2018年4月1日にエムツーが突如発表した新作シューティングゲーム『もののけ忍法帖』。エイプリルフールに発表されたとあって、「これってネタなの? 本気なの?」と、シューティングゲームファン、クラシックゲームファンたちをざわつかせたことは記憶に新しいはず。そこでその真偽の程を確かめるべく、エムツー本社にて代表の堀井直樹氏、プロモーション担当の駒林貴行氏に緊急インタビューを敢行をした。だが、話は思わぬ方向へと転がり始め……。
実験作が気づけば本気プロジェクトに
――どこまでが本当で、どこまでがフェイクなのかを聞きにきました。
堀井 いきなりネタばらしになりますが、企画書が発掘されたというのはウソです。まず1988年にエムツーは存在していませんからね。俺、まだ高校生だし。
――では、あの「30年前に作られた」という企画書はネタ用にわざわざ作成したということですか。
堀井 そういうことです。ただ、ゲームはちゃんと作っていて、もう動いているんですよ。それを「どういうふうに露出したら喜んでいただけるのか?」を考えたときに、エイプリルフールにあわせて発表するのがよさそうだぞ、と。
駒林 ゲームファンの注目がネットに集まるタイミングでお披露目したということですね。「あれけっきょく何なんだろう」ってネタにしていただける状況が、我々としては一番嬉しいですね。ちなみにでっちあげた企画書は、わざわざ汚しを入れたりしています。ごめんなさい!
――わかりました。つぎに、リリースではアーケード向けに展開予定とうたっていましたが、こちらは?
堀井 これも本気です。ただ、まだ具体的にどのプラットフォームで、というのは模索中です。アーケードを手掛けているメーカーさんに、「これ、どうですか?」という話をしている段階。すでに数社さんからは、興味アリの返事をいただいています。
――本気で取り組んでいると。では、そもそもこのタイトルはどのように作られたのですか?
堀井 これがちょっと変わったスタートを切っているんです。最初は「シューティングゲームを作ろう!」という明確な意思はなく、弊社のゲームエンジン“Kaleido ADV Workshopで、どこまでゲームが作れるのだろうという実験からスタートしています。もともとはノベルゲーム用として開発したエンジンなのですが、けっこう自由度の高いスクリプトを採用しているので、どこまで表現力を高めることができるのだろうという実験を指示しました。それに興味を持った有志のスタッフが「(ノベルゲームではない)何か作れるんじゃない?」試してみたところ……。
駒林 「できるんじゃないの?」、「できる、できる!」から、「形になっているじゃん!」っていう。
堀井 実験を始めた当初はプランもなく「無理して出さなくてもノウハウが蓄積されればオーケー」という気持ちだったんですけど、気がついたら短期間でゲームが動くところまできたので、「けっこうすごいぞ」と。
――具体的には?
堀井 2、3ヵ月くらいですね。着手したのは1月に入ってからだよね?
