濃密なオープンワールドを実現した高度なAI技術と物理学

 ロックスター・ゲームスより発売中のPS4/XBox One向けソフト、『レッド・デッド・リデンプション2』(以下、『RDR2』)。“The Game Awards 2018”でBest Narrativeを始めとする最多4部門を獲得し、世界中で高評価を受けているだけでなく、史上最高の発売週末3日間の売り上げ本数を達成、PlayStation Networkにて過去最高の事前予約数および初日セールス過去最高記録を達成するなど、名実ともに実績を残している。

 2018年11月27日から段階的に『レッド・デッド・オンライン』ベータもスタートし、『RDR2』をベースにしたオープンワールドで、世界中のユーザーが100年前のアメリカを自由に堪能している。

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 西部開拓時代末期のアメリカを完璧なまでに再現した本作のオープンワールドだが、探索すればするほど新たな発見や驚きが見つかるという、驚異の“舞台”にはどのような仕組みが詰まっているのだろうか? その詳細に迫るべく、海外ゲームメディアの“VG247”(https://www.vg247.com/)が行ったロックスター・ゲームスのスタジオ直撃インタビューを元に構成した記事をお届けしよう。

『レッド・デッド・リデンプション2』世界を驚愕させた緻密なオープンワールドはいかに生まれたのか? ロックスター・ゲームスに訊くインタビュー_01

――西部の開拓地を舞台とするにあたり、Euphoriaエンジン(※編註:『グランド・セフト・オート』シリーズでも使用されたNaturalMotion社開発の物理エンジン)を進化させ、ロックスター・ゲームスならではの物理システムに改良したとのことですね。
[回答者:Phil Hooker(テクノロジー・ディレクター)]
 Euphoriaを使用した目的は、人間や動物のリアクションを物理学的に向上させることであり、『RDR2』ではその部分が格段に進化しています。

 たとえば、騎乗中の馬が銃で撃たれるとキャラクターが馬の背から転げ落ちたり、あぶみにかかったまま引きずられたり、死んだ馬の下敷きになって抜け出そうともがいたりと、さまざまなシーンがリアルに描かれます。

 敵が負傷した際に見せるリアクションのバリエーションも増えており、投げ縄で捕らえられそうになると、逃げ出そうとして縄に掴みかかってきたり、銃を撃ったりします。前作のクラシカルな西部劇らしいアクションに洗練を加え、そのほかのあらゆる要素を盛り込みました。

 中でも、キャラクターや動物が何かにぶつかるときの衝撃が、よりリアルに感じられるようになったのは、すばらしい進化です。馬で乗り物や木、建物に突っ込むと、強い衝撃が加わります。

 没入感のあるゲームプレイを提供することが我々のゴールであり、愛馬に乗っているときに注意を払う必要があるのは、当然です。

 ただし、キャラクターや環境のシミュレーションおよびアニメーションを作成するにあたり、Euphoriaが担う作業は一部にすぎません。あらゆる場面においてキャラクターや動物のリアルな動作を作り上げるために、アニメーションシステムを抜本的に見直しました。

『レッド・デッド・リデンプション2』世界を驚愕させた緻密なオープンワールドはいかに生まれたのか? ロックスター・ゲームスに訊くインタビュー_02

[回答者:Ben Lyons(リード物理プログラマー)]
 物理エンジンを再構築したことで、次世代ハードウェアの性能をより活用できるようになり、あらゆる分野において改良を加えることが可能となりました。

 水の物理的構造を根本から見直したことで、川の流れが自然になり、キャラクターや物体が水に入ると水面が乱れます。魚釣りでリールを巻くと魚が暴れ、生じる波や水しぶきがゲームへの没入感を高めます。

 さらに、胸まで沼に浸かって静かな水面をかき分けながら進んでいくと、水中にいる肉食動物の動きが波紋となって表現されるので、緊張が走ります。

『レッド・デッド・リデンプション2』世界を驚愕させた緻密なオープンワールドはいかに生まれたのか? ロックスター・ゲームスに訊くインタビュー_03

 我々が注力したもうひとつの分野は、アニメーションと物理演算の相互関係です。これによって、キャラクターと周囲の環境との関係性、そしてその環境で移動するための乗り物との関係性をより細かく表現できるようになりました。

