2018年9月20日から9月23日まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018(20日・21日はビジネスデイ)。21日、バンダイナムコエンターテインメントブースにて行われた記者発表会にて、国内最大の格闘技イベント“RIZIN(ライジン:RIJIN FIGHTING FEDERATION)”が、esportsの試合を競技種目として正式採用。その第1弾として『鉄拳7』による対戦を、9月30日にさいたまスーパーアリーナーで開催される“RIZIN.13”にて行うことを明らかにした。
“鉄拳プロチャンピオンシップ 日本代表決定戦 Day1”の冒頭にセッティングされたこの会見。ステージにはRIJIN実行委員長の榊原信行氏、フジテレビ『いいすぽ!』チーフプロデューサーの門澤清太氏、『鉄拳』シリーズチーフプロデューサーの原田勝弘氏が登場。今回の試みについて経緯と、それぞれの立場からの展望を語った。
RIZINとは、総合格闘技、女子格闘、キッボクシングと複数のルールのもと、最強を決める戦いがくり広げられている日本最大の格闘技イベント。神童・那須川天心やツヨカワ女子・RENAといった人気選手を要し、これまでに数万人規模での大会開催を行っている。
榊原氏は、「世界に数多くある格闘技団体でも初の試みとなりますが、esportsを4つ目の競技種目に採用させていただいて、esportsでのリアルなガチバトルを展開したいと思っております」と宣言。RIZIN.13の全対戦カードに、『鉄拳』の試合を組み込むと発表した。続くカード発表では「こだわりたいのはトップアスリートに出てきてほしい。そして、できればナショナリズムをぶつけ合うということで、今回は日韓戦というマッチメークを提案させてもらいました。世界チャンピオンクラスの韓国選手3人に、日本のトップの『鉄拳』アスリートが挑む構図になるかと思います」と語り、鉄拳の試合もこれまでのRIZINの試合と同じく、選手紹介VTRや花道を使った入場など、通常の試合と同じフォーマットで行うことを説明。「20000人以上の観客の目前で(esports)トップアスリートの戦いを見せることは、新しい可能性を生み出すのではないでしょうか」と期待を寄せた。
esoorts専門番組『いいすぽ!』のチーフプロデューサー・門澤氏は、これまでのCS放送から地上波レギュラー放送(毎週木曜日)になることを発表。その第1回目(10月4日深夜26:03~)にRIZIN.13での対戦の模様をオンエアするという。「2016年の4月から我々がこれまで培ってきたノウハウを、放送という形で貢献できたら」と意気込みを語った。なお、試合会場ではフジテレビアナウンサーによる場内実況が付き、インターネット配信によるリアルタイム中継も行われるとのことだ。
ふたりの発言を受けて原田氏は、「格闘ゲームと格闘技は共通するものが多く、ひと握りのプロ選手以外でも“どっちが押しているか”がひと目でわかるので、観戦に向いている」と説明。強豪プレイヤーがひしめく日韓戦が組まれたことについても「プレイヤーごとにいろいろなファイトスタイル、ヒストリーを持っている。そうした部分もうまく取り込んで盛り上げていければ」と展望を語った。
RIJIN実行委員長の榊原信行氏に展望を聞く
やっぱりお互いの村社会から「あっちは盛り上がっているんだ」と他人事のように見ている場合じゃないんだろうなと。新しいパイを広げるためには異業種との積極的な交流が格闘技界にとってプラスになっていくはずだし、いろんなチャレンジをしていきたい。世界初の試みなので、RIJINファンがどういう反応を示すかわからない。でも、そういった歴史的な出来事の立会人として、RIJIN.13に立ち会えるということをどう評価してもらえるか。esportsという競技もひょっとしたら近い将来、リアルな格闘技選手もバーチャルな格闘家と戦っていく時代に突入するかもしれない。その未来をちょっと先取りした形で、実験的なチャレンジを行います。やるからには休憩時間の余興としてやるのではなく、esports界のトップアスリートたちをリスペクトして、ほかの競技と同じカードの中の1試合として取り上げます。RIJINのリアルな試合でやっている映像フォーマットなどは、バーチャルでもハマると思うのです。選手の生きざまやバックグラウンド、人間性にスポットライトを当てていく。そうした部分は我々の得意技。そこで僕らが一歩リードできれば、スポンサーさんの増加など、お互いの業界にとってのプラスになったらいいと思っています。
