『ファイナルファンタジーXIV』(以下『FFXIV』)のメディアツアー。それは、拡張パッケージの発売前に世界中のメディアを招待して行われるプレビューイベントのことで、今回はイギリス・ロンドンで2019年5月15日〜17日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコで2019年5月21日〜23日(現地時間)の日程で開催された。ファミ通の取材班は、ロンドンでのイベントに参加。『漆黒のヴィランズ』試遊の模様は別記事にまとめているので、そちらをご覧いただくとして、本記事では吉田直樹プロデューサー兼ディレクターへのインタビューをお届けする。

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『FFXIV』拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』でのジョブ調整のコンセプトを訊く! 吉田直樹P/Dインタビュー_10

 なお、このインタビューは『漆黒のヴィランズ』のリリースに合わせて行われるジョブ調整の内容を前提としたもののため、本インタビューを読む前に、メディアツアーのリポート、『第51回FFXIVプロデューサーレターLIVE』の放送アーカイブ、ジョブアクション動画等を先にご覧になることをお薦めしたい。また、内容についても最終調整前に実施したものであるため、リリース時には大きく変更される場合がある。

※本記事では便宜上、『新生エオルゼア』を2.0あるいは2.xシリーズ、『蒼天のイシュガルド』を3.0あるいは3.xシリーズ、『紅蓮のリベレーター』を4.0あるいは4.xシリーズ、『漆黒のヴィランズ』を5.0と表記する場合があります。

吉田直樹氏(よしだなおき)

スクウェア・エニックス 取締役 第三開発事業本部長。『ドラゴンクエスト』初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエストモンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。

プレイヤーが望むジョブの形に近づける

ーー『漆黒のヴィランズ』におけるジョブ調整のコンセプトについておうかがいします。ひとつ前の拡張パッケージである『紅蓮のリベレーター』では、“管理するものを減らす”というのがキーワードだったように記憶していますが、今回はどういった方針を立てたのでしょうか?

吉田まず、アクションの数もそうですし、管理するホットバーの数もできるだけ減らそうという話をしました。

ーー数そのものを減らしたいということですか。

吉田はい。ロールアクションが多すぎたというのもあるのですが、今後も運営を続けていくうえで、このタイミングでもう一回整理する必要があったんです。とくに新規の方にとっては、「こうやりたい」を実現する動き(手順)というものに対して、おもしろい・おもしろくない以前に、理解が及ばない状態でした。おもしろいかどうかというのは、システムを理解した先にあるものだと思っているので、とにかく一回、全体的にちゃんとわかりやすくしようと。

ーー一部では、実戦的なスキルローテーションを指南する“中級者の館”が欲しい、みたいな声もありましたしね。

吉田長い積み上げで複雑怪奇なスキルローテーションになってしまったジョブに関しては、改めてローテーションをシンプルにして、やりたいことを素直にやれるようにしました。これまでは、どうしてもシナジー(パーティメンバーどうしの相乗効果)が強かったぶんだけ、“このタイミングでこれをやらないといけない”といったように、シナジーに縛られることもあって。それよりは、自分のジョブを楽しめるようにしていきましょうというのが、全体にあったコンセプトですね。長期間運営してきて、できるだけプレイヤーが望むというか、こうであってほしいなと思うジョブのイメージに近づけましょうというのが、わりと意識されているところです。

ーープレイヤーにとっての理想に近づけると。

吉田そのいちばんの好例がモンクだと思っています。『紅蓮のリベレーター』のタイミングで、モンクが主役ジョブのひとつだという話をしたこともあって、“疾風迅雷IV”はまず間違いなく実装されるだろうと予想した方も多かったと思います。でも、あのときは、『蒼天のイシュガルド』からの3.xシリーズが、全体的に操作難度が高すぎたという反省があり、それをどうにかするというのが最優先事項でした。

ーー実際、『紅蓮のリベレーター』で疾風迅雷IVは実装されなかったですよね。

吉田当然、テスト実装はしたのですが……。それで、できる限りのスキルスピードを積み上げて試してみると、当時のモンクのメカニクスでは、速すぎてとても操作できたものではなかったんです。その時点でモンクはジョブとしての完成度という面では自信がありました。ならば、スピードを落としてでも一発の威力を上げるという方向へ行くことで、同じモンクを使っていても極端に格差が出ないようにするというコンセプトにしたわけです。でも、それがおもしろかったかと聞かれると、おそらくモンクが好きなプレイヤーにとってはおもしろくなかったという結果になってしまいました。

