『メタルギア』シリーズの時系列に合わせて楽曲を演奏

 2017年8月2日、東京国際フォーラムにて“メタルギア in コンサート”東京公演が開催。映像とともに『メタルギア』シリーズの名曲をフルオーケストラで堪能できるとあって、会場には多くのファンが詰めかけた。先に行われた7月30日の大阪公演に引き続き、指揮を執るのはニコラス・バック氏。今回の公演では東京フィルハーモニー交響楽団が調べを紡ぐ。さらに、主題歌を担当した歌手のドナ・バーク本人が歌唱するという豪華なステージとなった。今回のリポートは、シリーズファンが楽曲のシーンを思い浮かべやすいよう、『メタルギア』用語を盛り込んでお届けします。

 本公演のセットリストは、大阪公演と同様の43曲。詳しい楽曲リストは、下記の関連記事にて。
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生演奏と映像で『メタルギア』の世界を体感! “メタルギア in コンサート”大阪公演リポート

『メタルギア』サーガをオーケストラで追体験! 感動に震えた夜――東京公演リポート_11
『メタルギア』サーガをオーケストラで追体験! 感動に震えた夜――東京公演リポート_01

 本日の“マザーベース”となる、国際フォーラムでいちばん広い“ホールA”には、平日にも関わらず多くの兵士たち(『メタルギア』ファン)が集結。男性隊員がほとんどかと思いきや、女性隊員の姿も多く見かけた。
 さて、楽団の準備が整い、今回のコマンダー、ニコラス・バック氏が登場。軽やかな足取りで指揮台にヒョイッと飛び乗る。お茶目なお人柄のようだ。彼は作曲家、編曲家でもあり、本公演の編曲も担当している。さらに、ヴァイオリニスト、ピアニストでもあるという。もしフィールドで見かけたなら真っ先にフルトン回収せずにはいられない人材だろう。後に登壇するドナ・バークからも、すばらしい才能の持ち主と言われていた。

スネークの原点『メタルギア ソリッド 3』で幕開け

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 プログラムは、『メタルギア』シリーズの時系列の順となっており、第1部ではBIGBOSSの物語が奏でられる。最初の曲は『メタルギア ソリッド 3 スネークイーター』(以下、『メタルギア ソリッド 3』)のメインテーマから。スクリーンには、オープニングでスネークが飛行機からHALO降下するシーンが流れる。スネークの足がハッチから離れ、“鳥になった”瞬間、バンッと盛り上がるオーケストラ。映像と演奏が見事にシンクロしている。ピンポイントで絵と音を合わせている公演は初体験だったので、これには驚いた。

 シンクロの実現には、ある秘密兵器がひと役買っているようだ。指揮台の上には、ニコラス氏用のモニターが設置されており、スクリーンと同じ映像が映し出されているのだ。指揮台モニターのほうはテンポなどの情報も表示されていたが、これを確認しつつ、楽団の各パートへ細やかにタクトを振れるなんて……。さすがはエリートコマンダー!

 楽曲はメドレーのように移り変わり、ザ・ボスの亡命、コブラ部隊の濃いメンバーたちとの対決、EVAのバイクに乗ってのチェイスシーンが描かれていく。一瞬、スネークが捕まえた蛇を食べている映像も流れて、サバイバルの楽しかった記憶も蘇った。そして、シャゴホッドを乗り回すヴォルギン大佐との攻防では、気持ちをあおるように演奏もヒートアップする。エレキギターやエレキベース、ドラムも入り、曲にスパイスを効かせていた。

 今回、クラシックの編成にプラスして、こうしたバンドユニットが組み込まれているのもうれしかった。できるだけ原曲を再現しようという心意気というか、ファンサービスの精神が感じられる。そのためか、さまざまな楽器が配置されたステージ上は、かなりの密度だった。そもそも、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏者の厚みがすごい。各セクションごとにピタッと揃っていて、1音1音が分厚い。

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 そしてあっという間に、ザ・ボスとの最後の戦いの曲「Life's End」。一面に咲くオオアマナの白い花が赤く染まるとき、やさしくも悲しい弦と金管の音色に胸がいっぱいに……。“最高の約2分間”でした。最後の楽曲はエンディングで流れる「Debriefing」。プレイ当時はEVAが語る、ザ・ボスの帰還報告に涙が止まらなかったっけ……。吹奏楽器が高らかに奏でる旋律につられて、そのときの感情がまたこみ上げてきてしまった。

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『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』にキュンキュンが止まらない!

