レベルファイブのトップクリエイター陣が舞台裏を語る

ディレクター本村氏、サウンド開発チームチーフ西郷氏が、学生へ向けて秘儀伝授!? 『妖怪ウォッチ』の個性は“細部にあり!”【レベルファイブ初の学生向けカンファレンス完全リポート その2】_15

 2017年2月21日から2月28日まで、東京、大阪、福岡の3都市で開催され、合計約1500名もの学生が参加した “大学・短大・専門学校生向け クリエイターを目指す者たちへのカンファレンス”。つぎつぎとヒット作品を生み出し続けるレベルファイブだが、いったいどのような人たちが、どんなふうに企画や開発をしているのかは、これまであまり表に出てこなかった。本カンファレンスでは、「将来クリエイターになりたい!」と強く願う学生たちに向けて、同社のトップクリエイター陣がふだんは目にすることのできない開発の舞台裏を見せてしまうという、貴重なセッションが行われた。

 取材を行った2017年2月26日に開催された東京会場では、昼と夜の2回に分けて同内容のセッションが開催されたが、それぞれ席を埋め尽くすほどの学生たちが詰めかけた。ファミ通.comでは、これら各セッションのリポート記事を今後数回にわたって紹介していく予定だ。
 今回は、カンファレンスのうちの1つである本村健氏、西郷憲一郎氏の講演内容についてお届けする。集まった学生たちに向けて、大ヒットしたゲームの『妖怪ウォッチ』シリーズの演出に隠された、こだわりの表現に込めた意図について明かされた。

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▲サウンドチームの中ではもっとも若手の西郷氏と、長年レベルファイブでディレクターを務めてきた本村氏がタッグを組んで講師を務めた。

『妖怪ウォッチ』は子ども向けのオープンワールド

 大ヒットを記録する『妖怪ウォッチ』シリーズ。その独自の演出に纏わる秘話が語られるとあって、会場にはクリエイターを志望する学生が詰めかけることとなった。まずは、本村氏から『妖怪ウォッチ』の企画は約5年前からスタートしたという話が語られた。

 当時、社長の日野晃博氏と本村氏は、海外のオープンワールドゲーム(広大な空間をシームレスに行き来しつつ冒険するタイプのゲーム)にハマっていて、「もしかしたら子ども向けのオープンワールドゲームってありなのかな?」という話をしたことがきっかけだったという。舞台の街を「こんな事できたら楽しいよね」という“遊び場”としてゲームを作れないか? というテーマからスタートしたということだった。『妖怪ウォッチ』の特徴としては、きちんとバトルが楽しめるという点も重要なのだが、遊びの本質は、 “異常に細部までこだわる”ということが、このゲームの個性を生み出す要素になっているのだという。

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▲“子どもオープンワールド”をゲームコンセプトに細部までトコトンこだわったという。

 では具体的に、どんなところにこだわったのだろうか? 今回の講義ではそのことについて深く掘り下げていくこととなる。

妖怪をテーマにしているからこそ“日常”にこだわる

 そのこだわりが生かされているのが、舞台となる街『さくらニュータウン』だ。ゲームに登場する妖怪が“日常”ではなく“非日常”のファンタジー要素であるため、妖怪以外の部分は極力ふつうの演出をしようという意図があったと語る本村氏。

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▲“日常感”を出すために本当に、街の描写は、細かいところまで作り込まれている。

 本作で日常感を演出する要素は、ふつうにゲームをプレイしているだけでは、なかなか気付かないネタとして仕込まれている。本村氏は、そうしたこだわった場所を紹介していった。まず1つ目は……主人公のケータが、自宅の玄関で“クツを脱いだり履いたりする”ようにしたということ!? たしかに、言われてみればクツを履いたり、脱ぐことによってグッと“日常感”が出る気がする。

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▲玄関でクツを脱ぐこの行為が、リアリティーを生むと同時に“日常感”も生み出す。また、家族が家にいるかどうかなども玄関の靴を見るだけでわかったりも。

 続いて、ふたつ目となる日常の演出は……ゲーム内で“信号を守れるようにした”点!? 青信号をちゃんと渡っていれば問題ないが、赤信号ばかり渡っていると、秋田名物の“なまはげ”が妖怪となって襲ってくる、という隠し要素もおもしろい。子どもが多くプレイするゲームでもあるため、交通ルールにも配慮したのだという。

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▲現実と同じように押しボタン式の信号だ。押してから待っていると、ちゃんと青になる。青にして渡るといいことがある?

