アークシステムワークスから2018年にNintendo Switch/プレイステーション4/Xbox One/PCで発売予定のアクションアドベンチャーゲーム『THE MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』を紹介しよう。
本作を開発するのは、『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』などのアドベンチャーゲームで知られるSWERY氏のスタジオ“White Owls”。今回はなんと横視点からのパズルプラットフォームアクションゲーム的なスタイルに挑戦している。
先日シアトルで行われたゲームイベント“PAX WEST”に出展されたバージョンのデモでは、4つのステージを収録。ストーリーなどにまだ不明な点も多いが、“Swerism”(SWERY主義)と自称する独特な味の演出や世界観で知られる同氏らしいぶっ飛んだ内容だ。
ダメージによる負傷を逆に活かしてパズルを解く!
というのも、主人公のJ.Jと呼ばれる女の子は、ステージのトラップに引っかかったりすると負傷し、ヒドいときは生首だけになったりするのだが、いつでも全身を治癒できるという特殊能力を持つ(ちなみに負傷するとシルエット状態になるので、そこまでグロい見た目にはならない)。
そしてこれがパズルともつながっている。あえてトラップに当たって取れた手をぶん投げて遠くの物を落としたり、生首だけになって狭い通路を通り抜けたり、炎に飛び込んでみずからをトーチ代わりにしてみたり。本作ではダメージで不利になるのではなく、ダメージによる負傷・損傷を活かして道を切り拓いていくのだ。
また、単にダメージギミックを使うアクションパズル的な要素一辺倒ではなく、ポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲーム的な、周囲に落ちているアイテムや仕掛けを組み合わせて解くタイプの謎解きも入ってくる。
メッセンジャーアプリによるストーリー展開も
今回のデモでは、J.Jは親友のエミリーを捜しているらしいという大筋のストーリーと、なぜだかこの世界にクリーチャーが存在するということぐらいしかわからない。SWERY氏によると、近日そのあたりを公開するそうなので、詳細はそちらを待とう。
そんな中で、物語の展開に重要な役割を果たしそうなのがメッセンジャーアプリだ。J.Jはスマートフォンを持っており、ゲーム中のメニュー代わりになっているほか、ゲームの進行に合わせてさまざまなキャラクターから時折チャットが送られてくるようになっている。
もちろんやり取りはテキストメッセージだけではなく、(時にナンセンスな)スタンプの応酬にも発展。冗談半分にあえてキツめのスタンプを送ってみたり、素では言いにくいことをスタンプに託してみたりするあたりが「あるある」という感じだし、仲のいい友だちとチャットしているかのように軽快に話が進むので、これは見ていてなかなか楽しい。
発売は意外と早い? クリエイターインタビュー
というわけでPAX WEST版のデモのインプレッションをお届けしたが、まだまだ謎の多い本作。そこでディレクターを務めるSWERY氏に話を聞いた。
SWERY(すうぇりー)
本作を開発するWhite OwlsのCEO。本作ではディレクターを務める。
――今回は身体破壊がパズルの中に組み込まれています。生首だけになるギミックを使うゲームって、KONAMIがちょっと前に出した『NEVER DEAD』とか、Double Fine Productionsの『Headlander』とか、チョイチョイはありますけど、本作のアイデアはどのように生まれたのでしょうか。SWERY いままでのパズルプラットフォームアクションって、設置物や敵を利用してパズルを解くゲームがほとんどだと思うんです。たとえば「敵に火をつけて、それが燃えると道がひらけたり明かりになる」といったような。
でも「ここにもう1レイヤー、いままで思いつかなかったものを入れたいな」という思いがあったんです。それで、「じゃあ自分自身を使うのはどうだろう?」と。なぜそれが出たかと言うと、最近、不死身モノのアニメやマンガや映画って多いじゃないですか。そこから影響を受けたんじゃないかと思っています。
『無限の住人』(マンガ及びそれを原作にした映画)、『デッドプール』(アメコミ作品及び映画)、あとは『HEROES』(海外ドラマ)にも不死身の女の子が出てくるし、『七つの大罪』のバンとか『亜人』(いずれもマンガ及びアニメ)とかもそうですよね。
