いま活況を呈する日本のインディーゲームシーンにあって、Googleはその動向が見逃せないプラットフォーマーのひとつ。昨年、インディーゲームの発掘を目的とした“Google Play Indie Games Festival 2018”を開催したGoogleは、今年も同イベントを継続して実施することを発表。2019年6月29日には、東京・神田明神ホールにて、応募作の中からセレクトされた20作からトップ3を選ぶ“ Google Play Indie Games Festival 2019 ファイナルイベント”が予定されている。6月1日~2日には、“Google Play Indie Games Festival 2019 ファイナルイベント”に選ばれた20タイトルを引っさげて、インディーゲームの一大祭典であるBitSummit 7 Spiritsに出展を果たしていたりもする(BitSummitは初参加!)。

 ここでは、“Google Play Indie Games Festival 2019”やBitSummitへの出展を入り口としつつ、Googleのインディーゲーム戦略に迫ってみたいと思う。取材に対応してくれたのは、Google Playビジネスディベロップメントマネージャの五十嵐郁氏。

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五十嵐 郁氏

Google Playビジネスディベロップメントマネージャ

多様であればあるほど豊かな領域がインディーゲーム

――まずはBitSummit 7 Spiritsのことから聞かせてください。BitSummitに参加されたのは初めてだったかと思うのですが、参加された意図は?

五十嵐私たちは、“良質なインディーゲームを多くの人に届ける手助けがしたい”との思いのもとに、昨年“Google Play Indie Games Festival 2018”を開催したのですが、そのときに、インディーゲームにはかなり分厚いコミュニティーがあるのが特徴だという気付きがあったんです。実際のところ、昨年イベントを通していろいろなインディーゲームデベロッパーさんとつながることができたのですが、そこでお話をうかがってみて、BitSummitの影響力の大きさに改めて気付かされたんですね。BitSummitは歴史もあり、人とのつながりもあって情報交換の場でもある。ユーザーさんもたくさん集まる。そこで、BitSummitのお客さんに向けてもメッセージを発していくというのは、大事なことだと判断しました。

――実際に参加されてみての手応えはいかがでしたか?

五十嵐率直によかったなと思いました。ステージでお話をさせていただく機会もいただきましたし、インディーゲームのデベロッパーさんともいろいろとお話ができました。「今年はこういうゲームが来ている」といった、内側の情報交換もたくさんさせていただきましたね。「ユーザーさんやクリエイターさんなどと、こういったつながりも大事なのかな」と改めて実感しました。

――開発者の方も積極的に働きかけてきたのですか?

五十嵐すごくありました。「僕のゲームを見てほしい!」といった要望もたくさんありました。

――それはたくましい(笑)。まあ、直接コンタクトを取れるいい機会ではありますね。

五十嵐あとは、“Indie Games Festival”に対するお問い合わせも多かったですよ。

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BitSummit 7 SpiritsでのGoogle Playブース。

――BitSummitの会場でインディーゲームをご覧になっての、率直な感想をお聞かせください。

五十嵐ふたつあります。ひとつは、ゲームとして、ユニークでおもしろいものがたくさんあるなと感じました。メインストリームとはちょっと違った毛色がというか、特色を持っているゲームが多くて、そこはやはりインディーゲームならではだと感じましたね。もうひとつは、まだまだAndroid/Google Playとしてできることがあるな……ということでした。

――ほう! と言いますと?

五十嵐会場でお話しても、ほかのプラットフォームでゲームを作られている方は多くて、Androidでゲームを作ろうと思ってくださるデベロッパーは、まだまだ全員ではないようなので、開発意欲を掻き立てる余地はあるなと感じました。

――なるほど。そのために必要なこともお感じになった?

五十嵐そうですね。それは“Indie Games Festival”開催の経緯とも重なるのですが……。

――ああ、今年も“Indie Games Festival”を開催されるとのことですね。まずは、そちらの話を先にうかがいましょうか。“Google Play Indie Games Festival 2019”は、どのような流れで実現にいたったのですか?

