『サイバーパンク 2077』の開発チームで、3Dのステージ、言わばゲームの“世界”そのものを生み出す日本人CGクリエイターに、ワルシャワで働くことになった経緯から開発現場の秘話まで貴重な話をうかがった。

 世界中を魅了した人気作『ウィッチャー』シリーズを手掛けたCD PROJEKT REDが贈る、つぎなる大作が『サイバーパンク2077』だ。近未来の巨大都市“ナイトシティ”で主人公の“V(ヴィー)”を操作し、自由気ままな振る舞いでストーリーを進めていくことができる。タイトル通り、サイバーパンクな雰囲気に満ちた、オープンワールドの世界を闊歩できるのが大きな魅力だ。

 『サイバーパンク2077』については、2018年のE3で長時間のトレーラーが公開されている。詳しくは以下の関連記事をチェックしてほしい。

 今回、CD PROJEKT REDのポーランド・ワルシャワ本社にて、本作の開発に深く携わる日本人がいると聞きつけ、インタビューを敢行。オープンワールドゲームの顔とも言える、ゲーム内の“街”を制作しているとのことで、その制作過程や街に“サイバーパンク感”を出す手法、ワルシャワで働くことになった経緯などについて詳しくうかがった。

榊原寛 氏(さかきばらひろし)

『サイバーパンク2077』に携わる日本人スタッフ。京都大学を卒業後、日本と海外のいくつかの会社を経てCD PROJEKT REDに入社。3D背景デザイナーとして、『サイバーパンク2077』の背景全般を手掛けている。

第一線で活躍する3Dデザイナー榊原氏が語る“世界”の制作過程

――榊原さんはここポーランドで『サイバーパンク2077』の開発に関わる数少ない日本人のひとりとのことですが、最初にCD PROJEKT REDで働くことになったきっかけを教えてもらえますか。

榊原ええと、どこから話したものか……。だいぶ時を遡るのですが、ぼくは京都大学の大学院時代にアフリカの研究をしていて、タンザニアのインド洋にある島の調査に参加していました。インド人やアフリカ人、アラブ人などが移住して作られた交易都市に住み込み、いわゆるフィールドワークをやっていたんです

――いきなり、なかなか珍しい経歴が飛び出しましたね!(笑)

榊原そうなんです(笑)。それで、そこの建築様式がどういう風に混ざっているのかを、木彫りの建築の彫り物を作る工房でいっしょに物作りをさせてもらいながら調査するという生活を続けていました。そうしているうちにふと、「自分は研究よりも、何か物を作るほうが好きだなあ」ということに気付いた、これがゲームを作りたいと思ったいわば最初のきっかけです。その後、ゲーム業界に入り、会社勤めを経験しました。そのときからオープンワールドゲームが好きだったのですが、最先端のゲームに触れているうちに、「もっと最先端のゲーム制作、CG技術に関わりたい」と感じるようになりました。それで「最先端の技術となると、海外のほうがよさそうだ」と思い立ち、アメリカの会社などでオープンワールドゲームの制作に関わっていたんです。

――「海外の企業を受けよう」と思い立ってすぐ受けてしまうのもすごいですね。

榊原ただ、そこで携わったプロジェクトは巨大すぎて、働く中で自分が小さなひとつの歯車のように感じてしまって……。そう感じていたときに、人気のAAAタイトルを作っているんだけれど、インディー感のあるCD PROJEKT REDの存在を知ったことがふたつ目のきっかけですね。アメリカに移る前は、ポーランドの隣国であるチェコに住んでいたこともあり、生活スタイルもそんなに変わらず、抵抗がなさそうだったため、応募することを決意しました。そうして現在にいたり、『サイバーパンク2077』のプロジェクトには2017年の2月から参加しています。ゲーム業界歴を振り返ると、約10年になりますね。

――数ヵ国渡り歩いてCD PROJEKT REDに入られたと。現在はどういった仕事を担当されているのか教えてください。

榊原肩書きとしては“エンバイロンメントシティーコーディネーター”という名前で、日本のゲーム会社の役職で言うと3Dの背景デザイナーになります。でも、この“コーディネーター”というのはこの会社独特の役職だと思います。わりと経験のある“シニア”と、チーム全体の取りまとめ役にあたる“リード”の中間にいる、中間管理職みたいな感じですね。

――まさに現場の最前線でやり取りをされている。

榊原背景のチームは3つに分かれていまして、ひとつはソファーや机、カップなどの小物類を作るアセットチーム。もうひとつはクエストに関するユニークな場所や、E3ゲームデモの中ではメガビルディングの内部や工場の内側などを作っているチーム。最後は私のいるシティーチームと言って、オープンワールド内の通りや建物を作るチームです。私はそこの取りまとめ役をやらせていただいています。

――広大なフィールドを自由に歩けるのは、オープンワールドゲームのもっとも大きな特徴だと思いますが、ああいった巨大な世界はいったいどのように構築していくのでしょうか。

榊原オープンワールドゲームではすごく広い街を作る必要があります。建物のパターンをたくさんデザインするほど、街なかで変化を出せますが、すべてをゼロから100まで作るのは難しい。そこで、色だけちょっと変えてバリエーションを出そうかとか、看板を変えてみようとか、見た目でおもしろさや変化をどう出せるかを考えながら作っています。公開中のデモですと、カーチェイスの場面やメガビルディングから出たところなどは自分が作ってきたものですね。ほかに全体の制作の流れなども考えていて、プロデューサーとも相談しながら、並行して携わっている感じです。

――作業は膨大なものになるかと思われますが、チームの皆さんはどうやって中身を作っていくのですか?