「でもゲームに意外と不死身モノがないよね」というのは思っていて、それで“自分”を使ったパズルをどう作ろうかと考えているときに、“自分自身を使ってギミックを解く”ことに行き着いつきました。ストーリーはまだ詳しく語れないのですが、主人公のJ.Jは見た目が悲惨な状況でステージを進んでいきますが、僕の中で彼女は不死身ヒーロー(ヒロイン)なんですよ。
――ダメージが進んで足が駄目になるとジャンプできなくなるのに、生首になるとジャンプできるようになるっていうのがおもしろいですよね。SWERY 火事場のクソ力ですね(笑)。ちなみに、首だけの状態でダメージを受けると死んでしまうのですが、どのような状態でも死なないかどうかはかなり社内で議論しました。それで「不死身とはいえ、もうこれ以上は駄目っていうのは必要でしょう」ということで、首を限界ギリギリの状態にしようと。でもジャンプはできる、というのは最初から考えていましたね。スタッフに「どうやって?」と聞かれましたが「気合で」と(笑)。
――パズルオンリーのチャレンジモード的なものはあるのでしょうか?SWERY 今回はストーリーモード1本です。スマートフォンの項目を見てもらってもわかる通り、“チート”というアンロック用のお楽しみ要素も用意しています。それと、普通にプレイしても見つけられないような場所に隠し通路があったりするので、結構やり込めると思いますよ。
――ゲームの長さはどれぐらいなのでしょうか?SWERY 僕が謎を知っている状態で、でもある程度迷いながらプレイをしたときに、クリアーまで8時間弱ぐらいでした。なので初見だと長い人で10時間ぐらい? とはいえパズルなので本当に早い人は3時間ぐらいで終わるかもしれません。答えがわかればガンガン進めますし、テキストを飛ばしまくる人はその時間がゼロになるので。
僕のプレイは全部やりますからね。隠し通路も全部入るし、テキストも全部読みますし。「自分で浸ってみておもしろいかどうか」をチェックしていたので。もしかすると普通のプレイヤーなら5~6時間ぐらいに収まるかもしれませんね。
――道中でドーナッツを取ることができますが、あれはどういうメリットがあるのでしょうか?SWERY ドーナッツを集めていくと、スペシャル特典としてスマートフォンのメニューにある、ギャラリー、チート、そしてJ.Jがどんな人物かがわかる過去のメッセージなどが解除されていきます。
――メッセンジャーが会話シーンになっているのがおもしろかったです。SWERY 横スクロールと決めた以上、(話を語るためのカットシーンなどで)できるだけカットチェンジをしないと決めたんです。ゲーム画面の中でストーリー表現をしていくようにこだわっています。それでよく(会話表現として)ふたつの顔を出してしゃべらせたりするじゃないですか。あれは今回違うかなというのがあって「若い女の子だからスマホでいいんじゃない?」とやってみたらうまくハマってくれて、すごく気に入っています。
――テンポ感とかスタンプで会話する感じとかもよかったです。SWERY スタンプで会話する感じは、いままで書いたシナリオの中でも表現として新しくて、自分でも気持ちよかったです。アメリカの友だちが何人かいて、彼らとやり取りするとすごくスタンプを使ってくるので、それに刺激されたところもありますね。
――この手のゲームだとステージとキャラクターのギミックで解くアクションパズル一辺倒の作りになりがちだと思うのですが、ちょっとアドベンチャーゲームっぽい、背景を推理するタイプの謎解きがちらほらあったのが、どこか「らしいな」と思いました。SWERY アークシステムワークスさんとやらせていただくときに、「ストーリーや世界観や手触りが、SWERYさんらしくなければやらない」と言っていただいたというのもありますが、感覚的なところが強いと思いますね。
ゲームデザイナーと僕でマップを作るときも、指先のテクニックを必要としすぎないようにしています。というのも、そうするとエンディングへ行けない人が増えてしまう。僕は「エンディング到達率100%」を目指しているので、指先のテクよりも発想重視に振るようにしているんです。PVを公開したときに「テクニックは必要ですか?」という質問がすごく届きましたが、ゲームのスタイルとテクニック性は分けて考えています。
――とくに推理系のパズルは、話や世界観の一部になっていそうだと感じることが多かったです。SWERY そこはすごくこだわっています。打ち合わせでアイデアを出すときに「Missingらしいか」、「世界観のテーマに沿っているか」という基準で判断していくのですが、パズルも同様です。最初はスタッフになかなか意図が伝わらなくてちょっとずれている提案も多かったのですが、後半はスタッフも慣れてきて「おお、Missingっぽいのを出してくるやん!」となったのが楽しかったですね。
