とにかくIPをリスペクトして……
ここでは、2018年8月2日に行われた“2018 PlayStation Press Conference in China”開催後に実施された、プレイステーション4用ソフトウェア『MONKEY KING: HERO IS BACK』のプレゼンテーションの模様をお届けしよう。プレゼンを担当したのは、プロデューサーを務めるソニー・インタラクティブエンタテインメント 北川竜大氏と、ディレクターのヘキサドライブ 服部達也氏。
そもそもこの『MONKEY KING: HERO IS BACK』は、極めて興味深いプロジェクトだ。2015年に中国で劇場公開され、空前絶後の大ヒットを記録したアニメ映画『MONKEY KING: HERO IS BACK』のゲーム化プロジェクトとして、プレイステーション4向けに開発中であることが発表されたのが昨年(2017年)のChina Joyにおいて。“中国屈指のIPの大型ゲーム化プロジェクト”として、いやが上にも期待は高まったわけだが、その詳細がいよいよ明らされたのだ。
冒頭で北川氏は、「本作はプレイステーションユーザーはもちろんのこと、新しいユーザーにもプレイしてほしいです」とコメント。つまり、本作が『MONKEY KING: HERO IS BACK』の中国の高い知名度を活かして、新規ユーザー獲得のための“最終兵器”みたいな位置づけにあるというわけだ。「子どもから大人まで遊べるようなゲームを目指しています。プレイステーションに触ったことがない方にも楽しんでほしい」という。
ゲームで描かれるのは、映画とは世界観、ストーリーラインは共通ながらも、パラレルワールドのような位置づけになるという。それは、ゲームと映画ではメディアとしての属性が異なるためで、ストーリーの流れは映画と共通ながらも、「映画では描かれていないエピソードも追加されています」と服部氏。当然のこと、新しい敵やステージも追加されており、このへんは『MONKEY KING: HERO IS BACK』ファンの心をくすぐる部分だと言えるだろう。ただし、原作の世界観に反することがないように、新しい敵のデザインは、映画のアートワークを踏襲しているという。
では、キモとなるバトルはどうだったのだろうか? 映画の原作元である十月文化社からは、「アクションシーンでは、 “張力”を気にして作ってほしい」という要望があったと明かした服部氏は、そのリクエストに応えるべく新しいスタイルのバトルを模索したという。“張力”とは、マンガにおけるある種の誇張表現のようなもので、これを聞いたときに服部氏は、「“初期の『ドラゴンボール』”や“1980年代のジャッキー・チェンの映画のようなアクション”」をイメージし、映画を見ている初心者が対象であることから、「シンプルでコミカルなアクション」を目指したという。
ちなみに、本作では主要キャラクターとして、主人公である大聖(孫悟空)と江流児、八戒がいるが、プレイヤーが操作できるのは大聖となり、江流児と八戒はサポートキャラクターとなるようだ。
さて、中国屈指のIPをゲーム化する本作だが、その座組は、原作が十月文化社、ゲームビジネスのパートナーとしてOasis Gamesという中国企業、開発がソニー・インタラクティブエンタテインメントとヘキサドライブという、いわば日中共同のユニークなプロジェクトとなる。「国も違えば、バックボーンやカルチャーも違う。そういうクリエイターたちがいっしょにモノを作るのはたいへん」(北川氏)というのは、想像するにあまりある素直な感慨と言えるだろう。開発を担当したヘキサドライブの服部氏も、「短い期間でたいへんなことをやらなければならないということで、IPをリスペクトしつつ、とにかくプレイしておもしろいものを作るということで、落とし込んでいきました」と語る。「(中国側と)激論を交わして、作りあげて、苦難を克服していきました。何かあると直接話し合いにいきましたね」と、相当なやりとりを重ねたようだ。その結果、こちらが新しい表現を提案しても、クリエイティブを信じて理解を示してくれるようになった」というから、つまりは信頼関係が得られたということなのだろう。中国文化をコアにして、日本人のエッセンスでアレンジしながらゲームというジャンルに落とし込んだ。それが『MONKEY KING: HERO IS BACK』というタイトルだ。
