『マインクラフト』のC418や、『ロックマン』シリーズなどの松前真奈美が参加

 音楽レーベルDescansoが、レーベル代表を務めるアーティストBaiyonのニューアルバム「We Are」をBand Campほかで配信中。全曲が他アーティストとのコラボレーションになっており、Disasterpeace、El Huervo、Luis Hernandez、C418、Mitsuto Suzuki、松前真奈美らが参加し、合計10曲を収録する。

 Band Camp、iTunes Store、Amazon Music、Beatport、Google Playなどで販売中で、Band Campの販売ページには詳細なライナーノーツも掲載。またSpotifyやApple Music、そしてGoogle Play Musicの会員はストリーミング視聴が可能だ。参考までにBand Campでの価格は1000円で(それ以上を支払って支援することもできる)、iTunes Storeでの価格は1500円となっている。

 クラブ音楽やアートワーク、DJ、服飾デザイン、そして内外のさまざまなインディーゲームへの楽曲提供など、2000年代から幅広い活動を展開してきたマルチアーティストBaiyon。昨年よりQ-Gamesのクリエイティブプロデューサーに就任し、先日京都で行われたインディーゲームイベントBit Summitで新作『Eden Obscura』を発表したばかり。
 かつて記者がBaiyonにインタビューした際、音楽誌からはゲームの面が、ゲーム媒体からはクラブサウンド的な部分が十分に理解されないとこぼしていたが、その上でグラフィックアートや服飾もあるわけで、実際その全貌を正確に把握するのは難しい。しかしBaiyonにとっては表現の根底でそのいずれもが繋がっているのだ。

 ニューアルバムとなる「We Are」は、そんな“クラブミュージック”や“ゲーム音楽”といった既存のカテゴライズでは把握しきれないBaiyonの活動の独自性を反映したコラボレーションアルバムとなっている。
 鳴っているサウンドは、4つ打ちのミニマルハウスを中心にしつつ、ダブあり、アシッドハウスあり。しかし揺れたリズムや捻った音色や構成により、いずれも普通のクラブチューンとはどこか違うのがユニーク。個人的にはPS1の怪作『LSD』のデザイナーである佐藤理氏が今年リリースした「ALL THINGS MUST BE EQUAL」と呼応する部分があるのが面白い。

 例えば、チャカポコしたリズムとブリープシンセにリラックスしていると本当にタイトル通りにアシッドハウスに展開していって驚かされる5曲目「Shinjuku Acid feat. Mitsuto Suzuki」や、チップチューン的なシンセリフのループで始まり、どこか不安定なピッチを引きずったままディープなブレイクビーツに突入していく8曲目「Square Wave Donor feat. Manami Matsumae」などが印象的。いずれも「これはこのジャンル」、「これはゲーム音楽っぽい/ぽくない」といったカテゴライズを積極的に裏切っていくような部分がある。

 一方で、C418との共作である4曲目「184」などは、テクノ/ハウスレーベルであればKompaktあたりから出ていてもまったくおかしくない、叙情的なピアノとともに感動的にビルドアップしていく10分超の大作だ(C418が先行して別バージョン「185」をシングルカットして発売した際に、記者は個人的趣味のDJ用に買った)。しかしこの曲もまたよく聞くと、ベースが何気にビキビキとドライブしていたり、妙なはみ出し感がある。

 この奇妙なミュータント感は、「We Are」(我々は)と言っておいて何者であるかを明かさないタイトルにも現れている。
 タイトルについてはBaiyon自身が自作解説として語っていて、まず「We Areというタイトルのあとに「Video Game Composers」と入れたほうがわかりやすかったのかもしれない」と述べつつ、「コラボレーター達はゲームコンポーザーでもあり、アートを手掛け、ゲーム自体を作り、映画のサウンドトラックを手掛けていて、ゲームコンポーザーという枠に収まらない活動を行っている」からそうしなかったのだと説明している。

 ここにBaiyonの、コンセプトを単なる飾りにせずにめんどくさいほどにこだわり、作品に対して誠実であろうとするアーティスト気質が現れていると思う。
 というのも、確かに「ゲームコンポーザーたちがクラブトラックに挑戦!」的なアングルにするのは簡単だしキャッチーで、実際に“ビデオゲームに楽曲を提供している”ことは参加アーティストの最大の共通点だ。
 でもこの作品に収録された楽曲の共通点は、あくまでBaiyonがゲームという共通点で知り合ったそれぞれのアーティストとのコラボレーションであって、ビデオゲームとの関係を前提に作曲されているわけではない。「どうでもいいじゃん」と気にしない人もいると思うが、そこを律儀に気にするのがBaiyonなのだ。

国内外の幅広い交流から生まれたコラボレーション

 ここで最後に参加しているアーティストを改めて振り返ってみると、Baiyonが築き上げてきた海外インディーゲームシーンとの深いコネクションを反映しつつ、面白い構成になっているのがわかる。

 例えばDisasterpeaceやEl Huervoは、前者が『Fez』や『Hyper Light Drifter』など、後者が『ホットライン マイアミ』や『else Heart.Break()』などに楽曲提供した、海外インディーゲームファンならそのサウンドをどこかで聴いたことがあるだろうインディーゲームコンポーザーだ。

 そして奇妙な一人称視点アドベンチャーゲーム『Jazzpunk』を開発したLuis Hernandezや、『マインクラフト』のサウンドデザインを担当したことで知られるC418らは、Baiyonと同様に、音楽をその表現活動の土台としつつも単なる楽曲提供に留まらない関わり方をするアーティストと言える。

 また国内からは、ふたりのベテランが参加している。まずMitsuto Suzukiはスクウェア・エニックスで手掛けた『ファイナルファンタジーXIII』シリーズの楽曲や、BEMANIシリーズの提供楽曲を記憶している人も多いと思うが、実はかつてテクノレーベルTOREMAからのリリース経験がある人物だ。一方の松前真奈美は、今更説明する必要もないと思うが、カプコンで往年のアーケードゲームや『ロックマン』初期作に関わり、近年では『ショベルナイト』や『Mighty No. 9』などに楽曲提供している。
 そんな両氏との作品は、すでに紹介したように、コラボレーション相手であるBaiyonがキャリア的にはベテランである両氏を誘いだしたかのような、どこでもない領域を歩んでいくミュータントトラック。恐らくファンにとっても新たな一面を見せてくれるだろう。