シリーズ第3弾も行き過ぎたこだわりが満載!

 往年の名作ゲームを完全復刻+αの形で現代に蘇らせる“エムツー ショット トリガーズ”。待望の第3弾として2017年11月2日に配信となったのが、シューティングゲームを作り続けてきたスタッフによって誕生したエイティング/ライジングが、1993年にアーケードにリリースした縦スクロールシューティング『魔法大作戦』だ。システム的にはショット+ボンバーとオーソドックスだが、ライバルとの戦いを感じさせる熱い展開、細かに書き込まれた背景から浮かび上がる世界観などが評価され、アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』のその年のベストシューティング賞2位にも選ばれた名作だ。

 そんな『魔法大作戦』は、いかなる経緯を経て初の家庭用移植がなされたのか。開発を担当したエムツーのスタッフに集まってもらい、このインタビューではおなじみになりつつある「やりすぎくらいがちょうどいい」な入れ混み具合を語っていただいた。

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今回インタビューに参加いただいた開発メンバー。(前列左から)ディレクター久保田和樹氏、プロデューサー堀井直樹氏、シリーズディレクター長野敦也氏、(後列左から)プログラマー福井将之氏、ビジュアル担当の冬野灰馬氏、サウンド春日達彦氏、グラフィックデザイナーのぜる太氏。

ファミ通本誌記事で画面にモザイクが!?

――今回も長丁場になるかと思いますが、よろしくお願いします。まずは、みなさんの開発での役割をお聞かせください。

福井 プログラマーの福井です。元のプログラムの解析・改造、追加モードやガジェット左側の仕様策定、オーケストラアレンジBGMのディレクションを担当しました。

ぜる太 グラフィックデザイナーのぜる太です。ガジェット左側の顔グラフィックを担当しております。

春日 サウンド担当の春日です。サウンド全体の解析や、オーケストラアレンジ以外のディレクションをしています。

冬野 グラフィックデザイナーの冬野です。新機能のドラマチックマップガジェットを担当しました。

久保田 ディレクターの久保田です。ファミ通さんの記事で、そのドラマチックガジェットにモザイクをかけた張本人です(笑)。

――本誌記事が掲載されたときに「画面にモザイクが!?」とちょっとザワつきましたね(笑)。さて、まずは第3弾が『魔法大作戦』となった経緯からお聞かせください。

長野 第1弾としてエイティングさんの『バトルガレッガ』をやらせていただいた流れで、つぎはどうしましょうと相談したところ、やはり処女作である『魔法大作戦』がいいでしょうと。

堀井 そこはすんなり決まりましたね。家庭用ゲーム機への移植がないということもあって、それを形として残すことに意義がある。もちろん『蒼穹紅蓮隊』や『アームドポリスバトライダー』をやりたいだのって悩みもしたんですけど、そこは「順番があるよね」と。

――タイトルが決定して、開発を始めるにあたって最初に手掛けたのは?

久保田 とりあえず開発メンバーを全員集めて「今回はガジェットをどうしよう」という相談から始めました。僕はもともとプランナーなんですけど、今回は僕が考えた案はそんなになくて、ゲーム部分のアイデアは福井が、ドラマチックガジェットは冬野のアイデアですね。マップをやろうってなったのはいつごろでしたっけ?

冬野 今年の春ですかね。

久保田 そうだ、『弾銃フィーバロン』の作業が終わってからなので、ゴールデンウィーク明けくらいからですね。そこからみんなが思いのままに、自分の首を締める案を出しまくって(笑)。冬野さんは時間のない中、エネミーカードを100枚描くとリストを出してきて。

冬野 提案は出しましたけど、最初の会議のときは「これは大変だからやらないですよね?」って言ったはずなんですけど、気がついたらやることになっていました(苦笑)。

堀井 凄く大変な思いをしたかもしれないけど、このシリーズを追いかけてくれている人からしたら「『魔法大作戦』ってガジェットどうするんだろう?」っていう疑問は生まれるじゃないですか。そこを見事にひっくり返したアイデアだと思うよ。まさか名所を巡らせるとは思わなかった。

