2018年8月2日に発売された、Nintendo Switch、PS4、PC(Steam)、iOS、Android用タイトル『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』。本作は、2016年12月に発売された『サガ スカーレット グレイス』の、いわゆる“パワーアップ版”という立ち位置だが、追加・改良された要素は多岐にわたり、手触りはオリジナル版とかなり違ったものになっている。
それらの要素はすべて、開発スタッフのこだわりによって実装されたもの。本記事では、『緋色の野望』がいかにして現在の形になったのか、開発スタッフ3名のインタビューを通じて紹介する。
河津秋敏氏(かわづ あきとし)
言わずと知れた『サガ』シリーズの生みの親。ゲームデザイン、シナリオ、主題歌の作詞など、手掛けた領域は多岐にわたる。
市川雅統氏(いちかわ まさのり)
『サガ』シリーズのプロデューサー。本作はもちろんのこと、秋に上演を控える『サガ』舞台第2弾や各種コラボも手掛ける。
生田泰浩氏(いくた やすひろ)
オリジナル版ではバトルプランナーとして、バトルの大半を構築。『緋色の野望』ではディレクターとして全要素に携わる。
未来へつながるUIを作りたかった
――『緋色の野望』がついに発売となりましたが、まずは開発を終えてのお気持ちをお聞かせいただけますか?
河津終わったという意味じゃ、(少し前に)もう終わってますので、まあ、早くつぎを作らないとな、と……。
※本インタビューは2018年7月に実施
――ユーザーからしてみれば、ようやく新作が遊べるようになったばかりなので、気が早いですよ(笑)。
生田自分としては、開発が終わってすごくホッとしていますね、やっぱり。どんな感想をいただけるのかは、楽しみであり、不安でもあり……ちょっとドキドキしています。
――『緋色の野望』の開発自体は、いつごろから始まっていたのですか?
市川オリジナル版の開発が終わったときから、「作りたい」とは思っていました。プロジェクトが固まったのは、半年くらい経ってからでしたが……。
河津ほかのプラットフォームでもやりたいとは当初から思っていて、Unityというミドルウェアを選んだのもそのためでした。
生田「こういう項目を修正・追加したい」というリストは、2016年12月末には作っていたのですが、詳細な仕様は、ユーザーの皆さんの声を確認しながら検討していきましたね。
――『緋色の野望』を作るうえで、まず重視したことは何でしたか?
河津UI(ユーザーインターフェース)を、高解像度向けと携帯端末向けに再設計することは、最初から決めていました。
市川河津さんは以前から、「タッチ操作に対応したUIのRPGを作らなければいけない」と言っていて。『サガ』は、選択肢を押し間違えると展開が変わってしまうゲームですから、そういったミスがないようなUIのフォーマットを作らなければ、という話をしていました。
生田そして、その話が自分のところに下りてきて、ものすごくプレッシャーを感じました(苦笑)。遊んだユーザーさんに「これはダメだね」と言われないものを作らなければ、と。
――河津さんは以前も、タッチ操作のUIのフォーマットを作りたい、とおっしゃっていました。
河津はい。スマートフォンで『ロマンシング サガ2』を配信しましたが、あれはコントローラの操作系を移しただけで、もとからタッチ操作のために設計したわけではないので。“タッチで操作できるコマンドRPG”をちゃんと作らないと、この先、不便だなと。タッチUIがあって、その中で何ができるのかを見極めないと、今後のゲーム設計がやれないなと思ったんです。
――これからもRPGを作っていくために必要だということですよね。
河津そうですね。その操作系を前提にして、ゲームシステムとか、遊びのフレーバーを考えていくことができますから。そういう意味では、出発点になったと思います。
――『サガ』については、スマートフォンも含めて、さまざまなプラットフォームに出していきたいという思いがあるのでしょうか。
河津スマートフォンでも出すことで、いまはゲーム機から離れちゃった人、家のテレビを自分では占領できない人にも遊んでもらえるので、意味があるなと。
生田オリジナル版を遊んでくださった方が、ハードを新たに買わずとも『緋色の野望』を遊べるように……という思いもあります。
市川『サガ』のファンの方は、年齢層に幅があって、生活の様式も皆さん違うんですよね。PCでゲームを遊ばれている方もいれば、スマートフォンしか持っていない方もいる。できるだけ多くのハードで出させてもらって、多くのユーザーに遊んでもらいたいと思っています。
どんどん増えていった追加要素
――『緋色の野望』は、UIの改善やロード時間の短縮のほかにも、多数の追加要素がありますが、その中でも、やはり新キャラクターはひとつの目玉だと思います。カメリアとサビットが、新キャラクターとして選ばれた理由は?