五十嵐前回やってみて、本当によかったなと思っていたんです。

――昨年イベントが終わった後で、「次回もやりたい」とおっしゃっていましたね。

五十嵐イベントが終わったあとも、その気持は増すばかりでした。ポジティブな影響力が作り出せたという手応えが日増しに強まったんですね。たとえば、実際に賞を取られた方がゲームを開発されて世に出されたということもありますし、バーチャルV Tuberのキズナアイさんが、トップ3のタイトルの実況動画を実際に作られて、大きな反響を呼んだり……。参加してくださった方が楽しく盛り上がっていらっしゃる様子をSNSで拝見させていただいて、うれしくもなりました。さらには、昨年ノミネートされた20タイトルの中で、英語対応しているものは海外でもフィーチャーさせていただいたのですが、海外でのインストール数の伸びにも貢献できた。であれば、「これはやるしかない!」と、2回目の開催を決意しました。

――会社も快く?

五十嵐それはもちろん(笑)。あと、“Google Play Indie Games Festival 2018 ファイナルイベント”にノミネートされたアプリに対して、私たちもコンサルテーションさせていただき、実際にパフォーマンスを改善されたり、ビジネスのパフォーマンス向上もディスカッションできたのも、よかったと思っています。

――ああ、技術やビジネス面での交流も図られたのですね。それはクリエイターさんにとっては大きいかもしれないですね。たとえば、どのようなところで?

五十嵐アプリはおもしろいということが大前提なのですが、実際のところはマネタイズの必要もあります。そこに関しては弊社の担当チームがアドバイスさせていただきました。具体的には、どのようにプロモーションしていくことで、もっと効率的にユーザーを獲得できるかというプロモーションの部分ですね。あとは、インディーゲームで広告収入を得ているケースも多いのですが、そこの改善や最適化のアドバイスです。あるいは、これから海外でゲームを展開しようとする際の改善エリアなどアプリ全体のパフォーマンスの見直しですとか、そういったところになります。

――アプリの知名度を上げたり、技術向上などに寄与したという点で、“Google Play Indie Games Festival 2018”は、一定の成果を上げられたという手応えがあったということですね?

五十嵐そうですね。

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“Google Play Indie Games Festival 2018 ファイナルイベント”の模様から。候補者のプレゼンも審査基準になるのが、同イベントらしい趣向。

――2回目の実施にあたってはどのような方針だったのですか?

五十嵐前回取り組んでみて、いろいろと学びがありました。そのうちのひとつが、多くのトップ20の出演者の方から、「ライブストリーミングにして、来ていない人にも見られるようにしたらどうか?」というご提案をいただいたことですね。そこで、今年は新しい施策としてライブストリーミングを実施することにしました。そのような感じで、デベロッパーさんの声を聞いて、それにもとづいて改善施策を取り入れることが大事かなと思っています。

――フィードバックは積極的に受け入れるという姿勢ですね。

五十嵐あとは、一般ユーザーからのオンライン投票もそのひとつです。会場に直接足を運べないユーザーさんも、こういったイベントにもっと参加できる機会があるといいとのことで、今回オンラインで投票してもらうことにしたんです。さらに、今年のひとつの特徴としては、さまざまなパートナー様からの賞が拡充されたということがあります。エイベックス賞とゴジラ賞が、今回新たに加わっています。

――ゴジラ賞ってなんです?

五十嵐東宝様にご協力いただきまして、エントリーされた20作の中から選んでいただき、ゴジラIPを使ったゲームを作ることができる賞です。合わせて開発支援金を最大1000万円までご提供されます。

――それはすごいなあ……。ゴジラIPなんて、成功が約束されたようなものですね。とはいえ、ゴジラに即したタイトルを選ばないといけないですね。

五十嵐ミスマッチのよさというのもあるかもしれません。

――斬新ですね(笑)。エイベックス賞は?

