セガファンの声にどう応えるか、エンタテインメントの会社として考えていく

 2017年4月、セガゲームスはいくつかの体制変更を実施した。それは、里見治紀氏の代表取締役会長CEO就任と、松原健二氏の代表取締役社長COO就任、そして2015年4月に導入された社内カンパニー制の見直しだ。これによってセガゲームスの家庭用ゲーム、スマホ向けゲームはどう変わるのか? 新社長・松原氏に、組織改編の意図と展望を聞いた。

IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_04

セガゲームス 代表取締役社長COO
松原健二氏
(文中は松原)

新体制の目的は、IPを軸にして、チームの力を最大限に引き出すこと

――4月に松原さんが代表取締役社長COOに就任されましたが、これに合わせ、以前の体制から変わった点などをお聞かせください。
松原 昨年度まではカンパニー制を採用していたのですが(※1)、つぎのステップに進むためには、どういう制度がいいのかを里見(セガゲームス代表取締役会長CEO 里見治紀氏)とともに考えて、組織変更に踏み切りました。
※1 家庭用ゲームやPCゲームをコンシューマ・オンラインカンパニーが、スマートデバイス用ゲームをセガネットワークスカンパニーが担当していた。

――カンパニー制を続けるという選択肢はなかったのですか?
松原 デバイスを軸にしたカンパニー制は、スマートデバイス用ゲームが急激に立ち上がった時代では効果がありました。個別最適で取り組むことで市場の成長の波に乗り、事業を拡大できましたから。では、そのつぎにやるべきことは、デバイスを軸にするのではなく、IP(知的財産)を軸にして、開発チームが持っている力を最大限に引き出すことではないか……そう考えて、カンパニーを統合して、IPを軸とするスタジオ事業制をこの4月に作りました。私が、前期までセガネットワークスではCTOを、コンシューマ・オンラインカンパニーではCOO・CTOを担当していたことも、今回の組織変更に活かされています。

――カンパニー制を経て、時代に合った新しいステップへ進んだと。
松原 はい。それからもうひとつ、体制変更には理由があります。それは、“世界から世界へコンテンツを届ける”というセガゲームスの姿勢を明確にするためです。それには、IPを軸にした体制にし、そのIPを世界各地に展開する形のほうがわかりやすいだろうと。日本の皆さんにとっては、身近な日本のスタジオが中心に見えると思いますが、グループ全体でみると、欧米にはスタジオが8ヵ所ありますし、シンガポールにはスマートデバイス向けゲームのスタジオがあります。世界各地のスタジオで作っているものを、世界に届けていきます。

――今回の組織変更で、ゲーム作りは、具体的にどのように変わるのでしょうか。
松原 もっとも大きな違いは、家庭用ゲーム機やPCで展開していたタイトルをスマートデバイス向けに展開する際のありかたです。従来、セガネットワークスカンパニーが開発や運営を担当していましたが、今後はそのノウハウを生かしながらも、IPの担当するチームが開発・運営し、IPの価値を最大化すべく取り組めるようになります。たとえば名越(名越稔洋氏)のチームは、家庭用ゲーム機のタイトルを中心に作っていますが、今後はスマートデバイスでもみずから取り組めるようになります。

――IPにいちばん詳しいスタッフが、どのデバイスにも関われるようになったというわけですね。
松原 自分たちで取り組んでもいいし、経験やリソースを分け合うために、ほかのチームと連携してもいい。海外も同様で、この4月に欧米の全スタジオがひとつの部署の中に入ったこともあり、コラボレーションしやすくなっています。このあいだのE3(※2)でも、どう取り組もうか、さっそく議論していましたよ。
※2 エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポの略。毎年6月にアメリカにて開催される、世界最大級のゲームの見本市。

――どのような連携の形が生まれるか、楽しみです。
松原 たとえば、『Total War』シリーズは、PCでとても好調ですが、スマートデバイス向けタイトルはまだ成功がありません。PCゲームのスタジオからすると、ローンチ後の運営を伴うスマートデバイス向けゲームは未知の領域。PCゲームとは制約も遊びかたも違うので、なかなか進捗できません。今回の組織変更で、その課題を解消しやすくなったと思いますので、今後前向きに取り組んでいきたいですね。

過去のIPを活かし、かつ新規IPにも取り組む。夏から秋にかけては発表も?

