2017年11月10日、東京・国立新美術館で“新海誠展 「ほしのこえ」から「君の名は。」まで”のプレス向け内覧会が開催。併せて、本展覧会の音声ガイドを務めた神木隆之介と、新海誠監督にインタビューを敢行した。

神木隆之介&新海誠インタビュー “新海誠展”の思いを聞く_01
新海誠(左、文中は新海)、神木隆之介(右、文中は神木)

――監督の作品の共通したモチーフとして、風景描写の緻密さや美しさがありますが、ご自身の年齢や環境の変化によって描写に対する考えや発想が変わることはありますか?

新海 難しいですね……。作品ごとに、自分自身も考えも変わっています。前作はまったく別人が作ったように感じることもあります。とくに『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』といった10年以上前の作品は、そのときの気分もほとんど覚えていませんし、「なんで道路のこの部分を切り取っているんだろう」と思ったりもします。ずいぶん変わってきているとは思いますし、普段は哲学めいたことを真剣に考えて風景描写をしているわけではありません。作品を作るごとにお披露目する場で説明するときに、そのつど言葉を無理やりひねり出している感じですので……今回のように15年ぶんを時系列でまとめていると、一貫した説明ができないんですよね。毎回なんとか乗り切っている感じです(笑)。

――神木さんに今回の音声ガイドの聞きどころをお伺いできれば。

神木 いかに皆さんのジャマにならないようにするか、ということが勝負どころでした(笑)。聞く方によってリズムや聞こえかたが違うと思いますので、淡々としすぎていてもダメですし、感情を入れすぎても違うかなと。なるべく、監督の展示作品にそっと寄り添えるような感じになればいいなという思いでやらせていただきました。聞きどころは……“クイズ”ですかね(笑)。休憩がてらに挑戦していただけるとうれしいです。

新海 僕もクイズをやりました。僕にとっては簡単でしたけれど(笑)。この音声ガイドは、神木くんが各作品を神木くんの視点で語っているところがあって、聞いていてすごく泣けたんですね。とくに『秒速5センチメートル』の主人公、貴樹の台詞を高校生のときに練習していたとか、息を吐くと白くなる季節に「ハァッ」と息を吐くと何か変わるかなと思っていたとか、そういった言葉を聞いて胸を締めつけられるような気持ちになりました。作品がこんなふうに具体的な形で“ここにいる人”に届いているんだということを実感できる音声ガイドになっていて感動しました。

神木 すごくうれしいです。いまの言葉を聞いていままで気づかたかったんですが、すごく“重い愛”だったんだなと(笑)。僕はずっと監督に愛をぶつけまくっていたんだと思いました。

――絵コンテや資料だけでなく、“言葉”も展示物になっていて、言葉の魅力を改めて感じ取れる展示になっていました。監督が言葉を紡ぐうえで心がけていることは何でしょうか?

新海 いちばん最初に作り始めた作品は、いま思うとすごく物語よりは詩に近いものだったのではないかと思います。それからだんだんと自分の興味が詩よりも物語の構造性のほうに移っていきました。初期の作品は、ひと言ひと言が“歌”のようにあってほしいと思いながら作っていました。歌って、歌詞をずっと自分の中に持っておけるじゃないですか。道を歩いていても口ずさめますし。そのことによって日常を乗り越えることがすごく楽になったりだとか、励まされたりするので、映画なんですがそういうものにしたいなという気持ちがありました。いまもそういう気持ちはあるのですが……たとえばRADWIMPSのような、本当に強い言葉を持っている人たちと仕事をすると、映画の台詞は詩じゃなくてもいいのかなと思ったり、ダイアログにしようかなとか、そんなふうに思います。まわりの人たちによって、だんだんと変わってきていますね。でも、励まされるような言葉をどこかに入れたいという気持ちはずっとあります。

神木隆之介&新海誠インタビュー “新海誠展”の思いを聞く_03

――神木さんは新海作品における“言葉”をどのように受け取っていましたでしょうか?