ーーそういった印象を、『紅蓮のリベレーター』からの4.xシリーズで感じたわけですね。

吉田スピードが速くて快適だったのに、いくら火力を上げるためとはいえ動きが遅くなるというのは、それだけでストレスになります。たとえプレイヤーのためを思ってやったことであっても、それがおもしろくないと思われてしまうのであれば、それは違うのではないかと。素直に、プレイヤーがやりたいと思っている方向に対して、各ジョブをアジャスト(調整)していくことにしました。ですので、全体コンセプトはあるものの、1ジョブずつ「このジョブはこれでいいよね?」と、すべてに見直しをかけて、かつロール間でバランスが取れるように落とし込んでいったのが今回の5.0になります。

ーーそのジョブを気持ちよく操作してもらうための要素を確認していったと。

吉田そうですね。モンクについてはまず疾風迅雷IVを実装することを決め、そうすると、仮に疾風迅雷の効果が途中で切れてしまった場合、最大火力までギアを戻すのに時間がかかってしまいます。それによって、トータルの与ダメージが恐ろしく下がってしまうので、疾風迅雷を維持する方法もちゃんと用意してあります。たとえば、ボスがステージ外に消えてしまう場面なら、飛び去る間際にローテーションを崩してでもありったけの技を叩き込み、ボスが戻ってきたら最大火力で再スタート……といった具合に、コンテンツに合わせて工夫ができるようにジョブのデザインを変更しています。ただ、プレイヤーが望んだ形になったがゆえに、疾風迅雷が早すぎるというのは今後顕在化するかもしれません。『漆黒のヴィランズ』開幕直後はまだよいのですが、計算した感じだと、パッチ5.4あたりは装備についているスキルスピードの値が大きいので、プレイヤーが望む・望まないに関わらず、速くなっていきます。そこは、がんばってくださいと(笑)。

ーーなるほど。モンク以外のジョブについても、プレイヤーが望む形とはどんなものか、議論をされたわけですね。

吉田はい。タンクに関しては、“HPが多く、防御力が高くて防御バフも使え、敵視が取れるDPS”という感じになっています。火力を突き詰めたいなら、コンテンツのタイムラインを理解して、防御バフを使うタイミングを見計らい、あとはひたすらローテーションを突き詰めていただければ。たぶん、それがいちばんやりたかったことだと思うので……。なかでもナイトに関しては、一見初心者が触れそうなジョブなのに、やることが非常に多かった。そこも、敵視上昇コンボをなくすことによって、コンボルートを絞りました。その代わり、プレイヤースキルの差が出せるような変更を加えています。今回、突進技もタンク横並びで持っていますし、そういったユーザビリティを上げつつ、あとはジョブデザインの差でそれぞれのタンクを遊んでほしいですね。

ーーこの調子で全ジョブについてお聞きすると時間がなくなってしまうのですが、ほかに象徴的なエピソードがあれば教えてください。

吉田あとは、よく話題に挙がっていた、黒魔道士の蘇生アクションをどうしようか、という議論もしましたね。

ーーほかの遠隔魔法DPSである召喚士はリザレクという蘇生魔法を持ち、赤魔道士はヴァルレイズが使えるからですね。これは、望む声もあれば、望まない声もあったと思いますが……。

吉田たとえばですが、黒魔道士の蘇生アクションは破壊の力による蘇生ということで、HPが1の状態で起き上がり、ウォーキングデッド効果(※)が発生するのはどうか、とか。でも、絶対にヒーラーの方から文句が出るよねと(苦笑)。あとは、蘇生時のペナルティを大きくするなど、いくつか案は出ましたが、いずれも「それだったら使わないよね」という感じにしかならなかったんです。本来、蘇生というのはヒーラーの役目ですし、この方向は違うよねという話になりました。また、シナジーについても同様で、黒魔道士にはそうした要素を足すのではなく、“詠唱”というリスクを、よりテクニックでカバーできるように純粋進化させようと。

※暗黒騎士の“リビングデッド”に関連した効果で、すべての攻撃に対してHPが1より減ることがない状態。ただし、10秒以内に自身の最大HPの100%に達する回復効果を受けないと、戦闘不能になってしまう。