冬野 ふつうの会社だったら絶対通らない企画ですよ。「アホか」って言われて終わり。

堀井 そこはもう、このご時世にシューティングのシリーズをやろうとしている時点でアホなので大丈夫(笑)。

――ちょっと話題が先走っていますが、ガジェットの右側にある、マップとカードについて改めて説明をお願いします。

久保田 右側に表示される情報は3つあって、マップとカード、そしてカードの絵柄が大きく映ります。マップはゲーム中のマップを元にしたイラスト上に、敵や障害物、自機の位置情報が表示されます。カードは出現する敵、それとゲーム中で「ここは見てほしい!」というトピック……たとえばゴブリガン兵士が一生懸命働いているところなどがカードとして表示されるようになっています。プレイ中にトピックのある箇所に到着する度にカードがめくれていって、一度見たカードはあとからカードギャラリーで閲覧ができるようになっています。

冬野 元々、敵キャラクターの種類がいっぱいあったり、背景で細かい演出が随所に施されているゲームなんですけど、それに気づいている人がどれくらいいるのかなと思っていて。そこに注目してもらうにはどうしたらいいのかなといろいろと出した案が集約されて、カードを集める方式になりました。

――ガジェットの左側はどうなっているのでしょう?

久保田 スコアやゲームランク、自機や敵のインフォメーションといったいつもの以外に、“DROPPED ITEM”と“RIVAL ENEMIES”があります。簡単に説明すると、前者はステージ中のプレイ評価機能、後者はどの敵でミスをしたかがわかる機能です。自分が気をつけるべき敵がわかる仕掛けで、壁に潰されるとちゃんと壁のグラフィックが表示されます。さらに余談ですが、6.5面でバシネットに捕まっている姫はエネミー扱いであることが、解析の結果判明しました。

(一同笑い)

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ボケツッコミをすべて見せるための“デュアルモード”

――移植についてお伺いしていきますが、いつも通りまずは福井さんが解析を進めていったのでしょうか?

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プログラマー福井将之氏

福井 そうですね。基板そのものは『バトルガレッガ』と同じなので、以前のノウハウが使えました。とはいえ、同じアーキテクチャでもプログラムの“クセ”が違いとなってくるのですが、今回も『バトルガレッガ』同様ソースコードがあったこともあってラクをさせていただきました。読みやすいコードな上に、ソース中に「ここは●●の処理」という注釈が書かれていたので、非常に助かりました。処理がシステマチックだったので解析がしやすかったです。とはいえ、今回も決してラクをしないのがこのプロジェクトの悪い癖で。最初に「これだけ判明しているなら、いろんな追加要素が盛り込めるだろう」とアクセルをベタ踏みしてしまいました(笑)。

――今回もやってしまいましたか(笑)。

福井 まずはシリーズでは欠かせない“スーパーイージーモード”に着手して、それはソースがシステマチックなこともあってスムーズに完成しました。具体的にはスーパーイージーではランクが0で固定なんですけど、それだと家庭用ゲーム並に簡単になるので、チューニングはしやすかったです。スーパーイージーよりちょっと刺激がほしい方には“スピーディ”という難易度があります。あとは最初からランクがマックス固定な“スーパーハード”ですね。で、アレンジモードにあたる“デュアルモード”ですが、作るのがめちゃくちゃ大変で。

堀井 こちらからは何も注文していないけど、気がついたら“ひとり同時プレイ”とかいうとんでもないモノが出来上がってました。

久保田 案を聞いた瞬間は「それできるの?」ってみんなが思ってましたけどね(笑)。

福井 もともとはふたりプレイ時だけに見られるステージ間デモ、通称“ボケツッコミシステム”を全部見せる方法はないかという考えから出た企画なんです。デモ単体をビューアーで見せることは簡単なんですけど、やっぱりゲーム中に読まないと意味がないと思いまして。そこで、ひとりプレイでありつつふたりプレイの感覚を出せるように、1Pを操作+2Pをオプション扱いという仕様としました。

――それぞれの自機はどんな扱いになるのですか?

