吉田修平氏とAI研究家の森川幸人が語るAIの可能性、「AIでキャラクターの心もリアルになる」【BitSummit Volume 6】

会期2日目のメインステージにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏と、モリカトロン 代表取締役 森川幸人氏による“AI and Consoles”が行われた。

 2018年5月12日、13日に京都勧業館 みやこめっせにて開催されたインディーゲームの一大祭典BitSummit Volume 6。会期2日目のメインステージにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏と、モリカトロン 代表取締役 森川幸人氏による“AI and Consoles”が行われた。吉田修平氏と言えばBitSummitの常連で、毎年ゲストを招いてトークをくり広げている。今回ゲストとして招かれたのは、『がんばれ森川君2号』や『アストロノーカ』などのゲームを手掛けたことで知られるAI研究家の森川幸人氏で、セッションは森川氏のAIの話を吉田氏が聞くというスタイルで行われた。

吉田修平氏(左)と森川幸人氏(右)。落ち着いた雰囲気でトークはスタート。

 2017年8月に日本初のゲームAI専門開発会社モリカトロンを設立したばかりの森川氏(自身の名前が社名に入っているのは渋々承諾したらしい)。社名のモリカトロンは「アミノ酸の一種ですか?」との吉田氏の軽いギャグに、森川氏「マジレスすると、昔“パーフェクトロン”というAIがあって、そのモデルが好きだったので、それにあやかっています」と返答。そんな微笑ましいやりとりで、セッションはスタートした。

日本初のゲームAI専門開発会社が誕生――ゲームAIの第一人者、森川幸人氏率いるモリカトロン株式会社が設立

2017年8月16日、日本初のゲーム専用AI会社として、モリカトロン株式会社の設立が発表された。

 吉田氏によると、いま世の中でいまディープラーニングやマシンラーニングなど、たくさんの情報量をサーバーで処理するという手法が流行っているが、ゲームのAIはそういう流れとはぜんぜん違うところで発展したという。それに対して森川氏は、「世の中のAIは正しいか、正しくないかの世界で、ただしいことを学習させようとするのがAIの目的なのですが、ことゲームに関していうと、“正しい”ではなくて、“楽しい”になるので、作りかたが根本から異なります」と返事。当然のこと、“楽しい”をAIに伝えるのは難易度が高い。

 さらにゲームで難しいのは、ゲームは瞬間で返事を返していかないといけないので、サーバーにデータを上げておいて、一晩で計算させるといった時間はない点だという。さらに言えば、ゲーム機はメモリも少ないし、CPUのパワーも少ない。しかもユーザーはすぐに答えを欲しがるということで、そこがハードルになるという。

 おつぎは、新しい会社のモリカトロンでいま取り組んでいる仕事の内容に。同社では、とあるメーカーからの、「キャラクターをスクリプトで動かすと、機械的になってしまうので、もうちょっと生き物らしい動きができないか」ということで、AIに載せ換える作業などをしているという。

 「スクリプトをAIに載せ換えるとゲームがどうおもしろくなるのか?」との吉田氏の質問には、スクリプトは、開発者が書いたとおりの動きしかしないので、退屈なのだという。スクリプトを書いた人のイメージがキャラクターの限界になってしまう。それがAIを使うと、AIが自分に考えるので、プランナーが想像もしなかったような戦略を出してくる。自分たちの想像を越えたことをしてくれるので、開発者はうれしいというわけだ。たとえば、もうすぐリリースされるとあるゲームでは、アーチャーが攻撃できないエリアがあって、開発者も気づいていなかったという。AIがそこに逃げ込んで、ひたすら前に来る敵を撃つというチート的なことを見つけたという。「AIがデバッグをしてくれた」(吉田氏)というわけだ。

 吉田氏によるとAIをどう使えるかに興味を持っているそうだが、人気作のシューターのチートを見つけるのにAIを使ったら、マニュアルで対応するよりも10倍くらい効率がよくなったという例もあるそうだ。ゲームのAIということ、キャラクターの心を作るという発想になりがちであるが、バグを見つけるといった開発面でも役に立つことが多いようだ。実際のところ『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』では、開発者が夜帰ったあとに、BOTをマップ中で走らせて、処理落ちやコリジョン抜けをオートで検証していたという。これからは、AIを駆使してのそういった作業が主流になりそうだ。「AIはブラックとは言いませんからね。一晩中働いてくれます」(森川氏)、「AIはサボらない、疲れない」(吉田氏)と軽妙な掛け合いで来場者を喜ばせるおふたり。まあ、それはAIですからね。とはいえ、「(AIは)ただ、自主的にもやらないですね……」と森川氏。

 一方で、吉田氏が興味を持っているのは、デジタルキャラクターに生命を吹き込むこと。相手が思いもよらない行動をするマルチプレイは楽しいものだが、「AIでも、人間くさい動きができるようになるんですかね?」との吉田氏の質問に、これまでのゲームの進化はグラフィックのリアルを追い求めてきたが、「キャラクターの心の部分だけが置き去りにされてきました」(森川氏)という。いよいよ心の部分もリアルになってこないといけないという。そのときに役に立つのがAIというわけだ。「本イベントのリポート記事があるとしたら、見出しは“森川幸人いわくAIで心の部分もリアルになる”ですね」と、吉田氏も感銘を受けた様子。

 ちなみに、欧米では、FPSのブラインドテストでAIのシューターを入れても4割くらいの確率で見抜かれないという。「AIも人のように振る舞えつつある」と森川氏。

 では、インディーや個人の開発者が手軽にAIを使える時代は来るのだろうか? それに対して森川氏は、昔はフルスクラッチで作る必要があったが、いまではAIのAPIなどは簡単に入手できる時代になったので、いちから作る必要はないので楽になったとのこと。さらに、モリカトロンとしては、UnityやUnrealのように、AIのツールを提供していきたいという。森川氏は、「気が付かなかったようなAIの使いかたをぜひ見てみたい」という。そういうことが起こるのがBitSummitのような場だと、インディーゲームに期待を寄せる。

 最後に吉田氏の、「『森川君2号』や『アストロノーカ』、『くまうた』といった、AIをガツンと使った、飛び抜けたアイデアのゲームはインディーならできますよね?」との問いかけに、森川氏は、「じつはAIとインディーは相性がいいと思うんです」と返答。AIというと大手スタジオしか使えないような印象があるが、意外とインディーのゲームアイデアと相性がいいという。「来年のBitSummitで、森川さんに“やってみろ!”と言えるようなタイトルを期待します」との吉田氏のエールで、講演は締めくくられた。