ーー一部では望まれていたけれど、議論の末、盛り込まれなかったものもあると。

吉田そうですね。実際、黒魔道士が好きで遊んでおられる方は、何よりも火力を出したいと思っているでしょうし、蘇生アクションをもらったところで、積極的には使いたくないだろうと思うんです。迅速魔をそのために取っておくと、けっきょく移動が必要な局面で使いづらくなりますし。最終的には僕の判断に委ねられたのですが、やはり黒魔道士に蘇生アクションはいらないだろうと。

ーーほかの遠隔魔法DPSとの差別化にもなりますしね。

吉田そのひとつである赤魔道士については、僕らもだいぶ慣れてから開発したということもあり、もともと完成度が高いと思っています。赤魔道士は操作難度が極端に高くないというのも人気の秘訣であると思っていて、ヴァルフレア/ヴァルホーリーから続くコンボの最上段を追加するなど、正統進化させた形です。あと、デプラスマンの飛び退きでステージから転落するのが怖いという方のために、デプラスマンとリキャストタイマーを共有した、“飛び退かない版”も入れてあります。ただし、こちらは若干火力が低いので、転落のリスクを背負ってでも飛び退くか、安全を取るか、選んでいただければ。

ーーかなりプレイヤーの声を拾っている印象ですね。

吉田これまでは、火力を維持するために決まったローテーションをひたすらやらないといけなかった。たとえば、いまは突進するタイミングではないのに、突進技にダメージがついているから、しかたなく突進アクションを使う。そうしたところを、もっと柔軟にできればと思っています。今回導入するチャージアクション(※)もその一環ですが、リキャストが回ったらすぐ使う必要はなくて、1スタックチャージを残した状態で、つぎのフェーズに移行したところで一気に2回使う、とかでもいいんです。

※一部のアクションに限られるが、リキャストが回ると使用回数がチャージされ、任意のタイミングで連続使用が可能となるアクションのこと。

ーー突進アクションについては、肝心な使いたいタイミングでリキャスト待ちというのも、よくあった気がします。

吉田ボスから遠い場所に増援が現れたとして、“行き”と“帰り”でチャージを2個にしておくというのも手ですね。リキャストごとには使わず、あえてチャージして溜めておくことで結果的に移動のロスが減り、トータルで見た火力はむしろ上がると。そうした工夫ができるように、というのが全体方針でもあります。チャージアクションは、コンテンツスタート時や、全滅してリスタートする際には、チャージされた状態でリスタートしますので、溜まるまで攻略を待たなくてもいいようになっています。

『FFXIV』拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』でのジョブ調整のコンセプトを訊く! 吉田直樹P/Dインタビュー_01

よりわかりやすく、ストレスフリーに

ーー全ジョブを触って感じたのは、使いやすい範囲技がどのジョブにも公平に与えられているということでした。

吉田はい。『FFXIV』はレイドのインパクトが大きかったせいか、“レイドゲー”というイメージを持っている方も多いと思います。しかし、この6年間の運営でプレイパターンというものがものすごく広がっていて。ノーマル難度のレイドどころか、極蛮神にも行かない、でもアラガントームストーン(トークン)は欲しいから、せいぜいID(インスタンスダンジョン)までだよ、という人も多くなりました。そうしたプレイヤーにはできるだけ好きなジョブで遊んでもらいたいのですが、範囲技があまり充実していなかったジョブもあり、範囲火力の面で多少難があったんです。そもそも、そのことすら知らないというプレイヤーも多くて……。そうした部分も解消したかったので、タンクやDPSの範囲技はどれも基本的にコンボになるように2段で持たせてあります。起点の範囲技を使うと、もうひとつの範囲技のアイコンが光って、「範囲コンボがあるなら使ってみよう」となってくれればいいなと。

ーー『漆黒のヴィランズ』のタイミングでTPの概念もなくなりますが、とくに範囲技については高いTPコストが設定されていることも多かったので、丸ごとなくなったことにちょっと驚いています。

吉田ウェポンスキルは範囲技も含めて撃ち放題ですね。僕らが無理にコスト制限をかけて、やりたいと思っていることを封鎖するくらいなら、どんどん楽しんでもらいましょうという方向に舵を切ることにしました。本当は『紅蓮のリベレーター』の時点でTPはなくしたかったのですが、開発コスト的に難しかったんです。スプリントでTPが消費しないようにした段階で、TPを削除するということは決めていました。

ーー今回のジョブ調整は、機工士や召喚士、吟遊詩人のようにメカニクス自体に変更を加えたものと、4.xシリーズの状態から正統進化させたものに二分されますが、その判断基準とは何でしょう?