福井 1Pは通常と同じくレバーで操作して、2Pは新設したデュアルコントロールボタンを押すことで、動きが変化します。2Pは無敵で特定の弾消しも可能なので、『R-TYPE』のフォースをイメージしてもらえるとわかりやすいかと。ただ、両方がショットを撃つと強すぎてしまうので、1Pがメイン、2Pがサブショットのみを撃つようにしています。

堀井 2Pもアイテムを取ってくれるんだよね。

福井 はい。裏話をすると、2Pのレバーを内部的に動かしているんです。元の移動プログラムには手を加えずに、ふたり目の仮想プレイヤーをプログラムしたということです。

――なんかまたアクロバティックなことをしていると(笑)。久保田さんは、今回も原作再現度の向上をされたのでしょうか?

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ディレクター久保田和樹氏

久保田 はい。今回もアトラクトデモを動かしながら、原作と同じ動作スピードになるまで微妙なタイミングをすり合わせていきました。ただそれだけだと、プレイ中にかかる処理落ちなどが再現できているかはわからないので、1クレジットで2周できるプレイヤーの方にテストプレイをしていただいて、体感的な証言を元に再現度を上げていきました。

――最終的にはプレイヤーの感覚が真実だと。

久保田 やっぱりそこは必要不可欠ですね。特に全イチ(全国1位のハイスコアラー)プレイヤーさんたちは、そういった処理落ちなどを肌感覚で覚えているので。そのおかげで、最終的には本家との違いがわからないところまで再現ができました。

堀井 凄腕プレイヤーのフィードバックを見ると、理屈で間違っているところが見つかることもあるんです。理屈側と感覚側の両方からトンネルを掘って、真ん中で握手するのが最高のデバッグですね。

久保田 その意味では今回は早めにトンネルが開通してくれて、苦労が少なかったかなと。

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アレンジサウンドはなぜか曲数が増加!?

――サウンド部分に関して聞いていきます。今回はどうやって原作再現度を高めたのでしょうか。

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サウンド春日達彦氏

春日 『魔法大作戦』の基板はサウンド制御のZ80CPUがADPCM+FM音源を制御していて『バトルガレッガ』と同じなんですけど、サウンドドライバー、それとPCMにローパスフィルターがかかっているのが違う点なんです。ローパスフィルターがあることでPCMのザラザラした感じが減るのですが、当然ハード構成が違えば再現の仕方も変わってきます。

――どのように再現していったのでしょうか。やはり耳を頼りに?

春日 最初は基板の回路を見て大まかなアタリをつけますけど、最終的にはそこも耳と数値の両方から攻めていきます。基板を録音した音声のスペクトル分布を目で確認しながら、自分の耳で聞いて近づけていきます。幸い作曲をされた本山淳弘さんは音源の使いかたが素直だったので、再現度の部分に関してはそんなに問題はありませんでした。

堀井 並木さんの音源の使いかたが変態チックとも言えます。本山さんは弊社開発の『でじこミュニケーション』でお世話になったんですけど、やはり素直で耳当たりのいい曲を作る方でした。

――サウンドドライバーの解析もされた?

春日 はい。おもしろかったのが、サウンドドライバーが『弾銃フィーバロン』のときに触った東亜プランのサウンドドライバーを進化させたような作りだったんです。それもあって解析が進んだ部分はありました。でも、もっとも困難だったのは、BGMとSEのチャンネルが固定されていなかったことです。

福井 『バトルガレッガ』や『弾銃フィーバロン』はBGMとSEのチャンネルはだいたい固定されていたんですけど、『魔法大作戦』はひとつのチャンネルでBGMとSEをフレキシブルに鳴らす使いかただったんです。しかもそれがPCMとFMの両方で行われているため、「どこで何の音が鳴っているか」を春日が数ヵ月をかけて調べ上げたうえで制御したので、余計に手ごわかったです。ドライバーの改造に近いレベルまで手を入れましたね。

春日 サウンドドライバーには68000からの「この音を鳴らしてください」という命令を溜め込むキューが用意されていて、サウンドの鳴り出しを制御しているんです。そのため、再生タイミングを完全にするためにZ80側で(アレンジサウンドなどを鳴らすための)追加音源であるM2PCMを制御することにしました。

堀井 そうしないと鳴り出しがヘンなことになってしまう。

春日 さらに専門的な話になりますけど、一般的なサウンドドライバーだとメインプログラムからのリクエストがきた瞬間に鳴り始めるんですけど、どうやら『魔法大作戦』のサウンドドライバーは、フェードアウトの命令が来ると、フェードアウトの処理自体をサウンドドライバーが行い、鳴り終わった瞬間にキューに溜まっている処理を消化しだす。つまり、メインプログラム側からすると、リクエストはしているけどサウンドドライバーがフェードアウト終了まで待たせるんです。