神木 僕にとっては、“すごくわかるようで、わからないようなもの”ですね。主人公は自分よりも前に行っている存在というような気がしていて……けっこう大人というか。感じていることが自分とは明らかに違うんだろうなと。だけど、表現するなかでうっすらとわかりかける、つかみかける瞬間があるんですけど、それを実際にどうやってつかんだかは説明できなくて。でも、それがいい意味で心苦しくて。だから、監督の作品やキャラクター、言葉は、僕の中でずっと憧れる存在なんだと思いますね。いつも追いつけない……そんなイメージです。展示を見て、あらためてそう思いました。

新海 次の映画でも、神木くんがそういう言葉を見つけてくれるかなと思いながら、いま横顔を見ていました(笑)。

――監督の作品のファンである神木さんが考える、新海作品の魅力の“核”とは、どのようなものでしょうか?

神木 日常を切り取りながらも非日常的に見えるような美しい描写もそうですし、先ほどの“言葉”もそうですし……。いろんな視点から見て、そういったひとつのものが際立って見えてくるというわけではない作品ばかりで、そこが魅力的だと感じます。全部が全部わかるわけではない、だからこそ惹かれるのではないでしょうか。あとさっき気づいたんですが、どの作品の主題歌や音楽をとっても、ほかの作品に合いますよね。

新海 そう言われると、意外と合うかもしれないね。

神木 そういったところに、監督の作品の軸があるような気がしますね。偉そうなこと言ってすみません(笑)。

新海 絶対的な好みの部分とか、感覚的な部分というのはやっぱり変わりようがなくて。神木くんの音声ガイドを聞いていて、全部の作品の主人公が神木くんみたいだなと感じたりもしました。

神木 ファンとして、今回の展示で新しい発見がいろいろありました。

――“軸”というお話がありましたが、監督がデビュー作から一貫して心がけていることはありますか?

神木隆之介&新海誠インタビュー “新海誠展”の思いを聞く_02

新海 例えば、風景や美しいものから自分が遠ざけられてしまっているような思春期に感じる孤独感は、どの作品にも横たわっています。『君の名は。』では、遠くにある美しいものになんとか近づこうとしたふたりを描く作品で、ほか過去作よりは目的を果たしているのですが、過去作をさかのぼっていくと、より困難でシリアスな感情がずっと根底にあると思います。「『君の名は。』はいいなあ、素敵だな」と感じていただけたところが、過去作ではよりむき出しで表現されているのです。

――さまざまな新海監督の作品を本展覧会では扱っていますが、この作品、このシーンでこんな苦労があったなど、エピソードを教えていただけないでしょうか?

神木 それは、僕も知りたいですね。

新海 いま思い出すと、どの作品もスタッフとのコミュニケーションのやりとりの大変さとか、スケジュールの大変さを思い出してしまいますね(笑)。例えば、『君の名は。』のポスターであれば、いままでの僕の作品に比べてはるかにいろいろな人の気持ちが詰まっています。「後方は青空で、シンメトリーにする。これがメジャー感というものだ」みたいな(笑)。ベタだけど、一度騙されたと思ってやってみようとなり、僕がラフを引き、最終的にキャラクターデザインの田中将賀さんと作画監督の安藤雅司さんといっしょに作成しました。いろんな思惑が1枚のポスターに入っているのが、いま思い出したシーンですね。うまくリクエストにお答えできていないのですが、アニメーション作りは、コミュニケーションの堆積なんです。どうやってスタッフとやりとりをしているかを、展示物で飾っている絵コンテのメモなどから読み取れると思います。「何卒よろしくお願いいたします」と書かれたものから、エクスクラメーション・マークがたくさん書かれたものもあり、スタッフと僕の関係性が透けて見えるんです。みなさんが会社や学校で味わっている、人によってコミュニケーションの何かが変わるところは、映画作りの中から感じられるので、そんな視点で見ていただいてもおもしろいかもしれませんね。

――神木さん視点で、展覧会でこんな見かたをしたらおもしろいとかはありますか?

