カプコンがサービス中のオンラインハンティングアクション『モンスターハンター フロンティアZ』において、2018年9月26日に“モンスターハンターフロンティアZZ”アップデートが実施された。
本アップデートでは、本作オリジナルの新たな武器種である“マグネットスパイク”が実装。マグネットスパイクは、磁力を用いたアクションが特徴で、斬モードと打モードを切り換えられる変形機構が備わっている。
東京ゲームショウ2018のステージでは、本作プロデューサーの宮下輝樹氏が、なんとダンボールで再現したマグネットスパイクを用いてその変形の仕組みを解説していた。
そのダンボールのマグネットスパイクを制作したのは、ダンボールアーティストとして活躍する大野萌菜美さん。宮下氏によれば、「どのように変形するのかということをハンターの皆様にわかりやすくご説明するために、実際に手に持って変形させられるものを制作いただきたい」との経緯で、制作を依頼したとのこと。
また、「本来はゲーム内でしか見られない存在ですが、リアルな世界に、手に持ってお見せできるものとして再現いただくことで、ハンターの皆様により愛着を持ってマグネットスパイクを楽しんでいただけたら」という想いも込められているそうだ。
ダンボールのマグネットスパイクを制作した大野萌菜美さんはいったいどのような人物だろうか。実際に大野さんのアトリエを訪れ、マグネットスパイク制作の裏話やアーティスト活動について話を聞いた。
大野萌菜美(おおのもなみ)
1991年生まれ。 段ボール・アーティスト。
和歌山県出身、現在は吉祥寺のアトリエにて作家活動を行う。『世界まるみえ!テレビ特捜部』などテレビ出演も多数。単著に『ダンボールでつくるおもしろ』シリーズ(ブティック社)など。
――ダンボールアーティストとして活動するに至った経緯をお聞かせください。
大野 学生時代にもともとアニメーターになりたくて勉強していたのですが、立体アニメーションに興味がわいて、その道に進みました。でも、立体物は画材の費用がかかってたいへんで……、そんなときに費用の安いダンボールを使ってみようと思いました。
――活動を始めてどれくらいになりますか?
大野 学生時代を含めると8年ほどですが、ダンボールのみを使ってとなると、ここ3年でしょうか。
――造形するにあたり、ダンボールは素材としてすぐれているのでしょうか?
大野 強度が弱いので、あまり大きな物には向いてないかなと思います。しかし、加工しやすくて(切りやすく接着しやすい)がんばれば大きな物も作れますね。金属やガラスを(かっこいいので!)使ってみたこともあるのですが、加工に手こずりまして、接着剤で簡単にくっつけられるダンボールに落ち着きました。
――どのようなダンボールを使用しているのでしょうか。
大野 私が使っているのは厚さ3ミリの、少し薄めのダンボールですね。いわゆるAmazonのダンボールで、たまたま最初に使ったのがそれでした。切りやすいので、薄めのダンボールを使っています。
――これまでどのような作品を手がけてこられましたか?
大野 戦車や機械、ウルトラ怪獣やお菓子など食品の包装といったものが多いですが、もう趣味全開ですね(笑)。好きなものや、昔は買えなかったものをモチーフにしていたりします。カップ麺を一時期断っていた時期がありまして、そのときどうしても食べたくて作ってみたり、着たかったセーラー服を作ったこともありました。
■大野さんの過去の作品(一部)
――『MHF-Z』のマグスパ制作を依頼されたときの率直な感想はいかがでしたでしょうか?
大野 とてもうれしかったです。自分だけで作っていると、どうしてもモチーフに偏りが出てしまって。新しいものに挑戦する機会がだんだん減ってきて……。今回のお話をいただいて、新しいことにチャレンジできることがうれしかったですね。
――『モンスターハンター』シリーズは、もともとご存知でしたか?
大野 はい、もちろん! プレイステーション2の頃から遊んでいました。学生時代には、ほかにもゲームをたくさんプレイしていましたね。
――マグスパ制作で苦労した点はどこでしょうか?
