CD PROJEKT REDの創業者のひとりで、現在は共同最高経営責任者を務めるマーチン・イウィンスキ氏に、スタジオの歴史から現在開発中の『サイバーパンク2077』の最新情報まで直接うかがった。

 累計世界セールスが3300万本を突破した『ウィッチャー』シリーズで絶大な人気を獲得し、いまやポーランドが世界に誇るゲーム開発スタジオへと成長を遂げたCD PROJEKT RED。1994年に設立された同社が、現在の成功を収めるまでの道のりとは、いったいどのようなものだったのだろうか。

 創業者のひとりで、現在は共同最高経営責任者を務めるマーチン・イウィンスキ氏に、スタジオの歴史から現在開発中の『サイバーパンク2077』の最新情報まで直接うかがった。多忙のため、こうした単独取材に応えることはごく珍しいというマーチン氏。その貴重なインタビュー、ぜひ最後までお読みいただきたい。

マーチン・イウィンスキ

CD PROJEKTグループ 共同創業者・共同最高経営責任者。同社社長のアダム・キシンスキ氏と共同最高経営責任者を務めている。

ふたりのゲーマーが設立したスタジオはポーランドからゲームの歴史を作る

スタート地点はゲーマーふたりが始めた卸売業

――2019年で25周年を迎えるCD PROJEKTグループですが、設立時のことをお聞かせください。

マーチン当時の我々は、ビジネスについてまったく知らないただのゲーマーで、「ゲームのおもしろさをユーザーに届けたい」という情熱だけで会社を設立しました。その根幹の部分は24年間変わりません。私の記憶にある思い出はつねにゲームに関連したものです。

――ゲームへの情熱がすべての原動力だったのですね。“CD PROJEKT RED”という社名の由来についても教えてください。

マーチンもともとはCDP.p.lという名前で、小売店にゲームを流通させる卸売業者としてビジネスを始めました。『The7th Guest』(※1)と『マッドドッグマックリー』(※2)というゲームを流通させる際、ポーランド国内としては初めて、ゲームをCDという媒体に書き込んだんです。それが、CD PROJEKTという社名の由来になっています。とくに、『The 7th Guest』はゲームをCDという媒体で提供できるようになった契機でもあるタイトルなので、記憶に残っていますね。

――最初から開発スタジオというわけではなかったのですね。では、卸売業からゲーム開発へと舵を切ったきっかけは?

マーチンバイオウェアから発売された『バルダーズゲート』(※3)というタイトルをポーランドで流通させるにあたって、翻訳、ローカライズに力を入れたことが大きな転換点になりました。私が自分自身でローカライズ作業を担当したのですが、映画業界で働いていた父親のコネを活かして音声の収録をしたり、草の根的なローカライズを行ったんです。もとの言語のものがそのまま使われることの多い人混みや雑踏での音声も、しっかりポーランド語で収録しなおしています。ですから、いまでもポーランド語版が世界でいちばんクオリティーの高いローカライズだと自信を持っています。

――卸売業の延長線で、ローカライズ作業に着手したわけですね。ローカライズに力を入れようと考えたきっかけはあるのでしょうか?

マーチンそれまでのポーランドのPCゲーム市場には海賊版が横行していて、ローカライズにたくさん予算を割いたとしても、安価な海賊版が買われてしまうという現実がありました。そうした状況を打破するために、『バルダーズゲート』ではあえてローカライズに力を注ぎ、著名なポーランド人の俳優を起用したり、ブックレットなどの特典を付けたりしました。そうしてゲームに付加価値をつけることで、正規版を買うことに大きな意味を見出せるようにしたんです。

――海賊版の悪影響を断ち切るためだったと。その後、ユーザーからの反響は?

