『ファントムダスト』の無料配信は、すごく嬉しい

二木幸生氏に聞く 「インディーゲームは作り手の個性が見えるのがいい」【A 5th of BitSummit】_03

 2017年5月20日、21日に京都勧業館 みやこめっせにてインディーゲームの一大祭典“A 5th of BitSummit”が開催。ここでは、会期2日目に行われたグランディングの二木幸生氏へのインタビューの模様をお届けしよう。二木氏と言えば、『パンツァードラグーン』や『ファントムダスト』など、通好みのタイトルのクリエイターとしておなじみ。BitSummitには毎回足を運んでおり、今回は“ゲームシステムのアイデアを出す方法”をテーマに、飛び入り参加したジェムドロップ 代表取締役 北尾雄一郎氏とトークショウを行い、“ゲームシステムの作りかた”などを語りあった。

※二木幸生氏と北尾雄一郎氏がゲームシステム作りを語る 秘訣は実況動画を想像すること!?【A 5th of BitSummit】

 また、今回の“A 5th of BitSummit”では、グランディングもブースを出展。スマートフォンアプリ向けの新作『Beat Legion(仮題)』と、VRコンテンツの『VR REALTIME RAYTRACING DEMO』を披露した。『Beat Legion(仮題)』は二木氏の作品で、カードゲームと音ゲーが融合したアクション。プレイヤーはリズムに合わせて画面をタップすることで、ユニットを召喚し、自陣を拡大していくことになる。二木氏には、『Beat Legion(仮題)』のことやインディーゲームに対して聞いてみた。

――今回会場で『Beat Legion(仮題)』を発表されましたが、開発に至った経緯を教えてください。

二木 じつはあのタイトルは正式に発売が決まっているわけではないんですよ。今年のBitSummitには何か出展したいな……と思っていまして、せっかく出すのだったら、何か新しくて、変わったゲームを作ってみようと思ったんです。最近スマホのフリー・トゥ・プレイのゲームばかり開発をしていたので、「そういうところからは絶対に出せないゲームを作ろう」みたいな気持ちもあって、作ったアプリですね。ちょうどスタッフが少し空いたこともありまして、2ヵ月くらいでこれを作って持ってきました。あと、“A 5th of BitSummit”では、もう1本VRコンテンツも出展しているのですが、以前からVRのタイトルをちょこちょこ開発していて、「何かしら1本出そうか」ということで進めていたんですね。当社では、いくつか並行して作っているテストタイプがあるのですが、その中でいちばん形になりそうで、早く作れそうだった『VR REALTIME RAYTRACING DEMO』を出展したんです。

――『Beat Legion(仮題)』は製品化を前提としているのですか?

二木 そこは決めていないのですが、もうちょっと手を入れていけば出せるレベルにはなると思っています。今回いろいろな人にプレイしてもらって、いろいろな意見もうかがったので、そのへんも参考にしてきたいです。とはいえ、すぐと……いうことはないと思います。

――今回の出展の目的は、スタジオ自体のアピールの意味合いが強いのですね?

二木 そうですね。「うちはこんなことをやれますよ」というデモンストレーションと、何よりも現場のスタッフが「自分たちで新しいものを作ってみたい」といったモチベーションがあるので、そういうものを表現できる場として、BitSummitを選びました。

――まずは、『Beat Legion(仮題)』のことを聞かせてください。講演のときもおっしゃっていましたが、『Beat Legion(仮題)』はゲームシステムの発想としては、“何か新しいことをふたつ足してみる”というスタイルですか?

二木幸生氏に聞く 「インディーゲームは作り手の個性が見えるのがいい」【A 5th of BitSummit】_01
▲『Beat Legion(仮題)』は、曲のリズムに合わせてカードをセットし、セットしたカードからユニットを召喚。敵の城を攻撃していく。

二木 そうです。音ゲーとカードゲームですね。もともとカードゲームをアクションゲーム化するというのは、『ファントムダスト』の時からいろいろと考えていたことで、音ゲーにしたのは、一定の時間内で終わるゲームのほうが、受け入れられやすいかなと思ったんです。

――スマホとかは、とくにそうかもしれませんね。

二木 曲が終わるまでというところで、ひとつはっきりするのが(スマホに)向いているかなというところがあったのと、あとはリズムに合わせて叩くというところに“カードゲームがアクションする”というところを組み合わせると、何かしら新しいものが見えてくるかも……というのがあって、テストを兼ねて作ってみたんです。

――もしかすると、ある程度温めていたアイデアなのですか?

