E3 2019の会期に合わせて実施した、Xbox ヘッド フィル・スペンサー氏への単独インタビューをお届けする。インタビューを行ったのは、Xbox E3 2019 ブリーフィングが行われた2019年6月9日(現地時間)の翌日のこと。前日の盛り上がり冷めやらぬなか、フィル・スペンサー氏がいきなり口にしたのが、ブリーフィングでいちばん話題になったキアヌ・リーブスのことで……。

フィル・スペンサー氏

言わずと知れた、マイクロソフト Xbox ヘッド

キアヌのコードネームは“ミスター・フュージョン”

フィルキアヌどうでした?

――キアヌ・リーブスがゲストで登壇してびっくりしました! 彼ゲーム好きだから、快くXbox E3 2019 ブリーフィングへの出演を承諾してくれたのかしら……。

フィルキアヌをE3の私たちのステージに登場させることは、CD Projekt REDが計画したことです。彼らから、「キアヌをだしてほしい」と依頼があったんです。スクープを教えましょうか?(笑) キアヌのコードネームは“ミスター・フュージョン”でした。「ミスター・フュージョンをショーに出してもらえるか?」という言いかたをしていました。彼の出演がリークされないようにしたかったからです。

――周囲からサインを頼まれたりとか?

フィルはい(笑)。何人かから頼まれましたね。さすがにサインはもらいませんでしたが、隣の部屋にいたので会いに行きましたよ。彼がステージに上がる前に話をして、「オーディエンスは大歓声で迎えるだろう」と説明しました。実際のところ、彼は歓声の大きさと友好的な雰囲気に驚いていたようです。彼が登壇したとき、ゲーマーからの愛が溢れていることが見て取れたと思います。

――たしかに僕もとても興奮しました。スタッフが浮ついていて微笑ましかったとか?

フィルそうですね。誰とは言いませんが……(笑)。キアヌの控え室がここにあったのですが、廊下の列の辺りにふだんより多くの人がたむろしていました。私が彼のところへ話に行ったときには、チームの中にはほかの人をいっしょに連れて行かなかったことに不満を持った人もいたようです。後から「申し訳なかった」と謝りましたよ。

――あら(笑)。Xbox E3 2019 ブリーフィングでは、キアヌに負けず劣らずフィルさんもスタンディングオベーションで迎えられていましたよ?

フィル皆さんはつねに優しい。とても嬉しかったです。ファンの皆さんの愛情に感謝しています。じつは初めてのことなのですが、昨日は(インタビューはXbox E3 2019 ブリーフィング翌日)娘ふたりが会場に来ていました。ふたりとも大学生なのですが、ここまで来てくれたんです。自分たちの父親が舞台に立って声援を受けているのを見るのは不思議だったようです。何しろ父親ですからね。私にとっては、ユーザーの皆さんの観衆の声援も、娘のシッドとリビーが見ていてくれていることも、すばらしかったです。とくに、私の大好きな作品のひとつである『ファンタシースターオンライン2』の話をしているときに、ふたりがすぐ近くに座っていてくれたのが嬉しかったです。「テレビに映るよ」とふたりには話しました(笑)。

――娘さんたちは、なぜ今回いらっしゃったのですか?

フィル単純にブリーフィングが見たかったようです。大学も休みに入ってタイミングがよかったようですね。ひとりはUCLAの大学院にいるので近いですし、もうひとりは中部の大学に通っていますが、ショウを見たいということで、昨日来ました。大学はもう休みに入っていますが、まだ勉強が残っているようで、今日戻りましたよ。

――ほっこりさせられる話しですね……。さて、Xbox E3 2019 ブリーフィングのことを聞かせてください。フィルさんの「ユーザーに新たなゲームを発見してほしい」との言葉に感銘を受けました。多くのユーザーにとって新しい発見があったかと思うのですが、これだけのタイトルを揃えられた理由を教えてください。

フィル私たちは決まった数を目標にして仕事を始めるわけではありません。E3のブリーフィングは、前年の12月からプランニングの段階に入ります。そして私たちファーストパーティーのタイトルとパートナーさんのタイトルを見て、E3のタイミングでどのような発表ができるのかを検討します。また、私たちがどんなストーリーを語り、皆さんを楽しませることができるのかを考えます。ブリーフィングの時間は限られていてすべてをお見せすることはできませんので、つねにリストを整理してタイトルを絞り込んでいきます。いまここに日本の記者さんがいるからではなくて、私たちがここ数年日本のパブリッシャーさんにフォーカスしていることはわかっていただけていると思います。これは私にとって、とても大事なことです。また韓国のゲーム会社であるSmileGateの『CrossFireX』のようなタイトルをステージで紹介できたことも同様です。つまり、ゲームがどこでどんなクリエイターによって作られ、私たちがどんなストーリーを語りたいかを熟考した上で多種多様なゲームを提供するために仕事を進めているんです。

韓国Smilegate Entertainmentが開発した、世界中の6億5000万人のユーザーを持つPC向けの無料FPS『Crossfire』 。同作がさらに進化した『CrossfireX』が、コンソールではXbox One先行で2020年にリリース予定。

――Xbox E3 2019 ブリーフィングで、とくにもっとユーザーに発見してほしいタイトルは何ですか?