マーチンローカライズを手掛けるまでは1作あたり1000本〜2000本程度の販売本数だったのに対して、『バルダーズゲート』は初年度で25000本の売上本数を記録しました。その反響を見て、ゲームをローカライズして流通させることに大きなビジネスチャンスがあるということを認識することができたので、『バル ダーズゲート』はCD PROJEKT REDにとって非常に意義深いタイトルなんですよ。このタイトルでチャレンジした“ゲームに付加価値を生み出す”ということはいまでも意識していて、ユーザーの購買意欲を高めるために必要なことだととらえています。ウィッチャー3』などのタイトルで無料ダウンロードコンテンツを配布したり、大型の拡張パックをお手ごろな価格で提供しているのは、その考えが根底にあるからなんですよ。

※1『The 7th Guest』
 ポーランドで1993年に発売された一人称視点のホラーアドベンチャー。プレイヤーは怪しい洋館を探索しながらさまざまな謎を解く。実写で表現されたムービーが特徴的で、世界売上でミリオンセールスを記録した。

※2『マッドドッグマックリー』
 ガンコントローラを使ってつぎつぎに敵を倒していくシューティングゲーム。1990年発売。西部開拓時代が舞台となっており、町を襲撃したマッドドッグマックリー一味に立ち向かうという内容だ。日本では、アーケード版のみ展開されていた。

※3バルダーズ・ゲート
 テーブルトークRPG『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第2版をもとにバイオウェアが開発したRPG。1998年に発売され、原作に忠実な内容が受け入れられ、多数のファンを獲得することに成功。2001年まで毎年続編が発売された。

クリエイティブなことを求めて始まったゲーム開発

――スタジオの代表作でもある『ウィッチャー』シリーズの開発が始まった経緯について教えてください。

マーチン『バルダーズゲート』のローカライズを担当した後、だんだんと会社のビジネスを退屈に感じて、もっとクリエイティブなことをしたいと思うようになって(笑)。それで『ウィッチャー』の1作目の開発を始めました。ただ、先ほどお話したように、我々は卸売業者としてスタートしたので、作りたいゲームのビジョンはあったのですが、実際に開発して形にするノウハウがなく、完成にいたるまで5年もかかってしまいました。

ウィッチャー
ウィッチャー2

――5年の年月をかけて開発スタジオとして踏み出した一歩は、会社にとって大きな前進につながりましたね。

マーチンそうですね。『ウィッチャー』の開発と並行して引き続きゲームの販売業務も行っていたので、 第三者から支援を得ることなく、自社で生み出した利益を資金にゲームの開発を続けられたんです。その結果、自分たちの作りたいものをとことん追及できた。それも『ウ ィッチャー』シリーズが成功したひとつの要因だと思います。

――その成功から続編が生まれ、最新作である『ウィッチャー3 ワイルドハント』は日本はもちろん、世界中で大きなヒットとなりました。

マーチン『ウィッチャー3』では、ゲームの内容がおもしろければ国を問わず愛してもらえるということを学べました。たとえば、ポーランドで作られた映画は日本に浸透する機会があまりないと思うのですが、ゲームの場合は『ウィッチャー3』のように、日本でも多くの方に愛していただいています。とはいえ、発売する前はこれほどまでに受け入れてもらえるとは思っていなかったので、ゲームが全世界に通じる媒体であることを再認識するとてもいい機会になりました。そのため、『ウィッチャー3』で成功を収められたことは、1作目の開発に乗り出したことと同じくらい、CD PROJEKT グループが歩んできた24年間の中でもとくに重要な出来事だと思っています。

ウィッチャー3 ワイルドハント

ゲーム制作の根幹にあるのはゲームとユーザーの“結婚”

――CD PROJEKT REDのゲーム作りにおいて、もっともこだわっている点、あるいは自社の長所だと考えている点はどこですか?

マーチンいちばん重視しているのはクオリティーですね。CD PROJEKT REDは独立型のゲーム開発スタジオで、私自身が会社の株を最大値保有しているので、いい意味で他者の意見を聞く必要がなく、ゲームを作るうえでの決断を下しやすいんです。極端な話ですが、 ゲームの発売日が近付いてきたタイミングでクオリティーが十分なラインに達していないと判断した場合、躊躇なく発売日を延期するという選択を取ることができます。

――納得できるクオリティーに到達するまで開発を続けられる環境にあることが長所だと。

マーチンそうですね。ゲーム業界全体を見ると、数年前までは、販売元や予算の都合でクオリティーが十分ではないゲームが発売されてしまうことが多々ありましたが、その影響で、最近では「いいものを作るためなら時間を掛けてもいい」という意見もよく見かけるようにな っています。我々はその意見と同じようなポリシーを持っていて、ゲームが満足のいくクオリティーに到達するまで発売しないようにしているんです。もちろん、発売日を延期するのはいいことではありませんが、「発売日を延期したゲームは最終的にいいものになるが、未完成のまま発売されたゲームがよくなることはない」と、よく言われるように、ゲームが未完成の状態で発売することは絶対に避けなければならないと考えています。

――とはいえ、AAAタイトルの制作は莫大な予算がかかるので、ビジネスとしてはリスクが付きまといます。満足するラインまで作り込むことを決めるとき、そうしたリスクがさらに増大するのを恐れることはないのでしょうか?