ちなみに世界の雰囲気としては“アメリカーナ”をテーマにしていて、看板とかスマートフォンの柄なんかも、ちょっとノスタルジックなアメリカを感じられるものを意識して作っています。
――クリーチャーが出てきて、逃げるステージなんかもあったりしますが、戦うゲームではないんですね?SWERY はい。実際、アークシステムワークスさんとやるということで、「バトルもいるんじゃないか?」と考えたのですが、結論は「The Missingにおけるパズル的思考経路への雑音にしかならない」というものでした。というのは、敵が出てくればそれはパズルの一部として利用すべきものなのか、倒すべきものなのか曖昧にしてはいけないなと。それでバトルという要素は排除しています。
――J.Jはどういう状況に置かれているのでしょうか? エミリーという子を捜しているらしい、というのはわかりましたが。SWERY いま言えるのは、「“追憶島”と呼ばれる不思議な島に迷い込んだ主人公が、行方不明の友人を捜すために奥深くへと分け入っていく物語」ということです。
――ゲームが進むに連れて、彼女がなぜ何度も復活できるのかといったあたりは、明かされていくのでしょうか?SWERY はい、もちろん。物語の芯となる部分はもちろんちゃんと出てきます。
――オープニングで意味深なメッセージが出ますが、どういった意図なのでしょうか。SWERY 物語の核心に関わってくる部分ですね。そもそもなぜ欠損したり、焼け焦げたり悲惨なことになっているのか、それはゲームの物語や伝えたいメッセージと密接につながっているんです。なのでそれが見えてきたときに、じつは伝えたいことがあってこういう手法になっているのが理解しやすくなるかと思って入れています。
『The Missing』というタイトルにはいろんな意味があって、まずはエミリーが行方不明であるということの“Missing”。それ以外にも、人生の行方がわからなくなってしまうとか、人生で失ってしまったものとか、いろいろな意味を込めています。プレイヤーがJ.Jとの一体感を感じられる、プレイヤーも経験したことのあるだろう“Missing”を入れているので、最後まで遊んでいただいたら、オープニングのメッセージにもグッと来るんじゃないかと思います。
――追憶島に住人がいないように見えるのは何か理由があるのでしょうか?SWERY 「鋭いな!」とだけ言っておきます(笑)。
女性主人公のゲームを作りやすくなった
――並行して手掛けられている『The Good Life』と本作は、女性主人公という点が共通していたりもします。SWERY じつはずっと昔、『レッドシーズプロファイル』のオリジナル版のときから女性主人公で企画書を書いているのですが、全部落とされてきたんですよね。時代が合わなかったというか。「『Beyond Good & Evil』とか『トゥームレイダー』とかあるじゃないか」と言ってきたのですが、2000年代中盤あたりは誰も受け入れてくれなかったんですよ。それがいつぐらいだろう、『オーバーウォッチ』ぐらいからかな? 徐々に受け入れられるようになってきたんです。
――企画が通りやすくなったと。SWERY そうですね。いまは女性主人公の企画が通りやすくなったと感じています。なので今回、ストーリーでも一応フェミニンな部分を意識しています。日本だと女性に対して「ドラマは見るけど、ゲームはあまり遊ばない」みたいな固定観念があると思いますが、仮にそういう方でも最後まで見てもらえるように書いています。
――トレイラーの音楽がかっこよかったのですが、ゲーム中の音楽面はどうなのでしょう。SWERY 今回の音楽ディレクターは、『D4: Dark Dreams Don't Die』を担当してもらった、TECHNOuchiにお願いしています。楽曲では同じく『D4: Dark Dreams Don't Die』でハミングの曲などをやっていただいている深水チエさんにも入っていただいています。声やBGMの収録もこだわってやっているので、そのあたりも徐々に公開していくと思います。
パズルやゲームのデザインでも勝負したい
――SWERYさんといえば、「変わったストーリーやキャラクターのアドベンチャーゲームの人」というイメージの人も多いと思いますが、今回のゲームはパズルプラットフォームアクションで、これまでの作品と結構スタイルが違います。この企画はそもそもどうやって始まったのでしょうか。SWERY 会社の立ち上げと同時にこの企画を始めているので、実際はいろんなものが複合的に混ざり合っていますが、まずはWhite Owlsという新しいスタジオを作る際に、SWERYのイメージをもう一段階引き上げる何かが必要だと思っていたんです。
