『どうぶつの森』サウンドを生み出すヒミツ

 2020年9月4日、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンスCEDEC 2020で行われた、『どうぶつの森』シリーズのサウンド制作についての講演“『どうぶつの森』シリーズにおけるサウンドの変遷~音と音のスキマで共鳴するサウンドデザイン~”をリポートする。

 また、同日にはビジュアルデザインから『どうぶつの森』を語った講演が行われており、こちらでも“スキマ”づくりが重要であると語られている。合わせて読むと、同シリーズのゲームデザインについてより深く理解できる内容となっているので、ぜひ合わせてお読みいただきたい。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 講演者は、『どうぶつの森』シリーズにサウンドディレクター/コンポーザーとして携わる戸高一生氏と、サウンドデザイナの藤川浩光氏。

 『どうぶつの森』ファンには、とあるキャラクターのモデルとしても有名な戸高氏は、初代『どうぶつの森』から関わっており、講演の前半でシリーズ全体の音作りの変遷などを紹介。その後、おもに藤川氏から最新作『あつまれ どうぶつの森』の効果音制作について実際の例を交えつつ解説された。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 戸高氏は、『どうぶつの森』シリーズの特徴を

  1. コミュニケーションゲーム
  2. 遊ぶ人により滞在時間が大きく異なる
  3. 遊び方が非常に多様

 であると紹介。

 その上で、サウンド分野でも、これら特徴と関係性が担保されている必要があると語る。

コミュニケーションゲームとしての“音”

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 たとえば、オリジナルのメロディーが作れる機能の“島メロ”は、プレイヤーがメロディーを作ることにより「誰かに聴かせたい」という気持ちになり、コミュニケーションを促進するという狙いがあった。

 また、とたけけのライブが毎週土曜日の夜に開催されるのは、家族が集まりやすい時間にイベントが行われることで、家庭内のコミュニケーションを促進できないかという狙いがあったという。

さまざまなプレイ時間を想定

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 『どうぶつの森』シリーズは、ゲームとしての終点がなく、遊ぶ人により滞在時間の差が大きいと説明。そこで、音楽面では、短時間で遊んでも不足感が生じないし、逆に長時間遊んでも聞き疲れしないものが必要になる。

 そこで必要になるのが“音の整理”。

 たとえば、アイテムリストを開いてアイテムを選び、住人に話しかける。これだけでも多くの効果音が鳴るが、実際にはBGMや虫の声など環境音も鳴っている。このように、ゲーム中には、さまざまな音が畳み掛けるように鳴る場面が多々発生するのだが、このとき、「音、音楽どうしの重複や飽和を避けるような事前のアセット設定が非常に重要」になると解説した。

十人十色の遊びかたを想定した音づくり

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 また、プレイヤー次第で多彩な遊びかたができるのも『どうぶつの森』シリーズの特徴。

 そのゲームプレイを引き立てるサウンド制作の一例として、虫取りや釣りでは、プレイヤーの所有欲を引き出すために、リアルなサウンド表現を行っている(ゲーム中のセミに近づくと本物のセミの鳴き声がするように)。いっぽう、木を揺すって果実が落ちるときには「ヒューッ」という音が鳴るが、これは実際にはなるはずのない落下音で、「遊びの手応えを感じさせ、満足感をプラスする」目的で設定している。

 音の設定は、遊びの内容から機能的に考えて、各々にふさわしい傾向の音を用意していると解説した。

“スキマ”を作るBGM制作

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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 続いて、BGM制作における情報コントロールの具体例について語られた。

 制作においては“遊びの多様さ”との関係性が非常に重要とコメント。BGMが持つ“抒情性”が、ゲームプレイにハマるときとそうでないときが発生する。

 情報量が多いBGMは、意味性やストーリー性を持たせられるものの、プレイヤーの自由な感情の介入を阻害してしまう場合があるのだ。

“スキマ”の具体例

 具体例として、まずは8ビートの曲を紹介。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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 ドラムスのハイハットとピアノでリズムを取っているが、ピアノとベースの要素を減らすことで“音の空間”(楽譜の色がついている部分)を作り、ドラムスのパターンをよりシンプルにしている。音の密度をやわらげると空間が生まれて、音楽から贅肉が削ぎ落とされることで、曲本来の持ち味がより明瞭になる効果もあるという。

 続いて、もうひとつの例も披露。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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 当初の楽譜には、半音下からのアプローチや、音と音をつなげるような歌い方の記号が付いているが、装飾音符が付いている。