マーチンこれまでにリスクを恐れたことはまったくありません。ですが、発売が間近になると「このゲームはユーザーの期待に応えられるのだろうか?」という不安を覚えます。ユーザーはお金を払ってゲームを購入し、何時間もプレイしてくださるわけですが、我々はそうしたユーザーとゲームの関係を“結婚”のようなものだととらえているんです。

――“結婚”ですか?

マーチンはい。ゲームがおもしろいものであれば、100時間、200時間とプレイしていただけるわけですが、その時間を費やしてゲームをプレイするということは、人生においてかなり大きな割合を占めるものになると思うんです。だからこそ、ユーザーの期待を裏切らないためにも、発売を延期せざるをえないという状況に陥った場合でも、よりよいものを作ることに専念するんです。

――そういう意味でも、『ウィッチャー3』はかなり多くのユーザーに、長時間にわたってプレイされて、愛され続けていますよね。

マーチンありがたいことに、ポーランドでいちばん売れたゲームになりました。それでも、世界全体の売上割合を見るとポーランド国内の売上が占めるのは2〜3%程度。つまり、世界中でかなりたくさんのユーザーに遊んでいただけたということですね。

――『ウィッチャー3』の開発当初、どれくらいの販売本数を目指していたのですか? これほどのヒットになると予想していましたか?

マーチン具体的な本数は言えませんが、当初はもっと現実的な数字を想定していました。でも、その想定を遥かに超えるような結果になってくれたのは間違いありません。それから、買い切り型のゲームは発売日近辺に多く買われて、それ以降は買われないというパターンが多いですが、『ウィッチャー3』はかなりのロングセラーで、昨年(2017年)、そして今年(2018年)も引き続き売れ続けています。シリーズ累計では3300万本という売上本数を達成できましたが、それは発売延期を重ねてまでクオリティーにこだわった成果だと思います。

――『ウィッチャー』は原作がポーランドの小説です。それをポーランドの会社がゲームにして、世界中でヒットしました。“国内的な作品を使って、ワールドワイドにヒットさせる方法論”というのは、何かお持ちなのでしょうか?

マーチンそれは逆に、私がお伺いしたいくらいです(笑)。ひとつ言えるのは、アンドレイ・サプコフスキ氏の小説『ウィッチャー』シリーズ (原題:Wiedzmin)は、ポーランドの風土をもとにした世界観ですが、描かれるのは世界中の誰でも理解できる、現実でも起こりうるような問題なんです。『ウィッチャー3』では、そうした問題をクエストなどに反映しているので、住んでいる国に関係なく楽しんでいただけたのではないかなと思います。日本でも受け入れていただけたようにね。また、ゲーム内の各国の設定も、現実世界のヨーロッパの国々に基づいていますし、武器や防具なども現実の歴史に紐づくような方向性でデザインしています。つまりファンタジーでありながらも、細部にこだわり、現実味があるので、世界で広く受け入れられたのではないでしょうか。

――『ウィッチャー3』でゲラルトの物語は完結となっていますが、似たような形で新作を出す予定はありますか? たとえば、ゲラルトの養女のシリを主人公にしたり、前日譚的な『ウィッチャー0』なんてアイデアは?

マーチンアッハッハ、悪くないですね(笑)。でも、『ウィッチャー』シリーズの続編を続けて制作していくと、スタジオとしての伸びしろがなくなってしまうのではないかと危惧しています。『ウィッチャー』という作品の世界観を使ってさらなる作品が出ないとは言いきれませんが、CD PROJEKT REDが成長するためには、新しいことに挑戦しなければいけないと思うんです。そこで、スタッフでも好きな人が多い、サイバーパンクの世界観で新しいチャレンジをすることを決めました。

サイバーパンクをより多くのユーザーに届けるために

サイバーパンク2077

――“E3 2018”では『サイバーパンク2077』の最新情報が公開されました。それにしても、中世ファンタジーである『ウィッチャー』シリーズとは真逆の世界ですよね。

