時代は変わる、モバイルデバイスの通信速度も変わる

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。会期2日目の2月28日に、Super Evil Megacorp(スーパー・エヴィル・メガコープ)のCOO(最高執行責任者)兼エグゼクティブディレクターのKristian Segerstrale(クリスチアン・セーゲルストローレ)氏による“5G and Mobile Gaming The carriers strike back”が行われた。テーマは、同社が運営するMOBA『ベイングローリー』について……というわけではなくて、次世代の無線通信システム5Gのモバイルゲームにおける可能性について。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』をもじった“キャリアの逆襲”というタイトルが付けられているが、“5Gによってキャリア(通信事業者)の勢いが復活するのではないか……”というのが講演の主旨だ。

『ベイングローリー』の開発者が来るべき5G時代を大胆予測 リアルタイムプレイが主流になり、“キャリアの逆襲”が始まる【GDC 2017】_01
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▲長い業界歴を誇るクリスチアン・セーゲルストローレ氏。

 先述の通り、スマートフォン/タブレット向けに『ベイングローリー』を提供しているSuper Evil Megacorpだが、「いまや、いちばん時間を費やす“ゲーム機”がモバイルデバイスとなっているというゲーマーが、世界中に10億人単位で存在しています。そこに競技性の高いゲームを求めるゲーマーが本当にたくさんいる。だから、つぎの3~7年くらいのスパンで、“正しい選択をしたところ”が非常に大きな成功を収めるだろうと確認しています」(セーゲルストローレ氏)と説明。技術の進歩により通信環境がさらに改善されることで、競技性の高いゲームをモバイルデバイスでプレイするユーザーがさらに増えるであろうというのが、セーゲルストローレ氏の見かただ。

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 では、なぜ5Gになってキャリアが逆襲するのか? セーゲルストローレ氏は、2004年ころの、通信網を牛耳っていたキャリアだけがゲームを配信できていた時代を“邪悪な帝国”で、「シベリア強制収容所みたいだった(笑)」と振り返り会場を笑わせたあとで、“逆襲”の根拠を述べる。

 5GはLTEより10~100倍速いと言われているが、これは現在家庭に入っている光ファイバー接続よりも速い数字だ。そんなスピードも去ることながら、よりインパクトが大きいのが遅延の短縮だ。いまのモバイルだと70~100MS程度の遅延だが、5Gでは10MS以下の遅延になると言われている。70~100MSという、ゲームプレイに影響が出かねないMOBAのようなジャンルのゲームを考慮すると、その影響力は相当大きいと言えるだろう。

 さらには、パケットロスがほぼゼロになるのも魅力だ。「リアルタイムマルチプレイヤーにおける最大の敵は、遅延よりもパケットロスだからです」とセーゲルストローレ氏。「帯域幅が足りていても(事実、一試合15MB程度なので、足りているらしい)、パケットロスをしては意味がない。それは、リモコンのボタンを押しても反応しないようなものです」という。

 つまり、来るべき5Gの時代には、モバイルマルチプレイヤーの快適さは平均的な家庭のPCゲームを超えることになる。「どれだけ開発側で同期をしっかり取ろうとしても、プレイヤーのひとりのWi-Fiの調子が悪ければ、できることはなくなってしまいます。その点、モバイルならば“直通”なので、安定が見込めるんです」という点も、5Gにおけるモバイルマルチプレイヤーに需要を後押しする。となると、気になるのはいつ5Gの時代が来るか……だが、セーゲルストローレ氏によると、2017年には各所で試験が行われ、「2019年~2020年の展開になるでしょう」という。

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 開発者に今後問われるのは、来るべき5Gに備えてのゲーム作り。まずは遅延をどの程度許容するのか。いまは、150MS程度の遅延を許容するゲームデザインにする必要があるが、5Gではこの数字が下がる。当然のこと、それを考慮したゲーム体験を設計することが必須だ。

 通信プロトコル(規約)をUDPにするか、TCPにするかも、今後は問われるとセーゲルストローレ氏は見ている。これまではUDPが使われていたが、現時点でもTCPにすべきという考えも出てきているらしい。さらに、何をサーバーでやり何をクライアントでやるかのクライアント/サーバーアーキテクチャーも、5Gでは選択肢が広がってくる。

 5G時代では、ゲームデザインも大きく変わってくるだろう。「いまのゲームデザインは、3G時代に生まれたもので、遅延を許容したり、ターン制だったりしました。しかし、今後は“リアルタイム”を想定した作りにできるんです」と、セーゲルストローレ氏。いまは4Gの時代だが、来るべき5Gも視野に入れてのゲームデザインを始めていく必要があるというのだ。

 「2.5Gのときは常時接続なんてありえないと思われていたのが、すぐにふつうになったのを思い出してください。今後3~4年で、モバイルもリアルタイムが当然となっていくことを考えておいたほうがいいです」(セーゲルストローレ氏)。技術も、ユーザーの求める“当たり前”も、どんどん先へと進んでいく。いつ、その変化に対応するのかが大事だとセーゲルストローレ氏が指摘する。

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 5G時代のビジネスモデルも考慮する必要がある。今後キャリアがどのようなプランを提供していくのか、よく経過を見守って、予測していかなければいけないという。「極端な話、5Gになっても、いまみたいに月1Gの契約が主流だったら、ダウンロード速度は意味がない数字になってしまいます。リアルタイムでのゲーミングは、5Gの売りである、遅延の少なさが生きるところ。4Kテレビを何台も5G回線でつなぐというのは、あまり一般的ではない用途で、キャリアはおそらく、モバイルゲームこそ低遅延が魅力的なコンテンツだと気づくんです」(セーゲルストローレ氏)。

 このために、キャリアの存在感が大きくなると、セーゲルストローレ氏は予測している。「囲い込みの施策や、かつてのように“門番役”を担う可能性だってある」というのだ。

 “キャリアの逆襲”とは、取りも直さずモバイルゲームのリアルタイムマルチプレイヤー化の波であり、当然のことそこにはビジネスチャンスも生まれる。セーゲルストローレ氏は、モバイルデバイスの可能性にかけて、いち早くモバイル向けにMOBAの『ベイングローリー』を投入したわけだが、セーゲルストローレ氏の話を聞く限りでは、5G時代を迎えて、ユーザーが遊ぶゲーム機は、今後モバイルデバイスがさらにその存在感を増していきそうだ。

 「この業界、唯一変わらないのは、“変わり続ける”という事実だけ」というセーゲルストローレ氏の言葉が胸に響いた。時代は変わり、モバイルデバイスの通信速度も変わるというわけで、変化に対応したものだけが、生き残れるということなのだろう。

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