2018年2月8日にリリースされた2KとFiraxis Gamesによる『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI 文明の興亡』は、2016年に配信された『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』の拡張パックだ。2年間の進化がきっちりと盛り込まれた、“完全版”となっている。ここでは、本作にてリードデザイナーを担当するFiraxis Gamesのエド・ビーチ氏に、メールインタビューを敢行した。気になるポイントの数々をうかがっているので、しかとお読みあれ。

『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI 文明の興亡』での注力ポイントをリードデザイナーのエド・ビーチ氏に聞く、すべて中心にあるのは“忠誠心”システム_02

エド・ビーチ氏

 『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』シリーズのリードデザイナー。ダートマス大学卒、専攻はコンピューター科学、ロシア語、及びロシア文学。Firaxis入社前は、NASAでハッブル宇宙望遠鏡チームのプログラマーとして働く一方で、自由時間を使って、『Here I Stand』や『Virgin Queen』など、数々の賞を受賞したボードゲームのデザインも手掛けていた。ゲーム業界に転向して以降は、膨大な数のゲームでプロデューサー及びデザイナーとして製作に携わる。最新作は、『シドマイヤーズ シヴィライゼーション V』の拡張パック『神々と諸王』、『素晴らしき新世界』。

――『文明の興亡』への拡張にあたり、『シヴィライゼーション VI』をこういった方向に進化させたい、といったような、全体の指針などはあったのでしょうか。とくに、ユーザーに向けて、どのように楽しんでもらいたいと意識したかも教えてください。

エド 今回に限らず、拡張パックの開発にあたっては、私たちの作品がいまどのような状態にあるのか、事前に綿密な分析を行っています。『シヴィライゼーション VI』の発売後の経過はとても満足のいくものでしたが、文明と文明の境界が変動しつづけるようにすれば、ゲームの中盤や終盤の展開がいまよりさらにおもしろくなるのでは、と考えました。そこで思いついたのが、“忠誠心”という新システムを軸にした、“変わりつづける帝国”というアイディアです。これが今回の拡張パックの核になりました。その後、黄金時代と暗黒時代、総督、同盟などのシステムを作りましたが、すべての中心にあるのは“忠誠心”システムです。

――“公約”を決めたり、都市に目的に沿ったタイプの“総督”を配置するなど、『文明の興亡』では全体的にプレイヤーがつぎにすることを明確にしていくシステムが増えているかと思います。このガイドラインが色濃く出ているシステム面について、導入の理由を教えてください。

エド 『シヴィライゼーション』シリーズのプレイは長時間に及びます。そこで、厚い本がいくつかの章に分かれているように、『シヴィライゼーション』にも章の概念を取り入れたいと考えました。“公約”は各時代の冒頭に決めますが、これによってプレイヤーには、時代とは文明が紡ぐ長い物語を区切る“章”なのだ、と感じてもらえるようになったと思います。つまりこれらは文明の進む道を決める指針ではなく、これまでに歩んできた道のりを振り返ると同時に、これから人々を待ち受けている未来に想いを馳せるための、ささやかな幕間のようなものなのです。

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“公約”。各時代に偉大な功績を成し遂げることで“時代スコア”が溜まり、それが何点溜まっているかで、つぎの時代がどのような時代になるのかが決定する。

――『文明の興亡』では“総督”での補助や“黄金時代”、“英雄時代”でのさらなる加速が得られるなど、ゲームスピードがさらに加速しているかと思います。これらの加速をもたらすシステムを導入した狙いは?

エド たしかにゲームスピードを上げる要素も追加しましたが、その一方でゲームスピードを下げるために手を加えた要素もあります。ふたつほど例を挙げましょう。
(1) 以前は人口1につき科学力0.7を得られましたが、これを0.5に引き下げました。
(2) “合理主義”など、ゲーム中盤の政策には区域の産出量を2倍にするものがありましたが、現在は大きな隣接ボーナスがあってなおかつ都市の人口が11以上でないと産出量は2倍になりません。
 このように、『文明の興亡』はすべてのバランスを見直すよい機会になりました。総督による都市の特色の強化などの新システムが導入されたことで、これまで文明への貢献度が高すぎた地方は、貢献度が弱まっています。全体として見れば、ゲームスピードは以前とそれほど変わらないのではないでしょうか。

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黄金時代では、各都市の忠誠心にボーナスが得られる。

――『文明の興亡』では“忠誠心”によって、強引な手段に頼らない、都市を巡る新たな駆け引きが生まれています。さらに“緊急事態”が宣言されるようになったりと、強引な介入に大きなリスクが伴うようになりました。これらのシステムの、導入の狙いを教えてください。『シヴィライゼーション VI』では高い価値の都市を奪うことに大きなリスクがありましたが、これらのシステムはそのさらなる発展ということになるのですか?

