もちろん『.hack//G.U.』の話も!サイバーコネクトツー松山洋氏の著作『エンターテインメントという薬』発売イベント

サイバーコネクトツーの代表取締役社長、松山洋氏によるノンフィクション著作『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』が11月1日に発売。同日、秋葉原の書泉ブックタワーで発売記念トークショー&サイン会が開催された。

 サイバーコネクトツーの代表取締役社長、松山洋氏によるノンフィクション著作『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-(以下、エンタメ薬)』(発行・Gzブレイン)が2017年11月1日に発売。同日、秋葉原の書泉ブックタワーで発売記念トークショー&サイン会が開催された。

 このイベントに松山社長とともに登壇したのは、声優の榎本温子さん。同日発売のプレイステーション4用ソフト『.hack//G.U. Last Recode』でアイナ役などを担当しており、ノンフィクションである『エンタメ薬』の本文中にも登場している。サイバーコネクトツーとの縁は深く、榎本さんのデビュー間もなく、無印『.hack』のころから18年近くのつき合いになるとか。トークショーは、松山社長と榎本さんの収録時の思い出話からスタートし、当時のエンジニアさんが影でこっそり「めちゃめちゃかわいい子キター!」、「あの子、絶対売れるわー!」と榎本さんを絶賛していたという、いまだから言える暴露話も飛び出した。

サイバーコネクトツー代表取締役社長、松山洋氏

『.hack//G.U.』アイナ役の声優、榎本温子さん

 思い出話に花を咲かせたあとはもちろん、著書『エンタメ薬』のお話に。第1のトークテーマは、“発売当日だけど、第1章ネタバレします!”。イベント会場に来て初めて本を手にした来場者もこれにはびっくり&爆笑だったが、『エンタメ薬』の内容を紹介するということで松山社長の口から改めて概要が語られた。時は約10年前、『.hack//G.U.』を制作・展開していた2006年のこと。ある日、バンダイナムコゲームス(当時)の“偉い人”から電話をもらい、「国立がんセンターに行ってほしい」と突然の依頼を受ける。話を聞いてみると、病のために3週間後に眼球摘出手術を受けて視力を失う少年が『.hack//G.U. Vol.3 歩くような速さで』を遊びたがっている、と。けれど、手術の日はソフト発売の9日前。このままでは間に合わない……。松山社長はバンダイナムコゲームスの方たちとも協力し、少年のもとへと発売前のゲームソフト(発売日の約1ヵ月前なので、ゲーム自体は完成していた)を届けた、というのが『エンタメ薬』第1章のあらましだ。なお、本書は全6章からなり、10年経ったいま、『.hack//G.U. Last Recode』発売を少年に報告に行ったことをきっかけに、改めて10年前の出来事を本にしようと当時の関係者に取材して執筆している。

 この衝撃的な実話の導入部分、第1章冒頭6ページは発売前からWebでお試し読み公開され、「これだけで泣ける!」と話題になった。この日のイベントではなんと、榎本さんがその第1章冒頭6ページを朗読してくれた! 自分の書いた文章を隣で読み上げられるという、榎本さんいわく「けっこうなプレイですよね」の状態だった松山社長はなんとも言えない表情をしていたが、来場者はそんな著者本人そっちのけで引き込まれてしまった様子。本を目で追い、頷きながら耳を傾けている人、目に涙を浮かべて聴き入る人、人目もはばからずに鼻水をすするMC(失礼しました)……。朗読が終わると、余韻を味わう一瞬の静寂の後に大きな大きな拍手が沸き起こっていた。あの感動はイベント会場にいた人だけのものだが、お試し読みはこちらの書籍特設サイトなどで読むことができるので、ぜひ榎本温子さんの声で脳内再生して浸ってみてほしい。ちなみに、朗読を聞いた松山社長の感想は、「自分で書いた文章なのに泣けるわ。やっぱり声の力はすごいな!」とのこと。榎本さんは、「松山さんをちょっとカッコよく演じちゃった」と笑っていた。

※『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』特設サイト

 さて、榎本さんが本書内に登場しているのも、第1章の中のこと。第2のトークテーマ“本書18ページの裏話”では、その話がたっぷりと語られた。10年前当時、文化放送で放送していた『.hack//G.U.RADIO ハセヲセット』というラジオ番組のパーソナリティを務めていた榎本さん。2006年12月23日土曜日に上記の連絡を受けた松山社長は、25日月曜日にゲームソフトを持って少年に会いに行ったのだが、24日日曜日に少年のためだけに『.hack//G.U.RADIO ハセヲセット』の特別番組を収録し、そのCDもプレゼントしていたのだ。「少年ヒロシくんはあまり目に負担をかけちゃいけないということもあり、ラジオを楽しみにしてくれていたんです。なので、ゲームはもちろんだけど、もうひとつサプライズってことで、土曜日に文化放送のプロデューサーに連絡して、俺、日曜に博多から東京に行くからなんとか日曜に特別番組を収録できないか、と無理を承知で頼み込みました」と松山社長。パーソナリティを務めていた榎本さんと、同じく声優の櫻井孝宏さんは「そうそう、クリスマスイブに呼び出された!」(榎本さん)そうだ。いろいろな意味ですごい!
 