本当はゲーム性もちゃんと考えているのですが、あまりそこに注目されず、世界観やストーリーの人というイメージになっているので、原点回帰じゃないですけど、まずゲームデザインから先に練り込んでみようと。
それで、プレイヤーや敵のギミックがあったりするので、いちばんゲームが伝わりやすいというか、サイドスクロールのパズルが適しているんじゃないかというところがぼんやりあったんですよ。
セリフ少なめで世界観を提示するというチャレンジもしていますけど、昔のゲームってそうじゃないですか。背景が変わっていくと、いつの間にかちゃんと自分が感じる世界が変わっている。『マリオ』とかもそうですけど。そういうのを一度作ってみたいというのがあったんですよね。
――昔のゲームは確かに、世界観のちゃんとした説明は説明書に書いてあるかオープニングにちょっと出るぐらいですね。SWERY そうそう、自分もその世代の人なので。
それで、会社を立ち上げるときに、いちばん最初にチャンスをくださったのがアークシステムワークスの木戸岡社長だったんです。企画のブレインストーミングをしたときは、じつはこれ以外にもVRとかテキストアドベンチャーとか、いろいろ持っていきました。
でも「アークシステムワークスとしては、プレイヤーがアクションを感じられるものしかやりたくない」と言われたのが逆に渡りに船で、とっておきの企画として持っていたこの企画を出して、「アークさんと組む限りはゲーム性という部分でも新しいスタジオを押していくことができると思うので、この企画をやらせてください」と話をしたんですよ。
――White Owlsではもう1本『The Good Life』を進めていますが、そちらとの前後関係は?SWERY じつは『Good Life』の方が立ち上がったのが後なんです。会社の立ち上げ時に『The Missing』という企画はあって、それをやるためにスタッフを集めていったのがWhite Owlsです。立ち上げたのが2016年の11月1日で、12月1日に社員1名、フリーランス1名、そして僕という状態から開発を始めて、ずっとちまちま作ってきたものなんですね。
『The Good Life』が立ち上がったのはその後のGDCです。それは契約しているPRエージェントのUTAから「GDCでピッチ(企画提案)しなくてどうするんだ」という連絡が来て、長く温めていたけど製品になっていない企画があったので、それを復活させる形で企画書にして持っていったんですよ。
――『The Good Life』と2本同時にどうやって作っているのでしょう?SWERY 『The Missing』は基本的に社内で全部作っています。『The Good Life』はグランディングの福岡スタジオで開発していて、僕が週1回ビデオ会議を定例でやりながら、月に1回以上は福岡に行って現場で打ち合わせをするという体制になっています。
自分のシナリオやディレクションとして2本どうやって動かすかと言えば、2008年からずっと同時に2本以上、時には3本、オリジナルをやりながら必ず受託案件もやる形でゲームを作っていました。月水金と火木土で別のタイトルをやって、日曜日に自分の時間を使ってつぎのタイトルの仕込みをやっている感じですね。そういうのは10年ぐらい続けてきたので慣れました。
――今回、メディアに出展デモ用の実際のプログラムを配布したのに驚きました。自信を感じるというか、普通は発表したばかりのゲームのプログラムを直で配ったりはなかなかしないじゃないですか。SWERY 2月に出したビデオの通り、ヤバいものを作らせていただいていますし、先程もお話した通り「ゲーム性から発想するSWERY」を見てもらいたいということもあって、(PAXで体験するゲーマーだけではなく)メディアの方々の遊んだ反応もすごく知りたいんです。僕のことを知らない人も楽しめるゲームを作っているつもりなので、まず遊びの部分を見てもらうためにこういう形になりました。あえてストーリーを排除したデモをまず用意しているのもそういったところです。
――以前、これまでディレクションしてきたオリジナルゲームがそれぞれ世界観としてつながっているという話をされたことがありますが、今回はどうなのでしょう。SWERY そうですね、世界観としては同じSWERYバース(SWERY世界ぐらいの意)です。今回も同じ名前の違うキャラがいたりするので、気づく人はいると思いますね。
――さて最後に、2018年発売となっていますが、もう9月です。発売はいつごろでしょうか?SWERY いつものSWERYらしからぬ発言と思うかもしれませんが、お待たせしません。公式サイトなどで情報をアップデートしていきますので、ぜひチェックしてください。