 これを見て戸高氏は「全部消しちゃいます」と、楽譜をぐっとシンプルに。この結果、「意味性の佇まいからそこにあるがままの存在感が強くなった」と表現。

 このようなスキマづくりを行うことがBGMの情報コントロールには効果的だと語り、制作時も、「何かおかしい」と感じたらスキマを意識して音楽を見直すことが『どうぶつの森』シリーズの音楽制作にはとても重要だとまとめた。

 講演ページのチャット欄では、「つい前者になりがちなところを絶妙なバランスで間引かれていてすごいです」というコメントも見られた。

『どうぶつの森』シリーズの変遷と最新作『あつ森』の課題

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 続いて、『どうぶつの森』シリーズの音楽制作を振り返ることに。

 第1作は、こういったコンセプトや手法について細かく決めていなかったものの、メモリなどハード上の制約もあり、自然と“音の飽和を避けた演出”が実現できていたと述懐。

 その後、ゲームキューブでの発売を経て、2005年にニンテンドーDS向けに発売された『おいでよ どうぶつの森』では、携帯ゲーム機向けということで音の制約がシビアになりつつもクオリティーは下げられないという課題に直面した。しかし、逆にコンセプトがくっきりと浮き彫りとなり、“スキマ”の重要性がより強くなっていったという。

 ハードの性能が上がり、音楽制作の制約が失われる中で、情報量のコントロール、スキマの重要性を再認識する必要があったと語る。

 最新作『あつまれ どうぶつの森』の開発でも、ビジュアルの解像度が上がりさらに進化をする本作に、サウンドではどのようにアプローチするか改めて考え直す必要があったとのことだ。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 そして『あつまれ どうぶつの森』音楽制作においては、

  1. 『どうぶつの森』に求められるBGMの再認識
  2. 今作に合った表現の実現

 というテーマが掲げられた。

『どうぶつの森』に求められるBGM

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 まずは本シリーズに求められるBGMがどのようなものであるかを再定義。くり返しになる部分があるが、

  • “遊び手の多様さ”との関係性
  • “遊び手の自由な感情の介入”を阻害しない
  • BGMにおける情報量のコントロール
  • “スキマ”を作ること

 を意識することが必要であると語った。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
BGMがゲームプレイのノイズになってはいけない
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 ここで戸高氏はBGMの役割について、BGM(音楽)は、最終的には感情、感覚、こころに訴えるものであるが、『どうぶつの森』では、それがストレートになりすぎないことが求められると説明。

 そこで提示されたのが、【状況】=【音楽】=【遊ぶ人の感情】という、状況そのものをストレートに表現するような音楽ではなく、【状況】×【音楽】=【遊ぶ人の感情】であるという式。

 状況と音楽が掛け合わされることによって、プレイヤーの感情を揺さぶるものが望ましいと語った。

 音楽単体では抑制されたように聴こえるものでも、プレイヤーのプレイ状況と合わせることで機能し、最終的にはプレイヤー自身の自由な感情のなかで、十人十色の感情に共鳴するような音楽である必要があるということだ。

 音楽というのは、前述の通り“意味性”や“ストーリー性”を与える効果があるが、『どうぶつの森』においては、遊びかたの多くがプレイヤーの手に委ねられている。だからこそ、あえてスキマを作り、意味性の押し付けにならないBGMであることが肝要であるという。

生演奏を採用。スキマを意識したディレクション

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 Nintendo Switch向けに開発するにあたり、まず導入されたのが、シリーズ初となる生演奏録音。

 HD画質になり、豊かになった光の表現に合った自然な表現がBGMにも求められたと語る。そして、生演奏音は聞き疲れせず、短時間でも実存感があり、満足感を演出できる点も採用にいたる理由のひとつとなった。

 しかし、豊かな情感の表現が可能な生演奏になることで音の情報量は増加する。“スキマ”の意識がいままで以上に重要となった。そのため、録音の際は演奏者にコンセプトを説明し、理解してもらって、演奏由来の情感を控えめにするようディレクションを行ったという。

 ただし、すべての音を演奏音に置き換えるわけではなく、シンセサイザーによる電子音も機能的に扱った。これにより、先のりんごの落下音など、抽象音が存在できる土壌を確保するとともに、抽象音がゲーム世界になじむための手助けとなったとのこと。

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 また、本作では“ブルーノート”が楽曲の随所に用いられた。これは、ポピュラー音階の基礎となるもので、音楽に渋みを与える効果があったという。

