーバーをまるまる専有していました。それが、クラウド化して仮想化することで、100人分処理できるサーバーを10分割できる。ひとつのサーバーで、10本のゲームがまかなえるんですね。データ量が増えたりしても比較的簡単に大きくできますし、クラウドは物理的なものを仮想的に扱えるシステムなんですよ。

――リスクヘッジが図られるのですね。

秦泉寺そうですね。リスクはだいぶ下がると思います。ゲームの運営を開始したとして、どれくらいの人数がアクセスするのかは実際のところ読みづらいところがあります。10000人程度を想定していたけど、ほとんど集まらなかったということもあれば、逆にアクセスが集中してしまいサーバーダウンという話も聞きます。クラウドであれば、そのへんにも対応できますし、GPAであれば、事前に情報をいただければ、それに見合った器を用意するので、リスクも軽減されるわけです。

――GPAを使用することで、どれくらいのコストの削減が図られるのですか?

秦泉寺それはとても難しい質問ですね(笑)。お客さんの作りによってコスト感が違ってきます。半分になったり、ときに10分の1になったり……。逆に増える場合もあります。私たちはあくまでも“適正なものを用意する”だけなので。単純にコストを下げるだけではなくて、適正なサービスを提供しようと思ったら、増やさないといけないという選択肢もあるかと思います。

――ちなみに、クラウドも言ってみれば物理サーバーであるわけですよね?

秦泉寺そうですね。Azureに関して言えば、データセンターを置いて、世界中にある物理的なサーバーをつなげてクラウド化しています。ちなみに、Azureに関しては、どのへんの地域にプログラムを載せるかというのは指定できます。日本でゲームを遊ぶのにアメリカにサーバーを置いたら距離が遠いので、通信に時間がかかってしまうので……。ただ、これは最近実装されたのですが、Azureではどこにプログラムを置いても、全世界で同じようにアクセスできるような仕組みを用意しています。あと、海外からの不正アクセスを防げる仕組みもありますね。

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Game Platform for Azureが使用された『京刀のナユタ』。ポノスによる京都を舞台にしたタワーディフェンスゲーム。

クラウドを巡る業界の競争は今後もますます熾烈になる

――ところで、クラウドと言うと先日マイクロソフトとソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が戦略的提携を発表しましたね。

秦泉寺SIEの提供するゲームやストリーミングサービスを、Azureのソリューションで提供することを検討するようですね。おそらくAIやディープラーニングもAzureに載せて展開することになるのだと思います。

――さらには、クラウドを使ったStadiaやProject xCloudも明らかにされています。

秦泉寺そうですね。いずれもゲームがまるまるクラウドに載っているというイメージです。さきほどの料理の例をさらに続けると、StadiaやProject xCloudは、言ってみれば料理を提供するお店のようなものかもしれないですね。Stadiaに関しては、Googleがひとり1台ゲーム機をクラウド上に無料で置くようなものです。1億人のユーザーがいたら、1億台分のゲーム機を仮想的に用意するようなものです。もちろん、Project xCloudはAzureのサーバーを利用していますが、StadiaはGoogleのサーバーに載っています。

――どうやら、クラウドサーバーを巡る競争も熾烈ということですね?

秦泉寺その通りです。いまクラウドのサービスに関して言えば、正直なところゲーム業界的にはAWSやニフティが強いというのが現状です。GPAを発表して以降、大手からのお話もいただいていますので、今後さらに認知度を高めていきたいですね。