ソニー・ミュージックエンタテインメントのインディーゲームブランドUNTIES(アンティーズ)が始動して1年余り。本格的に動き出すというUNTIESの坂本和則氏、伊東章成氏、ジョン・デイビス氏の3名にインタビューを実施した。

 インディーゲームのサポートを目的に、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が設立した、ゲームレーベルUNTIES(アンティーズ)。“SMEによるインディーゲームへの取り組み”として、注目度も高かった同ブランドだが、始動から1年余りを経て、いよいよ本格展開するという。その戦略をキーパーソン3名に聞いた。

UNTIESとは?

 2017年10月17日に、SMEより設立された新レーベル。“個性的なゲームと、そのクリエイターの優れた才能を世界中に解き放つ”ことを目的に、インディーゲームのパブリッシング事業などを通して、インディーゲームクリエイターのサポートを行う。現時点では、『TINY METAL(タイニーメタル)』や『不思議の幻想郷TOD -RELOADED-』、『マヨナカ・ガラン』などのタイトルをリリースしている。

坂本和則氏(さかもとかずのり)

UNTIESプロデューサー

伊東章成氏(いとうあきなり)

UNTIES G&R

ジョン・デイビス氏

UNTIES G&R

この1年は大いなる準備期間だった

――2017年10月17日のUNTIES設立から約1年が経ちます。これまでを振り返りながら、改めて設立の経緯をお聞かせください。

坂本ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に出向していた時期があるのですが、そこで、インディーゲームの状況を見て、若くて優秀なクリエイターが山ほどいることに衝撃を受けたんです。ゲームクリエイターのなかには、音楽も作れるし絵も描ける、さらには脚本も書けるなんていう人たちがたくさんいて、まさに宝の山だと思いました。ですが、一方でそうした才能を世に出せないままで諦めてしまった人たちも星の数ほどいるという現実も知りました。こうした才能を持つ人材を発掘して、その人たちを世界に羽ばたかせたい。日本を中心とした優秀な才能を世界中で輝かせたいと思ったことが、UNTIESを設立したきっかけです。そこで、同じ思いを持っていた伊東に手伝ってもらって、最初はふたりで立ち上げました。この1年間は、とにかく優秀な人材を見つけて、そしてサポートしてきた、いわば準備期間にあたると言えるかもしれません。

――優秀なクリエイターの発掘はどのように行われたのですか?

坂本音楽業界にはA&R(アーティスト&レパートリー)という言葉があります。これは、アーティストを発掘・契約し、マーケティングはもちろん音楽制作に至るまでがっちりとサポートするという意味で使われる言葉です。私たちはそれを、G&R(ゲーム&レパートリー)という言葉に置き換えて、同じような方法論でゲームクリエイターを発掘することにしました。ゲーム制作はさまざまな能力が必要で“才能の宝庫”と言えるなかで、とくに優秀な人材を探し出すことは、たいへんな作業でした。

伊東これまでのゲーム制作は、基本的に大規模なものでした。大量の人材を投入して、分野別に制作するやりかたが体系立てられていました。ですが、近年はミドルウェアの性能が高まってきたこともあり、小規模での開発も可能になってきています。その流れで個人が制作したゲームが話題になり始め、クリエイターの作家性にフィーチャーできるようになってきました。つまり、クリエイターに求められるものが個性であり、アーティスト寄りになってきたんですね。そういった現状に、G&Rという手法はとてもフィットしていると思っています。

――音楽業界で一般的だった方法論が、ゲーム業界でも有効になったということですね?

伊東インディーゲームの作者はすでに自身でタイトルを作っているので、完成の見えた良質なタイトルを見つけて引っ張ってくるという方法もありますが、SMEのノウハウを注ぎ込むことで、“クリエイターの作家性を育てる”方向も意識的に組み込みました。出版業界で言えば、作家と編集者みたいな関係性ですね。良質なタイトルを作れるようになるであろう優秀な人材を見つけてきて、いっしょに成長していく。ある意味で、大規模体制の場合には持たない、ゲーム業界にとっては特異な価値観を持ち込んだわけですが、それによって新たなパブリッシュスタイルを確立できたのではないかと思っています。

――パブリッシャーがクリエイターを育てるというのが、新たなスタイルだということですね?

伊東そうです。たとえば、作家性が強くなってくると、どうしてもこだわりが強くなり、自身の趣味を重視するようになりがちです。すると、商品化したときに売れるかどうかという俯瞰的な視点が持てなくなることがあるんです。この点が、大規模な体制で開発している開発者と、小規模もしくは個人のクリエイターとの大きな分かれ道になります。そこで、僕らがビジネススタンスをあえて持ち、俯瞰的な視点を持てるように彼らに提言します。それができる人間が近くに寄り添えば、大規模な制作環境を組まなくても、そのそれぞれの作品がより広くお客さんに満足してもらえる状況が増えるだろうと思っています。そうした取り組みが、日本でもようやく始められるという実感があります。

――ずばり、G&Rという新しい取り組みの手応えはいかがでしたか?