二木 そういうわけでもないです。僕はわりと、アイデアは短期間で考えるタイプなので。

――実際に試されて、相性はいい感じでしたか?

二木 そうですね。「まあ、思ったより大変だな」というところもけっこうありました。そこを「もう少し時間をかけてよくできるな」というメドも同時に立った感じですね。たとえば、画面内のどこを見るかというところで、いまだと、いろいろ見ないといけないところがある。そのため、忙しいゲームになっているんですね。いま、ノーツを下に置いているのですが、ゲームの戦場になるところにノーツを配置すれば、見る位置を絞ることができるので、そういう工夫をしていけば、もっとよくなると思います。ゲームの本質的な部分である、“音に合わせてカードを出していく”という点は面白がってくれる人がけっこういたので、コンセプト的には行けるかなと手応えを感じています。そういった点を直しながら、当面は、改良版を何かしらのインディーゲームイベントに出してみたりしながら、ちょっとずつ完成に近づけていければ……と思っています。

――インディーゲームのイベントでは、実際にプレイしてくれた人の意見を聞いて、少しずつブラッシュアップさせるというのもひとつの手法になっていますからね。

二木 そうですね。

――会期中にプレイしてくれた方からはどのような意見が?

二木 「忙しい」とか「難しい」という意見は多かったので、そこは整理したいです。

――慣れたら忙しくなくなるかもしれませんね。

二木 そうなんですよ。僕らは慣れているので、ほぼノーツを見ないで、頭の中でリズムを指で刻んでいくんですね。そこまで至ると、カードを出すのに、「何をやろうか」と悩む時間が音によって共生化されていくので、“制約と行動”という一定のリズムで来るのが、けっこう気持ちよくなってくるんです。そこに至るまでにけっこう時間がかかるので、それをどうしようかなというのは、悩みとしてありますね。

――VRに関してですが、グランディングさんとしては、VRに力をいれていくということですか?

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▲BitSummitでは、VRコンテンツの『VR REALTIME RAYTRACING DEMO』を出展。

二木 そうですね。VRには注力していきたいと思っています。グランディングでは、いま『スペースチャンネル5 VR ウキウキ ビューイング ショー』を開発中ですが、オリジナルのものも手掛けていきたいと思っています。いま、VRはどこの会社さんも新規で始めている状態なので、ビジネスになるのはこれからだと判断しているのですが、「VRで新しいものを出したい」という気持ちはものすごくあります。おかげさまで、今回かなりいろいろなところからお話をいただいているんですよ。

――VRコンテンツを開発してほしいと?

二木 VRにはいろいろなプラットフォームさんがありますので……。おもしろがってプレイしてくださる方も多かったです。どちらかというと、『Beat Legion(仮題)』よりも、VRのほうが先に形にできるかもしれないと思っています。

――いまやVR業界も賑やかですね。

二木 弾がないというのはあるかもしれませんね。ViveやOculus Rift、プレイステーション VRもありますし、DayDreamもこれから大きくでてくると思いますから、各社さん大きく展開してくるでしょうね。

――二木さん的にはVRのどの点の魅力を感じているのですか?

二木 僕もいま、自分でいろいろと作っているんですけど、VRはやっぱり、ゲームがなくした魔力を持っているなと思っています。昔、ゲームって、カートリッジを挿して電源を入れるときに、「つぎはどんな新しい体験ができるんだろう」とか楽しみにしたり、取り扱い説明書を読むだけでワクワクしていたと思うんですね。“ゲーム”というだけで楽しいという時代が、昔はあった。でも、いつの間にかゲームがパターン化して、「これ、あのゲームの発展系だろうな」といった感じで、だいぶ想像できる面白さになってきているのが現状です。それが、VRは、かぶってみるまで何があるかわからない。かぶってみると、想像したことのない体験ができるものが多いんです。VRでも、当然セオリーはたくさんあるのですが、「楽しい」と感じられる。これが、AR、MRとなっていっても、不思議な力を維持し続けると思うので、そういう魔力というか、“マナ”がいっぱい出ているところでゲームを作りたいです。そういう意味では、VRはすごく魅力的で、許されるなら、VRをずっと作っていたい。

――ええ、そんなにVRに前のめりなのですか?