五十嵐エイベックス様もインディーゲームを支援するアクセラレートプロブラムを持っていらっしゃって、その活動の一環として、今回はオフィスの入居権をご提供いただくことになっています。

――“Google Play Indie Games Festival 2019 ファイナルイベント”の開催にあたって、今回も20タイトルセレクトされたとのことですが、応募は多かったのですか?

五十嵐はい。そこからのセレクトは、前回同様たいへんでした。

――審査の基準は?

五十嵐前回と同様で、“革新性”、“楽しさ”、“デザイン”、“技術力”の4つの審査ポイントにもとついています。ひとりで決めると偏ってしまうので、なるべく多くの人数で投票していまして、喧々諤々とした議論を経て決定しています。

――前回と今回の応募作品を比べてみての傾向の違いなどの気付きはありましたか?

五十嵐うーん、難しい質問ですね……。同じゲームはないので、一概に(レベルが)上がっているとか、下がっているとは言えないです。種類が幅広いので、単純には比較できないです。これは本質的な問題かもしれないのですが、個人的には、インディーゲームはほかのゲームと異なるほどユニークで、その分だけ価値がある世界だと思っているんですね。人の真似ではないという。多様であればあるほど豊かな領域がインディーゲームの世界だと考えていて、同じようなゲームを作って競うというよりは、横に種類が広がっていけばいくほど、そこがおもしろい世界になるというのが、インディーゲームという場所だと認識しているので、本質的には比べるのがすごく難しいんですね(苦笑)。そのため、セレクトはつねに苦労しています。

――よくわかります。

五十嵐さらに言えば、前回もそうだったのですが、応募された作品のジャンルがほどよい感じでしたね。

――特定のジャンルに偏って、セレクトに苦労するということがなかったということですね。それを見ても、日本のインディーゲーム業界が健全に成長しているということが言えるのかしら。

五十嵐そもそもインディーゲームのクリエイターというものが、人とどう違うものを作ろうかということを日夜考えている人たちだと思いますので、おのずとかぶりづらいというのが本質にあるとは思います。実際のところBitSummitの会場を歩いても、みんな違いますよね。まあ、「ドット絵のゲームが多いじゃないか」という意見はあるかもしれないですが(笑)、あれはレトロゲームに対するオマージュの意味合いもあるかと思います。本質的には、“人と違うものを世に問いたい”という思いがあるので、結果としてかぶりづらいのではないでしょうか。

――インタビューの冒頭で、Android向けゲームを作る人がまだまだなので、訴求したいとおっしゃっていましたが、“Indie Games Festival”は、まさにその点に直結するものですか?

五十嵐そうですね。ストレートにそのままつながる話です。ゲームクリエイターさんにとってAndroid/Google Playの世界が魅力的になればなるほど、おもしろいゲームがGoogle Playストア上でも楽しめるようになるはずなので、我々としてはそういう価値をデベロッパーさんにお見せしていくという努力が、もっと必要だと思っています。

――とはいえ実際のところ、インディーゲームデベロッパーが何かゲームを作ろうと思ったら、まず最初の選択に入るくらいAndroid向けアプリは敷居が低いように思うのですが、まだまだ足りないですか?

五十嵐作る敷居の話と、そこでお客さんを獲得していく敷居や、ビジネスとして成り立たせる敷居は、いくつかレベルがあると思っています。ゲームを作っていただくためには、全部必要だと思うんです。

――たとえばですが、Androidで出しても埋もれてしまうから……ということで、二の足を踏んでしまうかもしれない人に対しても、ちゃんとした道筋を用意したいということですか?

五十嵐そういう声も聞きますので、今後取り組んでいきたいテーマのひとつですね。

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いいゲームを作っても自然に広がるわけではない

――少し大きなお話をさせていただいたいのですが、ここ1~2年インディーゲーム業界を俯瞰してきての変化としては、どのようなことを感じられていますか?