吉田ひと言で言えば、ストレスの大きさです。機工士では、ヒートゲージは溜めるものだけど、溜めすぎないように調整が必要とか、どこか矛盾していました。ですので、ゲージは基本的に溜まったらうれしいものにしようと。どのジョブを触っていても、ゲージは溜めればいいもの、という感覚にしてあります。また機工士については、ジョブデザインとしてどこに向かうべきかを協議しました。機工士は“ガンナー”でなく“マシニスト”なのだから、数々の機工兵器を使っていく、ちょっと男の子が憧れるような方向へ倒したほうが、個性がちゃんと出るのではないかと。そのコンセプトをわかりやすくジョブデザインに落とし込むにはどうすればいいだろうとゼロベースで考えた結果、メカニクスが変わったという感じですね。

ーー機工士は、拡張パッゲージごとに大きくジョブデザインが変わりますね(笑)。

吉田すみません。新ジョブになってしまいました。でも、これで最後にしたいです(苦笑)。年末年始、『吉P散歩』という生放送で使用しているキャラクターで、一般のプレイヤーの方に混じって次元の狭間オメガ零式の4層の攻略に参加していたのですが、機工士の方から、「吉P、機工士期待してますよ!」と言われて、「だいじょうぶ、ガラッといきますよ」と答えたんですけど、ここまでとはきっと思ってないんだろうなって(苦笑)。

ーー先日公開されたジョブアクション動画で、オートマトンを呼び出して戦う姿は鮮烈でした。召喚士のフェニックス召喚もなかなかのインパクトでしたが……。

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『漆黒のヴィランズ』での機工士は、“兵器を扱うジョブ”という部分がより強く打ち出されている。
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召喚士はバハムートに続き、フェニックスも召喚できるように。

吉田召喚士については、まずはペット(エギ)を扱うというストレスをなくすことが先決でした。エギは、敵から受けるダメージがプレイヤーの5分の1と設定してあるのですが、それも中途半端で、食らっているのか、食らっていないのかわからない。そう思いきや、タンクへの攻撃に巻き込まれて消失したりする。これ、もうダメージを食らう必要ないのでは……と。エギを呼び出すにしても、もともと巴術士であるとかは考えずに、召喚士なんだからとインスタントにしてあります。エギもそれぞれの特性を明確にして、効果を得たいタイミングで切り替える。それがペットジョブのありかたなんじゃないかと。

ーーエーテルフローの要素も、トランス・バハムートやサモン・バハムートと切り離され、バハムートエーテルを溜めていくこともなくなっていますよね。

吉田エーテルフローの溜め直しもストレスとなっていた部分で、素直に召喚という行為にフォーカスしています。これまでは、バハムートを呼び出した後は少し暇になってしまっていたので、続けてフェニックスを呼べるようにして、リキャストが回るたびに大きな召喚ができるようにしました。こうした、“ストレス”の要因が大きなものは、結果的にメカニクスの変更になったというだけですね。

ーー吟遊詩人のメカニクス変更についても同様でしょうか?

吉田吟遊詩人は、プレイヤースキルの差が非常に大きくなってしまいました……。ダメージの軽減、自身のDPS、各種タイマーの更新など、気にかけないといけないことが多すぎるんです。吟遊詩人のタイムライン(手順)を見ていたら、わけがわからないよね……と。だからこそやり甲斐がある、という方もいらっしゃるでしょうけど、本来の持ち味である、攻撃しながら移動できるというところを、ストレスなく最大限に楽しめるジョブにしたいという思いがありました。突耐性ダウンという能力から来る“必須枠”からも解放し、竜騎士との“ズッ友”も解消して、自由に遊んでほしいと。

