東京ゲームショウ2017で注目を集めた、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの『Detroit Become Human』。ゲーム中に登場するアンドロイドのショーケースを展示するという独特の企画の意図、そしてゲームの持つ魅力についてうかがった。

 2017年9月21日(木)~9月24日(日)の期間、千葉・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ(以下、TGS)2017。ゲームメーカーのブースがひしめき合い、各社がさまざまな趣向でゲームファンの気を引く中、ひと際目立っているタイトルがあった。それは、プレイステーションブースの『Detroit Become Human』だ。

 同作は、2018年上期(1~6月)発売予定のプレイステーション4用ソフト。フランス・パリに拠点を置く開発スタジオ“Quantic Dream(クアンティック・ドリーム)”の最新作だ。同スタジオは、これまでに『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツーソウル)』を手掛けており、引き込まれるストーリーや独特のユーザーインターフェースなどで高い評価を得ている。

 『Detroit Become Human』の舞台となるのは、いまより少し先の未来、“サイバーライフ”という企業がアンドロイドを製造・販売するようになった世界にある、アメリカの都市デトロイトだ。カーラ、コナー、マーカスという名の3体のアンドロイドを通して、さまざまな物語が描かれ、そしてプレイヤーの行動によって、彼らの進む道は変わっていくという。

 そんな同作の試遊コーナーに展示されていたのは……なんと、アンドロイドだった! ガラスのショーケースの中にいる彼らは、好奇の目にさらされても何の感情も出すことなく、ときどきこちらに向かって手を振ってくる。また、試遊台の前にも何体かのアンドロイドが待機しており、あまり抑揚のない声で来場者を案内している。この、これまでの東京ゲームショウでは見られなかった異質な光景に人々は驚き、「TGSにアンドロイドがいた!」という知らせがSNSなどを駆け巡った。

 新規IPである『Detroit Become Human』が、ここまでの注目を集めるにいたった経緯はどういうものなのか。この企画のねらい、そして同作が持つ独特の魅力について、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのキーマンにうかがった。

石立大介氏(いしだて だいすけ)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント ローカライズプロデューサー

谷口新菜氏(たにぐち にいな)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント ローカライズスペシャリスト

樋口貢介氏(ひぐち こうすけ)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント マーケティング部 チーフ

人間なの? アンドロイドなの? リアルすぎる展示が話題に

――今回のTGSで、『Detroit Become Human』のコーナーは業界内外から注目を集めていました。ゲームの発売はまだ少し先ですが、このように大々的な企画を実施しようと思ったきっかけを教えていただけますか?

樋口発売は先と言っても、年が明ければ発売も見えてきますから、日本のファンの皆さんにお披露目するタイミングはここだと思いました。

石立大きなコーナーを展開するにいたった理由としては、やっぱり、マーケティング担当の樋口が作品をとても気に入っていたということが大きいですよね。

樋口『Detroit Become Human』は本当にすばらしい作品だと考えているので、この作品のポテンシャルの高さをどうすればユーザーの皆さんにお伝えできるかを考えたときに、これくらいの企画をやってもいいと思ったんです。ただ、プレイステーションブースの中央で、これほどの規模で展開されるというのは、たぶん……ほかのスタッフも想像していなかったと思います(笑)。

――ローカライズチームの皆さんは、できあがった『Detroit Become Human』のコーナーを見て、どう思われましたか?

石立最初に聞いた話では、ブースの正面寄りではあるけど、ここまで大きく扱われる予定ではなかったので……驚きました。来日していたQuantic Dreamのエグゼクティブプロデューサーも非常に喜んでいて、「Paris Games Week(※)でもこの企画を行いたい」と言っていました(笑)。世界観をしっかりフィーチャーしている展開になったと思います。
※2017年11月にパリで行われるゲームイベント。ソニー・インタラクティブエンタテインメント ヨーロッパは、同イベントに合わせ、新作をお披露目する“PlayStation Live”を開催予定。

樋口『Detroit Become Human』は新規IPですので、遊んでもらえるまでのハードルが高いと思っています。じゃあ、どうすれば作品に触れてもらえるかと考えて……「あ、これはおもしろそうだ」と直感的に思ってもらえる、目につくことをしなければと思ったんです。あれだけ広いTGSの会場で、いろいろなタイトルがある中で、瞬間的に気づいてもらうにはどうしたらいいのか。そこで、ゲーム中の“人間(と見分けがつかないアンドロイド)をモノのように売るショーケース”というショッキングなシチュエーションをリアルに作ってみたらどうか? というところから、今回の企画が始まりました。

――これまでのプレイステーションブースを振り返ってみても、今回のような企画はありませんでしたよね。見たときに、「これは新しい!」と思いました。

樋口アンドロイドを展示したのは初ですが、2年前、『人喰いの大鷲トリコ』で“プロジェクション・トリコ”というインタラクティブな企画を実施したことはあります。ユーザーが目の前に立つと、スクリーンの中にいるトリコが反応してくれるという展示でした。あの企画はとても評判がよく、今回の着想のタネのひとつになっています。プロジェクション・トリコは2Dの試みでしたが、3Dにした場合、『Detroit Become Human』の世界をどこまで再現できるかを妥協なく突き詰めた結果が、今回の施策です。

TGS2015で展示されたプロジェクション・トリコ。今回の“アンドロイドショーケース”の礎となった。

――TGSが始まるやいなや、TwitterなどのSNSでかなりの話題になりましたよね。

樋口おかげさまで、想像以上の反響につながったと思っています。これはうれしい誤算でしたね。先ほどお話しした通り、“ゲームの世界を、この現実に持ってくる”ということが今回の企画の要だったのですが、ただアンドロイドがいるだけでよければ、マネキンを置くだけでもいいんです。でも、それでは驚きが少ない。ですから、ゲームの空気感や設定をどうすれば再現できるかと、いろいろなこだわりを足していきました。ガラスの上に文字を表示するデバイスを使ってみたり、Quantic Dreamに協力をお願いして、ゲーム内で実際に使っているロゴなどのアセットを提供してもらったり。そういった、視覚に訴えるものに加えて、さらに音声にもこだわりました。

――音声と言いますと?