駒林 本格的に動いたのは年明けくらいからですね。
――なぜ実験をしようと思われたのでしょう。
堀井 もとはノベルゲーム向けとはいっても、何でもできるようにしておきたい。たとえば『サクラ大戦』で使われている“LIPS”って、リアルタイムにゲージが変わって、それに対してプレイヤーが反応をするじゃないですか。そういうことをできるようにしたエンジンって、突き詰めていくと変数も持てて座標も持てて、その気になれば当たり判定も持てて……つまり、(フラグ管理やオブジェクト描画だけではない)何でもできるモノが必要になるんです。
――わかりました。しかし年単位が当たり前となっているゲーム開発からすると、数ヵ月というのは恐ろしく短い期間です。
堀井 それだけパッとゲームが動かせるのは実験として十分に成功。いまのゲーム会社って、新人でプロジェクトに関わっても、それが出るまで3、4年はかかるじゃないですか。
――「毎日草木のオブジェクトだけを作っています」みたいな分業エピソードは、大型プロジェクトではよく聞く話です。
堀井 いまどきのソーシャルゲームでもそうですよ。それが、ゲームの規模は違うとは言え、数ヵ月でアルファ版(最初期の試作品)ができあがった。だったらそれを完成させるところまで進めるのは悪くないなと思いまして。今回同席してもらった駒林は、もとはゲームショップBEEP秋葉原の店長で、ゲーム制作に関してはまったくの素人。そうした若い人が、いちからゲーム作りを短期間で体験できるのは、すごくいい経験になるということで、今回、広報の域を超えたまとめ役をしてもらうことになりました。
駒林 自分の隣の席で開発が進んでいたこともあって、マップのエディットなどを手伝っていました。さしあたっての業務は、公式サイトの英訳だったり、スタッフ一覧にネタを仕込むことですね。
堀井 なにしろもとが実験作なもので、“和風のシューティングゲーム”というプロット以外、設定も何もない。それをエイプリルフールで発表するために、いろいろとでっち上げる作業をしてもらいました。
駒林 ストーリー設定や海外向けページ用の英訳を受け持ちました。「スタッフ一覧は映画風にして」というオーダーだったので、少ない人数を水増ししたり。マニアックなネタも挟み込んでいるので、わかっている人は何かの折に僕にお声がけください(笑)。
――発表を見た皆さんの反応はどうだったのでしょう。
堀井 ありがたいことにこれが皆さん、とても好意的な反応でした! もしスルーされていたら、この取材は受けてないです。「エイプリルフールネタに仕立ててあるから、そこまで深く見る人はいないだろうね」と思っていたら、ツイッターで「あれって、フェイクで作るよりゲーム作っちゃったほうが速いですよね」というリプがあって、わかる人にはわかるんだな~と。
駒林 楽しんでいただけるような要素はちりばめたつもりです。
堀井 ツイッターでの反応が、国ごとに違っていたのもおもしろかったですね。日本では「1988年にエムツーってないよね」っていう考察があったり、北米勢は英語の翻訳に対して「ゲームの名前、絶対に狙っているよね」っていう話をして、中国の方は「キャラクターのおっぱいがデカイよね」で盛り上がっている。界隈ごとにぜんぜん違う反応をしていたので、ワールドワイドで売れるゲームを作るのは大変だねって思いました(笑)。
“僕にもできそう”な遊びを目指して
――ここからはゲームについての具体的なことをお伺いしていきます。稼動予定はいつごろになるのでしょう?
堀井 現場の忙しさ次第ですが、夏前くらいにはロケテスト版を皆さんに一度触っていただける状況にはしたほうがいいんじゃないかと思っています。社長としての目的のひとつに、短期間でモノを作って世に出して、レスポンスもらって「一本仕上げたね」という状況を作り出したいのです。それを受け、世間の声に揉まれて愕然とするもよし、思っていたよりはよい結果になったと喜ぶのもよし。
――シューティングゲームとした理由は?
堀井 実験を担当した人間がシューティングゲームがすごく好きだからです。私からはとくに「これを作って」というのはなくて、気がついたら『もののけ忍法帖』の雛形が動いていました。
駒林 しかも社内の人間も好きな人が多いから、シューティングが動いていると、通りがかりの人があーだこーだ言うんですよね(笑)。そのたびに少しずつ変わっていくので、ある意味その人たち全員がスタッフと言えるかもしれません。
堀井 骨格を研究担当者が作って、あとはみんなで肉付けしていったわけです。
――ゲームはどんなテイストなのでしょうか。PVを見る限り、1980年代テイストという印象を受けるのですが。
堀井 狙ってくる弾をきっちり避けていくゲームになっていますね。狙い弾だから避けなきゃいけないのはわかっているんだけど、そこで欲を出すとミスるテクニカルスコアシステムが入っています。PVを見て「これなら僕にもできそうだ」って思った人はその通りの印象のゲームになっていると思います。
――初心者でも遊べるシンプルさを持ちつつ、スコアラーの人たちにも満足して貰える仕組みは用意されていると。
駒林 いまの時代パッと見で「僕にもできそう」なシューティングゲームってほとんどないじゃないですか。スコアに関して言えば、やっぱりアーケードで稼動する以上は外せないですよね。
堀井 いま仕込んでいる、新規性のあることが言えればいいんですけどね。ぶっちゃけ、1UP取りに行ったら2回死んだみたいなゲーム性です。
――PVでゲーム画面を見ると、過去のタイトルのパロディとも感じ取れる部分がありました。
堀井 パロディのつもりではなく作っているはずです。先程行ったようにシューティングゲーム大好きなスタッフが作っているので、過去作へのオマージュみたいなものはあると思います。ただ、絵を描いている人はいろいろと狙っていたかもしれません(笑)。
駒林 補足になるんですけど、PVって1分30秒を飽きずに最後まで見て貰う必要があるので、あえてそういった部分をチョイスしているというのもあります。レトロゲーム好きな方って「この○○って○○だよね!」な、元ネタ探しを好まれる傾向がありますので、実際に出るのはあくまでエッセンスという感じですね。でも「オリジナルのシューティングです」と言いつつも、ちょっと既視感があるバランスだと嬉しいですよね。
堀井 口実な気もするけど、好きにやっているよね。
アーケード参入に賭ける想いと考え
――ここまでのお話を踏まえて改めてお聞きするのですが、なぜアーケードゲームにしたのでしょうか?