五十嵐いくつかあります。まずは北米ヨーロッパ、アジア圏のカジュアルゲーム・インディーゲームが、日本でも受け入れられているケースが増えてきていると思っています。それは、どのタイトルだと具体的をあえて挙げなくても、ランキングをざっと見ていただくだけでおわかりいただけるかと思うのですが、昨年なかった海外のカジュアルタイトルが増えています。国境をまたぐスピードは、どんどん早くなってきているのかなと。とくに、アジア圏のタイトルが日本で受け入れられているという流れがあると実感しています。

――それは、何か理由があったりするのですか? それとも自然な流れ?

五十嵐これという理由よりは、ひとつの大きな流れであるように思いますね。クリエイターさんも、どうすればより国際的に受け入れられるかというノウハウが、増えてきたということもあるかもしれません。

――ある意味、アジア圏のクリエイターが、日本人の好みに合ったタイトルがわかるようになってきたということですね?

五十嵐そうですね。あと、ここ1、2年の流れで言うと、カジュアルゲームのクオリティーは確実に上がってきています。それはインディーゲームに限らないのですが、そういうジャンルというのは、比較的インディーゲームクリエイターさんが多い領域なので、これもインディーゲームの盛り上がりを示すものであるという印象はありますね。

――そういった状況を踏まえつつ、五十嵐さん的にはいまのモバイルのインディーゲームシーンをどのように捉えていますか? 順風満帆?

五十嵐まだまだ私たちができることはたくさんあります。いいゲームを作っても、自然に広がるわけではないんです。しっかりとビジネスとして成功していくためのサステイナブル(持続可能な)というのは、まだまだよくしていける領域なのではないかと思うので、そこはGoogleとしてもデベロッパーさんの手助けをしていきたいです。

――いまのインディーゲーム業界は、ビジネスとして成立させることはひとつの大きなテーマになっているかとは思いますが、成功させるためのヒントって何になると思います?

五十嵐そうですね……。そのご質問に対してあまりかっこいい答えにはならないのですが、地道な改善がいちばんかなと思っています。

――学問に王道なしですかね。

五十嵐「これを入れれば」とか、「これをすれば」という一発的なネタよりは、成功しているゲームって、本当に細かく考えていると思うんです。たとえばですが、昨年あるインディーゲームの方ともお話したのですが、広告収入を上げるためにしても、どのタイミングで広告を入れるかを、ゲームデザインの企画の段階から考えているという話をされていて、広告収入ひとつとっても、それくらい巧みになってきているという現状があります。小さな改善の積み重ねがすごく大事なんだなと思っています。

――地道な努力に勝るものはなしということですね。ところで、冒頭で、「インディーゲームはコミュニティーが特徴」とおっしゃっていたのがとても気になったのですが、コミュニティーのもたらすものって何でしょうか。

五十嵐うーん。難しいですね(笑)。ちょっと言葉にしづらいのですが、BitSummitの会場を見てもおわかりいただけると思うのですが、大手や個人であることを問わず、とにかく幅広いタイプのクリエイターが同じステージでゲームを展示していて切磋琢磨しているというのは、ひとつの大きなエコシステムであるような気がします。全部つながっている。そこがひとつおもしろいところかなという気がしています。単独で閉じたムラとしての独立国家ではなくて、大きなゲームの還流の輪の中にあるのがすごくおもしろい世界だと思います。

――ちょっとわかりづらいかもしれないですが(笑)、いずれにせよそういうコミュニティーに対して、Googleだったらさらに素敵な一石を投じられると?

五十嵐インディーゲーム デベロッパーの持つノウハウや知見や経験は、一流のものがありながら、何か及ばないところがあるとしたら、それはサポートしていきたいですね。そのひとつの場が“Indie Games Festival”です。

――では最後に、“Google Play Indie Games Festival 2019 ファイナルイベント”の見どころをお願いします。

五十嵐インディーゲームの魅力のひとつは、新しい取り組みだったり、尖った考えかたでゲームが作られていることだと思います。ゲームが好きな方であれば、“Google Play Indie Games Festival 2019 ファイナルイベント”にいらっしゃってみて損はないと思います。そんなにコアなゲーマーではない方でも、実際に触れてみるとカジュアルに楽しめたりもするので、ふらりと寄ってみていただけたら嬉しいです。