アメリカ・サンフランシスコにて、2018年3月19日~3月23日(現地時間)の期間で開催されているGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018。会期2日目、バンダイナムコスタジオの本山博文氏によるセッション“'Pac-Man' HoloLens: Developing a Mixed Reality Game for a Broad Audience”が行われた。

 このセッションは、マイクロソフトのHoloLensを使ったMRアトラクション『PAC IN TOWN(パック イン タウン)』を開発するうえでの工夫や、開発を経て得た知見を語ったもの。リアル・パックマン・アトラクションである『PAC IN TOWN』は、2017年秋にオーストリアで行われたArs Electronica Festivalにて初出。日本では、2018年1月15日から5月6日までの期間限定で、東京・池袋のナンジャタウンで提供されている。ナンジャタウンでは、これまで8000人ものプレイヤーが楽しんだとのこと。

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 『PAC IN TOWN』では、HoloLensを装着すると、目の前に『パックマン』の世界が広がる。3人のプレイヤーは、自身がパックマンとなって、互いに協力しながらクリアー(ゴーストを避けつつ、制限時間内にすべてのクッキーを食べる)を目指す。

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『パックマン』ファンが長年夢見ていた、リアルの世界で『パックマン』を楽しむという体験を、最新技術を使って実現した『PAC IN TOWN』。

 この『PAC IN TOWN』は、かなり小規模のチームで作られた(クリエイティブディレクター、プログラマー、アーティスト)。また、プロトタイプの開発期間はたったの1ヵ月。この短い期間での開発が可能だったのは、先に取り組んでいたMRアトラクション『一網打尽!蚊取りパッチン大作戦』のツールが活かせたからだという。

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プロトタイプを1ヵ月で作って、Ars Electronica Festivalに展示。そこから1ヵ月の最適化期間を経て、ナンジャタウンに展示。怒涛のスケジュールだ。

MRならではの楽しい体験を生み出すために

 『PAC IN TOWN』には、3つのコンセプトがあった。1.現実世界で、2.プレイヤーが協力しあい、3.多様な役割を演じることだ。これを柱に、ゲームデザインが進められたという。

 MRアトラクションとして楽しめるように、まず、ゴーストの振る舞いが変わった。パックマンを追いかけるという従来の動きから、周囲をパトロールするという動きに変化。これは、プレイヤーがしっかり時間を使って(かつ安全な場所で)、戦略を立てられるようにするためだ。

 また、『パックマン』でおなじみの迷路を90度傾けて配置。そして、オブジェクトをすべて同じ高さにすることで、プレイヤーが顔を横に動かすだけで状況を把握できるようにした。状況が見えないと、プレイヤーにとって、ゲーム体験がストレスフルなものになってしまうためだ。

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 さて前述の通り、『PAC IN TOWN』は3人で遊ぶものになっているが、周囲からは「なぜ、従来の『パックマン』のように、シングルプレイで楽しむゲームデザインにしなかったの?」という疑問の声が上がったという。これに対し、本山氏は“MRは協力プレイに適しており、それはとても楽しい体験(extremely FUN!)だからだ”と答える。

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 共通の目的が与えられることで、自然とコミュニケーションが生まれ、お互いにアドバイスを送り合う。また、周囲を自由に動くことができるので、スポーツのように楽しめる。HoloLens越しに現実世界が見えているので、事故の危険性もない、と本山氏はアピールした。

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達成時に、思わずハイタッチをしてしまう体験が生まれる。

MRアトラクション運営の課題と解決法

 続く話題は、MRアトラクションを運営するうえで、考慮すべき点について。本山氏は、4つの課題と、その解決方法を説明した。

1.プレイヤーの見ている光景は、他者からは見えない→オペレーター、観客用の映像を設ける
アトラクションを遊んでいるプレイヤーは、一人称視点で楽しんでいる。これとは別に、観客とオペレーターが状況を把握するための映像が必要となる。アトラクションを成功させるには、その場にいる全員が感覚を共有すべきだからだ。『PAC IN TOWN』では、Kinect V2を利用したシステムを使うことで、この課題を解決した。

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2.ほとんどのプレイヤーが、HoloLensを使ったことがない→ゲームプレイの前に、どんな光景が見えるか説明
MRアトラクションは、多くの人にとって未知の存在。どんな体験ができるのか、ピンとこないだろう。そこで、実際にどのような映像が見えるのかを、ゲームプレイ前に解説。視野について説明するとき、あえて青い枠を用いるようにした。“この枠の中に、デジタルの世界がある”と説明することで、理解を促したという。

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3.テーマパークでは、周囲の音がうるさい→耳あてを作成
巨大な展示イベントや、テーマパークでは、あちこちでさまざまな音が鳴っている。これがゲームプレイを阻害するのを防ぐため、耳あてを独自で作成。この耳あては、音量ボタンや明度調整ボタンをうっかり押してしまうというミスも防いでくれる。

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本山氏の左に置いてあるのが、オリジナル耳あて(のレプリカ)。

4.HoloLens装着までに時間がかかる→ゲーム開始までのステップをできるだけ簡略化
前述の通り、ほとんどのプレイヤーが、HoloLensは未体験。装着するにも時間がかかる。運営チームは、Ars Electronica Festivalでのフィードバックを得て、ナンジャタウンではより少ない手順で装着が完了するように工夫したとのこと。

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MRは新たな遊びをもたらし、交流をうながす

 『PAC IN TOWN』の開発・運営を経て、MRが現実世界に新しい遊びをもたらすことを学んだ本山氏。また、VRコンテンツに比べて、作らなければならないアセットが少ないため、費用対効果が高いと分析する。そして、人々のコミュニケーションを促進するという効果もある。赤の他人が相手でも、エンターテインメントを通じて仲よくなれる――MRコンテンツはそのポテンシャルを秘めているのだと本山氏は語った。

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設備やインテリアに力を入れられるテーマパークとの相性もばっちり、と本山氏。
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体験者から寄せられたメッセージ。ソーシャル性の高さを絶賛している。

 冒頭で述べた通り、『PAC IN TOWN』は、期間限定でナンジャタウンで展開中。興味を持った人は、ぜひアトラクションに参加して、このセッションで語られたMRの可能性を、みずからの肌で感じてみてはいかがだろうか。

『PAC IN TOWN』アトラクション情報ページ
http://www.namco.co.jp/tp/namja/attraction/PAC-IN-TOWN.html