河津あれはたまたま、小林さん(イラストレーター小林智美氏)に描いてもらった絵が、ふたつ残っていたので。「じゃあ、これを使おう!」と。カメリアは見た瞬間、「これは魔女狩り団」と決めました。
一同 (笑)。
――絵を見た瞬間に、ですか?(笑)
河津はい、「魔女狩り団!」と(笑)。
市川もともと、魔女狩り団という設定はあったんですか?
河津もともとあった、というほど、あったわけじゃないんですけど、「これは魔女狩り団」。サビットのほうは、●●●●の●●(※ネタバレのため、伏せました)とすぐに決めました。
――ところで私、『緋色の野望』をひと足先に遊ばせてもらって2周しているのですが、まだサビットを仲間にできていないんですけど……。
生田いやあ……もう少し仲間にしやすくしていたんですけど、河津さんがちょちょっとこう、手を入れたら、難しさがアップしてしまって。ふつうにプレイしていると、簡単には仲間にならないという認識ですね。
河津何か増やしちゃったんだっけ?(笑)。
生田当初はものすごく難しくて、それでは誰も仲間にできないので、少し条件を緩和させて、データを置いておいたんです。そうしたら、河津さんが「いい感じにしといたよ」と。それを見た自分は、「あ、うん……難しくなってるなあ……まあいいか」と、そのままにしました(笑)。
市川なかなか仲間にならないんですよ(笑)。
――そんな裏話が(笑)。そのほかの追加要素としては、やはり追加ボスの“緋の魔物”ですね。まさか全部の州にいるとは……。
生田「追加するんだったら、全部の州に入れたほうがいいんじゃない」と、河津さんが言いまして。
河津どこの州に置くか考えるのが面倒くさいから、いっそ全部に入れちまえ、って。生田くんが「(全州に追加)できる」って言ったから、じゃあやろうと(笑)。
――追加されるボスは、てっきり星神だと思っていました。
河津星神と戦うとなると、変な設定を作らないといけなくなるので。なんで戦うんだ? って。もともと、星神は戦うつもりではないんです。
――緋の魔物を全部倒すと、どうなりますか!?
生田何かがあるということだけは言えます! 1周目ですべて倒すという想定では作っていないので、勝てないと思ったら、つぎの周でチャレンジしてもらえればと思います。
――今回、周回がしやすくなりましたよね。どの要素を引き継ぐか、任意で選べますし。一度クリアーすると解禁される、バトル高速再生も便利です。
生田パートナーキャラクターに関するイベントも増えて、周回したときのおもしろさに厚みが増したと思います。それと、移動速度やロード時間の改善のほか、クリアーまでに必要な戦闘回数のバランスも調整していますので、4人クリアーまでのハードルは、オリジナル版よりも下がっているのではないかと思います。
――バトルの難度は、安楽石と艱難石(クリアー後に入手可能。周回するたびに入手数が増えていく)を使うことでも変えられますよね。
生田安楽石と艱難石は、オリジナル版を遊んだ方から、「『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』にあった、周回してジュエルを増やしていく要素があればいいな」という意見をいただいたことがきっかけで考えたものです。このゲームにはジュエルに相当するものはありませんが、周回して増える要素はあってもいいなと。
――オススメの使いかたは?