――メインとサブの主従が逆になっていると。

春日 はい、完全なスレイブではないためにサウンドの再生や停止といったM2PCMの制御コマンドもZ80側に組み込んで、今回のアレンジが正しく鳴っていることになります。このプロジェクトでは、Z80の知見がどんどん溜まっていきます。

堀井 こんなにZ80に精通した20代はなかなかいないですよ。コンピューターの基本的なロジックに精通していてUnityが触れる人材なら就職先あるって!

久保田 社長が斡旋してどうするんですか(笑)。

堀井 ごめん! そんな人材募集を見たばかりだったので。みんな一生(エムツーのある)我孫子に閉じ込めておくよ!

春日 それもどうかと思いますが、ありがたく受け取っておきます。

――アレンジサウンドについてお聞きします。オーケストラアレンジにした経緯は?

福井 正式な企画会議が始まる前でしたっけね。

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シリーズディレクター長野敦也氏

長野 そうですね。これまでどおりに独自のアレンジバージョンを入れる構想はあったんですけど、まだ誰にお願いするかは全然決まっていなくて。福井のほうが「もしやるんだったら頼みたい人がいる」ということで名前が上がったのが溝口哲也さん。

福井 本山さんの曲に対してガラッと違う感じのアレンジがあるとおもしろいんじゃないかなとイメージしていました。本山さんの曲っていうのはポップス、ロック、フュージョン、プログレ色の強い、熱い曲調。それに対してオーケストラをベースにした楽曲ならいい対比になっておもしろいんじゃないかという狙いです。溝口さんが公開している曲をずっと聴いていて、イメージとピッタリだったのでお願いしました。

――楽曲制作はどのように進めていったのでしょうか。

福井 まずは大雑把にそれぞれの曲のイメージを発注書に起こし、それを溝口さんに渡したうえで個別のやり取りをしていきました。まずビックリしたのが一週間程度で最初の一曲として6面のコロシアム、続いてキャラクターセレクト、そしてすぐに1面の曲があがってきたんですが、これで凄く感動的な出来でして。

――イメージどおりでしたか。

福井 そうですね。『フリーミュージッククラスタVOL.3』という音楽CDに収録されている“Leben Sie wohl...”という空戦をテーマにした溝口さんの曲があって、そこからイメージを膨らませていったこと。そして、アレンジのコンセプトが溝口さんが得意とされているオーケストラ+ロック+電子楽器ということでお互いのイメージが共有できたのだと思います。なのでやり取りは非常にスムーズで、1面の曲が完成したときには「これは我々の勝利だ!」と思えるほどでした。ぜひ皆さんに聴いていただきたいです。

久保田 一度弊社に来ていただいてお話をしたんですけど、かなりゲームをプレイされる方なので、こちらの言わんとしていることへの理解が早くて。ご本人もやる気満々で作業していただいたので、あっというまに全曲が完成しました。というか、気がついたら曲数が増えていた(笑)。

――それはいったい(笑)。

久保田 元の曲はジングルを合わせて16曲なんですけど、オーケストラアレンジは25曲で、なんと9曲増えています。

福井 作業を進めていく中で溝口さんから「3面を前半と後半でアレンジを変えたらどうでしょう」という提案がありまして。

久保田 3面って中ボスを撃破すると水がドバッと流れてきて水中になる演出があるのですが、それに合わせてBGMを2バージョン用意してくれました。メロディーは同じなんですけど、楽器や屋曲調は全然違う。

福井 ゲームの世界観を大事にしてくださって、ハーピィが襲ってくる前半は少しアフリカサウンドな感じ、後半はしっとりとした音を鳴らしてくれています。

堀井 すでにゲームが完成しているからこそのイメージの膨らませかただよね。ゲームと並行しての音作りだとここまではこだわりにくい。

福井 同じように、元は2面と6面のボス曲は同じなんですが、「だったらツムジ丸の曲も作ろうか」っていう話になって。原作ではミヤモトの宿敵の人気敵キャラクターでもあり、そこを強調するべく忍者っぽい曲を作っていただきました。デュアルモードをアレンジ曲でプレイしたら、別のゲームに感じるかもしれません。