ーーとくに高難度レイドでは、シナジーを意識した行動は固定化されすぎていた感はありますね。

吉田シナジーはある意味、鎖でもあったと思うんです。これを絶対やらないといけないとか、やらないと非難されるとか。使いこなしがわからない人に対して他者が卑下するというのは、今後の長い運営を考えてもよくありません。無理に差を縮めたいのではなく、わかりやすくすることで、最低限理解してほしいベースの幅を狭めたいと。もちろん、プレイヤースキルで差が出るようにはしてあります。もっともそうした部分が体現されているのが、吟遊詩人ですね。

ーーなるほど。正統進化となったジョブはあくまで結果論で、調整の主体は“ストレス”にあったと。

吉田また黒魔道士を例にしますが、黒魔道士には詠唱というストレスがあります。その代わり一発の威力が高いので、そういう意味ではバランスは取れているのですが、コンテンツの中でどうしても詠唱できないシチュエーションが存在します。そのときに、コラプスしか撃つことができないというのが本当の意味でのストレスなんです。黒魔道士は、Lv80でポリグロットがふたつまでスタックできるようになり、さらにファウルの単体魔法版とも言えるゼノグロシーがインスタントで使えます。どうしても移動を余儀なくされるとき、三連魔とポリグロットのスタックふたつ、迅速魔、さらにProc(※)の準備があれば、移動によるロスは極限まで減らすことができます。ストレスをカバーし、攻撃を自分なりにデザインできる。それこそがプレイヤースキルであると思っています。

※プロック。追加効果という意味だが、『FFXIV』では“条件を満たし、特定のアクションが実行可能になること”を言う。

ーーそうしたコンセプトを聞きながらも、なかなか今回の調整は大胆なものが多いと思うのですが、やはりこの6年間の歪みみたいなものを一掃したいという思いがあったのでしょうか?

吉田どうしても、開発都合の塊によって歪んでしまっている部分があるのは否めなくて。それに慣れてしまったプレイヤーの皆さんには申し訳ないという思いはもちろんあるんですが、ここから先、長く運営をやっていこうと考えたときに、きちんと本来あるべき姿にしたほうが、結果幸せになっていくのかなと。おかげで、調整もしやすくなっています。仮に、僕らが計算ミスをしてしまったとしても、シンプルに調整が利きます。これまでは、あそこをいじるとここが破綻するみたいな状態でしたから。今後は、よりダイレクトにバランスを取っていけると思います。

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ガンブレイカーと踊り子のコンセプト

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『漆黒のヴィランズ』で追加されるふたつの新ジョブ、ガンブレイカー(左)と踊り子(右)。ガンブレイカーはタンクロールで、踊り子は遠隔物理DPSだ。

ーーガンブレイカーは、ビートファングを起点とした追撃の仕組みが非常に特徴的ですね。

吉田ガンブレードは『ファイナルファンタジーVIII』で初登場した武器ですが、すごくユニークで『FF』らしいなと思うんです。本来の銃剣は、遠距離のときは銃を撃ち、接近時は剣で相手を倒すという、シンプルに銃と剣をくっつけたものですが、『FF』のガンブレードは、インパクトのときにトリガーを引いて、ブレードの振りを加速させることでダメージを上げるという、中学2年生くらいの年代が超絶喜ぶような設定なわけです。やはり『FF』のガンブレードはそこが魅力だろうと思っているので、それをどうガンブレイカーで表現しようか考えました。ガンブレイカーは、特性として“ソイル”というものを溜めることができ、“ソイル”の力を使ったウェポンスキルの“ビートファング”を放つと、トリガーを引く感覚で追撃が行えます。さらに、ビートファングから派生するウェポンスキルにも追撃が発生するので、つぎつぎとトリガーを引いていくような感覚になってもらいたいと。そのテンポがどんどん自分の中ででき上がっていくと、すごくスタイリッシュに戦えているように感じるはずです。

ーー確かに、“斬ってトリガーを引く”というのをテンポよく3回くり返す感じがしますね。

吉田4ジョブ目のタンクなので、ほかの3ジョブとはまた違ったプレイ感覚は絶対に必要だと思っていました。一見するとシンプルなのかと思いきや、じつはやれることは多く、「すごくイージーなジョブなので、皆さん使ってくださいね」とは言いづらい感じはしています。むしろ、「やり込めばやり込んだだけ、おもしろさがあるジョブですよ」と表現しようと思っています。

ーー少し細かい話になってしまいますが、ガンブレイカーは先ほどのビートファングからの追撃コンボが最大火力になりそうな感じなのですが、自身の与ダメージを上昇させる“ノー・マーシー”はリキャストが60秒であるのに対し、ビートファングのリキャストは試遊させていただいたキャラクターでは約34秒でした。これは、あえてズレるようにしているのでしょうか?

