アニメに登場するようなかわいらしい女の子と、90年代テキストアドベンチャー風のインターフェース。日本のサブカルチャーへの愛に溢れた、サイバーパンク・バーテンダーアドベンチャーゲーム『VA-11 HALL-A(ヴァルハラ)』がいよいよ2017年11月16日に発売する。
東京ゲームショウ2017( 9月21日~9月24日)でも、KONAMIブースでプレイアブル版が出展。TGSのためにベネズエラから来日した、同作を手掛けるスケバンゲームスのおふたりにインタビューする機会を得た。
『VA-11 Hall-A』を語るとき、“日本の文化をリスペクトした”という部分にしかフォーカスを当てないメディアが多いように思う。もちろんキャッチーで話題性に富んだ、すばらしく価値のある情報だが……。本作のルーツを語り尽すには不十分である。
主人公 ジルたちが住むディストピアをひも解けば、『VA-11 Hall-A』が生まれた“ベネズエラ”という国が抱える深刻な問題と、そこに暮らす当事者たちの姿が垣間見える。
日本に情報が届くことは少ないが、ベネズエラの情勢は非常に不安定だ。インフレによって貨幣の価値は紙束同然になり、治安も世界トップクラスに危険な国だといわれている。夕飯の買いものに行くことすら命がけ。公共機関も頼れるか怪しい。
日本のサブカルチャーへの愛と、ベネズエラでしか生まれ得なかった“ディストピア”という舞台。2本のテーマを柱に据え、深い話をお聞きした。
ベネズエラと日本、スケバンゲームスが持つふたつのバックグラウンド
――よろしくお願いします。 お会いできるのを楽しみにしていました!
スケバンゲームス(以下、スケバン) こちらこそ、よろしくお願いします。
――初めての日本はどうですか?
スケバン 日本のゲームやアニメで育ってきたので、本当に、本当に夢みたいです! そして……、安全すぎて感動しています(笑)。
――そう! まさにその話を聞きたかったんです。『VA-11 Hall A』は、おふたりが抱える日本文化への深い知識と、''情勢不安を抱えるベネズエラで生まれ育ったからこそのメッセージ性が融合していますよね。
スケバン そうですね。前者は「このゲームを作ったのは日本人に違いない!嘘をつくな!!」って怒られるくらいには伝わっているんですけど(笑)。
後者、我々ふたりが“ベネズエラ”という国から本作を世に出したことは、できることなら、もっと伝わるとうれしいですね。
――殺人事件の発生率が世界トップクラスに高かったり、スーパーで買い物するために一日中並ばなきゃいけなかったり……。そうした背景があってこそ、シニカルで閉塞感のあるディストピアが生まれたのではないか、と思っていたんです。
スケバン その通りです! ですが、我々が伝えたいのは、そうした悲惨な部分だけじゃない。むしろ本質は、ポジティブなメッセージかもしれません。
――わかりました。今日はもう、そのあたりも含めてとことん聞かせてください。
巨大ロボットめちゃクール! 『YAKUZA』超おもしれえ! ずぶずぶハマった日本文化の沼
――ですが、まずはスケバンゲームスさんの日本愛からお聞きできればと思います。
スケバン どうぞ、なんでも聞いてください(笑)
――日本のインディーゲームファンのなかには、ようやく日本語版が! という方も多いと思います。日本語版の発売を2か月後に控えた現在、どのような心境ですか?
スケバン やっぱり、夢みたいですね。うれしいですし、不思議な気分です。もともとは、ゲームジャム(短期間でゲームを完成させ、発表しあうイベント)のために作った作品なんです。たまたまそのテーマが“サイバーパンク”だった。偶然の産物なんです。
だから、こんな人気が出るとは思っていませんでした。開発中に立てた目標金額も、発売したその日に達成してしまって……。
――なるほど。“サイバーパンク”というテーマが先にあって、そこに要素が肉付けされていったんですね。
スケバン そうです。テキストアドベンチャー風のインターフェースも、日本アニメ風のピクセルアートも、最高のサイバーパンクにしようとした結果、自然とそういう表現方法に行き着いたという感じです。実験的な作品にしよう、という意気込みはありましたけど。
――“自然と”というのがすごいですね(笑)。ぼくは、主人公のジルが仕事を始める前に毎回つぶやく「Time to mix drinks and change lives.(人生を変える一杯を作る時間だ)」って決め台詞にシビれました。ハイセンスなアニメを見ているみたいで、超カッコいいなと。
スケバン それも意識していなかったです(笑)。幼少期から、日本の映像作品ばかり見て育ってきましたから、もう染みついているんでしょうね。戦隊ものや『ガッチャマン』、もう少し上の年齢になると、ロボットアニメとか実写映画とか。もちろんゲームも好きです。今日も『モンスターハンター』と『龍が如く』に大興奮でした。それに……『ぎゃる がんVR』は超クールです。
――邦画にまで知見があるんですか! 予想をはるかに超えてきましたよ……。
スケバン スケバンゲームスという社名も、70年代のVシネを見て、反骨心みたいなものを表現したくて決めました。
伝えたいのは打ちひしがれる姿ではない。『VA-11 Hall-A』に込めたベネズエラの“現実”。
――“反骨心”という言葉も出たところで、後半の話題に移りましょうか。
スケバン ベネズエラとディストピアのお話ですね。やはり、そこは切っても切れない関係にあります。ゲーム中、主人公のジルが匿名掲示板を覗く場面が登場しますが、そこで人々が話す出来事は、ベネズエラの現実そのままです。
――食料品を買うのに何時間も並ぶ、とか。絶望的な気持ちになる、とか。
スケバン もしかして、知られないほうがいい話かも(笑)。でも、真実ですから。
実際に日本を歩いてみて、カルチャーショックでしたよ。妹を連れてきたんですが、暗い夜道を女の子に歩かせても安全だなんて考えられない。これが“ふつう”ってことなんだと感動しました。
――……はい。
スケバン だけど、ネガティブなことだけを伝えたいわけじゃないんです。
『VA-11 Hall A』では、すべてのキャラクターに信念や考えかたを持たせました。主人公だけが問題意識を感じているわけじゃない。みんな、自分の意志で考え、夢を持ち、楽しく現実を生きようとしている。モブキャラなんて存在しない。それは、現実を生きるベネズエラ人も同じです。
――そうですよね。ベネズエラで生まれ育ったおふたりが、夢を叶え、いまここにいらっしゃることが何よりの証拠です。
スケバン ゲーム画面、あるいは国境の外から見ればディストピアかもしれない。でも、日々を乗り切ることすら困難な情勢と、それでも一生懸命に生きる人々、両方あわせて、我々が伝えたいベネズエラの現実なんです。
――きっと、多くのゲームプレイヤーに伝わると思います。
いかがだったろうか。本記事を通して『VA-11 Hall-A』に込められた想いが少しでも伝われば幸いだ。できることなら、実際にプレイして、よりリアルに感じてみてほしい。
なにか“お酒”に関係するネタが欲しいと要求したところ、「日本に来た翌日、ガラス張りのバーに入ったんだけど、外からの銃撃が怖くてすぐに出ちゃったんだよね」と、刺激的な冗談を聞かせてくれたスケバンゲームス。
彼らが作った『VA-11 Hall A』日本語版は、11月16日発売予定。