――2017年度3月期は、セガサミーホールディングスのエンタテインメントコンテンツ事業で、営業利益111億7600万円(前期比165.1%増)というかなり好調な業績となりました。とくに、どのような分野に手応えを感じていますか?
松原 エンタメコンテンツ事業の中でもセガゲームスだけで見ると、堅調にいった分野と、グーンと伸びた分野のふたつがあります。堅調だったのはオンライン系''――『ファンタシースターオンライン2』や『ぷよぷよ!!クエスト』、『オルタンシア・サーガ-蒼の騎士団-』、『チェインクロニクル3』ですね。グーンと伸びたのは、『Total War: WARHAMMER』です。『Total War』シリーズでは初のファンタジー作品ということもあって、どのように受け入れられるかという懸念もありましたが、発売してからの勢いがすごくて。販売本数が150万本を突破して、まだ売れ続けているんです。それから、『ペルソナ5』ですね。

IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_05
▲『Total War』シリーズは、ヨーロッパを中心に人気のリアルタイムストラテジーゲーム。『Total War:WARHAMMER』は、イギリスのGames Workshop社のミニチュアゲーム『WARHAMMER』のファンタジー世界を取り入れたタイトル。

――『ペルソナ5』は、世界中で多くのファンが待ち望んでいましたからね。
松原 『ペルソナ5』は日本語版、繁体字版、ハングル版、英語版の4言語で発売していますが、どの地域でも予想を超える結果を出しています。すべて合わせると、累計出荷本数は150万本を超えました。海外でも高い評価をいただいていて、日本の高校生を主人公にしたRPGがこれだけ支持されるということは、とてもありがたいことです。『ペルソナ5』や、『Total War: WARHAMMER』、『龍が如く6 命の詩。』といった、きっちりと作ったコンテンツが評価されて、おかげさまでいい業績を出すことができました。

――では、今後のセガゲームスの事業についてうかがいます。5月に公開された事業戦略“Road to 2020”には、休眠していたIPも活用していくとありますが、どのようなIPを復活させるのでしょうか? また、新規IPにはどのように取り組んでいくのでしょうか。
松原 IPに関しては、仕込んでいるところですので、お待ちください。過去のIPを使用する際は、そのIPのよさを残しつつ、新しいファンにも訴求できるもの、進化を感じていただけるものにしたいと思っています。新規IPについては、言うまでもなく、新しいチャレンジをしていきます。この夏から秋にかけて、いくつか発表できると思いますので、楽しみにお待ちください。

――多彩なIPを使用する戦略は、長い歴史を持つセガだからこそ可能なものだと思います。
松原 おっしゃる通り、セガにはたくさんのIPがあります。IPを活用したいと思ったとき、自分のチームですべての作業を行えるのならそれでも構いませんが、そうではないとき、ほかのチームに協力してもらう……という体制が、組織変更を機に、どんどん進んでいくのだと思います。たとえば北米では、6月頭に『Crazy Taxi Gazillionaire』というスマートデバイス向けタイトルを配信開始しました。これは北米のスタッフが「『クレイジータクシー』を作りたい!」と手を挙げて、日本のスタッフが開発に協力して生まれたタイトルなんです。

――海を超えたスタジオ間の協力によって誕生したタイトルなのですね。
松原 風通しがいい組織でないと、こうはいきません。世界のスタジオとスタジオを結び付けて、どうやって1+1を2以上にするか。どうやって世界中のお客様に感動体験をお届けしていくか。それが、セガゲームスが今後取り組むべきことです。

――ところで、復活が望まれるIPとしては、やはり『サクラ大戦』が挙げられると思うのですが……。
松原 週刊ファミ通のシミュレーションゲーム総選挙でも1位をいただいて、ありがたい限りです。
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――それともうひとつ、任天堂が“ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ”に続き、“ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン”を発売することを発表しましたが、セガハードでもこのような試みを実施する予定はありますか?
松原 『サクラ大戦』についても、セガハードについても、さまざまな声をいただいています。その声に、どうお答えするかというのは、エンタテインメントの会社として考えなければならないと思っています。“SEGA Forever”(※3)についても、日本での展開を望む声をいただいており、慎重に検討していくつもりです。
※3 セガの旧作をスマートデバイス向けに無料配信するプロジェクト。現在は、欧米市場向けのサービスとして展開中。

アジア、欧米での今後の展開

――近年は、アジア市場が見逃せない存在になっていますが、セガゲームスのアジアにおける今後の展開を教えてください。
松原 アジア市場での家庭用ゲームの売上が伸びていて、我々の場合、PS4のタイトルで言うと、日本の販売本数の3~4割ほどの数が見込めます。10年前は日本の市場のことだけを考えていましたが、いまは日本とアジアの市場に同時に取り組んでいく。家庭用ゲームは、そういう段階になったと思います。

――スマートデバイス向けゲームについてはいかがでしょうか。
松原 アジアにはすでに大きな市場がありますので、我々は2年前にシンガポールにgoGameという子会社を作り、その会社でローカライズを行ってタイトル展開を行う体制を整えました。さらに今後は、セガのタイトルだけでなく、他メーカーのタイトルを預けていただいて、goGameを通じて展開していくつもりです。今年中には、その例を皆さんにお伝えできると思いますので、楽しみですね。

