スクウェア・エニックスより2018年2月15日に発売予定のPS Vita/PS4/PC(Steam)用ソフト『聖剣伝説2 シークレット オブ マナ』。同作は、1993年に発売されたスーパーファミコン用ソフト『聖剣伝説2』のフルリメイク作品であり、3D化されたグラフィックやフルボイスで展開するストーリーが楽しめる。そして楽曲は、すべて新たにアレンジされて収録される(オリジナル版の楽曲も収録されており、オプションで切り換え可能)。
本記事では、オリジナル版ですべての作曲を担当し、フルリメイク版では作曲・楽曲監修を務める菊田裕樹氏のインタビューをお届け。オリジナル版開発当時の思い出や、本作のサウンドにかける想いをうかがった。
菊田裕樹氏(きくた ひろき)
旧スクウェア在籍時、『聖剣伝説2』、『聖剣伝説3』などのサウンドを担当。現在はフリーの作曲家として活躍中で、セガゲームスの『シャイニング』シリーズなどに楽曲を提供している。
未来の子どもたちへ伝えたい“想い”を込めて作った曲たち
――菊田さんは、スーパーファミコンで発売されたオリジナル版で全楽曲を手掛けられていますが、まずは当時のスクウェアでどのように開発していたのかという思い出からお聞かせいただけますでしょうか。
菊田入社して最初に行った仕事は、『ファイナルファンタジーIV』のデバッグでした。当時の社員は40人くらいで、ビルのワンフロアの規模だったので、全員が顔見知りみたいな雰囲気でしたね。私がゲームのデバッグをしている横では、河津さん(※河津秋敏氏。『サガ』シリーズなどを生み出したスクウェア・エニックスのゲームクリエイター)が椅子を並べて寝ていたりと、いま振り返るとすごい開発環境でしたね(笑)。
――そんななかで、『聖剣伝説2』の開発では、コンポーザーとして楽曲を担当されましたが、開発を振り返って、いかがでしょうか?
菊田当時のスクウェアは、グラフィック担当、サウンド担当、プログラム担当など、ゲームに携わるすべての人が、スタートからゴールまで付きっきりになるという開発スタイルだったんです。ゲームの開発というのは「どんなゲームを作ろうか」というところから始まるので、現場にいる誰もゲームの全体像が見えていませんでした。そのため、曲についても「こういう雰囲気にしてほしい」というリクエストは当然ありませんでした。みんなでご飯を食べたりしながら、開発するゲームについてなんとなく話し始めて、少しずつ世界観、グラフィック、キャラクターが見え始めたころから、「自分が作らないといけない音楽は、多分こんな感じなんだろうな」と想像しつつ、やっと作曲に手をつけていった感じですね。
――その後、できあがった楽曲を、石井さん(※石井浩一氏。『聖剣伝説』を第1作から手掛けたゲームクリエイター。現在は株式会社グレッゾの代表取締役を務める)にチェックしていただくという流れですか?
菊田いや、そういう流れはありませんでした。と言うのも、当時は、楽曲担当が一切の責任を持って作曲するというのがスクウェアの方針だったんです。当時の作曲チームのリーダーは植松さん(※植松伸夫氏。『ファイナルファンタジー』シリーズを始め、当時のスクウェアゲームサウンドの中心となった人物)だったのですが、植松さんは「何も言わないで任せるから、ひとり1タイトルの楽曲を責任を持って担当しろ」と。
――それは菊田さんたちコンポーザーの方々を、信頼していたからこそなのでしょうね。
菊田自由にできるけど、そのゲームの音楽の評価と責任は自分の肩にかかっているので、プレッシャーもありました。
――『聖剣伝説2』は、多彩なジャンルの曲が収録されていることが印象的ですが、作曲の方向性はどのように考えたのですか?