 外見はかわいらしいが、意外とリアルなことを言う動物たちの演出にも効果を発揮。また、これまでのシリーズにはないアプローチだったので「新作らしさも生まれた」と語った。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 そして、本作の開発に不可欠だったと語るのが、“サウンドデザインセクション”の立ち上げ。

 ここで、その重要性を語るためにも、講演者が藤川氏へとバトンタッチされた。

BGM班とSE班を調和させるセクション

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 藤川氏は、サウンドデザインセクション立ち上げの経緯について解説。

 BGMとSEの情報量に想定外の飽和が発生し、BGMの情報量コントロールができていない現状があったという。ある遊びかたでは問題がなくても、別の遊びかたをしたときに、情報密度が高くなりすぎることがあり、それは、それぞれのセクション内だけで解決可能な問題ではなかった。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
それぞれでは成立していても、組み合わせたときに不都合がある場合がある。それにしても、スライドがかわいい。

 そこで、BGM班とSE班から1名ずつでサウンドデザインセクションを設立。

 具体的に取り組んだ例として、以下の3項目が紹介された。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
  • 音像の取り決め
  • マイキングの提案
  • 音空間を包括的に見たアセット作成

音像の取り決め

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 サウンドデザインセクションが手掛けたのが、“音像”の設定。

 ゲーム開発当初は、ゲーム内に多数現れるさまざまな種類の音が、どのように鳴らされるのかという設定が整理されていなかった。

 それが整えられ、チームに共有されたのが以下の概念図である。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 手前から、UI(ユーザーインターフェイス)音>接近物>対象物>遠景 という位置関係でサウンドが聴こえるべきであるとされた(BGMは対象物と遠景の前後付近)。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
“この音はこのあたりから鳴っているように(聴こえるように)する”という図

 BGMが接近物より手前に来てはいけないし、遠景の音より遠くなってはいけない。

 この音像の提案をすることにより、ゲーム世界の音とBGMの距離感が整理され、ゲームプレイの向上につながった。

マイキングの提案

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 続いてチャレンジしたのが、楽器のパンニング(※)を広げられないか? という問題。

※定位。ステレオの場合左右の音のバランス。

 『あつまれ どうぶつの森』では、プレイヤーがいる中央に音の要素が集まり、中央部分が混雑しがち。プレイヤーの動作音が聞き取りにくくなってしまうため、どうにか楽器音を集中しない聴こえかたできないかと考えたそう。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 そこで取り入れたのがマイク2本で同じ場所を狙うという録音方法。

 ふつう、マイクを2本使って収録するときは、ホール側とブリッジ側で収録することが多いが、ほぼ同じ位置を狙うことで、パンニングが中央からなだらかに広がって、ステレオ感がありつつ奥まりすぎていないという狙い通りの音が収録できたという。

 レコーディング時の工夫で、プレイヤーがいる画面中央から鳴る重要なSEのためのスキマを作り出せた例として紹介された。

音空間を包括的に見たアセット作成

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 『あつまれ どうぶつの森』のBGMは、晴れや雨、雪などの天候によってアレンジが変えられているが、開発途中、このアレンジについても問題が発生。

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 天候ごとのゲームの状況がBGMがかちあってしまうことがあり、天候ごとにBGMの情報量を整理するようなアレンジを施した。

 具体的には、晴れの日のBGMは、乾いた足音をハイハットより手前に配置。乾いた土の足音は、ドラムのハイハットとぶつかるため、ハイハットの叩きかたを指定し、音の余韻が長めになるように叩いてもらった。

 そのほか、雨の日は“雨粒の音”が聞こえやすいサウンドを目指し、BGMの高域が強過ぎないように調整。雪の日は足音が出ず草の音が静かになり、リバーブも控えめになっている。さらに、虫が少なくなっており、高音域のSEが抑えられているため、足りない部分をBGMの楽器と演奏法で補完しているとのこと。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 これらの調整の目的は「音空間を包括的に見て、スキマを作ることで、プレイの没入感を上げるため」と説明。

 「本当に必要な音が聴こえるようにして、多様なプレイスタイルに適応できるようなサウンドデザインにしました」と、ゲームのコンセプトからつながっている音制作であることが述べられた。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 サウンド分野は、SEとBGMで分業されており、ふたつを実装してみて、違和感があれば歩み寄るという方法が取られがちだが、今回はサウンドデザインセクションを作り、最初からタッグでやったことで、スムーズな開発が行えた事例であるとまとめた。

『あつ森』効果音制作の実例

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 講演の最後に語られたのは、『あつまれ どうぶつの森』の効果音作り。

