ゲーム好きなら必見の新感覚ムービーがいよいよ日本上陸!

 今回紹介する映画『ハードコア』は、2016年4月にアメリカで公開されるやいなや、全編FPS(ファースト・パーソン=一人称視点・シューティング)という、まるでゲームのような映像表現によって全米を熱狂させたアクションムービーです。96分間という上映時間の全編が主人公ヘンリーの視点で描かれているという、驚きの映像がどのくらいゲーム的な作品なのか。まずは以下の予告編映像をご覧ください。

 本作の主人公であるヘンリーは、とある事故によって失ってしまった身体の一部を人工的なパーツで再生した、いわゆる部分的サイボーグといった存在。そのため、常人離れしたアクションをこれでもかといった具合に披露してくれます。筆者は公開に先立ち、ひとあし先に拝見させてもらったのですが、視聴時は一人称視点のアクションゲームをプレイしているかのような体験が続き、上映終了後は映画を観終わったというよりも、まるで良質のゲームを遊び終えたような感覚に見舞われました。
 これまでに体験したことのない特異な作品はどのようにして生み出されたのか。本作の監督・脚本を手掛けるイリヤ・ナイシュラー氏にインタビューを行う機会が得られたので、ここでその内容を紹介していきます。


−−優れた映画作品で、よく主人公に感情移入できるという話は聞きますが、ここまで主人公になりきれる作品は初めて見ました。このような特殊な作品を作られたきっかけを教えてください。

イリヤ・ナイシュラー氏(以下、イリヤ) そもそものきっかけは、私が所属しているバンド(Biting Elbows)の楽曲『Bad Motherfucker』のミュージックビデオを一人称視点で撮ったことが始まりです。この映像を見たティムール・ベクマンベトフ(『ハードコア』の製作者)が、「自分がプロデュースするので、ぜひこの作品を長編化しよう」とコンタクトをしてきました。私としては、この映像で90分ものストーリーのある作品を作るなんて、絶対にありえないと思ったのですが、彼に「誰も見たことないアクション映画を観てみたいだろ」と言われ、それならということで制作に着手しました。

−−『Bad Motherfucker』のPVも見させていただきましたが、すごく衝撃的でした。そもそも、どうしてこういった一人称視点でのPVを作ろうと思ったのでしょうか。

イリヤ 2010年頃、友だちといっしょにスノーボードをやりにいったのですが、その時にちょうど手に入れたばかりのGo Proを持って滑ってみたのが始まりです。ただ、自分はスノボがうまくないので、そのときに撮れた映像は酷いものでした。結局、パルクールなどをこなす友人のセルゲイ・ヴァルヤエフ(『ハードコア』の撮影監督)にあげてしまいましたが、「これは真面目にやったらすごくおもしろい映像が撮れるよ」と言われたんです。そこで、『The Stampede』というビデオ作品を作ってみたのですが、撮影はすごく楽しいものでした。その後にもっとストーリー性のある映像作品を取ってみたいと思い、『Bad Motherfucker』を作ったというわけです。

Biting Elbows - The Stampede (Official Music Video)

Biting Elbows - 'Bad Motherfucker' Official Music Video

▲上記2本の動画は、インタビュー中でも触れているバンド、Biting Elbowsのプロモーションビデオ。これらの動画がきっかけで、映画『ハードコア』が生み出されたというわけです。ちなみに『The Stampede』と『Bad Motherfucker』は、連続してひとつのストーリーが描かれているようで、謎のカプセル(?)を巡る激しいアクションを楽しめるPVとなっています。

−−今作は初の長編映像作品とのことですが、一人称視点での長編のストーリーを描くのは大変でしたか。

イリヤ 本作は観客の皆さんがヘンリーと一体化して楽しむことが目的なので、この一人称という制約は絶対に貫き通さなければなりません。そのため、ヘンリーというキャラクターは真っ白なキャンパスのような存在である必要があるのですが、その中でしっかりと感情移入もしてもらえるように、感情や気持ちを描かなければなりません。そういった制約の中で脚本を書き上げることはすごく大変でした。

−−主人公が部分的にサイボーグということで、昔のテレビドラマ『600万ドルの男』や映画『ロボコップ』を思い浮かべました。この半分サイボーグのヘンリーのキャラクターイメージは、どうやって作り出されたのでしょうか。