――これらに加えて、PCバージョンの楽曲も収録されているんですよね。

春日 最初はX68000版に収録されていたMIDIサウンドを収録しようという話だったんです。ですが、FM-TOWNS版のCD-DAトラックを聴いてみたら、ほぼ同じMIDIデータだと思われますが、より作者の意図に近いものと判断したため、そちらを収録しました。

福井 アーケード版の話になりますが、本山さんは『魔法大作戦』の楽曲を作るにあたって、最初にMIDIバージョンを作って、そこから基板バージョンを作っていったそうです。この度アレンジにあたり、本山さんに連絡を取ってMIDIデータを見せていただきました。

パイロットの顔グラフィックは1000枚オーバー!

――ガジェットの左上に表示されるパイロットの顔グラフィック、こちらはどのように作られていったのでしょうか。

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グラフィックデザイナーのぜる太氏

ぜる太 『弾銃フィーバロン』でサイボーグ兵士のアニメーションを描かせていただいたご縁ですね。企画会議「このキャラクターが泣いたり笑ったりしたら絶対いいよね!」という話になり、当初は4キャラ、シーン毎に表情をあてる作業量を考慮して、パタパタアニメでいこう!ってオーダーでした。

久保田 全部で3、4パターンもあれば十分かなと思って振ったところ、いつのまにか12パターンくらいに増えていて。

――いつもの“気がついたら増えていた”系ですか。

福井 続編の『疾風魔法大作戦』では画面左上にパイロットの顔が表示されていて、状況に応じて表情が変化するんです。「時代を遡って、これを逆輸入移植したらおもしろいだろう」というのがアイデアの出処です。まずはぜる太と『疾風』の顔グラフィックパターンを洗い出して、それを元に“ミスしたときはこの顔パターン”と仕様を決めていったのですが、気がついたら炎や水といった属性攻撃ごとに異なるパターンができあがっていて(笑)。

久保田 常時、出撃、笑顔、イライラ、ボス、ボンバー……といった具合に、状況ごとに顔パターンができあがっていました。もちろん勝手に追加するわけにはいかないので、原作のグラフィックを担当されたエイティングの横尾憲一さんに監修していただいています。しかも最初のチェックで“おとなしい版”と”はっちゃけてる版”の2パターンを提出したら「もっとはっちゃけてもいいですよ!」と返信をいただいたので、これはもう本気を出せということだなと。

久保田 ちゃんと口パクで「ボンバー!」って言っているんですよね。そんなのが4キャラクター分あるんですけど、なぜかチッタはガインの倍以上の枚数になっていました。

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豊富なチッタのアニメーションパターン。これでも全体のごく一部!

――チッタに思い入れがあったとか?

ぜる太 当初パタパタアニメだったものを「コマ数を増やせばこんな滑らかになりますよ」という見本を作りまして、好評でしたのでそのまま突き進もうと(笑)。また、時間的にきびしいのでオミット予定だった“属性やられ”ごとの表情も、最終的には用意しました。

久保田 原作の仕様として、炎や雷、氷といった敵の攻撃属性ごとに自機のやられパターンが異なるんです。それを最終的に福井が解析できてしまったものだから、「ぜる太さんついに属性やられの解析もできました」とだけ伝えて。描けとは言わずに(笑)。

福井 ちなみにやられ属性の判定は、効果音から割り出したので、春日のおかげでもあります。

久保田 最終的には、ミヤモトのみツムジ丸戦専用の、ほぼ描き下ろしのアニメーションが入っています。これも「ライバルだからあるといいね」と言っていたら用意されていました。

――いつも通りの“原作を骨までしゃぶる”ぶりで安心しました。

ぜる太 原作版のキラキラしたブラウン管表示に雰囲気を近づけようと、社屋の実機筐体とにらめっこしながら色作りをしました。また、原作ではパレット制約上表現できなかった部分があると伺い、ミヤモトの赤い鎧やボーンナムの紺色のマントなど、イラスト資料等を参考に、最終的なキャラクタ造形を決定しました。

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ビジュアル担当の冬野灰馬氏

――処理落ち、サウンドに続いて、ここでも“人間の肌感覚”が判断基準となったわけですね。ところでキャラクターに関してだと、発売前にファン投稿によるイラストコンテストを実施されました。

冬野 キャラクターをもっと愛してほしいと思ったのがきっかけです。イラスト投稿サイトを見ると、ほかのタイトルに比べて『魔法大作戦』のキャラクターが少ない。だったらいま一度『魔法大作戦』の世界を広めるためにも、キャラクターを描いてくれる人が集まったほうが楽しいだろうなと。

堀井 最終的には40前後くらいの応募がありました。関係者も謎のペンネームで投稿してくれています!