吉田これは複雑なので説明をしなかった、GCDとは別のリキャストを持つウェポンスキルや魔法という新しい仕組みが動作しているアクションだからですね。

ーーなるほど。ビートファングというウェポンスキルの場合、スキルスピードでリキャストが変化する仕組みのようで、装備の組み合わせによってはリキャストを30秒程度にできそうな感じでした。そのあたりも想定しているのでしょうか?

吉田使ってみないと説明が難しいので今回は控えますが、最終的にガンブレイカーは玄人好みなジョブになっていくかなという気がしています。

ーーつまり、装備の選択も個人差が出るかもしれない?

吉田理想的なローテーションが確定するまでは、議論になるのでないかなと思っています。基本はタンクなので、タンクスタンスさえ入れていれば敵視は稼げるし、火力は二の次でいいんじゃないかと。火力に固執しなければ、楽しく扱えると思いますよ。

ーー踊り子についてもお聞かせください。初めて触れた印象としては、確率によるProcが多くて、ローテーションが若干複雑になりそうだなと。Proc運もけっこう影響が大きそうでしたが……。

吉田そこまで差がでないように調整されています。踊り子は、“テンポを刻む”というのがテーマです。その名の通り、ダンサーですから。ステップを踏むというアクションをテンポよくやることで、いろいろなことができるジョブになっています。見た目もあって人気ジョブになるはずので、下限と上限が極端に上振れしないようにしようと。それと、Procが多いと言いますが、赤魔道士のときにしても最初はやたらProcが多い印象はありませんでしたか?

ーー確かにそうですね。

吉田でも、一度理解してしまうと、そこまでじゃないですよね。操作難度的に目指しているのは、遠隔物理DPS版の赤魔道士といったところです。

ーーひとつ気になるのは、ステップを踏んでいるあいだは攻撃行動がいっさい取れず、DPSとしてはロスになりますよね。やはり、仲間を強化することを前提としたバランス取りになっているのでしょうか?

吉田そうですね。踊り子についてはシナジーでなく、本来の意味で言えばバフをかけるジョブなんです。ステップは、味方にバフをかけるための手順ということですね。そのぶんほかの人たちを底上げしていくという形でバランスを取っています。あと、ステップはミスしてもロスがそんなに大きくならないようにデザインされています。テンポを刻むというのは『FFXIV』ではとても新鮮なアクションなので、そこを楽しんでもらいたいですね。

ーー踊り子は、随分とど直球に支援ジョブを入れてきたな……という感じでした。

吉田『FFXIV』にはなかった、いわゆる“バッファー”に近いですよね。じゃあ、バッファーは必須かと言われると、パーティメンバーのスキルに大きく左右されると思っていて。遠隔物理DPSの枠を踊り子が占有するということにはならないと思っています。

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フェイスに命令機能がない理由とは?

ーー『漆黒のヴィランズ』のメインストーリーに関連するIDにNPCと突入できる仕組み“フェイス”ですが、NPCに指示ができないのはなぜでしょうか?

吉田意図的にそうしています。プレイヤーがやりたいことがあって、それに従わせたいと思うから命令が必要になるわけですよね。今回のフェイスは、ほかのプレイヤーとマッチングしているのと同じ、つまり独立した思考を持つ仲間とIDに行っているんだという感覚にしたかったので、命令は入れていません。AIに命令を入れると、かえって頭が悪くなることがあるんです。

ーー具体的にはどうなるのでしょう?