生田たとえば、敵が強いほどキャラクターは成長しやすくなるので、スピーディーに仲間を成長させたいときは艱難石を使ってみるとか。あえて主人公と相棒の二人旅でクリアーを目指したいなら、安楽石を使うといいと思います。
担当のこだわりが各所に詰まっている
――バトルボイスについてうかがいます。今回、主人公のバトルボイスが“デフォルト”と“アレンジ”から選べますが、こういったRPGには、なかなかないアイデアですよね。
河津あれは、『ドラゴンエイジ』のキャラメイクをしたときに、ボイスが選べたので、「チャンスがあれば、似たことをやりたいな」と思っていたんです。ゲーム的に、ほぼ必要はないんですけどね。
生田最初に話を聞いたときは、イベントのボイスも2種類録るのかと思って、ちょっとびっくりしたんですけど、「おもしろそうだな」って乗っかっちゃいまして……。最終的には、バトルボイスだけになりましたけど。
河津周回要素もありますし、その中で変化がつけられればいいなと。でも自分としては、最初は軽いネタのつもりで「2種類どうかな」と言ったのですが、みんな非常にまじめに受け取って(笑)。
市川「非常に『サガ』っぽいアイデアですね」、みたいな(笑)。まあ、費用が倍になるのですが……。
生田プロデューサーはたいへんだったと思います。申し訳ございません(笑)。でもおもしろいですよね。ボイスが入ったので、ゲームの雰囲気はだいぶ変わったという気がします。
――ボイスの内容、かなり遊んでいますよね。トマトとか、やられると「中身が出ちゃう」とか言うじゃないですか(笑)。
河津あれだけの人数のネタを考えるのは本当にたいへんでした。しんどかったです。
生田生田がボイス発生条件の候補を作って、「ここからどれくらい絞り込むかな」と思っていたらすべて採用となりましたし、しかも上がってきた各ボイスのテキストがひとつひとつ個性づけされていてびっくりしました。「ここまでやるんだ」って。
河津『アンリミテッド:サガ』でボイスを入れたとき、「このくらい、ボイスの使いどころを作らないと、おもしろくないよね」と思っていたんです。大概のゲームが、「やあっ」とか「おおっ」とか、掛け声しか言わないのがふつうですが、それだとロールプレイとしてはおもしろみがないので。その声が出たときに「来た!」と思うような、声が出ること自体がうれしいものにしたかったんです。
――アングルとルイースのあいだに特別なバトルボイスがあったりと、初期メンバー以外にもそういったボイスが用意されているのも驚きました。
生田「ここはイルフィー海つながりだよね」と、河津さんや各担当が考えたネタが入っています。
――バトルボイスは、すべて河津さんが書いたのですか?
河津いったん、担当を割り振って書いてもらって、修正を入れました。トマトとかは、全部自分で描き直しましたけど(笑)。
――それと、ラスボスですが、2周目だとボイスが違いませんか……?
生田じつはボイスが複数パターンあるんです、ラスボスは。ストーリー展開によって、ラスボスの雰囲気も変わるので。それに沿ったバトルボイスになっています。
河津オリジナル版のころから、ラスボスの性能は細かく変わるようになっていたんですが、ボイスが入ったことによって、それがわかりやすくなりましたね。
生田あの変わり様を見ると、主人公のデフォルト、アレンジの違いがかわいく見えますよね(笑)。
――周回するたびに、新鮮な気持ちで遊べます。
市川いろいろなところに手が加わっていて、オリジナル版をプレイされた方も、ぜんぜん違うゲームという感覚で受け止められるんじゃないかなと思っています。『サガ』をずいぶん遊んでいない方、「難しそうだな」と思って未プレイだった方には、ぜひ手に取ってもらいたいです。
生田シリーズ初めての方にも、ちゃんと遊んでもらえるように、という点はすごく意識しているので。個性派のRPGを触りたい方はぜひ!
河津(『緋色の野望』は)いちばん楽しい部分はバトルで、詰め将棋的というか、パズル的というか、1戦1戦攻略していくおもしろさがあるバトルになっています。そこをじっくり楽しんでもらいながら、世界観だったりキャラクターだったり、イベントだったりを楽しんでもらえれば幸いです。