伊東ゲーム制作の環境として独立を選ぶクリエイターさんが増えてきていると感じます。本格的な商売を目的として、個人や小規模でチームを組む人たちも増えている状況が見えるので、僕らもそうした流れの中にあるのがよくわかりますし、その手伝いができている状況です。じつは、いま僕らの呼びかけに応えてくれているクリエイターの約半数が、現役の学生だったり、最近卒業したばかりの若い世代です。ここもまたひとつ、日本のインディーゲームシーンが盛り上がってきているなという手応えを感じている部分でもあります。

ジョン一方で、UNTIESの事業の大切な柱のひとつである海外タイトルの日本展開も、まさに体制が整ってきました。いま、海外のパブリッシャーさんとパートナーシップを結んで、国内展開の準備を考えているところです。「日本で展開したくても、マーケティングやプロモーションの仕方がわからない」という海外パブリッシャーさんからの声も多く、そういった部分をサポートできるのもUNTIESならではの強みだと考えます。

伊東いま、海外でもパブリッシャーが続々と増えていて、インディーゲームのありかたが成熟してきていると言えます。インディーゲームに関しては、日本よりも先んじているぶん、インディーゲームクリエイターに対するサポート体制も成熟しています。インディーゲームを選定し扱う企業はブティックパブリッシャーと呼ばれ、個人の開発者に手を差し伸べるケースが増えています。そして日本では自国内での展開はできても、グローバルにまで広げられるという会社はまだあまり多くありません。だから、僕らがそれをやろうじゃないかと考えました。

――なるほど。国内外の両方に目を向けて、準備をしてきたというわけですね。チャレンジに苦労はつきものだと思いますが、現時点で何か課題は見つかっていますか?

坂本初めての経験ばかりなので、もう課題だらけです(笑)。そういう意味では、SMEの社内におけるいろいろな許可、認可、契約といった事務処理がそもそもたいへんでした。契約書をゼロから作らなければいけないこともあり、クリエイターの求めるスピード感に応えられずご迷惑をおかけしてしまったこともあります。

伊東大企業が母体となってインディーゲーム分野を扱うというのは、けっこうたいへんなことではあります。企業の規模が大きければ大きいほど確認などの工程が増えますし、そのぶんインディーならではの小回りやスピード感が失われてしまう。大企業のサポートがあるからこそ個人のクリエイターが安心して尖った作品を制作できる、という状況を作りたかったのですが、最初はなかなかうまくいきませんでした。ですが、ようやくそれも形になってきました。内部のサポートメンバーも経験を積んで理解が深まってきましたし、いまならタイトルの規模を増やして「いっしょにやりましょう!」と自信をもって言えます。

坂本日本のクリエイターを世界に羽ばたかせるのが重要な目的のひとつですので、海外のさまざまなゲームイベントには足を運んだのですが、そこでも苦労だらけでした(苦笑)。現地で急な電気工事を施工する必要が出てきたり、その場で請求書や契約書のやり取りが生じたり……。まあ、そもそも海外でのイベント運営なんて何もかも、すべてが初めての経験でしたからね。

伊東未開のエリアで目の前に起きたことを、自分たちで何とかしています(笑)。各エリアで販売チャンネルを持つというやりかたもあるなかで、クリエイターの意図が届きやすいように、すべて自分たちでやってしまおうというのは、思い切ったチャレンジだったかもしれませんね。

坂本たしかにかなり濃密な経験でしたが、そのぶんトレーニングとしての効果も大きかったと思います。内部の人間にとってはまさしく筋トレのような感じで、苦しい思いをしたぶん、いまやかなりたくましい基盤ができあがりました(笑)。

伊東ちょっと無理をしすぎたところもありましたが、有意義なチャレンジではあったと思います。いまは、Steamを始めとして世界中で市場が開けている時代ですから、販売会社を各地域に設けてビジネスを展開していくという従来のスタイルは、スケールできなくなるケースも増えているんです。それが分かっているので、できるだけ小規模でグローバルに行き届くような体制を作っていこうと考えています。これは、今後必ず活きてくるはずです。とは言え、業務破綻しないよう“無理をしない範囲で”という意識も持っているのですが(笑)。ただ、この1年無理したことで、逆にこの事業での“無理をしすぎない範囲”がどれくらいかというのも理解できましたし。

――ところで、タイトルの選定に関しては伊東さんとジョンさんの勘や経験によるところが大きいというお話でしたが、そうした感覚的な部分をあえて表現するとしたらどのようなこだわりに?

伊東あまり言葉にはしてきませんでしたね(笑)。うーん……。強いて言えば、“匂い”でしょうか。これまでの人生で蓄積されたさまざまなエンターテインメントが混ざったデータベースが自分の中にあって、新しいゲームを見て、触るたびに、「このゲームはジャンルの中でこれくらいのポジションだ」とか「これくらいの話題性になりそう」といったように、どんな可能性を持っているかをつねに考えています。その中でもとくにどこがひとつ強い匂いというか個性があり、閾値を超えるタイトルに出会ったとき、声をかけずにはいられなくなります。

――ちょっと恋愛みたいですね(笑)。閾値を超えるタイトルとは。

伊東UNTIESを始めるにあたって、最初にグッと来たのは『TINY METAL(タイニーメタル)』でした。ストラテジー要素のある、戦隊モノでありメカモノでもあるようなゲームです。レトロタッチの戦略ゲームながら、いち早く3D化にチャレンジしていて、ビジュアルも格好よかったんです。ゲームシステムの尖ったチャレンジや、個々のユニットの、グッズを作りたくなってしまうようなディティールのかわいらしさに惹かれました。それでピンと閾値を超えて、「いっしょにやりましょう」と。彼らがもしふつうに2Dのストラテジーゲームを作っていたら、僕は声をかけなかったかもしれません。3Dへのチャレンジも含めて、同ジャンルのタイトルより1歩個性が見えていると感じたことが決め手でした。

『TINY METAL(タイニーメタル)』はArea 35開発によるシミュレーションゲーム。往年のターン制ストラテジーゲームの懐かしさと近代的なゲームデザインが融合したゲームデザインが特徴の1作。Nintendo Switch、プレイステーション4、PCで発売中。

――ジョンさんはいかがですか?

ジョン私はドット系のゲームが大好きで、とくに『悪魔城ドラキュラ』は大好物です。ですので、2D系のゲームを見ると反射的に「あー、おもしろそう!」と思ってしまいますね(笑)。操作性やゲームシステムがコアなゲームも好きですね。