吉田たとえば、いまNPCがAoE(範囲攻撃)のターゲットにされたとして、“AoEを避ける”というアルゴリズムに則って移動目標地点を決め、そこに向かって歩き出すとします。この移動中に命令を出された場合、AoEを避けるという行動を終えてから命令に従うと、プレイヤーの体感的には「こいつ、頭悪い」と感じるんです。だからと言って、行動を中断して命令に従うと、AoEを避けられなかったり、別のNPCをAoEに巻き込んでしまう可能性があります。それはそれで、「頭が悪い」となるんです。AIの行動を中断させてしまうと、その後の行動に対するリカバリーが効かないので、プレイヤーが指示を出したことによって、結果的に頭が悪いと感じてしまう。また、プレイヤーの指示を待つためのウエイトを行動前に必ず数フレーム確保しなくてはならず、きびきび動けなくなってしまいます。だから、命令はいちばん最初にやめようという話をして、命令の必要のないバランスにしようと。

ーー完全に自律していたほうが賢いと……。

吉田性格付けをするAIの場合にはそうなりますね。フェイスのNPCはつねに周囲の状況を見ながら行動を決めているため、プレイヤーがそれに合わせることで、より連携が取れるようになっています。

ーーなるほど。状況の変化を理解しているんですね。

吉田たとえば、ヤ・シュトラは黒魔道士のスペシャル版である“魔女”というジョブなのですが、魔法の詠唱中に自分がAoEのターゲットにされると、もちろん詠唱を中断してAoEを捨てに行きます。たまたま2連続で狙われたりすると、そのロスを巻き返すために、三連魔を使ってバーストするんです。行動を阻害されて落ちたぶんの火力を蓄積していて、それを取り返すための行動を取ると。そんな感じで、各キャラクターに対して細かく設定しています。ですので、命令があるとかえっておかしくなっちゃうんです。同じ敵を殴ってほしいというのは、プレイヤーどうしでも起こりますよね。それをいちいち言うかというと、気が利くほうが合わせたりするじゃないですか。それと同じだと思ってほしくて。フェイスのほうは、「このまま攻撃を継続して倒しきったほうがいい」と彼らが判断しない限りは、プレイヤーに合わせようとしてくれますから。

ーー何か、見透かされている感じが(笑)。

吉田1ダンジョンを攻略する時間に対して、必要な総火力を彼らは知っているので、途中でロスがあった場合は、できるだけそこに近づけようとしていきます。そういう意味では、プレイヤーの見えないところで恐ろしく効率的に動いているんです。彼らの裏の面はあまり知らないほうが……(笑)。

ーーここまで聞くと、確かにフェイスに命令をすることに意味を見出せませんね。

吉田命令を入れないぶん、性格づけを徹底しています。たとえば、ミンフィリアやヤ・シュトラは、プレイヤーがDPSの場合、絶対にリミットブレイクを撃とうとはしません。それは、彼女たちは光の戦士たるプレイヤーが主役だと思っていて、リミットブレイクは主役が撃つべきだと考えているからです。ヤ・シュトラあたりは、「火力下がるし、ほかが撃てば」くらいにしか思ってないかもしれませんが(笑)。これがアリゼーになると、彼女はもともと性格上、主人公を立てるのではなく、主人公と並んで歩いていきたいというキャラクターなので、「私があなたに貢献できるのは敵を倒すこと」という考えを持っています。ですので、プレイヤーがどのジョブだろうと、リミットブレイクのゲージが溜まったら即撃ちです。リミットブレイクを撃つまでは、ほかの行動は一切取りません。AoEが来ると、避けた先でまた撃とうとするくらいで……。どれだけ撃ちたいんだと(笑)。そういうのがいいところです。

ーー状況を完全に把握しているからといって完璧に動いてもつまらないですし、彼らの性格設定がミスを招いたりすると。

吉田そうですね。アリゼーはとにかく突進型なので、突っ込んだ先でAoEが重なって、被弾することが多いのは彼女の特性です。それを、ウリエンジェやアルフィノが恐ろしいスピードで蘇生します。つまり、キャラクターが見えてくるようになっているんです。フェイスは、単純に頭がいいAIということではなく、キャラクターがキャラクターとして動く遊びになっているんです。ウリエンジェはいいですよ。ひたすら自分にだけカードをくれるので(笑)。

ーー彼らと冒険するのが楽しみになりました(笑)。では、そろそろお時間のようですので、この流れを完全に無視した質問で締めくくらせてください。ずばり、ガンブレイカーと踊り子用の絶バハムート武器、絶アルテマウェポン武器は追加されますか?

吉田新ジョブの絶武器は残念ながら……(苦笑)。

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残念ながら、『漆黒のヴィランズ』開始時点ではガンブレイカーと踊り子の“絶”武器はないようだ。つぎの絶が実装されるタイミングで期待したいところだが……。
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