以前、東京ゲームショウに合わせて来日したTwitchのシニア・ヴァイス・プレジデント マイケル・アラゴン氏らにインタビューしたときに、「Twitchはアートに力を入れている」という話を聞いたことがあって、ユーザーさんの動向(この場合はクリエイターでもあるのか)っておもしろいなあ……と思った記憶があるのだが、その勢いを如実に体感できたのが、TwitchConにて展開されていた“Artist Alley”。おもむろに説明が逆になってしまったが、何のことかというと、2018年10月26日~28日まで、アメリカ・サンノゼで開催されたTwitchCon 2018の話です。

 「Twitchはアートに力を入れている」の発言は以下の記事を参照のこと。

 TwitchCon 2018でのアート関連の出展の盛況ぶりは以下の記事を参照のこと。

 アーティストが自身の作品を販売する“Artist Alley”は、一見すると西洋風コミケでもあり、コミコン(※)にも近しいものがあるのだが、皆さんストリーマーでもあるというところがミソ。皆さんTwitchで配信をして自身の活動をPRしつつ、コンベンションでクリエイティブを販売している。そのスタイルはいま風だなあ……と、記者も深く共感してしまうのだが、やはり興味深いのは彼/彼女たちの人となり。TwitchConでいろいろな方が指摘されているとおり、“配信は人となりで見られている”のだ。

※毎年夏にアメリカ・サンディエゴで開催されるアメリカ・サブカルチャーの一大イベント。映画、アニメ、ゲーム、トイ、フィギュア、アートなどフォローする範囲は幅広い。

 そんなわけで、興味の赴くままに、会場に出展していた3人のアーティストに話を聞いてみた。

アートとストリーミングのいまどきの関係……“Artist Alley”の出展するアーティストに聞く【TwitchCon 2018】_05
アートとストリーミングのいまどきの関係……“Artist Alley”の出展するアーティストに聞く【TwitchCon 2018】_04
大盛況だった“Artist Alley”。会期中はたくさんの来場者で賑わった。

「ネットで何かを表現するのは自然だった」

 25歳だという、l3reezerさんは日本人に親しみのあるアニメタッチの作風が持ち味。それもそのはず、インターネットカルチャーで育ったというl3reezerさんは、マンガやゲームなどに接して育ったそうで、とくに『ワンピース』が大好きだという。子どものころからインターネットは身近にあったそうで、「何かをやろうとしたときに、インターネットを通して交流をするのはあたりまえだった。インターネットで何かを表現するのが自然だったんだよ」とl3reezerさん。

 配信は高校生のころから始めており、ゲームの配信を経て、数年前からアートに取り組むようになったという。「正直、配信はそんなに人気があるわけではないので、そこまで効果はないけど、楽しんでやっているよ」(l3reezerさん)とのこと。ちなみに、l3reezerさんは、大学卒業後はコンベンションに出展することで生計を立てているようだが、そんなライフスタイルもあるんだなあ……と、うらやましくもあったり。

※l3reezerのTwitchのページ

アートとストリーミングのいまどきの関係……“Artist Alley”の出展するアーティストに聞く【TwitchCon 2018】_01
l3reezerさんはpixiv(ピクシブ)にも投稿している模様。日本語勉強中なのだとか。ブースでは自身の作品のほかに、仲間たちのクリエイティブも出展していた。

「こんな生きかたもできるよ」と夢を追いかけて……

 いまは定職を持ちつつ、アーティスト活動もしているというpandafacepantsさんは、ストリーミングを始めて約1年。もともとアニメや絵を描くのが大好きで、夢を追いかけるのを諦めきれずにいたところを、ストリーマーとして生計を立てている人から「こんな生きかたもできるよ」と教えられて取り組み始めたのだという。

 ストリーマー仲間にやりかたを教えてもらいつつ、配信を始めて1年。実際のところそこまでサブスクライブの数が増えているわけではないようだが、着実にコミュニティは形作られているようだ。pandafacepantsにとっては、TwitchConのようなコンベンションに出展することで、視聴者が増えることを期待している一面もあるようだ。

 90年代のアニメに影響を受けたというpandafacepantsさんは、アニメにカートゥーンタッチを取り入れた作風を目指しているとのこと。好きなアニメを聞いてみると、「『美少女戦士セーラームーン』、『るろうに剣心』、『カウボーイビバップ』、『犬夜叉』、スタジオジブリの作品……」と立板に水のごとし。最近では『スペース☆ダンディ』がお好きだというから(2014年放送だからそんなに最近でもないか)、お目が高いではありませんか!

※pandafacepantsさんTwitchのページ

アートとストリーミングのいまどきの関係……“Artist Alley”の出展するアーティストに聞く【TwitchCon 2018】_02
pandafacepantsさん(右)と彼女に「こんな生きかたもできるよ」とアドバイスしたvoodooVALさん(左)。今回のTwitchConでは共同出展。

「ストリーミング仲間はファミリーのようなもの」

 最後はvisualjamieさん。ストリーミングを始めて5年で、ストリーマー&アーティストとして生活をしているというから、今回お話を聞いたなかでは、もっともベテランさんと言えるだろう。ストリーミングを始めたのは、とあるゲーム配信番組に刺激を受けたことがきっかけで、最初はローグライクゲームの実況配信などを行っていたという。ストリーミングをする傍らでアートにも取り組んでおり、徐々に自身のアートスタイルを確立させていったようだ。

 そんなvisualjamieの画風は“imaginative realism(イマジナティブ リアリズム)”とのこと。不勉強な記者はそのスタイルに一切詳しくないが、想像力あふれるリアリズムくらいの意味合いなのであろうか(英語をそのまま言い換えているだけですが!)。インスパイアを受けたアーティストはアラン・ウイリアムズとのことだが、「本当は、夢や悪夢の刺激が強いのかも」(visualjamieさん)という。

 これまで4回開催されたTwitchConにはすべて来ているという皆勤賞のvisualjamieさんだが、“Artist Alley”への参加は2回めから。「ストリーミングでは見ているだけの人もいて、そういう人たちと実際に会えるのはうれしいですね」とvisualjamieさん。また、Twitchはコミュニティがすばらしく、たとえば、ストリーマー仲間でも助け合ってお互いを高めあっています」(visualjamieさん)という。

 visualjamieさんの「Twitchのコミュニティはファミリーのようなもの」とのコメントが胸に残った。

※visualjamieさんTwitchページ

アートとストリーミングのいまどきの関係……“Artist Alley”の出展するアーティストに聞く【TwitchCon 2018】_03
visualjamieさん。独特な絵柄が目を惹く。visualjamieさんもパートナーとの共同出展。