堀井 こういうことを言ったらいい加減怒られそうなんですけど、うちの会社はゲーセン小僧が立ち上げているから、というのが理由です。Heyさんの協力で『バトルガレッガ Rev.2016』をフィールドテストさせてもらったときに思ったのですが、やっぱり自分が作ったゲームを遊んでいる人を直に見られる環境って最高なんですよ。遊んでもらった人に褒めてもらったり、文句を言われたい。
――100円を払ってプレイするスタイルにこだわりたい?
堀井 じつはそこらへんも考えたいところで、いまの世に100円を払って遊んでいただくゲームを出すにはどういうやりかたをすればよいのか。100円3分(平均の難易度)にするのが妥当なのか、それとももう少し賢いことができるのかっていうのは、リリースまでの課題です。
――うまい人ほどプレイ時間が長くなるというのは、ゲームセンター側にとって見ればありがたくない話です。
堀井 昔『コットン』というゲームが、2周目を遊ぶのに追加で1クレジットを求めたり、ミカドさんだとタイトルによって1プレイ200円に設定していますよね。それって、長く遊んで「もうちょっとお金を払ってね」という考えからだと思うんです。
――『もののけ忍法帖』でもそうしたフレキシブルな価格設定を導入したい、と。
堀井 思いつきレベルのことを言うと、最初に200円を入れておくと2周目以降の挑戦権が得られる、とか?
駒林 アーケードの『ダライアスバースト アナザークロニクル』が複数クレジットで残機無制限をやっていました。シューティングゲームって、最後まで見たいという欲がかなり強いと思うんですけど、それが必ずできるのは凄くよいシステムだなと思うので。
堀井 そういう話はやっていけばいっぱい出ると思っています。たとえば2分間のスコアアタックモードを作るとして、2分間100円ではなく、300円で10分間やり直し放題だったらどうなのみたいな。やっぱり稼ぎにミスったらリセットしたくなりますから、時間貸し方式にして。
駒林 なるべくお客さんが喜びつつ、オペレーターさんも得をするという方法を考えていかなくちゃいけませんね。
――わかりました。夏予定のロケーションテストに向けてがんばってください。
堀井 プロジェクトの立ち上がりの経緯からすると、熱いうちにどんと出してしまったほうがいいですよね。炒めものみたいな感じですので、火を通し過ぎてもなんですしっていうところで。
駒林 シューティングゲームですから丁寧に作りたい気持ちはあるので、生煮えにはならない程度に。
堀井 まずは遊んでいただける状況を作って、その反応を見ながらつぎの手を打つのも、いまのゲームの作りかたなので。
最新バージョンのスクリーンショットを公開!
インタビュー後に、実際に動作している開発バージョンの『もののけ忍法帖』を見ることができた。まだ未完成のためプレイはできなかったが、見ている限りそのテイストは、いわゆる“弾幕シュー”以前の世代の遊び。サイン波を描いて飛来する敵編隊を狙い撃つという“あのころ”な感じの遊びには、どこかほっこりさせられる。