コーラス・ワールドワイドから2019年春配信予定のNintendo Switch、プレイステーション4用ソフト『フォーゴットン・アン』は、人々から忘れ去られてしまったモノが行き着く世界“フォーゴットン・ランド”を舞台にした2Dシネマティックアドベンチャーだ。手描きのアニメで表現される主人公アンの冒険は、プレイヤーにとって忘れられない経験となりそうだ。日本人には親しみの湧くビジュアルを持つ『フォーゴットン・アン』の開発を手掛けるのは、デンマークにスタジオを構えるThroughLine Game。ここでは、CEOのアルフレッド・グエン氏に、同作の気になるあれこれを聞いてみた。
なお、『フォーゴットン・アン』は2018年9月20日~23日(20、21日はビジネスデイ)に千葉県・幕張メッセにて開催される東京ゲームショウ2018にプレイアブル出展予定。インタビューを読んで気になった方は、幕張メッセにてその魅力の一端を味わってみてはいかが?
――まずはThroughLine Gamesについてお訊かせください。開発の歴史や、スタジオの理念を教えていただけますか?
アルフレッド・グエン(以下アルフレッド) 私はアニメーション映画畑の出身なので、最初にまず、その分野での知識や人脈を生かしたゲームを創ろうと思いました。それで2014年に『フォーゴットン・アン』の最初のスケッチを描き上げ、現テクニカルディレクターのマイケル・ゴドロウスキー=マリニアックといっしょにスタジオを立ち上げたのです。以前はモバイルゲームの制作に携わっていたので、個人的にはもっと“インタラクティブなドラマ”の方向性を追求してみたいという思いがありました。小規模なモバイルゲームでは実現の難しい世界観やビジュアルを、時間をかけて創り上げてみたかったのです。
スタジオとしては、ストーリー主導型のゲーム体験に主眼を置いています。私たちは物語が日々の暮らしに意味を与えると考えており、多くの次元において“意義のある”プロジェクトだけを手掛けようと肝に銘じています。ゲームの開発は時間がかかりますし、手ごわいものです。プレイヤーの心に残る、おもしろいゲームを作るだけでなく、そのプロセスも個人的に意味のあるものにできたらと思います。
『フォーゴットン・アン』の開発では、ゲームの可能性に関しては制限を設けず、自由にイマジネーションを働かせました。スタジオのデビューを飾る作品ですし、志を高く持っていたのです。おかげで開発中は多くの変更を余儀なくされ、いろいろと学んだ(チームの誰ひとりとして、コンソールゲームの開発経験がなかったのですから!)わけですが、ゲームの仕上がりにはとても満足しています。本作は多くの面で、素晴らしい共同作業のたまものです。私たちがこのゲームに注ぎ込んだ情熱を、プレイヤーの皆さんにも感じていただけたら嬉しいですね。
――『フォーゴットン・アン』の開発は、どういったコンセプトをもとに始まったのでしょうか?
アルフレッド そもそものコンセプトは、“すべての失われたものや、忘れられたものが行き着く場所”である“フォーゴットン・ランド”を舞台に、アンと呼ばれる少女と、彼女のパーソナルな旅について語るというものでした。この世界へ迷い込んだモノたちは“フォーゴトリングス”と呼ばれ、人間の持ち主との関わり合いの中で自我や感情を育んでいった彼らは、いつか持ち主のもとへ帰ることを願っています。アンと、彼女の師匠であるボンクがなぜ、フォーゴットン・ランドへたどり着いたのかは謎ですが、彼らはこの世界で暮らしていて、すべてのモノが人間の世界へ帰れるよ
うになる、いわゆる“Ether Bridge”の建設に取り組んでいます。
ゲームのこうした設定のおかげで、人間であるとはどういうことなのか、より広い意味で掘り下げていくことができました。そして、この世界の秩序を守るべき“番人”でありながら、この世界における自分の居場所と目的を解き明かそうとするアンの物語を、よりパーソナルなレベルで語ることができたのではないかと思います。
――『フォーゴットン・アン』の開発中、とくに力を入れた部分はどこでしょうか?
