スクウェア・エニックスの研究者が最新のAI技術を解説
2017年8月30日~9月1日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2017。ここでは、スクウェア・エニックス テクノロジー推進部の三宅陽一郎氏と水野勇太氏による、“人工知能(メタAI)を用いたゲームデザインの変革”と題したセッションを紹介する。
三宅氏はゲームAI開発の第一人者として知られ、リードAIアーキテクトとして『ファイナルファンタジーXV』の制作にも携わった人物。また、水野氏は、大手ゲーム会社でステルスアクションゲームのAIプログラマーやスマホゲームのディレクターなどを経験したのち、2017年4月より現職に。社内でもひとりしかいないという、耳慣れない肩書きであるAIテクニカルデザイナーを、「テックアートのプランナー版で、かつAIに特化」した職種と説明した。
タイトルにある“メタAI”とは、最新のAI技術であり、ゲーム全体を制御する人工知能のことだ。このセッションでは、メタAIの研究に従事する三宅氏と水野氏が、メタAIがどのようにゲームデザインを動的に変化させていくのかを、実例を交えながら解説。ゲーム開発者にメタAIの設計を提案した。
三宅陽一郎氏が語る、メタAIのオーバービュー
セッションの前半では、三宅氏によりメタAIの概要が説明された。昔のデジタルゲームにはAIという明確な部分はなく、システムのなかに混在する形であったが、最近はメタAI、キャラクターAI、ナビゲーションAIの3つに分化している。ちなみに、キャラクターAIはキャラクターの頭脳であり、メタAIはゲーム全体を俯瞰的に見てコントロールする映画監督のような役割、ナビゲーションAIはさまざまなゲームの地形にキャラクターAI、メタAIが適応できるように合わせる役割を果たしているという。
メタAIには、古典的メタAIと現代のメタAIのふたつが存在する。1980年代の古典的メタAIの誕生にはじまり、キャラクターAIの自立化を経て、現代のメタAIに発展した。古典的メタAIの例としては、『ゼビウス』でプレイヤーが一度撃破されると、敵の出現テーブルが巻き戻り、難易度が調整されるというもの。撃破されない=うまいプレイヤーに対してはどんどん強い敵が出現していくが、撃破されたプレイヤーに対しては弱い敵に巻き戻す、という仕組みだ。
これに対して現代のメタAIは、動的に敵を配置したり、動的にレベルを生成したりするなどし、より積極的にゲームに干渉するものである。たとえば『レフト 4 デッド』に搭載されたメタAIは、ユーザーの緊張度に応じて敵の出現度をコントロールする。リラックスしているときには敵をどんどん出現させて緊張度をあげ、一定の緊張度を超えると敵を減少させるというものだ。
開発時には、センサーによりプレイヤーの脳波や脈拍などの生体信号を取ることで、緊張度を計算していた。実際の製品では、「敵に囲まれている状況だと緊張度があがる」「ダメージを受けると、ダメージに比例して緊張度があがる」など、ゲーム内パラメータからメタAIが緊張度を判断するとのこと。
『レフト 4 デッド』のメタAIは、キャラクターAIが地形を判断するためのナビゲーションメッシュを用いて、ゲームの状況を判断。プレイヤーの現在地から目的地までの経路を予測し、前述の緊張度やプレイヤーのスキルなどを考慮しつつ、経路上に敵を自動的にスポーニングさせている。
ここまでをまとめると、従来のデジタルゲームは、出荷時に敵の出現位置やタイミングなどをすべて定めておく必要があったが、現代のメタAIを含んだゲームは、メタAIがプレイヤーなどの状況をリアルタイムで判断しながら、動的に調整することができる。ゲームデザイナーの知能そのものを、メタAIとしてそのままゲームに埋め込んでいるイメージだ。そのため、たとえばメタAIの部分だけをDLCとして配信することで、軽いスクリプトだけでまったく違うゲームに変えることも可能であるという。
そのほか、メタAIによりダンジョンを自動生成している例として『Warframe』が、ストーリー(イベント)を自動生成している例として『ファークライ 4』が挙げられた。
三宅氏は「オープンワールド型のゲームにメタAIは適している。プレイヤーをメタAIが監視していて、飽きはじめたり、敵のアジトの近くにきたりすると、自動的なミッション生成ができる。さらにマップを自動生成させられる」と説明し、「メタAIを使うと、(比較的)安いコストでオープンワールド型のゲームを作ることができる」とまとめた。