二木 仕事としては、なかなかまだそこまでは達していないです。試行錯誤の途中なので。

――たぶんご存じかと思うのですが、『パンツァードラグーン』に影響を受けたと公言するVRコンテンツも、イベントで出展されていたりしますよね。二木さんのそんなお話を聞くと、本家のVR版『パンツァードラグーン』を遊んでみたくなりました。

二木 (笑)。レイルシューターとVRはとても相性がいいんですよ。レイルシューター自体はけっこう古いゲームスタイルなのですが、いまのVRの黎明期だったら、食い合せがいいはずなんです。酔いにくいというのもありますし。いま世に出ているVRコンテンツだと、『ReZ』がすごく面白いのは、レイルシューターとVRの食い合わせがすごくいいからですね。VRで遊ぶと、没入感が、古いゲームスタイルであることを忘れさせてくれる。そういう意味では、いま『パンツァードラグーン』のVRを作ったら、楽しいんじゃないですかね。

――そうですよね。ちょっとしたヒントで構わないのですが、いま二木さんがVRでやりたい方向性みたいなものをお教えいただけますか?

二木 対戦のレイルシューターをやりたいと思っていて、じつはプロトを少し作っています。

――あら! グランディングって、スマホを中心としたゲーム開発やVRもあって、さらにボードゲームも作って……と、けっこう多彩なスタジオですね。

二木 そうですね、人数のわりには(笑)。「みんながやりたいことをやる」というのが方針ではあります。スマホの開発はノウハウがあることもあり、堅調です。『誰ガ為のアルケミスト』なども、当社で開発しているのですが、幸いにもいろいろなところからお話をいただけている状態です。それに加えて、スポーツゲームがやりたいという声に応えたり、VRコンテンツを開発したり……。ボードゲームは、おかげさまで『街コロ』がヒットしたので、『街コロ』を軸に展開しています。うちは、「ほかでやらないことをやっていこう!」といった方針はありますね。

――その段でいうと、いまVRのほかに注目している領域はあるのですか?

二木 Microsoft HoloLensを買ったんですよ。あれはすごくおもしろかったですね。ただ、マネタイズが難しそうですね……。適当に作ると、3Dゲームと変わらないことになってしまいそうなので……。同梱されていたアドベンチャーゲームはすごくよかったです。部屋の中でソファーを認識して、そのソファーにキャラクターが座ったりとか、壁に窓ができていて、その窓から外を覗き込むとか。いまはゲーム画面が狭いので、実用化はまだまだ先だと思うのですが、それもVRの延長線上と言えば延長線上なので、そういったものは、やっていきたいなとは思っています。

――ところで、BitSummitに毎回いらっしゃっているとのことですが、インディーゲームに心惹かれる理由はなんですか?

二木幸生氏に聞く 「インディーゲームは作り手の個性が見えるのがいい」【A 5th of BitSummit】_04
▲BitSummitには今回が2回目の出展となるグランディング。スタジオのアピールの意味合いもあったという。

二木 うーん……。やっぱり作っている人の顔が見えること。「こういうのを作りたい!」という思いが、個性としてにじみ出てくるんです。最近のゲームって、「誰が作ったの?」というものが多い。それは、規模が大きくなってきたということもありますし、スマホみたいに遊び続けてもらうために個性を消しているという一面もあります。そういうゲームももちろん面白いのですが、作っている人の顔が見えないところがある。BitSummitに出しているゲームは、「この人が作ったら、こういうゲームになるんだ」ということがよくわかるのが魅力です。

――グランディングさん的にインディーゲームへのさらなるアプリローチは考えていますか? たとえば、パブリッシングを手掛けたりとか。

二木 いえ。うちはまだどちらかというと挑戦者のほうなので。何かしら、自社で引き続きおもしろいタイトルを出していきたいと思っています。

――もとXboxの専門誌の編集をしていたこともあり、つい聞いてしまうのですが、ちょうど5月17日から『ファントムダスト』が無料で配信を開始しましたね。これに対してはどう思われますか?

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二木 単純にすごく嬉しいです。いままで関わってきたゲームで、いちばん思い入れが深いタイトルなので、それがまた遊べる形になったというだけでも、すごく嬉しいです。とはいえ、さすがに13年前のゲームなので、いま遊ぶと「うわー、ここ恥ずかしい」とか「ここ、なんでこんなことしているの!?」という箇所が目について、直したいところがいっぱいあります(笑)。それでも本質的なところは、「おもしろいゲームを作れたな」という自負があるので、できるだけたくさんの人に楽しんでいただきたいです。何かしらの勢いがついて、続編みたいな話が出れば、いいな……と思っています。

――『ファントムダスト』は、二木さんにとって、いちばん思い入れの深いタイトルなのですね。

二木 カードとアクションを組み合わせたゲームシステムと、世界観・ストーリー、ビジュアルが、ガチっと噛み合っているゲームなんです。それが作れたので、とても気に入っています。

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