 カヌーや手漕ぎボートに乗っていてオールで漕ぐと、完璧なタイミングで前に進みます。低木や樹木は近寄ると揺れ動き、キャラクターは邪魔な枝や葉を手で払いのけます。

 起伏のある地形を走り回ると石や砂利が転がり落ち、プレイヤーや馬の動きは地形によって変化し、険しく危険な坂を滑り落ちることもあります。

 馬車で上り坂や険しい地形を進むと、馬はとてつもない労力を費やしているような挙動を見せ、馬車自体も重量を感じさせ、地面に窪みや裂け目があると軋んだり揺れ動いたりします。馬車の車輪が曲がることもあれば、車体がバラバラに壊れることもあります。

 我々は、あらゆる感触やリアクションが現実味を帯びるよう、尽力しました。ゲームの世界とより深くつながっていると、プレイする皆さんに感じていただければ幸いです。

『レッド・デッド・リデンプション2』世界を驚愕させた緻密なオープンワールドはいかに生まれたのか? ロックスター・ゲームスに訊くインタビュー_04

――ロックスター・ゲームスは、ゲームの細部まで巧みに表現することで有名です。『グランド・セフト・オートV』では、トンネルに入ると音が歪んだり、水に入ると水面の高さちょうどまで服が濡れたり、車の排気を逆流させてガソリンを発火させることができました。『RDR2』で特にこだわったこと、これまでのロックスター・ゲームスの作品にはなかった要素とは?
[回答者:ロックスター・ゲームス]
 細かいディテールの積み重ねによって、ゲーム全体を構築することに成功しました。通行人との会話は、特に気に入っています。社内の者ですら、初めて出くわす会話に驚くことが毎日のようにあります。

 会話は、話しかけた相手の状況や行動に応じて変わるので、いつでも新鮮な反応が返ってきます。

 ゲームには無数の調整が施されており、微妙なジェスチャーやアニメーションを会話の内容に合わせることで、ゲーム全体の印象を自然なものにしています。

『レッド・デッド・リデンプション2』世界を驚愕させた緻密なオープンワールドはいかに生まれたのか? ロックスター・ゲームスに訊くインタビュー_05

[回答者:David Hynd(リードAIプログラマー)]
 何か悪さをしているところを見られたアーサーは、目撃者を追いかけながら「クソ…」と呟きます。目撃者が森の中に逃げ込むと、アーサーは「出て来い」と言います。

 酒場に入るとNPCがプレイヤーに視線を向けたり、音楽の演奏が止まることもあります。AIで動くキャラクターはプレイヤーを怪しんで一瞥し、脅威だと感じれば手を止め、そうでなければそれまでやっていたことに戻ります。

 アーサーが歌や鼻歌を歌う描写や、彼が酔っぱらったときの会話内容が変化することも、じつにおもしろいと思います。ゲーム全体に命を吹き込むのは、こうした細かい描写の積み重ねなのです。

 また、馬の担当チームも、ものすごい情熱を持って取り組んでいました。彼らは基礎的な動作から始めて、馬のあらゆる挙動を作り上げていきました。こうしたリアルな動きを追求する姿勢が、高度な馬術を可能にしました。

 実際、馬は高度な動きができる動物なので、それをプレイヤーに体験させない手はありません。こうして、馬との親密度を上げると馬術を披露できるという楽しみがゲームに加わりました。

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――ゲーム内では生態系がどのように機能し、世界にどのような影響を与えているのでしょうか?
[回答者:ロックスター・ゲームス]
 生態系は、可能な限り自然になるように作り上げました。地域ごとに生息する動物の種類やその数は異なるので、動物を種類ごとに手作業で配置し、群れの形態や時間帯による行動の変化なども忠実に再現しています。

 互いに共存して同じような行動をする動物もいれば、危害を加える動物もいます。狩猟の際に注意深く見ていれば、草食動物が逃げて来た方向に肉食動物がいることがわかるでしょう。

 草食動物に限らず、狼だって不利だと判断すればハイイログマから逃げることがあります。また、不運にも襲われてしまい、抗戦しているNPCによって肉食動物の存在を知ることもあります。

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