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さらに過剰に突っ走るエムツー ショット トリガーズ

――このシリーズのお話を聞く度に、あまりのやり過ぎ具合に変な笑いしか出てこなくなります(笑)。

久保田 「何やってんだこいつら!」と喜んでもらえるようなモノが作れていることは、作り手としての本望かなと思います。

堀井 もうさ、みんな上限を決めて仕事をしよう!

久保田 社長が一番「いいぞ、もっとやれ!」の人じゃないですか(笑)。

堀井 そんなことばかりをやっていると元を取るのが大変になるばかりなので、『バトルガレッガ』を皮切りに海外展開をすることにしました! 『魔法大作戦』もいずれリリースしますので、日本のスコアラーさんは海外の方を暖かく迎えてあげてください。

――ちなみに『バトルガレッガ』のXbox One移植はすんなりと?

堀井 ゲーム起動時の約束事がプレイステーション4とは違うので、結構作り直していますね。

久保田 『バトルガレッガ』のXbox One版移植と海外展開の準備、『魔法大作戦』の制作が同時進行だったので、この夏はかなり辛かったです(笑)。実績解除時に必要となるグラフィックを新規で冬野に発注したり。全部で38枚!

堀井 そういう話をした上で、僕は「遊べる場所をもっと増やしたい!」というわけなんですよ。まずはゲーセンで遊べる基板、それと持ち運べるようにしたい!

――さらなる無茶な展開に期待しています(笑)。では最後に改めて、読者へのメッセージをお願いします。

久保田 今回も、スタッフ全員が自分の首を締めながら盛りだくさんになりました。なんかもう毎回ランクゲージがビカビカ光りっぱなしですが、その絞りきった味わいを楽しんでいただければと思います。

長野 『バトルガレッガ』は海外版、Xbox One版をリリースしましたが、ほかのタイトルも同様のそういう展開をしながらどんどん先に続けていこうと思います。引き続き、よろしくお願いします。

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プロデューサー堀井直樹氏

堀井 2作でシリーズと言い張ってきましたが、無事に3作目が発売されて、これでシリーズの体面は完璧に整いました(笑)。今後は長野が言ったように、別のプラットフォームでの展開も進めていきます。加えて、発表していないタイトルを仕込んだりもしているので、ちょっと待っていただけると「あっ、そんなことやるんだ」というネタがポロッと出てきますので、楽しみにしていただけるとありがたいです!

――ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします!

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オーケストラアレンジ担当の溝口哲也氏からのコメント

 オーケストラアレンジを担当した溝口哲也氏へのメールインタビューを掲載。本文とあわせて読んでもらえれば、そのこだわりぶりがさらに浮かび上がるだろう。

・溝口哲也氏プロフィール

 ゲーム音楽の作編曲を中心に活躍する作曲家。オーケストラをメインに、ロックやシンセサイザー等のサウンドも盛り込んだ楽曲を得意とする。近作には『PROJECT X ZONE 2:BRAVE NEW WORLD』、音楽CD『フリーミュージッククラスタ Vol.3』など。

――アレンジ楽曲制作のオファーを受けたときの印象をお聞かせください。

溝口 ふだんコンシューマーのお仕事をいただくことがなく、またコンシューマー制作実績などもほとんどありませんので、名指しで直接ご依頼をいただいたときは、本当に驚きました。また、多くのファンの方がおられるシューティングのBGMアレンジのご依頼ということで、私なんぞがこんな大仕事をやってもよろしいのでしょうか……という感じでした。

――『魔法大作戦』(とその楽曲)はご存じでしたか? またどんなイメージでしたか?