エド はい、おっしゃるとおり、征服によって領土を広げようとするプレイヤーにとって、これは新しいリスクです。軍事的な征服によってゲームに勝つことが、これまでは少し簡単すぎたと思います。そこで、制覇による勝利をもっと歯応えのあるものにしようと考えたわけです。この目標の達成には、“忠誠心”が大きく貢献してくれました。また、“忠誠心”は時代の重要性も高めてくれました。隣りの文明は黄金時代を迎えているのに、自分の文明は暗黒時代に陥るなんて、誰だってごめんこうむりたいはずです!

――『文明の興亡』では“同盟”が分かりやすくカテゴライズされ、その効果も長期になるほど強力になった分、同盟の破棄や変更はしづらくなったように思えます。 前バージョンでも港を通じた連携の強化などがアップデートで加わっていましたが、これらの同盟や連携の強化を導入した理由は?

エド 以前のバージョンでは、同盟を結ぶことで特定のプレイヤーから攻撃される心配がなくなり、ゲーム後半であれば“研究協定”という恩恵も得られました。しかし、それ以上でもそれ以下でもありません。そこで今回は、長期的な戦略的協力関係に具体的で価値のあるメリットを持たせることで、プレイヤーとAIのどちらもがそうした関係を積極的に構築するように仕向けようと考えました。そしてこの目標を達成するのに必要だったのが、時間の経過に応じてレベルアップし、研究、文化、経済など、特定のゲームシステムに焦点を当てることが可能な同盟だったのです。

――一度に9人もの新指導者を加え、さらに楽しみかたの幅が広がりました。この9名を選んだ特別な理由を教えてください。一貫したテーマなどはあったのでしょうか。

エド 『文明の興亡』の新指導者には、繁栄の時代や苦難の時代に国を導いた人々を選びました。タマルはグルジアに黄金時代をもたらし、ウィルヘルミナは第二次世界大戦中、亡命政府を樹立してオランダを導きました。スペインはその黄金時代に領土を南米各地に広げましたが、彼らに戦いを挑んだラウタロも『文明の興亡』にぴったりの指導者だと思います。

――9名の新指導者の中でも、とくに『文明の興亡』ならではの新たな楽しみかたができそうな指導者を挙げるとしたら、誰でしょうか。

エド お勧めはグルジアのタマル女王ですね。きっとグルジアは長い黄金時代を謳歌できるはずです。宗教を見つけてそれを近隣の都市国家に広め、同盟相手を増やのがポイントです!

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グルジアを導く指導者のタマル。固有ユニットはヘヴスレティで固有建造物はツィク、指導者の固有の能力は世界と王国と信仰の誉れ、文明の固有能力は団結は力なりとなる。

――『文明の興亡』ではシステムやUIが整理されたことで、初心者でも非常に遊びやすいタイトルになっていると思います。本作から『シドマイヤーズ シヴィライゼーション』を初めて遊ぶプレイヤーもいるかと思いますので、現在実装済みの指導者の中で、とくに初心者でも本作を楽しんでもらえそうな指導者を挙げていただけますでしょうか。

エド ひいき目を抜きにして、日本はよい選択だと思います。いろいろな状況に対応できる文明なので、どんな種類の勝利でも目指せます。隣接ボーナスが増えるように区域を配置するコツもすぐに覚えられるでしょう。

――前バージョンでも多くのアップデートがありましたが、『文明の興亡』でもその予定はあるのでしょうか。

エド それについては続報をお待ちください。近日中に発表できるはずですので。

――最後に、『シドマイヤーズ シヴィライゼーション』シリーズを楽しんでいるプレイヤーの皆さんへ、メッセージをお願いします。
エド 日本にもこんなにも熱心なプレイヤーの方たちがいてくださることを、とても嬉しく思います。『シヴィライゼーション』シリーズは一筋縄ではいかないゲームですが、“七転び八起き”の精神で楽しんでください!