 また、西郷氏によると、信号に関しては音にもこだわりが隠されているという。青になったときには、カッコウの効果音などが鳴るが、これは現実とまったく同じで、東西南北で異なる効果音が流れるようにして、日常を感じられるようにこだわったのだという。

 さらにマップのBGMも、親しみやすい“日常感”のあるものにするためにコンサートで使うようなグランドピアノなどのリッチな音の楽器を音源とするのではなく、あえて家庭にあるようなアップライトピアノを使用していたり、リコーダーや、鍵盤ハーモニカなど、学校で必ず子どもたちが演奏したり、聴いたことのある楽器をあえて選定して楽曲制作をしている。

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▲さくら住宅街の曲が最初に完成した曲で、ほかの曲を制作していく際の軸になったと語る西郷氏。ちなみに会場では、日野社長にボツにされた初期案の楽曲も流された。この曲は、音色がオーケストラのような豪華な楽器編成になっており、日常とはちょっと違う感じになっている。

 ふつうの日常を感じさせることを大切にしてきた『妖怪ウォッチ』。だからこそ、ふつうからブッ飛んだ演出も生きてくるのだと本村氏は語る。

 その一例として、主人公がお風呂に入るさいに、本来なら“すっぽんぽん”になるはずだが、倫理的な問題上、あえて“演出の都合上、水着を着用しています”というテロップをゲーム画面上に表示してしまう(!?)という表現にしたという逸話を披露。

 こうして“水着を着用しています”、と注意書きを入れることで、暗に“すっぽんぽん”ですよ、とプレイヤーに伝えるギャグを狙った演出だと力説。神妙な表情で聞き入っていた学生たちも、思わず笑いがこぼれた。

 さらに畳み掛けるように、本村氏はギャグ要素については、『妖怪ウォッチ3』に登場する“カミナラス五郎”というドラマーのボスバトル中に、突如として長尺のドラムソロが挿入されるという“おふざけ要素”を紹介。

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▲倫理上危ないと言うのであれば、そもそもお風呂場を作らないという選択肢があるはずだが、そこは流石レベルファイブ式。これも“日常感”を出すためあえてお風呂場を作ったのだと分かる。
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▲突如として画面に“バトルの途中ですが、ここでカミナラス五郎の超絶ドラムソロをお楽しみください”と表示され、戦闘中にドラムソロが開幕。その間プレイヤーは何も出来ずに、ただ曲に耳を傾けることしかできないし、ボスもいきなり出現する三味線を弾く4人の老婆(本村氏によると三味婆4姉妹だそうだ)を引き連れて、ひたすらドラムを演奏し続ける。

 このドラムソロはたった1回しか流れないにもかかわらず、サウンド担当の西郷氏がこのギャグ演出のためだけに気合を入れて描き下したものだというのだから、その豪華さに驚かされる。

 西郷氏によると、夜中のサウンドブースにフラッとあらわれた本村氏が「ドラムソロ作って」とオーダーしてきたそうだ。しかも「三味線入れよう」と無茶ブリ。西郷氏も、絶対に自分ひとりの発想ではドラムソロに三味線を入れようとは思わなかったので、本村氏には感謝していると語った。

1回きりのネタにも本気でこだわるサウンド制作

 豪華な演出と言えば、『妖怪ウォッチ』のアニメでもギリギリアウトな雰囲気の豪華な(?)パロディに力を入れている。

 中でも超豪華だったのが、“妖怪軍師ウィスベェ”のエピソードへの演出だろう。メインキャラクターであるウィスパーの過去を、戦国時代を舞台として描く本エピソードを作る際に、西郷氏は、フルオーケストラで大河ドラマを思わせるような新曲を描き下したという。

 この“妖怪軍師ウィスベェ”のエピソードも、アニメではたった1回しか流れないもの。しかし、その1回のギャグにもこだわり、ギャグにガチで臨む姿勢も、『妖怪ウォッチ』の特徴だ。 

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▲西郷氏の楽曲があまりに本気すぎたことから、スタッフのクリエイティブ(悪ふざけ?)にも火が付き、音楽に合わせて大河ドラマ級のオープニング映像が作られることになったのだという。

 西郷氏のサウンド制作の話を受けて、本村氏は学生たちに向けて『妖怪ウォッチ』のバトルに関するディレクションの際も、“サウンドによる演出”を非常に重視しているのだと語った。

 RPGの重要な要素として“バトルの楽しさ”があるが、そこでもプレイヤーの気持ちを盛り上げるために、サウンドには特別な処理を行っている。バトル開始前には、曲はイントロのみをループさせておき、バトル開始とともBGMも本格的に流れ始める状態になるようになっている。この処理は、1作目の 『妖怪ウォッチ』にはなかったもので、『妖怪ウォッチ2 元祖/本家/真打』から採用されたものだという。地味なようだが、バトルに挑むプレイヤーの高ぶった気持ちとリンクする演出だ。

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▲バトルに臨むプレイヤーの高揚感に寄り添うBGMの演出。この処理は本当に取り入れてよかったアイデアだったと本村氏。