溝口 学生のころ、『ゲーメスト』などのゲーム情報誌をよく購入しており、よく足を運んだ近所のゲーセンにシューティングの好きな人が多かったのでタイトルやゲーム内容、キャラクターなどは存じておりました。ただ、肝心のゲーム自体が近所のゲーセンに入らなかったので最近まで実際に遊ぶことがなく、すぐにサントラを購入して毎日聴き込みました。ですが原曲を聴けば聴くほど原曲がすでに完成され過ぎていて、一体どうアレンジしたものかと悩みました。それとともに、改めて「これは大変なお仕事になるぞ……」と凄く気を引き締めたのを覚えています。

――楽曲制作のコンセプトをお聞かせください。

溝口 全体的なコンセプトは、“クリアーまでの道のりに冒険を感じられる音楽”ですね。単純にファンタジー風とかスチームパンク風といった、何かしらの固定したジャンルを作らず、あくまで背景を流れる景色や出てくるキャラクターたちを主人公として、それを彩る音楽にしようと思いました。シューティングというよりはRPGの音楽のような作りかたですよね、そんな風に全体をまとめていきました。

――オリジナルよりも曲数が増えているといった過剰なことになった理由をお聞かせください。

溝口 最初に完成したアレンジはキャラ選択BGM“INSPIRE”でしたが、選択画面のイメージではなく同曲が使用される6面ボスラッシュの、より緊張感のあるイメージで作りました。ですので、実際に組み込んで聴いていただいたときに、緊張感があり過ぎるという指摘を受けました。しかし同時に、でも、この緊張感は6面用として残しましょうとご提案いただきました。仕様として原作で同じ曲が鳴っていてもアレンジ版で別曲を鳴らすことができます、と説明されまして。この説明をお伺いしたのが、いろいろなアレンジを入れようと考えるきっかけになりました。
 その後、3面は前半と後半で雰囲気が変わるので、景色に合わせたまったく違うアレンジを入れたいと提案しました。するとこの提案にほとんど即答でOKをいただきまして。後はもう自分の作業量のことも忘れて、あれもどうかこれもどうかと。
 「2ボスとツムジ丸は別にしましょう、ツムジ丸はやっぱり忍者だから和風にしたいですから」
 「でしたら有機体のスライムと機械兵器のゴブリンロボも、雰囲気を変えるべきですかね」
 「雰囲気が変わるという意味でなら、5面も中ボスを境目に前半と後半で変えましょう」
 「せっかくだからエンディングも偽と真で少し違う曲を……」
 と、途中からノリと勢いで増えていっていましたが、気にせずどんどん制作予定として積み上げられて行きました。気が付いたら原曲の倍ぐらいの曲数になっていて「……いや、これ僕がやる仕事じゃないか!」と青ざめました。
 ほとんどは完成させたのですが、物理的な作業時間の制約で残念ながら実現できなかったネタもありました。“エンディング曲が4人とも違う”、“バシネットは毎回アレンジの違う曲で現れる”などなど。ですが、私とエムツー様とでどうしても入れたかったアレンジ違いの曲は、何とかすべて入れられたと思います。ぜひオリジナルとアレンジを両方聴いていただいて、原曲からの変化を楽しんでいただきたいです。スライムなんて拍子そのものが変わっちゃいましたが、じつに「スライムっぽくなっている」と思います。

――すでに完成しているゲームに、新たな解釈で楽曲をつける作業は楽しかったですか?

溝口 本当に楽しかったです。前述した通り、シューティングよりファンタジーRPGのBGM制作に近かったのですが、大量のバリエーション違いを用意する際も、必ずその舞台やボスのイメージをエムツー様と照らし合わせ、それらを実際に音楽として落とし込み、効果的に演出できているかを話し合いながら進めていく過程は、私自身はいままで編曲作業では味わう機会のなかった、とてもおもしろい作業でした。
 そしてそんなことができたのも、エムツー様のフットワークの軽さと、どんな些細な修正データでも必ずご感想やご意見をくださる丁寧なご対応あっての物だったと思います。そんな風に制作の楽しさを支えてくださったエムツー様には、感謝の念に堪えません。

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 なお、本インタビューの第2弾として、原作の『魔法大作戦』のスタッフを交えたインタビューを近日掲載予定。原作の原点に迫る内容ともなっているので、乞うご期待!