もうひとつの狙いとしては、前回大会で(テレビ中継の都合で)お客さんを待たせてしまったので、その反省もあります。リアルなものだけを見たいという人は、この時間を休憩時間にするかもしれない。緩衝材でもあるし、新しいチャレンジへの新規参入でもある。
RIJIN.13(に来場した)ファンの反応、(テレビ中継を見た)世間の反応を見て、RIJINとして今後esportsにどこまで舵を切るかを考えたい。リアルなものとバーチャルなものが両方味わえるのは、間違いなく世界初の試み。
出場選手はRIJINファイターとして扱います。そこに求心力と熱が生まれれば、「もっとトップアスリート同士の対戦が見たい」という人は少なからずいると思います。『鉄拳7』はシリーズ累計で4700万本が世界中に届いているのですから、我々としてはその人たちがゲームをきっかけにRIJINを知ってもらいたい。それぞれが持っているファン層をシェアしていくことになります。初の試みなのでどうなるのかはわかりませんが、ライブエンターテイメントを作ることは我々のストロングポイントなので、それを生かしてesports業界に参入していけたらと思います。
(「選手育成などの予定も?」という声に対して、)僕らとしては、競技会の舞台であるライブイベントを積極的に作っていきます。プレイヤーをサポートする企業はすでにあるから、そうして強くなったプレイヤーたちが「いつかはRIJINに出たい」と思うような場所を作っていきたいです。esportsの中にもいろいろな競技がありますが、『リーグ・オブ・レジェンド』などはプレイヤーじゃないと見ていて(優劣が)わかりにくいが、1対1の格闘ゲームは見ていてわかりやすい。なかでも『鉄拳』を選んだのは、いちばんリアルに近いから。当日は初めて見る人にもわかりやすいように、フジテレビの鈴木芳彦アナウンサーに場内実況を担当してもらうなど、ライブで楽しめるエンターテイメントに昇華させられたらいいなと思っています。
(感触がよければesportsマッチが増えていく可能性も?)
あります。今回はテストケースということで、入場から試合が終わるまで20分間程度の予定ですが、それを20000人のRIJINファンにプレゼンテーションしてみて、「もう見たくない」と言われたらもうやりません。逆に「これ、おもしろいじゃん!」と言われるようなら、(RIJINの舞台で花が咲いた)女子格闘技のように割合が増えていくかもしれません。リアル選手に対しては、「バーチャルな選手に負けるなよ」とハッパをかけたいです。
日本ではesportsという単語だけが先行して、その中身を誰もよくわかっていません。「ゲームを見て楽しんでもらう」ことがコンセプトとしてあるので、ライブエンターテイメントとしてどうショーアップして魅せられるか。そういう部分が、僕らとゲームメーカーさんが協力していくことで、esportsの祭典ができるんじゃないかなと。
世界のesportsシーンでいうと、ラスベガスで行われる“EVO”では最大級で15000人クラスの会場が埋まりますが、エンターテインメントのショーとしての作りはすごくチープです。それは競技者たちの発表会がベースにあるからなんですけど、お金を取って見てもらうモノとしては全然形になっていないので、僕らとしてもチャンスがあると思っています。日本発の格闘ゲームですから、日本に世界中のトップアスリートが集まって競ったら……そこは原田さんとも共通している部分です。
(リアルな格闘家がバーチャルに挑んでくるケースも?)デメトリアス・ジョンソン(元UFCフライ級王者)もプロゲーマーとして競技会に参加しているんですよね。だから“二足のわらじ”を履いたらいいじゃないですか。格闘家としてはイマイチでも、esportsなら超一流になれるかもしれない。裾野が広がる可能性は増やしていきたいですね。将来的には、RIJINでいうところの那須川天心や堀口恭司のような(スター的)存在が生まれるかもしれない。そういった意味では、フジテレビと組めたことは大きいですね。万人に広く届けるには、地上波は圧倒的な広報宣伝力がありますから。今年の年末にはバンダイナムコエンターテインメントさん、フジテレビさんとタッグを組んで、さらにスケールアップしたものを打ち上げられたらいいと思います。まずは9月30日に審判を仰ごうと。
さまざまな意味で驚きの発表となった、この試み。榊原氏が語ったように、肉体を伴ったリアルスポーツを観戦しにきたRIJINのファンが、今回の試みにどのような興味を示すのかはまったくの未知数。逆にesportsの側からしてみれば、入場前の“煽りV”やカクテル光線が飛び交うド派手な演出による盛り上げは、esportsシーンにおける新しい可能性を開く扉となるかもしれない。今回の試みで両者がどのような化学反応を示し、将来的になにをもたらすのか。当日の様子に期待したい。