菊田私たちが作っているRPGって、主人公たちが世界中を旅するというのが当時の特徴でしたよね。『聖剣伝説2』の場合は、自分の住んでた村を追い出されて、いろいろな場所に行って、いろいろな人に出会って……。現実では、国が変われば文化も音楽も変わりますから、『聖剣伝説2』でも、場所が変われば音楽のジャンルが変わっていいんじゃないかと思ったんです。ゲームを遊ぶ子どもたちがいろいろなジャンルの音楽に出会って、新しく興味をもってもらえたらいいなと。『呪術師』の曲では“ケチャ”をモチーフにしていますが、私自身がケチャを聴いたときにすごい衝撃を受けたので、その衝撃を、子どもたちにも感じてもらえたなと。音楽って、そういったチカラを持っているんですよね。
――『呪術師』の曲で使われている、人間の声のような音もインパクトがありましたが、タイトル画面で使われていたクジラの声(※ゲーム起動時、スクウェアのロゴが表示されているときに鳴る)も、かなり衝撃的でした。
菊田本作にはマナの樹という重要なキーワードが登場しますが、マナの樹というのは生き物だと私は思っているんです。『聖剣伝説』のモンスターはかわいいデザインのものも多くて、敵というよりも、そこに棲んでいる生き物というイメージがありますよね。ゲーム中の世界は、いろいろな生き物や命で満ちている。だから、この生き物の声で、その世界を表現してみたかった。それを、ゲームを起動させていちばんに感じてほしかったので、タイトル画面でクジラの鳴き声を入れたんです。クジラを選んだのは、自分たちの世界でいちばん大きい生きものだからです。あの鳴き声は実際に録音したものを使っているのですが、あの短さなのにかなりのデータ容量でした。たぶん、どの楽器よりも容量が大きかったんじゃないですかね(笑)。
――あの声の背景には、そういった想いがあったんですね。ちなみに、リメイク版ではクジラの鳴き声は?
菊田それは乞うご期待ということで(笑)。
――そちらも楽しみです(笑)。ちなみに、手探りの開発だったとのことですが、最初に完成した楽曲は何だったのですか?
菊田最初に完成したのは『妖精族のこども』でしたが、すぐにはお披露目しませんでした。
――えっ、なぜですか?
菊田最初にできあがったということは、いちばん長くスタッフが聴くことになるということですよね。飽きられたくないから、自信作だったこの曲はすぐには出しませんでした。
――なるほど。
菊田その飽きるという話につながるのですが、私の作曲のテーマとして、“いかに飽きないか”というのを重視しています。RPGは、同じBGMを比較的長く聴き続けますよね。長いものだと、数十時間聴くものもあります。そういった理由があるので、私が作曲をするときには、ふだんから“盛り上がるけど、あまり主張しない曲”になるように気を配っています。聴こえているけど、それは環境音的なもので、最終的には慣れて聴こえなくなるような。無茶な注文だと思うんですが、それをしなきゃいけないのがゲーム音楽なんじゃないかって思っています。そういう意味では『少年は荒野をめざす』は長く聴くし、難しかったですね。
――その『少年は荒野をめざす』という曲名は、吉野朔実さんのマンガのタイトルから来たものですよね。『聖剣伝説2』の曲名には、ほかにも元ネタがあるものが多くありますが、なぜそのように曲名をつけたのですか?
菊田さきほどの“世界の音楽を聴いてほしい”という話にもつながるんですけど、子どもたちの心に“何か”を残したかったんです。いまは気がつかなくても、5年後10年後にまた本作をプレイしたり、サントラで曲名を見たりしたときに、「この曲名はどういう意味なんだろう」と元ネタを調べたくなるような名前にしたいなと。
――新しい体験につながるような仕掛けということでしょうか。
菊田作り手の私たちが影響を受けてきたものとか、体験した作品につながっていくようなきっかけを残しておきたかったんです。それがちゃんと機能すれば、プレイした人たちがそこから新しい作品に出会って、より文化的な体験ができると思うんです。『子午線の祀り』というタイトルは、木下順二氏が手掛けた戯曲が元ネタになっています。私は高校生のときにこの『子午線の祀り』の演劇を観て、ものすごい衝撃と感動を受けたんです。『聖剣伝説2』の楽曲にそういったタイトルをつけることで、プレイした人が元ネタを調べたときに、「こういう作品があったんだ」と知ってくれればうれしいですね。
リメイク版『聖剣伝説2』は、25周年を経てのお祭りにしたい
――そういった想いが詰まったゲームが25年前に誕生し、そして今回、リメイク版が制作されることになりました。リメイクのお話を最初に聞いたとき、どう感じられましたか?
菊田もともと、本作の開発が決まるまえから「リメイクを作りたいよね」という話を小山田さん(※本作のプロデューサーを務める小山田将氏)とはしていたんです。その後、「いよいよ作れることになりました」と聞いたときは、「よっしゃあ!」って思いました(笑)。『聖剣伝説2』にはたくさんのファンの方がいらっしゃるので、その人たちにようやく恩返しできるチャンスが来たなと、そのときに思いました。
――本作では、さまざまな作曲家の方々がアレンジを担当されていますね。
菊田リメイク版は、“ファンのためのお祭り”だと思っているんです。私の周りにも、たくさんの『聖剣伝説2』のファンの作曲家さんがいたので、そういった方にも開発に参加していただきたいと。なかには、子どものころにオリジナル版をプレイしたドンピシャリの世代の人もいますよ。
――それだけのファンの方ともなると、「この曲をアレンジしたい!」というリクエストもすごかったのでは?