アルフレッド 私たちが創ろうとしたのは、自分がまるで長編アニメの主人公になったように思える、シームレスかつ映画的な2Dアドベンチャーです。プレイヤーの選択によって展開が変化していくこの旅を、いかにビジュアルとサウンドによって表現するか――とくにその部分に力を入れました。プレイヤーが積極的にストーリーへ関わっていけるゲームは、映画よりもずっと、感情に訴えかける力が強いはずですし、だからこそ、アンの物語を伝えるためのゲームプレイやインタラクションの創出にこだわりました。そうしたコンセプトの最初の証明が、カットシーンからゲームプレイへのシームレスな移行です。でき合いのムービーを再生することは避けたかった。プレイヤーには最初から最後まで、一貫性のあるビジュアルの中でゲームに没頭してほしかったですから。
同じような理由から、プレイ中のロード画面は極力排除してありますし、“ゲームオーバー”も存在しません。サウンド面について言うと、私は誰よりも先にまず、作曲家とタッグを組んで、ゲームの進行に合わせて展開していく、ゲームのストーリーを反映させた音楽的なテーマを創り上げました。
『フォーゴットン・アン』にはアクションやパズルの要素もあり、おかげでプレイヤーは気が抜けません。彼らをゲームの世界へと引き込み、心地よいリズムとペースを生み出すのに一役買っています。
――アルフレッドさんは、スタジオジブリや、STUDIO 4℃に影響を受けたと伺いました。具体的にインスピレーションを受けたタイトルがあれば教えてください。
アルフレッド アートディレクターのアンダース・ハルトと私はどちらも、以前アニメ映画の制作に携わっていて、様々なスタジオの様々な作品から影響を受けています。日本のアニメに真剣に興味を持つようになったきっかけが、ジブリであることは否定しませんが、『鉄コン筋クリート』や『マインド・ゲーム』、それに今敏監督の『パーフェクトブルー』、『千年女王』、『東京ゴッドファーザーズ』といった作品の大ファンでもあります。今敏監督の『パプリカ』にはいろいろとなモノが街をパレードする有名なシーンがありますが、開発初期のストーリーボードにはオマージュとして、その場面に似たシーンが描き込まれていました。これらの作品はどれも力強い、独創的なビジュアルを持っていますが、その上でドラマ性に優れていることが素晴らしかった。だからこそ、私はアニメという媒体に取りつかれたのです。そこには強烈なヒューマニズムが流れていて、まるで一本の線で繋がっているように感じます。こうした映画のアートブックはすべて買い集めましたし、彩色された背景も研究しました。アニメーターのデビー・エクバーグとセバスチャン・リュングダールはいずれもスウェーデン出身ですが、しばらく日本に住んでアニメーションを勉強していました。そのため、アニメーション映画の語彙を用いたコミュニケーションには苦労しませんでしたね。
このプロジェクトの最初のプレゼン中、私たちが投資家へ提示したのは、プレイヤーが“ダークな”宮崎アニメの世界へ入り込み、実際にプレイできるというアイデアでした。その一方で、よりダークな西洋のおとぎ話に関する自分たちの知識を、ジブリ作品のカラフルで、イマジネーション豊かな世界と融合させたらおもしろいだろうと考えました。
――手描きアニメーションの採用は、ゲームにどういった効果を生んでいますか? 分かりやすい例があれば教えてください。
アルフレッド 最初に言っておくと、実際にゲームを作ってみて分かったのは、滑らかなアニメーション遷移と、優れた操作性をバランスよく両立させるのは至難の技であるということ。私たち
は、アンが本当にこの世界の一員であるかのように感じられることを目指しましたが、たとえばアンを自然に歩かせるとか、階段を上り下りさせるとか、そういった当初は簡単だろうと思っていたことが想像以上に難しかった。そういうわけで、アクションゲームとしては昨今のタイトルのようなスピード感には劣りますが、アンをフォーゴットン・ランドの世界に実在する、リアルなキャラクターとして描くにあたっては合理的なアプローチなのだと感じていただけたら幸いです。
――アニメパートの開発中、もっとも苦労した点はどこでしょうか?