マーチン『サイバーパンク2077』は、有名なテーブルトークRPG『サイバーパンク2.0.2.0.』のIP(知的財産)を買い取ってゲーム化を進めています。我々はIPを購入してゲームを制作することが得意なので、選択肢はほかにもありました。しかし、多くのスタッフがサイバーパンクというジャンルを愛しているということ、『ウィッチャー』とはまったく違った世界観を描けることが決め手になり、スタジオの新たな柱として打ち立てることにしました。

――ということは、『サイバーパンク2077』の発売後も、サイバーパンクが題材の作品をリリースするつもりなのでしょうか?

マーチン我々がIPを購入する理由は、そのIPを使って自由にゲームを作りたいからなんです。これも“結婚”と同じようなもので、我々はおそらくサイバーパンクと少なくとも数年、もしくは数十年付き合いを続けていこうと考えています。まだ開発中の段階ですが、すごくいい関係になるのではないかという予感もありますね(笑)。

――ちなみに、マーチンさんが個人的に好きなサイバーパンクの作品はありますか?

マーチン昔から出版されたSFの本はすべて買って読むくらい好きで、サイバーパンクというジャンルはとくに気に入っています。なかでも、『ブレードランナー』として映画化された『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』で知られるフィリップ・K・ディックという巨匠の小説はすべて自分の好みですね。昨年再び映像化された『ブレードランナー2049』は家族といっしょに2回見に行きました。最近では、Netflixで配信されている『オルタード・カーボン』という作品が好きで、よく見ています。もちろん、日本の『攻殻機動隊』や『AKIRA』といった作品も好きで、『AKIRA』はVHSからDVD、Blu-rayと、映像作品を3セット持っているくらいです!  描かれているテーマなどが自分の感性に合っているように感じます。

――日本の作品もチェックされているんですね。サイバーパンクな世界観をゲームで表現するうえで、意識していることはありますか?

マーチンじつは『ブレードランナー2049』を家族で見に行ったとき、妻と娘は作品のダークな雰囲気を楽しめなかったようなんです。『ブレードランナー』はそのダークな雰囲気が魅力で、私も大好きなのですが、ゲームとしてより多くの人を楽しませるためにはもっと明るい世界観が必要だと感じました。そのため『サイバーパンク2077』では、ふだんはサイバーパンクに興味がないようなユーザーに興味を持ってもらうためにも、明るい演出を入れ込んでいます。公開したトレーラーの中で昼の時間を描いたのも、そのためなんですよ。

――確かに、言われてみれば明るい雰囲気のサイバーパンク作品というのは、あまりないように感じますね。

マーチンゲーム中の多くのことは、原作の『サイバーパンク2.0.2.0.』に基づいていますが、その57年後を舞台としている『サイバーパンク2077』では、我々独自の解釈を加えています。それと同時に、ゲームは大人数で制作するものなので、有名なサイバーパンク作品からインスピレーションを受けたスタッフが、そうした作品のオマージュをいろいろなところに盛り込んでいるかもしれません(笑)。 けれども、全体としてはCD PROJEKT REDならではのサイバーパンクとして楽しんでいただけると思うので、ぜひ楽しみにしていてください!

2018年9月、CD PROJEK REDエントランスロビーにて。

CD PROJEKT REDの歴史がわかる写真をお届け

 約四半世紀前にワルシャワで産声を上げたCD PROJEKTの歴史が伝わる写真を提供していただいた。若きマーチン氏を始め、当時のスタッフとCD PROJEKTが持つ熱気を感じ取ってほしい。

ワルシャワ ダウンタウンのコンピューター市。CD PROJEKTの始まりの場所とも言える。
共同創設者のマーチン氏とミヒャール・キシンスキ氏が、ワルシャワで開催された“Gambleriada ’97 Video Game Expo”に参加した際のツーショット。初めてCD PROJEKTがローカライズしたゲーム『Ace Ventura』を宣伝している。
CD PROJEKTによるローカライズタイトル『The Pink Panther: Hokus Pokus Pink』とマーチン氏。
『バルダーズゲート』が入った箱を運び出すCD PROJEKTのスタッフ。
『ウィッチャー2』の開発者と手掛けたスタッフたち。

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