フィルステージで紹介した多くのタイトルがすばらしい内容になると思います。とはいえ、『ファンタシースターオンライン2』はステージに登場させるために時間を要したので、この場では同作を挙げることにします。頻繁に日本のセガゲームスさんを訪問し、いっしょにゲームをプレイして、お話を聞きました。そもそも『ファンタシースターオンライン』は、2003年に初代Xboxでリリースされたタイトルでした。私から見ても今日のオンラインゲームは、このゲームから学んだところが多いと思います。すばらしいゲームであり、日本では何年も継続して楽しまれていますが、日本以外ではあまり知名度が高くありません。とくに欧米のゲーマーには、ぜひこのゲームをプレイして欲しいと思っています。今日皆さんがプレイしているゲームのルーツがどこにあるのかを理解することができます。無事にステージで紹介することができて、セガさんのサポートに感謝しています。

――プレイステーション陣営がE3に出展しなかったことで、意識するところはありましたか?「意地でも昨年よりタイトル数を増やしてやると思った」とか。

フィルそれはありません(笑)。ソニー・インタラクティブエンタテインメントがE3に出展しないことをベースに計画したわけではありません。ショーン(ショーン・レイデン氏。ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ会長)と私は、ともにE3を運営するESAの役員であり、ソニーが出展しないことは早くから聞いていました。ソニーが発表する前からわかっていたことです。私はソニーに尊敬の念を抱いていますし、彼らは彼らの事業を営んでいるので、私たちも私たちのユーザーさんやパートナーさんにフォーカスして事業を進めています。Xbox E3 2019 ブリーフィングでは時間がなくなってしまったので今年は60タイトルになりましたが、そうでなければ65~6タイトルになっていたでしょう。
 今回ファーストパーティータイトルを14本お見せしましたが、紹介しなかったスタジオもありました。多くのゲームを紹介しましたが、ファーストパーティータイトルを全部お見せする必要がないところまで大きくなったということです。ここから近いところにあるサンタモニカのThe InitiativeやTurn 10 Studios、Playground Gamesの第二スタジオは、今回何もゲームを見せていません。また、『Age of Empires IV』はすでに発表していますが、まだ詳細はお見せしていません。Xbox E3 2019 ブリーフィングはとても充実した内容でしたが、まだまだこれからワクワクしていただけるものがあるというのはありがたいことです。

――ユーザーにタイトルを発見してもらうために、Xbox Game Passは大切な戦略だと思います。ところが日本ではXbox Game Passのサービスはまだ始まっていません。日本でのサービスインはどうなりますか?

フィルXbox Game Passが大事なことなのはよくわかっています。日本で展開するにあたって考慮しないといけないのはレーティングです。Z指定のタイトルをサブスクリプションに入れることはできません。Z指定のタイトルがサブスクリプションに入らないのであれば、充分な数のゲームを提供することができるのかどうかを確認する必要があります。PC向け Xbox Game Passの導入は、その地域への属性をさらに配慮する必要があります。申し訳ありませんが、Xbox Game Passの日本でのサービスインの日にちは、まだ未定です。

ソニーと協力することは、外部の人が思うほど奇妙なことではない

――Project Scarlettに関連して、フィルさんの「コンソールはゲーマーのために最適化されるべき」との発言に共感を感じます。次世代機がゲーマーのためにもっとも必要なポイントは何ですか? ディスクメディアは、ゲーマーのために必要となりますか?

フィルProject Scarlettにはディスクメディアを搭載します。私たちにとってProject Scarlettでの注力ポイントは、プレイできるゲームのビジュアルフィデリティ(迫真性)を高め、すばらしい表現が見られるようにすることですが、同じように重要なのは、プレイしてどう感じられるかです。これまでのコンソールゲームは、見た目がすばらしくても、フレームレートやレイテンシーの問題によって、プレイしたときの感覚が画面上で見えるものとマッチしないという課題がありました。Project Scarlettは、ビジュアルがベストであるだけでなく、プレイした感覚もベストであることにフォーカスしています。GPUパワーに加えて、CPUやストレージ、メモリ帯域にフォーカスするということです。

――昨年のブリーフィングを体験して、次世代機は今年(2019年)に発売されるかと思っていたのですが、2020年リリースはプラン通りですか? それとも、じつは発売は延びました?