なお、この日中共同という座組は、音楽部分に関してもあてはまる。本作のエンディング楽曲の作曲・編曲を、中国でも人気の高いGARNiDELiAのtokuが担当するのはカンファレンスで明らかにされた通りだが、ゲーム内の音楽も、VANGUARD SOUNDとノイジークロークという、中日の企業が担当することになるという。「ノイジークロークさんにはサウンドデザイン全体をディレクションしてもらい、VANGUARD SOUNDさんには、ゲーム中の印象的なシーンの楽曲制作をお願いしました。中国的なセンスを活かしたサウンドを期待しています」(服部氏)とのことだ。
日本での展開は現時点では未定
と、ひととおりゲームのプレゼンが終わったあとは、質疑応答へ。まずストーリー面での質問に関しては、本作はオープンワールドではなくストーリードリブンのタイプであることが語られた。また、「大聖はどのような状態になったらゲームオーバーになるのか?」との質問も発せられた。これは映画では大聖が不老不死であることから来た質問のようであるが、服部氏は想定していた質問であったようで、「大聖は不老不死なので、当然浮かぶ疑問ですよね」と前置きしつつ、「ちょっとトリッキーな仕様を入れています。詳細は製品版でご確認いただければ……」と、気になるお返事。
「プレイ時間が10時間とのことだが、それはカットシーンも含むのか?」との質問も飛び出した。それに対して、北川・服部両氏からは、カットシーンも含めての10時間だが、「極力ゲームを止めたくない」という方針で、ストーリーを把握できるのがおよそ10時間であり、すべてを楽しもうと思ったらもっと時間がかかるということが説明された。
“やりこみ要素”というのが、取材陣の気になるポイントのひとつであったようだが(皆さんコアゲーマーだから)、それに関する北川・服部両氏のコメントをピックアップすると、本作にはRPG要素もあり、2~3周目もあるそうだが、詳細は時期尚早ということで語られなかった。「詳細はお話できないのですが、けっこうなやりこみ要素がありますよ」と服部氏。
もちろん、「本作は、初心者に訴求するとのことだが、コアユーザーは楽しめるのか?」との、もっともな疑問も出された。これに対して服部氏は「あります!」と即答。「初心者が爽快に遊べるのはもちろん、コアゲーマーも楽しめるように気を配っています。コアゲーマーは、プレイすると“こういうテクニカルなアクションもあるんだ”と気づくような、いわば階段のようなゲームデザインになっているんです」という。北川氏も、「よく“コアもライトも遊べます”といいますが、それを実現するのはたしかに難しいです」と認めたうえで、「本作は、“こういうふうに楽しめるんだ”ということを盛り込んだタイトルにしています」とのことだ。
中には、プレゼン時の“ジャッキー・チェンの映画にインスパイアを受けた”という説明が気になった取材陣もいたようで、「ジャッキー・チェンのパクリになってはいないのか?」という、記者も思わず「あるわけないだろう」とつぶやいてしまうような質問もあったが、服部氏からは当然のように「そんなことはなくて、雰囲気を取り入れています」との返答が聞かれた。ちなみに、服部氏は生粋のジャッキーフリークで、30年以上にわたってジャッキー映画を見続けているとのこと。さらには映画も大好きというから(ヘキサドライブの公式ホームページのブログには映画に関する記載多し!)、この『MONKEY KING: HERO IS BACK』はまさに服部氏が手掛けるべきゲームだったと言えるのかもしれない。
なお、ゲーム『MONKEY KING: HERO IS BACK』のリリースが決定しているのは現時点では中国のみ。「ほか地域への展開はどうなるのか?」との問いも当然のようにあったが、北川氏が「本作にはコミカルな要素もあれば、かっこいい要素もあります。それは世界共通で受けいれられると思っています。中国文化に根ざしたアートワークではありますが、中国以外にも訴求できると思っています」と語るに留まった。実際のところ、本作は日中共同プロジェクトであり、リリースするなら日本でも……という気もするのだが、現段階では明確なお返事が口にされることはなかった。この点は吉報を待ちたいところだ。
質疑応答は、予定されていた時間を20分も超えても継続されるなど、中国メディア陣の『MONKEY KING: HERO IS BACK』に対する関心の強さと、疑問点があれば、しっかりと応えるという、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの真摯な姿勢がうかがわれた。いずれにせよ、プレイステーションフォーマットの中国進出を象徴するようなビッグプロジェクト『MONKEY KING: HERO IS BACK』がどのような成果を結ぶのか……2019年初頭という中国での発売日を楽しみに待つとしよう。