E3 2018で発表された、原則としてセリフや音楽による情報伝達はなく、目の前で起こる出来事から物語を考察していくスクウェア・エニックスの意欲作『THE QUIET MAN(ザ クワイエットマン)』(対応機種はプレイステーション4、PC)。2018年8月21日~25日(現地時間)ドイツ・ケルンメッセにて開催中のヨーロッパ最大規模のゲームイベントgamescom 2018で、プロデューサーの藤永健生氏(スクウェア・エニックス)と、アートディレクターのAshley Welch氏(human head studios)、リードエンバイロメント・アーティストのRandy Redetzke氏(human head studios)、そして実写パートの撮影を担当した濱田修一郎氏(オムニバス・ジャパン)に話をうかがう機会を得たので、謎多き本作について訊いた。

『THE QUIET MAN』実写の映像で起きる現象をUIに利用するシネマティックへのこだわり【gamescom 2018】_01
写真左からプロデューサーの藤永健生氏(スクウェア・エニックス)、リードエンバイロメント・アーティストのRandy Redetzke氏(human head studios)、アートディレクターのAshley Welch氏(human head studios)、実写パートの撮影を担当した濱田修一郎氏(オムニバス・ジャパン)

――この企画は、いつごろから温めていたんですか?

藤永 10年くらい前から温めていた企画でした。念頭にあったのは“言葉を必要としないストーリー”。ファミコン時間のアクションゲームなどは、言葉がなくてもすごく楽しいものでしたが、映画のようなクオリティーのものを、言葉なしで表現したらどうなるだろうと。私はこの作品がプロデューサーとして第1作目になるのですが、いくつか考えていた企画の中から、いちばん尖った、誰もやらないであろう今回の企画を実現することに決めたんです。

――ちなみに藤永さんは、これまでどんなタイトルに携わってきたのですか?

藤永 私は市村(市村龍太郎氏。『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』などのプロデューサー)のアシスタントプロデューサーをやっていて、『超速変形ジャイロゼッター』や『星のドラゴンクエスト』、そのほかでは『無限ナイツ』などの開発に携わっていました。

――一部を除いて基本的に音楽やセリフ、字幕による情報伝達はない、という企画を聞いて開発する側としてはどういった感想を持ちましたか?

Ashley とても挑戦的でワクワクしましたが、果たしてゲームとして成立させられるか、遊んでおもしろい作品に仕上げられるかプレッシャーはありました。また、音がまったくないわけではなく、デインに聞こえている声や環境音をどう表現するかは悩みました。

藤永 このゲームの企画をやると決めて、最初に相談したのは音楽ディレクターだったのですが、「音がないゲームを作りたい」と持ちかけると、当然ですけど「コイツ、何言ってるの?」という反応でした(笑)。ただ、デインはまるっきり音が聞こえないわけではなく、何かが鳴っている。彼が感じている“音が聞こえない世界”をサウンドデザインしてほしいとお願いしました。打撃音もデインが聞いている打撃音、振動を想像して、新たな解釈でイチからデザインしてもらいました。

――制作はどのように進めていったのですか?

濱田 まずは物語、脚本作りを藤永さんと始めて、それと平行してゲーム部分の開発はプロトタイプを作り、世界観やビジュアルのイメージを固めていきました。その世界観、ビジュアルイメージに合うロケーションとして、ニューヨークで撮影することに決定し、約1年前に実写の撮影を行いました。撮影時はCGグラフィックのスタッフも同行し、実写シーンと同じグラフィックにするために、シーンごとに同じライト(光)をキャプチャーするといった作業も行いました。撮影はタイトなスケジュールでしたし、CG用のデータも収集する必要があったので、たいへんでしたね(笑)。

――しかも海外での撮影ですし。

濱田 コアスタッフはある程度英語を話せる日本人でかためて行ったのですが、現地スタッフとの文化の違いや考えかたの違いもあったりして、短期間の撮影でみんなをまとめる苦労は尽きませんでした。

――実写とCGがシームレスでつながる表現も苦労があったのでは?

Ashley そうですね。キャラクターモデル、アニメーション、ライティング、カメラワークなどを実写と合わせる必要があったのでデリケートな作業が必要でした。しかも、何かを少し変更するだけで、実写との違和感が出てくるので、たとえばポーズを少し変えるだけでも、ライティングやアニメーションの調整も必要になるため、試行錯誤にすごく時間がかかるんです。

Randy 私はゲーム内のライティングの調整を担当したのですが、実写でもそうですが、ライティングひとつでキャラクターがゴリラに見えたり、人に見えたりするんです。ゲーム内のライティングが映像のデキをかなり左右するので、そこの調整はたいへんでした。

――映画のようなゲームということで、UIも特殊ですね。

藤永 昔ながらのベルトスクロールアクションには体力ゲージがあって、あと一撃でやられるとか、敵にどれくらいダメージを与えているかなどがわかるようになっていましたよね? それはゲームが機能するために必要な表示ですが、本作でそれをやってしまうと、我々が目指す映画を観ているようなシネマティックな体験が損なわれるので、それはナシでやってくれとムチャ振りをしました。

Ashley そこで、実写の映像で発生するレンズフレア(レンズに強い光が入ることで、撮影した映像が白っぽくなったり、光がにじんだりする現象のこと)という現象をCGパートのゲージとして利用しよう、というアイデアが出てきました。画面右側のレンズフレアっぽい表現がゲージになっていて、これが青く光るとゲージが溜まったことを表現しています。ゲージが溜まるとフォーカスモードが発動でき、それを発動すると、特別なカメラアングルが用意されたフィニッシュムーブというダイナミックな技をくり出せます。

Randy 主人公デインの目的などもテキストで表示するのではなく、ダブルエクスポージャー(別々に写した被写体をひとつの画面に重ねる技法)のような映像でデインの考えを想起されたり、過去の出来事がフラッシュバックして、物語のバッググラウンドがわかるような演出も取り入れています。

――先ほど話しに出たフィニッシュムーブのパターンはどれくらいあるのですか?

藤永 100くらいですね。特定の場所やシチュエーションでしか発動できない、といったものもあります。昔のゲームのように説明もなく技を発見する喜びを感じてほしいので、「こんな攻撃もあるのか」と驚いていただければうれしいです。

――実際に、セリフがない映像だけで物語を想像させるゲームを作ってみて、いかがですか? わかりやすい単純な話だとセリフ等がない意味が薄れますし、かといって物語が複雑するぎるとついていけないし……。

藤永 QAチーム(ゲームに不具合がないか検査するチーム)に「このシーンはどういう内容だと思うか」というリサーチをしたんですが、意外と理解しているなと(笑)。ここまでは伝わってほしい、というラインよりはるかに超えて理解をしている人が多くて、手応えは感じました。でも、謎に感じる部分も当然あるので、そういったところはプレイヤーどうしで意見を交換して、物語を補完したり解釈を深めてほしいですね。

――なるほど。どう見たか、どう感じたか、というのは人によって感じかたがけっこう違うかもしれませんし、それが本作の魅力のひとつでもあるんですね。最後に、気になる発売はいつごろになるんでしょうか。

藤永 なるべくお待たせせずにリリースする予定ですので、もう少しお待ちください。