 まず『どうぶつの森』シリーズの効果音に必要なものは何か? という問いに対し“シンプルであり、特定の感情に偏らず、情報量が多すぎない”音ーーフラットで“スキマ”がある音、そこにプレイヤーの感情が介在すると定義した。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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『あつまれ どうぶつの森』効果音を形作るキーワード

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 その定義を踏まえ、最新作ではグラフィックの進化に合わせて、サウンドもよりクッキリと実存感が求められることに。そこで、

  • スキマ
  • キレ
  • 実存感

 をキーワードとして効果音の開発が進められた。

サウンドのフォーカス

 たとえば、スキマというキーワードに対しては、サウンドをフォーカスする仕組みを設定。

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 カメラが注目している部分の音をもっとも明瞭として、そのほかをぼやかすという仕様になっている。この設定で、プレイヤーが注目しているところが明瞭に鳴るようにわけだが、それは、カメラの中心から外れていくに従い音が小さくなる効果とリバーブで表現されている。

決定音の調整。問題はキレ

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 続いて、“キレ”の実例として、決定音の制作過程を例示。

 決定音の波形が画面に映し出され、制作当初は前作の決定音を仮で載せていたが、試行錯誤の結果、Nintendo Switchではベッタリした印象となってしまい「キレが足りない」という意見が出された。そこで、前作にはあったディレイ部分を外すことにし、合わせて、ピッチをあげて軽快感を出すことに。

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 さらに、ピークではない部分を削ることで、“キレ”が生まれた。

 この過程について、「ピークを見極め、それ以外を削ぎ落とし、よりシャープにする」ことでキレが良くなると解説。UIサウンドのキレを良くすることで、テンポ感が生まれ、プレイフィールの向上につながると説明した。

実存感を生み出すフォーリーサウンド

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 『あつまれ どうぶつの森』には、世間に実在するさまざまな家具が登場するが、これらの効果音については、実際に実物を用意し録音した“フォーリーサウンド”を使用している。

 グラフィックがかなりそのままの物となっているので、現実感のある音が必要となったための施策であるという。例として、コーヒーミルやかき氷機、赤べこ(はりこのとら)などが挙げられていた。

スキマと実存感が複合的に絡んだ例:環境音

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 『あつまれ どうぶつの森』では、シリーズで初めて、プレイヤーが地形も変えられるようになったため、地形の変化に強いシステムが必要となった。

 そこで、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の技術が応用されているという。

 複雑な形状の川や地形にグリッドを設定、水の地形の位置情報をもとに、音の鳴らしかたを計算して、どのような音が鳴るか決められている。

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 複数の発音点から統計的にスピーカーバランスを算出する技術が応用されており、川の音源情報を収集→スピーカーバランスを算出→再生という順で、どのような川の音が鳴るのか計算されているとのことだ。

 図の青い球の位置から算出し、複雑な川の形でも自然な聞こえかたになることで、サウンドの実存感を生み出しているのだ。

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
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 また、川の地形の曲がり角で波紋のエフェクトが現れるのに合わせ、音も“波紋の音”が出る。しかし、このままだと膨大に鳴ってしまうため、波紋の音をグループ化し、プレイヤーの移動によりこのグループが作られたり破棄されたりするというシステムになっていると解説された。

 このシステムは、セミナーを聴講していたほかの開発者たちにも衝撃を与えたようで、「マジか……」、「アルゴリズムはどうなっているんでしょう」、「すご」、「これは真似したい」などのコメントが流れていた。

 藤川氏は「よりリアルな、実存感のある川の音の鳴りかたに近づき、かつ、情報量の飽和を避けるよう工夫ができた」とこのシステムの効果を説明し、「サウンドも世代のアップデートを図りました」とまとめた。

おわりに

『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】
『あつ森』サウンドには“スキマ”が重要。ゲームプレイの根幹から生まれた音楽制作の哲学【CEDEC 2020】

 最後に、再びマイクを戸高氏に戻し、講演のまとめが行われた。

 戸高氏は、

 「サウンドもゲームの遊びの根幹を踏まえて考え、プレイヤーの自由な感情が介入できるように、ゲーム体験がより濃密な体験になるよう、スキマを作るように作成をしてきました。十人十色の『どうぶつの森』を楽しんで共鳴してもらい、さらにゲーム体験を共有していただけたなら、コミュニケーションにつながると思います」

 と語り、『どうぶつの森』のサウンド制作は、ゲームのコンセプトを踏まえ制作されていると改めて総括した。

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