神木 浸るのが一番ですね……。展覧会を見ていると、言葉を失っていってしまうんですよ。「うわ! すごい!」というよりも、「あぁ~……これか。こういう風になっているのか」というように、心の中で消化していくような感じです。初めて映画を見たときに感じた思いがフラッシュバックされて、音楽が頭の中で流れて……、という楽しみかたになってしまうと思います。そういえば、『言の葉の庭』のポスターは緑を何色使っているのですか?

新海 数えきれないのですが、雨が降って日差しがないので、緑のバリエーションで勝負するしかなかったんです。濃い緑から薄い緑と、さまざまな緑を使用しています。

神木 この雨粒も、手書きですよね?

新海 手書きですね。これは雨粒を書いて、コンピューターで増やしていく工程を行っています。展示では『君の名は。』などの風景を、レイヤーに分けた展示もしているので、1枚の絵でこれだけの数のレイヤーがあるのが、わかります。

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――ご自身の作品に限らず、神木さんの「こんな役柄が見たい」という要望があったらお聞かせください。

新海 僕は神木君の女の子の役柄が見たかったので、それは『君の名は。』で叶ってしまいました。ちょうどいま、ドラマで刑事役をやっているそうですし、高校生役も演じていますが、これから30代や40代の役をやっていくと思います。そういうのは、とても見たいです。

――神木さんは、新海監督の次回作に出演されるとなったら、どんな役をやってみたいですか?

神木 瀧君をまたやりたいですね。ずっと瀧でいい(笑)。

新海 瀧のイメージが強くて。新作の打ち合わせをスタッフとやると、主人公の名前は瀧ではないのに、瀧と間違えて呼んでしまうんです。瀧君の存在が大きすぎて、縛られている部分はありますね。

――公開から月日が経ちましたが、おふたりにとって改めて『君の名は。』はどんな作品になっていますか? また今回の展示を見て、新たな発見はありましたか?

新海 LINEで「今日『君の名は。』を見ました。ブルーレイディスクで」って教えてくれるよね(笑)。

神木 自分の空間で見れるし、映画館と見るのとは違った印象を受けますね。ここ最近はいろいろなところで放送されているようですし、みんなに浸透してもらっている作品かなとしみじみ感じます。「女の子を演じている瀧君おもしろいね」と言ってもらえましたし。自分の中でも、ときどき無性に観たくなる作品であり、身近でもあり大好きな作品です。

神木隆之介&新海誠インタビュー “新海誠展”の思いを聞く_04

新海 思った以上に世の中に広まって、環境のようなものになっていったのかなと感じます。ジブリやピクサーは絶え間なくあって、あって当たり前のものですが、『君の名は。』は、自分自身が作ったというよりも、才能のある方々が集まってたまたま自分がその場所にいて作ることに携わったにすぎない。ときおり現れる社会現象のような作品だったのだなと、思います。そういう経験をさせていただいただけで、とてもうれしいです。

――おふたりとも、絆が強いと思うのですが、この際お互いに聞いてみたいことは?

神木 春夏秋冬で、どれが好きですか!? けっこうこれキーワードになるかと!

新海 一番、冬に向かっていく季節が好きだから、いまが好きですね。秋から冬に向かうつれ、自分が許されるような気分になるんです。春や夏は自分も元気にならないといけないような感じを覚えるのですが、冬に向かうにつれ、閉じこもっていいよ! と許されている気持ちになりますね(笑)。

神木 僕は8月の終わりが好きですね。夏真っ盛りよりも、夏休み終わりが好きです。季節が終わるのが好きです。喜怒哀楽でいうと、寂しいほうが好きです。それこそ、桜が満開のときより、散っているほうが好きですし、雪が解けているほうが好きです。

新海 終わっていく過程が好きなのかも。神木君が『秒速5センチメートル』を好きなのも、なんとなくわかるような気がします(笑)。

神木 僕もそう思いました(笑)。

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