菊田ありましたありました(笑)。
――菊田さんがアレンジを担当している曲もありますか?
菊田私も担当しています。『少年は荒野をめざす』、『危機』、『子午線の祀り』などは私がアレンジを担当しています。このあたりは私もアレンジをやってみたいし、やるべきだろうなと。
――菊田さんご自身は、どういったテーマでアレンジをされたのでしょうか。
菊田少し前に『シークレット オブ マナ ジェネシス 聖剣伝説2 アレンジアルバム』というサウンドトラックを手掛けたのですが、そのときは“当時遊んだ皆さんの耳に残っている、思い出補正のあるBGMをそのまま再現しよう”と決めていました。
シークレット オブ マナ ジェネシス 聖剣伝説2 アレンジアルバム
http://store.jp.square-enix.com/item/SQEX_10321.html
――では、今回は?
菊田今回は“いまの等身大の自分で改めて作曲する”という気持ちでアレンジしました。自分としてはすごくしっくり来るサウンドになっています。今回は、事前に動いているリメイク版のゲーム画面を見せていただいたので、アレンジのイメージはしやすかったですね。
――アレンジをするにあたり、ここがたいへんだったという思い出はありましたか?
菊田アレンジをするにあたりオリジナル版の音源データを見直したのですが、自分でも驚くくらい細かく作られていました。オリジナル版は最大で8音が同時に鳴るような譜面で曲が作られているのですが、その一音一音がすごく細かく調整されていて。当時の自分すごいなと、いまになって思っています(笑)。
――ご自身が作曲された以外の監修楽曲については、ほかの作曲家の方にどういったリクエストをされたのでしょうか?
菊田「『聖剣伝説2』に対する愛を見せてくれ」ですね(笑)。なかには原作のファンであるがゆえに曲作りで多少遠慮があった方もいたんです。でも、そういった印象の曲には遠慮なくボツを出させていただいて、「もっと自分を出してくれ!」と激励したこともありました。
――小山田さんとは、アレンジをするにあたりどういった打ち合わせをされましたか?
菊田『天使の怖れ』はオーケストラで収録したい、というのは小山田さんからのリクエストでしたね。ちなみに『呪術師』も、実際にバリで収録したいと冗談を言っていたのですが、実現されませんでした(笑)。
――(笑)。ほかの方が手掛けたアレンジで、とくに印象に残ったのは、どの曲でしたか?
菊田皆さんに気合を入れてアレンジしていただきましたが、古代祐三さん(※『世界樹の迷宮』シリーズなどの楽曲を手掛けるコンポーザー)は、さすがだな~と思えるインパクトがありましたね。
――ゲーム内でBGMを聴くのが楽しみです。
菊田ゲームが発売される時期に合わせて、サントラも発売しますので、楽しみにしていてください。オリジナル版のサントラは、当時の子どもでも手が届く値段にするために、1曲の尺を短くして無理やりCD1枚に収まるように作っていました。今回のサントラは1曲のボリュームもしっかりと確保できていますし、トータルで40曲以上が収録されていますから、かなりリッチな作りになっていますね。
――サントラの発売も楽しみにしています。ところで、今回は『聖剣伝説2』のリメイク版についてうかがいましたが、『聖剣伝説2』リメイクが実現したとなると、つぎは『聖剣伝説3』のことが気になるところですが……。
菊田昔はいろいろな制約があったけど、いまならできる曲作りの方法もたくさんあるので、私としても、こっちもアレンジしてみたいという気持ちはもちろんあります。でも、『聖剣伝説3』のオリジナル版の曲データをこのまえチラっと見たのですが、『聖剣伝説2』よりもさらに細かかったことが確認できたので、いざアレンジするとなるとかなりたいへんな作業になるな~と、いまから思っています(笑)。曲も60曲以上ありますしね。
――ファンとしてはぜひ聴きたいので、実現を願っています(笑)。最後に、『聖剣伝説2』リメイク版の発売を心待ちにするファンに、メッセージをお願いできますでしょうか。
菊田今回のリメイク版は、ファンの皆さんと楽しむ“お祭り”だと思っています。ファンの方の支持があったおかげで実現できたリメイクだと思うので、音楽ともども、楽しんでいただけるとうれしいです。
※本記事は、週刊ファミ通2017年12月7日号(2017年11月22日発売)に掲載された内容に、加筆・修正を施した完全版です。
『聖剣伝説』25周年オーケストラコンサートがCD化、2018年1月24日発売決定
2017年3月に開催された『聖剣伝説』シリーズのオーケストラコンサートがCD化。2018年1月24日に発売される。詳細は下記の関連記事にて!