格闘ゲームだからこそ、このアートがある

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。会期4日目の3月2日に、カプコンの『ストリートファイターV』をモチーフとした“Art Direction of Street Fighter V-The Role of Art in Fighting Games-”が行われた。同作にてアートディレクターを務める亀井敏征氏によるこの講演は、基本は昨年8月26日にCEDEC 2016で行われたものと同じ内容で、“みやすさ、わかりやすさ”と“個性”を切り口に、『ストリートファイターV』のアートワークに迫るというものだ。

『ストリートファイターV』アートの哲学に迫る わかりやすさと際立つ個性と【GDC 2017】_04
▲『ストリートファイターIV』と『V』のアートディレクターを務める亀井敏征氏。

 詳細は、CEDEC 2016のリポート記事をご覧いただくとして、なによりも“格闘ゲーム”というものを真正面から見据えて、「格闘ゲームのアートは、プレイヤーにとってゲームの状況を一瞬ですばやくフィードバックするための非常に重要な要素」との哲学にもとづいて、アートを練り上げていくさまは驚嘆に値する。「キャラクターの身長はバトル中の印象で決める」や「身体や腰をカメラの方向に5度回すと、格闘ゲーム的に抜群にいいシルエットになることが多い」といった具体例を交えながらの講演は、来場した開発者にとっても大いに参考になったと思われる。さらにいえば、アートに対する工夫は格闘ゲームだけにとどまるものではない。亀井氏は最後に、「今回は格闘ゲームのお話をさせていただきましたが、皆さんがいま関わっているゲームタイトルでも、“このゲームではアートはどんな役割を果たすべきなのか?”ということを考えるきっかけになってくれればうれしいなと思っています」とコメントしているとおり、タイトルに見合ったアートというものがある。そんなことを改めて感じさせてくれる講演だった。

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『ストリートファイターV』アートの哲学に迫る わかりやすさと際立つ個性と【GDC 2017】_02
『ストリートファイターV』アートの哲学に迫る わかりやすさと際立つ個性と【GDC 2017】_03
▲腕を横から見たときは、上腕筋を広くして、前腕筋を狭くする。正面から見たときは逆にすることでフォルムをかっこよく見せる。開発で培われたノウハウだ。
▲視認性などのために背景色の色味をおさえている。

 以下に、会場で行われたQ&Aの模様をお届けしよう。

――シネマテックモードでは、どんな工夫をしたのですか?
亀井 シネマテックモードでこのまま使うと手が大きくなってしまうので、シネマテックモードのときは、手を小さくして頭身を保つようにしています。

――キャラクターの影については、何か工夫はしていますか?
亀井 影に関しては黒色で落としてしまうと、絵的な印象にならないというところで、すべてのステージで黒にならないように、何か差し色を入れる、特徴的な色を入れるという工夫はしています。

――個人的には、ネカリとファンはラインがもやっとしている印象があるのですが、それは意図的なものなのですか?
亀井 ネカリに関しては、こっちとしてはエッジを効かせたつもりでいました。ファンに関しては、中国人で、特徴的な着物のシルエットだったので、それは意図的にそちらを優先して、「このキャラクターは中国人だ」というところを、より強調して伝えるようなシルエットにしています。ちなみに、モデルのシルエットで強調できなかったキャラクターは、動きのシルエットで補完するようにしています。

――ネカリのVトリガーのときは、どのように伝わりやすい工夫をしているのですか?
亀井 髪の毛は若干邪魔になるので、一体感を出さず、エフェクトとして見えるようにして、アタリは関係ないですというのを強調して表現しています。

――キャラクターのスタイルは誰が決めるのですか?
亀井 最初はディレクターが決めます。ただ、そのなかで、ADとして自分も入って、その組み合わせでいけるかを精査しながら決めていきます。『ストリートファイター』の伝統として、キャラクターは、国と格闘技をシャッフルして決めるというのがあるので、ベースはそれにもとづいて『V』でも作っています。日本-空手-リュウみたいな。

――新しいキャラクターを入れるときに、既存のキャラクターとは区別しますか?
亀井 新しいキャラクターのシルエットに関しては、既存のキャラクターとかぶらないようにしています。昔のキャラクターと同じシルエットにしてしまうと、昔のキャラクターが死んでしまう。また、登場できなくなってしまうというデメリットがあるためです。

――新しいキャラクターが選ばれると、いろいろなものがついている印象なのですが、なぜですか?
亀井 新しいキャラクターが少し特殊な動きをしたり、特殊な能力を使うというところで言うと、今回『ストリートファイターV』でVトリガーというシステムがあるので、それにもとづいてキャラクターを作っていったときに、少し新しい力を使うというのは、必然的に出てきたと思います。

――『III』から『IV』になるときに、ビジュアルが2Dから3Dになりましたが、それはアートからの要望だったのですか? それとも上層部が?
亀井 小野です(笑)。

『ストリートファイターV』アートの哲学に迫る わかりやすさと際立つ個性と【GDC 2017】_01
▲これがウワサの“あやしい美術解剖図”。ドット絵を作るときの人体情報の取捨選択ノウハウが網羅されているらしい。見たい!

――社内資料のコピーは存在するのでしょうか?
亀井 これは日本でも聞かれたのですが、コピーは存在していません。ただ、“シャドルー格闘家研究所”というブログをやっているんですが、そこで公開される可能性はあります。帰国したら、公開できるかどうかを、相談してみます。

“シャドルー格闘家研究所”