イリヤ じつは作中で、相棒のジミーが「お前はロボコップみたいなものだよ。でも酷いほうじゃなくて元祖のほうね」と語るシーンも用意していたのですが、ここはバッサリとカットしてしまいました(笑)。ヘンリーを半分サイボーグにしたのは、生身の人間だと映画が始まって10分で死んでしまうからです。すごく激しいアクションや銃撃戦をくぐり抜けて、最後までたどり着くためには超人的な部分がないと不可能ですからね。仮に生身の人間があれだけの危機的状況を生き延びると、真実味が失われてしまうということもあります。

−−ヘンリー役は数人で行っているとのことで、監督自身もヘンリーを演じられたとお聞きしました。監督はどのシーンのヘンリーを演じていたのですか。

イリヤ ヘンリー役は、スカイダイビングの専門家や乗馬のプロ、火だるまを得意とするスタントマンなど、14人ほどがそれぞれの場面に合わせて演じています。私も全体の15〜20%ほどを担当していますが、臆病な性格なので激しいシーンはスタントマンにまかせて、なるべく楽なシーンを演じさせてもらっています(笑)。

−−映画を見終わって、正直ヘンリーの活躍をもっと見たいと思いました。ずばり、続編の構想などは考えていますか。

イリヤ ヘンリーの物語はこれで完結していると思っているので、現時点でとくに続編は計画はしていません。でも、観客の皆さんから「もっと見たい」という声が多く集まったら、ヘンリーのその後を描いていみたいという気になるかもしれませんね。ただ、続編を作るとしたら、今度は全部一人称視点にはしないと思います。

−−それは、一人称視点以外で新たにチャレンジしたいアイデアがあるということですか。

イリヤ 『ハードコア』は一人称視点という制約ありきで、そこに無理矢理ストーリーを載せて作った作品です。ですので、次回作はきちんとしたストーリーがあって、そこに自分の好きな要素を取り込んでいくスタンダードな作品作りがしたいのです(笑)。ただ、「こんなことをしてみたい」といった新しいアイデアは常に持っているので、これからもおもしろい映像作品は撮り続けていきたいですね。

−−本作を見ていて、アクションシーンはもちろん、銃撃シーンや狙撃の場面など、さまざまなシーンでゲームのエッセンスを感じることができました。一人称視点の表現手法と言えば、やはりゲームが一般的だと思いますが、監督は普段はゲームは遊ばれるのでしょうか。

イリヤ この映画を観れば言わずもがなとは思いますが、いちばん最初に手に入れたゲームボーイもまだ大事に持っているほど、ゲームは大好きです。また、『レフト4デッド』はとくにインスピレーションを受けた作品で、プロダクションデザイナーにも本作の参考用として遊んでもらいました。個人的には『スタークラフト2』や、インディー作品ですが『Faster Than Light』というゲームにはまっています。ただ、最近は忙しくてなかなかゲームをする時間が取れないのが悲しいところですね。

−−最近はゲームから映画化してヒットした作品もたくさんあります。もし、監督がゲームの作品を映像化できるとしたら、作ってみたい作品はありますか。

イリヤ 『フォールアウト』はすごく壮大な世界観で、映画にすごく向いている作品だと思います。いろいろな物語が展開できると思いますし、チャンスがあればぜひ撮らせてもらいたい作品ですね。

−−製作者のティムール・ベトマンベトフは、自身の映画作品『ナイトウォッチ』や『ウォンテッド』をビデオゲーム化していました。本作は、それらの作品よりもさらにビデオゲームに向いていると思いますが、本作をゲーム化するといった構想はありませんか。

イリヤ きちんとしたビデオゲームメーカーと組めるのであれば、ぜひやってみたいです。私はゲーム制作においてはまったくの素人ですが、開発会社に行ってあれこれ口を出させてもらうのはすごく楽しそうですね。『ハードコア』はコミックになっているのですが、自分が作った作品が違ったメディアを通して広がっていくのはすごくうれしいことです。

−−2016年は世界中でVR(バーチャルリアリティー)のブームが来ていました。監督はVRで、何か新しいチャレンジをしてみたいと思われたりはしますか。

イリヤ いまはまだ詳しく話すことができませんが、VRでこの『ハードコア』をリリースしたらという企画もあったりします。自分自身もVRには着目していますが、そこでヘンリーが活躍したら、きっとおもしろいものができるのではないでしょうか。