 現在はフリーで活動している榎本さんは当時、櫻井さんと同じ事務所に所属しており、マネージャーからは「特別番組を録りまーす」と簡単な説明があっただけだったそう。収録現場では松山社長が事情を説明したが、榎本さんと櫻井さんは「細かい話はいいので、どんな番組にするのか決めましょう。悲しい話にするんじゃなくて、この番組らしく明るく、手術を受ける少年にエールを送る番組にしましょう」と、プロとして前向きに取り組んでくれたことが明かされた。かくして世界でたったひとりのリスナーのためだけに収録された特別番組。内容が気になるところだが、松山社長が言うには「とにかく少年へのエールですよね。櫻井さんも「すごい手術を受ける君は、すごい!」とか言って。いやそれ、もうちょっと言いかたあるやろとは思ったけど(笑)」。それでも、櫻井さんや榎本さん、プロデューサーやエンジニアの方など、突然の話にも関わらず「少年のために」とメンバーが集まってくれたことが本当にうれしかったと松山社長が言うと、榎本さんは改まって以下のように語った。

「当時は、松山さんがお願いがあるって言うし、事情も事情だし、って深くは聞かず「わかったー」っていうノリだったけど、でも今回、本を読ませてもらってラジオ収録の前後の話を知って本当にびっくりした! こんなにいろんなことがあったなんて、知らなかったです。いやだって、松山さんてこういう感じだから(笑)。説明も真剣にしていたんだろうけど、重くならずに受け止めてたんです。でも、本当はいろいろな人がいろいろな伝達をして、数日の間に決断をして、少年にゲームソフトを届けることができた。自分がその歯車の中にいて、ましてや、10年後にそれが本になるなんて思いもしなかったです。今回、最初に本の話を聞いたとき「なんだっけ、その話?」って言ったくらい(笑)。だけど、ふだんいっしょにお仕事している中でも松山さんのマンパワーみたいなものはすごく感じていて。いろいろな人が松山さんの人柄に触れて、行動した結果がこの本の中に詰まっているんだと思います」(榎本)
 
 続く第3のトークテーマは、“エンタメ薬の処方箋”。この本を出版するにあたっての制作秘話や、込められた思いなどが語られた。松山社長の著作としては、これが第2作目。1作目『熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則』は星海社から出版されたが、同社は電子書籍を出さない方針で、いまはもう目が見えない少年ヒロシくんが音読アプリを使って楽しめるよう電子書籍でも展開したいと考え、別の出版社を検討。『.hack』をルーツにした本でもあり、これまで15年間、シリーズをいちばん応援してきたファミ通(Gzブレイン)で本を出すのが筋だと考えたという。ちなみに、イベントが行われた書籍発売当日の11月1日時点では、『エンタメ薬』も『熱狂する現場の作り方』もAmazonで仲よく在庫切れに……。現在、『エンタメ薬』は11月9日入荷予定となっている。リアル店舗では、書泉ブックタワーはもちろん在庫あり、松山社長と榎本さんのサイン入りで販売中だ(数に限りがあります)。

 2017年に入って少年ヒロシくんと再会し、本を出すことを決めた松山社長。月曜から金曜の平日はもちろん、本業のゲーム開発で忙しいので、土曜日を執筆に充てたという。毎週のように宮城県にある少年ヒロシくんのもとに通って話を聞き、それを原稿にまとめて8週間で書き上げる予定だったが、なんと6週間で書き終えてしまった。「この業界ではあんまりないんですけど、奇跡の前倒し!(笑)」(松山)。それくらい、自身の中で完成形が見えている状態で迷いなく書くことができたようで、「途中でパン屋さんの件があるんですけど、そこを取材したときにオチが見えて、早く書きたいと思ってたらまさかのスケジュール前倒しでした」(松山)。確かにノリノリで書いていることがわかる筆致なので、これから読まれる方はぜひお楽しみに。

 パン屋さんの話の流れで、「登場人物によって文字のフォントが変わっていて、これ好きです」と榎本さん。編集側でこだわったポイントのひとつで、セリフの多い登場人物には専用のフォントを当てているのだが、「パン屋さんのフォントは地獄みたいな(笑)」(松山)ものになっているのだ。実際、パン屋さん本人の声も近しいものがあるそうで、松山社長もお気に入り。ここで榎本さんから、「音読アプリだと、フォントに合わせてそういう感じに読んでくれないの?」と注文が入り、「さすがに無理やね、地獄のようなダミ声になったりはしないね」と松山社長にツッコまれていた。