フィルもともと2020年リリースを目指していました。現在、すばらしい4KコンソールであるXbox One Xが市場に出ています。ここに新しいコンソールを早急に導入する必要はないと判断しました。私たちがProject Scarlettに求めたパワーをきちんと提供できることを確認したかったのです。チップ内のシリコンはパートナーであるAMDと共同開発しましたが、ローンチのターゲットはつねに2020年でした。

――Project Scarlettの名前の由来を教えてください。

フィルこれについてはしばらく秘密にさせてください。ハードウエアチームの、私がよく知っているあるメンバーが命名しました。Project Scarlettの由来を説明しようと思うと、全体を説明する必要があるので、いずれお話したいと思います。

――SIEと提携して驚きましたが、どのような恩恵があるのですか?

フィルマイクロソフトとソニーは覚書に署名しました。その内容は多岐に渡ります。そのひとつが、Azureを使ったクラウドゲーミングです。両社にとっての注力ポイントは、会社としての両社の能力を活用した継続的なゲーム業界の成長です。このような機会を得たことをとても嬉しく思っていますが、まだ両社の関係は初期の段階です。ソニーとは20年間いろいろな形で協力してきました。ソニーはWindowsベースのVaioを出荷してきましたし、旧ソニーオンラインエンタテインメント(現デイブレイクゲーム)が作った『エバークエスト』などは、Visual Studioを使って、DirectXで開発されたWindowsのゲームです。プラットフォームフォルダーとしてソニーと協力することは、社内の人間にとっては外部の方が思うほど奇妙なことではないんです。『Minecraft』は、ここ数年プレイステーションフォーマットでリリースされて、大成功を収めていますし。

――任天堂が入っていませんね。

フィルE3で任天堂と話をすることはありませんが、とてもいい関係にあります。任天堂からも『Minecraft』が出ています。Nintendo SwitchでXbox Liveが使えるようになっていますし、今後もさらに協力関係が進んでいくと思いますし、楽しみです。任天堂のトップとは、とてもよい関係を築いています。ゲーミングを成長させるための考えかたは、私たちと似ていると思いますが、いま具体的にお話しできることはありません。ゲーム業界は、ウォリアーズ(※)のファンが思っているほど仲が悪い訳ではありませんよ(笑)。各社のカンファレンスが終わると、いつもお互いにメールを送ります。ジム(ジム・ライアン氏。ソニー・インタラクティブエンタテインメント社長兼CEO)からは「すばらしいショーだった」というメールをもらいました。ダグ(ダグ・ハウザー氏。Nintendo of America社長)と任天堂チームのデジタルカンファレンスを明日見せてもらいます。業界が成長するにつれてプレイヤーの数が増え、競争しながらもお互いにどう助け合っていけるかについて、熟慮するようになりました。ゲーム業界の成長を犠牲にして、それぞれが成長したいとは思いません。これはとても健全な見かただと思います。

※ゴールデンステート・ウォリアーズのこと。いうまでもなくサンフランシスコに本拠地を構えるNBAプロバスケットボールチーム。E3の会期中はちょうどウォリアーズとトロント・ラプターズのファイナルが行われていたため、この発言になったのかと思われます。

――今年の3月にGoogleがStadiaを発表しました。同プラットフォームに関する率直な感想を聞かせてください。ストリーミング配信という点で、“Project xCloud”と親しいものを感じますが、強力なライバルだと認識していますか?

フィル率直に言いますが、Stadiaを体験はしていません。Googleはリソースが豊富な大きな会社です。Stadiaを率いるフィル・ハリソンはかつてXboxで仕事をしていたことがあり、私もよく知っています。Googleがゲーム業界に参入してくることは、よいことだと思っています。ある意味でゲーム業界の重要性を示唆しているからです。Amazon、Twitch、Stadiaを発表したGoogle、Facebook、Netflix、そしてマイクロソフトと、世界の大企業がゲームビジネスに参入し、E3で顔を揃えています。業界にとってはとても興味深くエキサイティングな時代だと思います。もちろん競争相手になる会社もあるでしょう。しかし、ともにゲームビジネスを成長させていくとすれば、協力する機会も得られるはずです。

 すでに何回も書いているような気もするのだが、とにかく取材の度に実感するのがフィル・スペンサー氏のインタビューに対する真摯な受け答え。“とにかく自分の言葉で語る”という姿勢がうかがえて、話している言葉に引き込まれる。ここ数年、XboxのE3のブリーフィングには、Xbox FanFestのユーザーが招かれていて(いわゆるロイヤルユーザー)、今年も彼らはスタンディングオベーションをもって、フィル・スペンサー氏を迎え入れたのだが、フィル・スペンサー氏のゲームファンに対する真摯な姿勢が、絶大なる支持に結びついているのだろう。

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントや任天堂とライバル関係を超えて、ともにゲーム業界を成長させていきたいというフィル・スペンサー氏。次世代機の展開も含めて、今後どのような未来が待ち受けているのか……楽しみにしたい。