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 ふたつめのブロックは、『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』から6曲を演奏。まずは、雨の海岸で、部隊の兵士に稽古をつけていたところへ、ガルベス教授とパスが訪問する場面から。その不穏な空気を破るように、サンディニスタがAI兵器に襲撃されるシーンへ。ここでは本作の表現方法のひとつ、イラストを使った“バンドデシネ”の映像も見られた。さらに、ピューパやメタルギアピースウォーカーら大型AI兵器戦へ。どれも手強かった記憶があるが、同時にAIボイスの「オラは死んじまっただ~」がふと思い出されて、ニヤリ。クライマックスは、「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER Main Theme」。印象的な弦のフレーズがカッコイイ曲だ。キュルキュルキュルと、弓をこすり上げるような音も、生で聴くと何ともピリッとしている。締めくくりは、シリーズ唯一のキャラクターソング、パス役の水樹奈々さんが歌唱を担当した「恋の抑止力」。歌の旋律は、フルートら吹奏楽器が奏でていたが、「恋の抑止力~♪」と心の中でいっしょに歌っていた同志も多いのではないだろうか。スクリーンには、当時話題を呼んだPV映像が流れていた。うーん、いま見てもやっぱりパスはかわいい!

ドナが熱唱! 『メタルギア ソリッド V』

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 続いては『メタルギア ソリッド V』のブロックへ。遠くに響く銃声、銃をカチャリとする効果音の後、シビれる重低音とともに『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』のオープニングテーマが始まる。スネークがチコ救出のため潜入したところだ。そこから息をもつかせず、マザーベースが陥落、スネークは病院へ……。ここでもパスの衝撃シーンや、爆発などに合わせてピタリと音が寄り添う。そんな怒涛の旋律を浴びた後、スネークがカズを救ってマザーベースに帰還する「V Has Come To」が挟まれ、少しホッとしたのも束の間、感染の犠牲者を弔うシーンへ。ビッグボスの心中をまさに表している「Shining Lights, Even in Death」に胸が締めつけられるよう。そこから流れるようにサヘラントロプス戦へと移っていくが、ビッグボスの“角”が伸びていく映像も交えられ、波乱を含むままにフィニッシュ。しかし、このままでは終わらない。本作の主題歌「Sins of The Father」のため、ドナ・バークがステージに登場する。

 オーケストラを背に、客席ひとりひとりに語り掛けるように歌うドナ。サビやフェイクでは、全身から溢れんばかりの力強い歌声を聴かせてくれた。

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ソリッド・スネークの人生を奏でる第2部

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 第2部は、ビッグボスの息子であるソリッド・スネークの物語。スクリーンには懐かしい『メタルギア ソリッド』のタイトル画面が映し出されている。ニコラス氏がタクトを持つと、ボタンで選択したときの「ピン!」という効果音と銃声が鳴り、そこから演奏がスタート! 何ともニクい演出である。奏でるは「VR Training」という、1曲目にふさわしい華やかな楽曲だ。金管楽器のパワフルさに、思わず高揚してしまう。そこからすかさず、潜入時の「Intruder 1」へ。映像ではジョニー佐々木、オセロット戦など、序盤の名場面もしっかり押さえられていた。そして、こちらも忘れてはいけないサイコ・マンティス戦に続く。静かな2曲の後は一転、スリリングなハインドD戦の曲から、屋上からのラペリング時の楽曲「Escape」へ。最後はエンディングテーマ(『ザ・ツインスネークス』版では、オープニングでも流れた)「The Best Is Yet To Come」。ボーカルのラインは木管楽器が美しく物悲しい音色で聴かせてくれた。