――ゆくゆくは、アジア市場だけでなく、欧米市場にも同時に取り組んでいくのでしょうか。
松原 いつかは同時にしたいと思っていますが、まだいくつか課題があります。たとえば欧米は、流通のプロモーションやスケジュール感が日本と違うんです。日本では、9月の東京ゲームショウに出展したタイトルを、すぐ11月に販売することをしますが、欧米では、6月のE3で出展したものを、半年近く時間を置いてホリデーシーズンで売るような形です。とはいえ、その差は縮まってはいます。『ペルソナ5』は、日本では昨年9月15日に発売して、欧米では4月4日に発売。約7ヵ月の差ですね。もう少し短いスパンで発売できるようにしたいと思います。

――欧米と言えば……このあいだのE3は、メディアのIDホルダーに『Yakuza 6:The Song of Life』(『龍が如く6 命の詩。』)があしらわれていたことが印象的でした。
松原 『Yakuza』の海外での展開については、昨年から改めてプランを練り直していて、より認知度を高めていくために、今回はIDホルダーのデザインに『Yakuza 6』を使用しました。ブースで配布するバッグのデザインも、『Yakuza 6』にしましたし。

IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_06
▲E3 2017のIDホルダーは『Yakuza 6:The Song of Life』のビジュアルを使用。

――神室町を再現したブースも、かなり注目を集めていましたよね。
松原 おかげさまで、いま欧米で『Yakuza』が評価されてきているんです。『Yakuza 0』(『龍が如く0 誓いの場所』)は、1980年代の日本の雰囲気が味わえると評判で、期待以上の販売本数を記録しています。ようやく、これまでの取り組みが結果に結びついてきて、10万本、20万本という数字を狙えるようになりました。『Yakuza 6』は、シリーズの中では、PS4専用で作った初のタイトルですので、これがどれだけ欧米の市場で受け入れられるか楽しみですね。
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IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_01
IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_02
▲神室町が再現されていたアトラス・セガブース。

――今回のE3に出展されていた『ソニックフォース』と『ソニックマニア』も、欧米での評判が楽しみなタイトルです。
松原 久しぶりの『ソニック』新作ですからね。まずは『ソニックマニア』を、昔からのファンの方はもちろん、「ソニックの名前は知っていたけど、遊ぶ機会がなかった」という方にプレイしていただきたいです。それから、『ソニック』シリーズへの期待感を醸成して、『ソニックフォース』につなげていきたいな、と。

――このE3で、『Yakuza』や『ソニック』といった期待作をアピールできたという手応えはありますか?
松原 そうですね。今回はセガ・オブ・アメリカとセガ・ヨーロッパのブースが並んでいて、神室町の通路を見ると、奥に『ソニック』が見えるという作りになっていて……家庭用ゲームの注目作をしっかり皆さんにお見せできました。セガ・ヨーロッパのブースでは『Total War: WARHAMMER II』と『Total War: ARENA』も注目を集めていたと思います。

世界中の人たちに、もっともっと感動体験を届ける

――松原さんが考える、パッケージゲームの今後の課題とは、どのようなものでしょうか。
松原 パッケージゲームのいいところは、しっかりと作り込んでいるコンテンツであることで、そのよさは、今後も変わらないものだと思います。課題は、その要素をお客様に楽しんでもらえる“面”を増やしていくこと。それは、体験版だったり、ダウンロードコンテンツだったりと、デジタルゲームに近い形になると思います。加えて、新作が出てから、つぎにコンテンツが出るまでの“時間”が空きすぎないようにするという課題もあります。時間の連続と、面の広がり。それらが大事になってくると思います。

――スマートデバイス向けゲームについてはいかがですか?
松原 スマホ向けゲームは、日本では市場が急激に伸びてきましたが、2年前くらいから、ある意味成熟期に入っています。タイトルのランキングを見ていても、なかなか入れ換わらないですよね。ただ、それでも諦めずに、ベスト10内、そして1位を狙っていくという姿勢が必要だと思います。我々のコンテンツは、『チェインクロニクル』も『ぷよぷよ!!クエスト』も、コンスタントなセールスは記録しているのですが、トップではない。今後は突き抜けたものを作っていきたいです。

――パッケージゲームとデジタルゲーム、どちらの分野においても、セガならではの意欲作が生まれることを楽しみにしています。では最後に、松原さんが描くセガの将来像をお聞かせください。
松原 日本だけではなく、欧米やアジアのコンテンツも含めて、皆さんに感動をお届けする体制を作っていきたいです。スマートデバイスの普及や、新しい技術の登場によって、セガのコンテンツに接する人の範囲も、どんどん広がっていきます。日本・欧米・アジアにスタジオがあるという、セガの随一の特徴と、技術の進歩を活かして、世界中の人たちにもっともっと感動体験を届ける。それが、セガが目指すべき姿だと思っています。

IPを軸にした新体制で、コンテンツを世界から世界へ。セガゲームス松原健二社長インタビュー_03

※本インタビューは、週刊ファミ通2017年7月27日号(2017年7月13日発売)に掲載された内容に、加筆・修正を行った完全版です。