榊原うちの会社はコンセプトアートチームがとても充実していて、背景だけでも6人ほどのアーティストがいます。まず、アートディレクションをする人が、街のストリートビューのような一枚絵の背景をコンセプトアーティストに描いてもらい、イテレーション(反復)するところから始まります。そこから典型的なデザインを僕が抽出していき、「こういう建物がいくつかあれば、それぞれの部品をうまく組み合わせてアレンジし、この地区を全部作れるだろう」という、街の母体とも言うべき建物を考え、建物に必要なアセット(建物のパーツの一部)をリスト化するんです。

――街全体を作るために、街を分解して少数の建物を作る。さらにその建物を分解して、建物の部品を考える。そして、それを作る計画を立てていく、と……。

榊原ええ。その後、それぞれの建物を作るのに何日くらいかかるのか計算します。この建物を全部作るには何人月(※)かかるかということを計算して、後はプロデューサーがタスクを細かく分けて、ひとつずつ各アーティストに割り当てていきます。そうしてひとつの区画を作り終えたら、また新しいものを組み上げる、そのくり返しで制作していきますね。

※ …… ひとりで1ヵ月かかる仕事の量が1人月。

――ストーリー上必ず訪れるゲームプレイに関わる部分と、それ以外のいわば背景として自由に移動できる街部分は、並行して制作されるものなのですか?

榊原そうですね。うちにはチームがいくつかあって、クエストに関わるところも、物語に関係せず、背景でしかない部分も、それぞれのチームの要望をうまくすり合わせながら、同時進行で組み上げていく感じですね。

――本作で作られる建物は、現代のふつうの建物を作るのとまた異なると思いますが、どうやって“サイバーパンク感”のある建物を作るのでしょうか? 

榊原難しい質問ですね(笑)。これは僕自身の考えではなく、以前ディレクターが言っていたことになりますが、「サイバーパンクというのは技術と伝統が出会うところに現れる」と。SFじゃないけど現在でもない。すごくごちゃごちゃしたアジアの街の、古くて汚い木製のドアになぜか最新鋭のモニターがあって、それにドアの開閉を行うハイテクな電子デバイスが付いていたりする……そんな“ごちゃ混ぜ感”と言いますか。

――ああ、なるほど、なるほど。

榊原後はやはり、『AKIRA』や『ブレードランナー』、『攻殻機動隊』などサイバーパンクの名作と言われる作品は参考にしていますし、いわゆるお決まりの要素もある程度採用しています。一方で、『サイバーパンク2077』では、どのサイバーパンク作品とも違うものを成し遂げようともしています。たとえばデモの街のシーンでも、夜に雨が降っていて、ネオンだけが色がついています。そうした陰鬱な感じだけでなく、晴天の青空にヤシの木が生っていたり、建物がとてもカラフルであるとか、そういうちょっと違うことを意識して作っています。ですので、どうやったらサイバーパンク的なものになるかを一言で表す答えはないんですけど、本当にいろいろなことを考えながらクールなものを作り、サイバーパンクらしさが出るようがんばっています。

クリエイティブにクリエイティブを乗せてよりよいものを生む楽しさ

――そうした仕事の中で、いちばん楽しいなと思う作業はなにかありますか?

榊原コンセプトアート上で有機的にごちゃごちゃと表現されている街を3D上で再現するために、部分ごとにどう切り分け、分解したアセットを作り、それをどう再構成すれば巨大な街ができあがるのか……それを考えるのは、自分としては、好きな作業ですね。

――まるでパズルのように、建物のパーツを分解したり組み立てたりして、全体の大きな街を組み上げていくわけですよね。聞いているだけでも、複雑でたいへんそうな……。

榊原だからあまりやりたがるデザイナーがいなくて、僕がやっているんです(笑)。

――(笑)。

榊原でも、複雑だからこそ、思い通りの街が組み立てられたときは本当に気持ちがいいんですよ。それに、できあがってくるコンセプトアートもすごくて。おもしろいデザインのものがたくさん来るので、それを参考にしながら飾りを組み合わせたりするのも楽しい作業ですね。コンセプトアートにそのまま従うこともあるし、そこからさらにひねりを加えて新しい形のものを作ってみることもあります。結果的に、それぞれの人の創意というかクリエイティブが採用された状態で街中に残ることになります。そういった部分は作っていて非常におもしろく感じるところです。

――街中には随所に日本語の看板が出ていますよね。その辺の日本的な要素は榊原さんが入れたりするんですか?

榊原それに関しては、むしろポーランド人のデザイナーがいろいろ提案しています。基本的にはポーランド人の社員がクールだと思う日本の文化、単語の文化を映像化して、最低限のチェックをしています。

――最後に、日本のユーザーに向けて、注目点をお聞かせください。

榊原やはり私としては、背景を見てくださいと言いたいですね(笑)。実際、ナイトシティはゲームの顔になると思うんですよ。ほかのサイバーパンクな作品とも違う街を作ろうとしているので、どのストリートに行っても同じ雰囲気みたいな、退屈なコピペのような世界にはなりません。本作の世界観全体を表す、すごい街になると思っています。それと、単純な床面積的な意味だと、ナイトシティは“街”ですから、国や地域を描いてきた『ウィッチャー3』より小さな面積ではあります。けれども、プレイヤーが得られる経験的としては『ウィッチャー3』と同じ、もしくはそれ以上のものを得られるんじゃないかと思っています。これからも制作をがんばりますので、応援よろしくお願いします。

2018年9月、ポーランド・ワルシャワ本社にて。

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