アルフレッド メインキャラに関しては、伝統的なフレームベースのアニメーションを使うことで終始一貫していたのですが、アニメーションに必要なフレーム数がどんどん増えていった上、フォーゴトリングスに用いるアニメーション手法についても見極める必要がありました。最終的にはフレームベースのアニメーションと、2Dのスキンメッシュアニメーションを組み合わせることで、さほど時間をかけることなく、すべてのキャラクターをアニメーションさせることができました。仕上げや着色には外部フリーランスの方の力も借りています。主人公のアンを構成するフレーム数は最終的に、5000枚を超えました。
もうひとつ、ビジュアル全体の観点から興味深かった課題は、前景と背景に含まれる環境要素と、プレイヤーが実際に触れたり、ぶつかったりする要素とを、どうやってプレイに支障のないレベルで区別するかということ。複合的な視点からゲームを創り上げていく作業は確かにおもしろかったですが、制作のさほど遅くない段階で、この世界の景色を二次元ではなく、三次元で描くという方針に切り替えました。おかげでカメラを使った演出の幅が広がり、単純な視差効果を用いるよりも、豊かな奥行き感が生まれたのではないかと思います。
――キャラクターデザインやストーリーなどで、注目すべき点を挙げてください。
アルフレッド チームにはフォーゴトリングスのデザインやアニメーション専門のスタッフがいて、どんなモノを登場させるか考え、目のない彼らを擬人化させていく作業はとても楽しいものでした。明かせる範囲でお話しますと、主人公のアンは師匠のボンクが定めた秩序を守る役目を負っています。ボンクはほとんど塔にこもって、すべてのモノが人間の世界へ帰れることを約束する橋を建設しています。ところが水面下では、アンとボンクの存在を良く思わないフォーゴトリングスたちの反乱が進行しています。グループを率いるふたりのリーダー、フィグとバルブは対照的な性格をしていて、一方は平和的な解決を模索していますが、もう一方はどんどん悲観的になっているのです。
――ゲームが米国や欧州でリリースされた時の反応はどうでしたか?
アルフレッド プレイヤーからの反響の大きさに圧倒されましたね。胸の熱くなるような感謝のメールを受け取り、このゲームが人々に与えた影響の大きさを知って感激しました。もちろん、どんなゲームも全員に気に入ってはもらえません。簡単すぎるという意見や、逆に難しすぎるというプレイヤーもいました。テンポが遅すぎて入り込めないという方も。“ジブリアニメの世界でプレイしているような”という比較はよく目にしましたが、純粋にアニメーションの観点からすると、恐れ多いように感じます。ジブリアニメに注ぎ込まれている時間や労力、芸術性のスケールは、私たちとは比べものになりませんから。
――日本でのリリースについて率直な意見をお聞かせください。
アルフレッド コーラス・ワールドワイドさんの力を借りて、日本でのリリースが実現したことを嬉しく思いますが、正直、どういったことになるのか想像もつきません。日本のゲームファンが本作のビジュアルに共感しつつ、東洋と西洋のデザインとストーリーテリングを融合させた、私たちのオリジナリティーも感じていただけたら幸いです。
――本作の成功を受け、続編を開発する予定はありますか?
アルフレッド 『フォーゴットン・アン』の世界と、そこで暮らす何人かのキャラクターたちは多くの可能性を秘めており、より深く掘り下げていくことは可能でしょうが、私たちは本作で語られるストーリーにとても満足しています。解釈の余地は残されているものの、アンの物語は完結しているのです。もっとも、新しい世界を舞台にした、新しい物語のアイデアは豊富に持っていますし、新しいアニメーションの手法や技術を追求してみたい気持ちもあります。そうやって、常に刺激を受けていたいのです。今後もプレイヤーをあっと言わせるゲームを作っていきたいですね。
――最後に、本作のリリースを待ちわびている日本のゲームファンへひと言。
アルフレッド このゲームを背後で支えるスタイルやインスピレーション、人々についてはあまり深く考えず、ただただアンになりきって、この幻想的な世界を探検していただければと思います。そして想像力をめぐらせながら、私たちが創り上げたディテールを堪能し、ゲームをクリアーした暁にはぜひ、プレイの感想や意見をお聞かせください!
アルフレッド・グエン氏
ThroughLine Gamesの CEOで、『Forgotton Anne』のクリエイティブディレクター。2008年にデンマーク国立映画学校を卒業し、短編アニメ『Biet Ly』で表彰を受けた。以降はアニメとゲームの両業界でキャリアを積み、いくつかの人気モバイルゲームの制作に携わったのち、2014年に現リードプログラマーのマイケル・ゴドロウスキー=マリニアックとともにThroughLine Gamesを創設した。