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緊迫と哀愁の『メタルギア ソリッド 2』

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メタルギア ソリッド 2 サンズ・オブ・リバティ』のブロックは、ハドソン川に降り注ぐ雨音とともに始まった。雨具を着た男……、スネークが橋の下を通過するタンカーに向かってバンジーする名場面だ。飛び降りる瞬間や、反動で舞い上がる一瞬にもバシッとタイミングを合わせてくるオーケストラ、さすがです。そこから間髪入れずにオルガ戦へ突入。軍人さんらしく(?)ムダ毛は自然のままでしたね、オルガさん。緊迫した空気のまま、メタルギアRAY戦、フォーチュンのシーンへ。フォーチュンのテーマでは、サックスのソロに乗せて名ゼリフ「ごめんね――カモメさん……」が脳内再生された。

 曲は「It's the Harrier!」へと移り、再び緊張感が漂う。ジャズのテイストもある楽曲で、ドラムが軽快にリズムを刻む。そこからソリダスとの決戦、エンディングシーンへと続く。清らかなヴァイオリンが、希望を感じさせてくれる結びだった。

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『メタルギア ソリッド 4』でつながる心と心

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 最終ブロックは『メタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』。ハープがエキゾチックな印象をもたらす「Old Snake」から始まり、あのにっくき兵器・月光のテーマ「Gekko」、「Mobs Alive」とどんどん盛り上がりを見せる。そしてGWと相対する場面の「Guns of the Patriots」、「フォックスダイ……じゃない!」の後の、アウター・ヘイヴン浮上の「Everything Ends」で最高潮に。エピローグを紡ぐ「Father&Son」では、クラシックギターの音色がやさしく会場を包み込んだ。

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 ブロックの最後を飾るのは「Metal Gear Saga」。ファンの心に深く刻まれているあのメロディーが、奏者渾身の演奏で響き渡る。それだけでも胸が熱くなるのに、曲とともに本公演のプログラムのダイジェスト映像が流れる。そこでは親と子の絆、戦友との友情、愛情、交わす握手、触れる手と手、抱擁というようにシーンが再編集されており、熱い感動が呼び起こされた。

フィナーレは女神の歌声とともに

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 再び歌姫、ドナ・バークが登壇。今度は白いドレス姿を披露してくれた。まずは、『メタルギア ソリッド 3』のエンディングテーマ「Snake Eater」。とにかくドナの溜めに溜める、溜めっぷりがクールだった。艶やかな歌声にも聴き惚れてしまう。ドナ自身もとても気持ちよさそうに歌っていた。またドナは、「Snake Eater」の後には、「アリガトウ、コンバンハ、ゲンキ?」などと客席に語り掛ける、チャーミングな一面をのぞかせていた。

 そして、『ピースウォーカー』のエンディングテーマ「Heavens Divide」。ときに囁くように、ときにパワフルに歌うドナに、会場はすっかり魅了されていたようだ。

 そんなドナとニコラス氏、演奏者の皆さんに惜しみない拍手が送られた。拍手がいつまでも鳴りやまないため、ドナとニコラス氏が舞台袖から3回も再登場し、応えるという微笑ましい場面も。こうしてコンサートは大きな興奮の中、幕を閉じた。


 コンサートの後、『メタルギア』シリーズをまた最初からプレイしたくなってしまいました。曲を聴き、映像を観ることで、熱中した思い出や、物語に感じた切なさが蘇ってきて……。今回、シリーズを振り返ってみて、すばらしい作品と出会えてよかったなとしみじみ実感しています。改めて、『メタルギア』シリーズを作ってくださった皆様、本当にありがとうございました。

会場で見かけたステキなファンの皆さん

 今回の来場者の中には、コスプレで参加している方もチラホラ見られました。

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▲山猫部隊に扮した魎皇鬼さんと、スカルフェイスとオセロットをブレンドしたような出で立ちのトルネード吉田さん。
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▲タキシード姿のビッグボスはDAN-すさん、ドレスアップしたクワイエットを体現してくれたのは染屋うめさん。

 皆さん、ご協力ありがとうございました!