 『エンターテインメントという薬』というタイトルについては、「ゲームやマンガ、アニメ、映画も含めて、エンターテインメントって生きるために必ずしも必要なものじゃない。けど、人は娯楽を求めて生きるし、エンターテインメントは人の助けになれる。ある種、薬のようなものと言えるんじゃないかと思ってつけました」と松山社長。そのため、エンターテインメントを生業とする人たちに読んでほしいという思いもあり、発売前に松山社長がふだんから懇意にしている業界の著名人に本書を読んでもらい、感想・応援コメントを書いてもらっている。コメントはまだまだ追加していく予定なのだが、この度、福岡市長からもコメントが届いたとか。忙しい身のはずなのに「必ず読みます!」と連絡があったその日の夜にはコメントが届いていたと首を傾げる松山社長だったが、「でも、読み始めると一気に読んじゃう。先が気になるし、2時間くらいで読めるから。皆さんも深夜1時からは読まないほうがいいです」と榎本さん。感想・応援コメントはこちらの書籍特設サイトでぜひチェックを。

 最後のトークテーマは、“『.hack//G.U. Last Recode』発売!!”。来場者の多くはもちろん『.hack』ファンで、松山社長が「本日、発売しました!」と第一声をあげると歓声が上がった。

「10年ぶりの『.hack』シリーズの家庭用ゲームソフトです。『.hack//G.U.』のHDリマスターなんですけど、開発期間は2年半。ふつうの新作を作るのと同じ(笑)。バンダイナムコの偉い人からはお客様が勘違いされてクレームになるのがこわいから、あくまでもHDリマスターと言うよう口酸っぱく言われてるんですけど、我々の気持ちとしてはHDリマスターのつもりでは作ってないです。完全新作と同じです。ゲームバランスも取り直したし、アニメーションやエフェクトもどこかもっさりしていたのを直して。当時は死んだらゲームオーバーでタイトル画面からやり直しだったんですけど、その場でリトライできるようにして。PS4のゲームとして、いまどきの快適さを全部洗い出して、全部改善しました。ボリューム的には、『.hack//G.U.』全3巻でだいたいプレイ時間60時間だったのが、サクサクとストレスなく遊べるようになって45時間くらいに短縮されています。我々が考えたのは、15周年を迎える『.hack』というブランドをリブート(再起動、シリーズ作品としての仕切り直し)させるためのプロジェクト。なので、内々の話ですけど、開発チームのチーム名も”リブートチーム”でした。まさに『.hack』をリブートできる内容になったと思います。初めて『.hack』に触れる方にも安心して遊んでもらえる作品です」(松山)

 “リブートチーム”は、『.hack』チームと呼ぶと『.hack』を開発しているとバレてしまうため、いわゆる隠語でつけられたチーム名。開発中はこうして隠語でチーム名をつけているそうで、過去には『NARUTO』作品の開発チーム名が「ヒゲチーム」だったりしたそう。また、現在のサイバーコネクトツーにはこうした7つのチームが動いているという興味深い話も聞かれた。

 『.hack//G.U. Last Recode』にももちろん出演している榎本さんは、「もう早く言いたくて仕方なかったよー!」とアフレコ収録時をふり返った。10年以上ぶりに懐かしいメンバーが代わる代わるアフレコスタジオに集まり、皆「このキャラ、どんな感じでしたっけ?」というところから始まったそう。主人公ハセヲ役の櫻井孝宏さんについては、「デビュー当時から知り合いなんですけど、最近は二枚目の役が多いでしょ? でも私、櫻井くんはハセヲみたいな役のほうが好きなんです。だから、新しい櫻井くんのファンにもやってほしいなと思います」とコメント。「『.hack』はほかにも魅力的なキャラクターがいっぱい出てくるから、ぜひ遊んでほしい!」と声優の視点から作品をアピールした。

 松山社長と榎本さんの息の合ったトークであっという間に時間が過ぎ、トークショーは終了。締めの挨拶中、「ゲームも、本も、今日が発売日。ある意味、誕生日なんですが……あれ、誕生日ぃ!?」という松山社長のベタなフリから、同じくこの日、誕生日を迎えた榎本温子さんへのバースデーサプライズ! サイバーコネクトツーの『.hack』に関わった全スタッフ80名からの寄せ書きと花束が贈られ、記念の写真撮影も行われた。少しの休憩を挟み、その後はサイン会。書籍『エンタメ薬』のほか、『.hack//G.U. Last Recode』のゲームソフトなど何にでもふたりでサインを入れちゃうという大盤振る舞いが行われ、アットホームで賑やかなイベントは幕を閉じた。