樋口あのコーナーの近くで、「24時間365日、文句を言わずに働く、そんな家族が欲しくありませんか?」などのナレーションが流れるようにしました。アンドロイドが普及している世界なら、こういったキャッチコピーで宣伝されているはずだ……と、Quantic Dreamに監修してもらいながら書き起こして。目と耳の両方で、『Detroit Become Human』の世界、2038年のデトロイト市にいると錯覚させるようなものを目指しました。

『Detroit Become Human』では、サイバーライフという会社が、アンドロイドをショーケースで販売している。それを高いクオリティーで再現したものが、今回の展示というわけだ。

石立ナレーションは、玉川砂記子さんにお願いしました。

樋口攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のタチコマ、『東のエデン』のジュイスなどを演じている方です。スタッフみんなで、どういう声の方がいいかを話し合いながら、玉川さんにお願いすることに決めました。

――それだけの強いこだわりがあったんですね。

樋口『Detroit Become Human』を、ただのSF作品だと捉えていただきたくないと思っていて。アンドロイドが出てくる近未来をモチーフにした作品ということだけでは、ありふれていますから。じゃあ、『Detroit Become Human』ならではのものは何かと言うと、容姿も知能も人間に限りなく近い、でもモノとして扱われるアンドロイドの視点で、人間と対峙し行動することが、プレイヤーである僕ら人間の心に、どういう“ざわつき”を起こすのか。そこが、このゲームをプレイして、いちばん考えさせられ、そして惹きつけられるところだと思います。その“ざわつき”を、TGSに集まってくれた皆さんに伝えたかった。これは人間なのか、アンドロイドなのかわからないという、絶妙なところを表現したいと思って……そうしたら、本当にその通りになりました。「うわ、これ、すごく人間っぽい」という声と、「すごくアンドロイドっぽい」という声が同じくらいあったんです。「どっちなんだ?」とリアルの場でお客様がざわついていて。単純に目立つだけではなく、ゲームテーマのど真ん中で興味を引くことができ、すごく成功したと思っています。

7999ドルで注文受付中。ただし、発送は……

――改めて、『Detroit Become Human』の世界におけるアンドロイドとはどういうものなのか、教えていただけますか?

石立外見や行動や話しかたは、もう人間と区別がつかないくらいなのですが、扱いとしては、“モノ”なんです。アンドロイドであると識別できるように、三角のマークが入った服を着なければなりませんし、こめかみには円形のLEDがついています。移動範囲も制限されていて、人権は基本的にありません。

――この世界では、アンドロイドが一家に一台は当たり前?

石立あらゆるところに行き渡っています。日本円にして80万円くらいですので、買えない金額ではないんです。

――そうですよね、TGS会場にあったディスプレイにも、7999ドルで買えると書いてありますし。クルマより買いやすいですよね。

石立もうちょっと安いバージョンもあるんですよ。

谷口アンドロイドがいなくなったら、いろいろな機関が止まってしまうんじゃないか? というレベルで普及しています。国が滅ぶかもしれません。

石立現実の世界でも、僕たちが気づかないだけで、いろいろなところにコンピュータが入っているじゃないですか。たとえば、エアコンの温度調整ですとか。そのくらいの普及率で、アンドロイドも存在しているんです。

――ちなみに、TGS会場には、何体のアンドロイドが派遣されていたんでしょうか?

樋口今回は10体持ちこみましたね。会場の都合もあったので、ローテーションで3体をショーケースに展示し、ほかのアンドロイドに試遊ゾーンを担当させました。ただ、“24時間365日働く”と言っても、メンテナンスは必要ですので、そのための時間も確保しました。

谷口TGS会場は暑いので、ずっと働いていたらオーバーヒートしちゃいますからね。

樋口今回がアンドロイドの初お披露目でしたので、安全な運用を心掛けました。

――「購入できるんですか?」というお問い合わせもあったとか。

樋口はい、ありました。しかも1件だけではなく、何件もあって。海外の方からもお問い合わせをいただきました。Twitterなどでも「80万円、安くない?」という声が上がったり。

石立社内でも、「今日から貯金する」って声が出てました。

谷口発送は、2038年になっちゃいますけどね(笑)。

樋口よく読んでいただくとわかるのですが、ここに書かれている文字は“Order now”なんです。“Ship now”ではないんですよ。残念ながら、実際にオーダーされた方はいませんでしたね。

石立サイバーライフ社にとっては残念でしたね(笑)。今回、試遊前にチュートリアル映像を見てもらったのですが、それも“サイバーライフ社が制作したコナー操作マニュアル”という形で作ったんですよ。そのほうが、皆さんにゲームの世界に入り込んでいただけて、魅力が伝わると思いましたので。楽しんでいただけたならうれしいです。