2018年12月1日、大田区民ホール・アプリコ 大ホールにて「NJBP Concert #1 “古代祭り”」が開催された。その名の通り、ゲームミュージックコンポーザーである古代祐三(こしろゆうぞう)氏が手掛けた楽曲を演奏する、新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(NJBP)主催によるオーケストラコンサートだ。

 今回初公演となる『アクトレイザー』全曲だけではなく、80年代の名曲『スキーム』や『ベアナックル』から、近年人気の『世界樹の迷宮』シリーズまでと、まさに“祭り”の名にふさわしい名曲の数々が披露されたその模様をリポートしよう。

二十余年の歳月を経て『アクトレイザー』の全曲がフルオーケストラで演奏された! 古代祐三氏の名曲づくしのコンサート“古代祭り”の模様をリポート_01
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ズラリ並んだスタンド花には古代氏の師匠である久石譲氏の名前も。
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ロビーでの物販コーナーには、古代氏が代表を務めるゲーム開発会社・エインシャントのブースも。しかも、Nintendo Switch版『すすめ!! まもって騎士 姫の突撃セレナーデ』が映像出展されていたのだからオドロキ。オンライン対応で1~4人同時プレイが可能になるそうで、配信は2019年配信予定。また、新作RPG『王立 穴ポコ学園』も開発中で、こちらも2019年配信予定とのことだ。

 NJBPのテーマ曲である“ DAWN -Theme of NJBP-”から幕を開けた本公演。本編である古代楽曲で最初に演奏されたのは、PC-8801mkII(SR以降)用のアクションRPG『ザ・スキーム』からステージ1の曲“I'll save you all my justice”。古代氏自身が「ユーロビートを導入した、たぶん初のゲームミュージック」と語るだけに、原曲はサウンドボードII音源を駆使したディスコティックなテイスト。対してオーケストラアレンジでは、金管楽器がメロディを引っ張る勇壮なアレンジに。原曲でも印象的な高速ソロパートを、クラリネットやヴァイオリンのソロが見事な速弾きで完コピするなど、オリジナルの雰囲気とオーケストラならではの壮大さが融合したかのような仕上がりとなっていた。なお、当日の演奏ではないが、NJBPが過去に演奏した同曲の模様を掲載するので、雰囲気を味わっていただきたい。

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各曲の演奏前後には、指揮者の市原雄亮(右)氏と古代氏による解説が行われ、貴重な証言が多数飛び出した。ちなみに市原氏が手にしているのは『マリオペイント』付属のマウスパッド。

 続いての演奏曲はメガドライブ用アクション『ベア・ナックル』シリーズから“Fighting in the Street”と“Dreamer”のメドレー。硬質かつビートの効いたハウスミュージックな原曲が、どのようにオーケストラアレンジされるのだろうか……? とが気になっていたが、原曲とはいい意味で違った重厚なテイストに。とくに緊張感を煽るBメロの旋律が、オケにハマった印象だ。また、“Dreamer”ではチェロのソロがあり、アンコールでは指揮台に足を載せて熱演。まるでバンドコンサートのようなライブ感を生み出していた。最後が“Round clear”でシメられているアレンジに、思わずニヤリとのは筆者だけではないハズだ。こちらも、以前にNJBPが演奏したものを掲載する。

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Dreamerで見事なソロ演奏を聴かせたチェロ(写真はアンコール時のもの)。演奏後には大きな拍手が贈られた。

 古代氏は当時を振り返り「エインシャントがゲーム制作を手掛けた『ベア・ナックルII』では、当時アーケード基板を買うほどにハマっていた『ストリートファイターII』のおもしろさを少しでも取り入れたくてコンボの要素で深みを加えた」とコメント。また、登場キャラクターの声のすべて(女性キャラのブレイズも!)が古代氏のものであるエピソードをユーモアたっぷに披露すると、会場からは笑いが起きていた(詳細が気になる方は以下の参照記事をご覧あれ)。