大野 やはり、可動部分が難しかったですね。ふだんは可動しない、単体のものを作っていますので、カプコンさんから武器のデザインや、変形の仕組みなどの資料をいただいたのですが、どこがどうやって動くのか考えるのがたいへんでした。本当は刃の部分が出てくるのが理想でしたが、実寸通り作るとどうしてもそれが実現できなくて……。あとから刃を差し込むという形になってしまいました。
――マグスパ制作で、何か新しい発見があったりはしましたでしょうか?
大野 大きなものを作る際には、中に木の芯材を入れるのですが、今回は軽量化を図るために細いものにしつつ強度もしっかりしたものにしました。外からは見えない部分ですが、そんな工夫ができたことは新しい発見ですね。
――実際に完成したときにはどれくらいの重さだったのでしょうか?
大野 量ってはいないのですが……、2~3キロだと思います。
■マグネットスパイクの制作過程
■変形している様子
動画の40分30秒~
――完成したときの感想はいかがでしたでしょうか?
大野 「たいへんだった」というのが正直なところですね(笑)。戦車とかはサイズも小さいですし、1週間ほどで作れるのですが、マグスパは大きくて可動するものでしたので、1ヵ月半ほどかかりました。
――ふだん制作するときには、事前に設計図や展開図のようなものは用意するのでしょうか?
大野 いえ、いきなり作り始めます。戦車などは資料やプラモデルが豊富にありますので、それらを参考にすることはあります。
――丸みを帯びたものは作るのがたいへんそうですね。
大野 そうなんです。丸みを作る方法はいろいろあるのですが、土台をダンボールで組んで張り子のように紙を貼る方法も、怪獣を作るときによく使います。ウルトラ怪獣は「いっぱい並べたい!」と思いたって作りました(笑)。
――これまでもっとも苦労した作品はどんなものでしょうか?
大野 うーん……マグスパもかなり苦労しましたが(笑)、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の“デロリアン”ですね。1メートル大で制作したのですが、あまり資料がなくて……。大きいものですと、途中で細かな部分に誤差が出ると、作っている過程でどんどん差が大きくなっていってしまうので、修正するのも苦労しました。また、どこまでやれば完成なのかと考え始めると、あれもこれも、となってなかなか終わらなかったですね。まだまだ100%納得のいく作品というのは作れていませんね。
――これから挑戦してみたいモチーフはありますか。
大野 最終的には……人間を作りたいです。
――人間!? まるで神のような(笑)。
大野 (笑)。人体模型のようなもの……が近いですかね。骨があって、筋肉がちゃんとついていて、といったものです。生き物を表現するのはとても難しくて。人というのはふだん見慣れているせいもあって、細部のサイズや表現が少し違っただけで人間とは別のものに見えてしまうと思います。それができるまでは、また戦車やバイクなど好きなものを作っていきたいですね。先ほどもお話しました“丸み”をもっとうまく表現できるようにするのが課題です。
「好きだから作った」、「乗りたいから作った」、「食べたいから作った」と自身の欲求をそのまま投影し、作品として表現してしまう大野さん。現在は、かねてより「行きたい」と思っている長崎県の“軍艦島”の制作に取り組んでいるとのこと。
その制作意欲の(いい意味での)単純明快さをあっけらかんと話す大野さんの姿に思わず笑ってしまう。その半面、「趣味の延長」との言葉の想像の上をいく、作品のクオリティーには驚愕。それは作品を実際に目にすると如実で、見えない部分(自動車のエンジンやカップ麺の中身など)の作り込みも半端ない。いやはや、ギャップというか、天才肌というか……。
「東急ハンズやホームセンターに行くととても楽しいです!」と明るく語るダンボールアーティスト・大野さんの、欲求の行く先(今後の活動)が気になった方は、Twitterをフォローしてみてはいかがだろうか。
■大野萌菜美 Twitterアカウント @mbrid02
■実際のマグネットスパイクはゲーム内で体験しよう!
マグネットスパイクに興味を持った方は、『MHF-ZZ』大型アップデートのプレビューサイト(→こちら)をぜひチェックしてみよう。10月24日(水)メンテナンス開始までの期間は、“ウェルカムバックキャンペーン”にて初心者&復帰者にアイテムがプレゼント中とのこと。実際に『MHF-Z』のゲーム内でマグネットスパイクを体験してみよう。