−−最後に、公開を楽しみにしている日本の映画ファン、そしてゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

イリヤ この『ハードコア』は私が大好きな“映画”と“ゲーム”という、ふたつのジャンルに対するラブレターのつもりで作った作品です。本作の最大の目的は、映画でありながらビデオゲームをプレイしているようであり、ジェットコースターのようなライドマシーンに乗っているようにでもあり、さらに言うと仲間たちといっしょに騒げるロックコンサートのような、そういった楽しい要素を合体させた映画体験をしてもらうことです。また、ゲームファンの方なら気がつくようなネタもたくさん散りばめています。ゲームが好きな方はよりのめり込める作品だと思いますので、思いっきり楽しんでください。

まるでゲームのようなFPSムービー『ハードコア』、斬新な映像作品を作り出した監督の単独インタビューを紹介!_11
まるでゲームのようなFPSムービー『ハードコア』、斬新な映像作品を作り出した監督の単独インタビューを紹介!_02
イリヤ・ナイシュラー
1983年11月19日、ロシア・モスクワ出身。映像作家としてだけでなく、モスクワのパンクバンド“Biting Elbows(バイティング・エルボーズ)”のフロントマンとしても活躍中。自身が手掛けたミュージックビデオ『Bad Motherfucker』は口コミで話題となり、世界中から注目を浴びることに。その後、制作・脚本・監督を手掛けた『ハードコア』を経て、Go Proを使ったアクションPOV(Point of View:手持ちのカメラや監視カメラなどを用いたような映像表現法)映像制作の第一人者としてその名を広く知られるようになる。今後クリエイターとしてもなお一層の活躍が期待されている。
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 ちなみに本作は、インタビュー中にもあるように映画プロデューサーのティムール・ベクマンベトフが、イリヤ監督の所属するBiting Elbowsの楽曲『Bad Motherfucker』に目を付けたところからスタートしたもの。映画化に向けて合意がなされた後に、『ハードコア』の仮編集版を制作し、クラウドファンディングサイト・INDIEGOGOで出資を募ったそうです。革新的で刺激的な映像は熱狂的に受け入れられ、結果的に目標額を超える金額を集めることに成功したとのこと。以下の映像は、その時に公開された劇中シーン。こちらの動画で主人公のパートナーを演じている軍服姿の男性・シャールト・コプリーは、映画『第9地区』や『エリジウム』、『マレフィセント』など、日本でもおなじみの作品で活躍する実力派俳優で、筆者も大好きな役者のひとりです。

First Look at 'HARDCORE' - The World's First Action P.O.V. Film

 この『ハードコア』はこれまでの映画の常識を打ち破る作品で、数多くの映画を見てきた筆者も正直、度肝を抜かれました。全編FPS視点ということで、大雑把な作品かと思われるかもしれませんが、簡単明瞭でわかりやすいストーリーに加え、個性的でユニークな相棒、魅力的なヴィランなど、登場人物たちも魅力的で、96分間息をつく間もなく楽しむことができました。長編デビュー作で、これだけ人を惹きつける作品を作り出したイリヤ監督の見事なセンスに脱帽です。アクション系のゲームが好きな方にはとくにオススメの作品だと思うので、興味がある方はぜひ劇場に足を運んでみてください。

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▲こちらは撮影時の様子。このように演者の顔に取り付ける特殊デバイスを用いることで、ヘンリー視点の映像が生み出されているというわけです。仕組みは単純ですが、実際にこの方法で長編作品(さらに視聴者を飽きさせず、つねに驚きの体験をもたらす映像作品)を仕上げるのは、相当大変だったことと思います。

Biting Elbows - 'For The Kill' Official Music Video

▲こちらの動画では、Biting Elbowsのゴキゲンな曲に合わせて、『ハードコア』の過激なシーンのメイキング映像が楽しめます。
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『ハードコア』
製作・脚本・監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:シャールト・コプリー(ジミー)/ダニーラ・コズロフスキー(エイカン)/ヘイリー・ベネット(エステル)/ティム・ロス
配給:クロックワークス 提供:クロックワークス/パルコ
2016年/ロシア・アメリカ/96分/DCP5.1ch/ビスタ/英語、ロシア語/原題:HARDCORE HENRY/字幕翻訳:北村広子/R15+
2017年4月1日(土) 新宿バルト9ほか全国ロードショー

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