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 3曲目は『世界樹の迷宮』から“世界樹の迷宮メドレー 2018”と銘打ち、“迷宮I 翡翠ノ樹海~鉄華 初太刀~ 鉄華 討ち果て朽ち果て~迷宮V 遺都シンジュク”を立て続けに披露。迷宮からバトル、バトルから迷宮へと緩急のある演奏に、来場者は固唾をのんで聴き入っていたようであった。近年の古代氏の代表作である『世界樹の迷宮』だが、制作当時はスランプ気味で「昔のゲームを彷彿とさせるモノがほしい」というオーダーへの正解が見いだせず悩んだそう。「それならば、『ザ・スキーム』や『ベア・ナックル』で使っていたFM音源(+PCM)で作ってみよう」とトライしたのが世界観ともピタリとマッチ。ゲームの評価にも大きく寄与し、10年以上続く人気シリーズとなったことは、すでに皆さんが知るところだ。

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 休憩を挟んでの演奏となったのは、この公演の目玉である『アクトレイザー』から“交響組曲 アクトレイザー2018”。1990年のスーパーファミコンのローンチ直後のタイトルでありながらオーケストラサウンドを表現したことで当時のプレイヤーを驚かせた同作だが、古代氏は当時を振り返って「スーパーファミコンにはサンプリング音源が搭載されることを知って、“だったらオーケストラサウンドが表現できるぞ”と思い立った」と説明。しかし、当時の開発ツールでは使える音色が制限されていたため、「プログラマーの橋本昌哉さん(※『イース』のプログラマーを経て『アクトレイザー』を開発したクインテット代表に)に頼み込んで弦や管楽器などたくさんの音色を使えるようにしてもらった」と、サウンド制作にかけたこだわりを説明すると、来場者は感心したようにうなずいていた。それだけに、オーケストラアレンジされた今回の演奏は、ゲームで聴いたサウンドが、よりクリアーでより迫力のある状態で聴けた貴重な機会であったと言えるだろう。

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来場者の半数以上がプレイしたことがあるという『アクトレイザー』だけに、古代氏、そしてファンにとっても待望の公演となったはずだ。

 肝心の演奏はといえば、ゲームスタートからのプレイの流れを再現した曲構成、とくにアクションステージへ突入する“降臨”からステージBGM“フィルモア”の流れを見事に再現。当時ゲームをプレイしたことのある人ならば、鳥肌モノだったはずだ。しかも原曲そのままではなく、新規フレーズや転調といった起伏が加えられており、交響組曲の名のとおりのドラマチックな仕上がりとなっていた。

 以降も、中盤ステージやボスとの戦いと、ゲームの展開をなぞるように演奏は進行。ラスボス戦を倒すと、最後にはエンディングの高らかな旋律が鳴り響き、来場者からは万雷の拍手が贈られた。

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当時はオーケストラサウンドの知識はなく、若さゆえの突っ走りもあったと語った古代氏だが、「今振り返って聴いてみるといい曲だと感じます!」とコメントすると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

 演奏が終わっても鳴り止まない拍手に後押しされ、アンコールを2曲披露。最後は、昨年のオーケストラ公演でも行われたという三本締めが行われ、コンサートは幕を下ろした。

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来場者からの大きな拍手に包まれる中、古代氏と市原氏は握手からハグ。
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コンサートを終えた直後の市原氏と古代氏。その表情から充実感が伝わる。

古代祭り 演奏曲目一覧

M01 DAWN -Theme of NJBP-
M02 I'll save you all justice
  『ザ・スキーム』より
M03 Fighting in the Street―Dreamer
  『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』&『ベア・ナックルII 死闘への鎮魂歌』より
M04 世界樹の迷宮メドレー 2018 “迷宮I 翡翠ノ樹海~鉄華 初太刀~ 鉄華 討ち果て朽ち果て~迷宮V 遺都シンジュク”
  『世界樹の迷宮』より
M05 交響組曲アクトレイザー2018
   <act1> オープニング―天空城―降臨―フォルモア
   <act2> 人々の誕生―レベルアップ―捧げ物
   <act3> ブラッドプール~カサンドラ―魔獣現る―ラウンドクリア
   <act4> ピラミッド~マラーナ―アイトス~テンプル
   <act5> ノースウォール
   <act6> 世界樹
   <act7> 強敵―サタン
   <act8> 静寂―平和な世界―エンディング
   『アクトレイザー』より
EC1  Fighting in the Street―Dreamer
  『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』&『ベア・ナックルII 死闘への鎮魂歌』より
EC2 エンディング
  交響組曲アクトレイザー2018 act8』より