Nintendo Switchのローンチタイトル『そるだむ 開花宣言』に迫る!
週刊ファミ通2017年3月2日号(2月16日発売)誌上にて、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)のローンチタイトルとしてのリリース(配信専用ソフト/定価1500円[税込])が発表された落ちものパズルゲーム『そるだむ 開花宣言』。その具体的な内容や、元になっているアーケードゲーム『ソルダム』との位置づけについて、開発元であるシティコネクションの主要開発スタッフに伺ってみた。
■吉川延宏氏(左端)
シティコネクション代表。同社が運営するゲーム音楽サウンドトラックレーベル“クラリスディスク”のプロデューサーも務める。
■井上一彦氏(左からふたり目)
ニンテンドーDSi/3DS用ソフトを中心に開発を手掛けてきたゲーム開発会社・甲南電機製作所の代表で、現在はシティコネクションの取締役。
■松下寿志氏(左から3人目)
元甲南電機製作所で、現在はシティコネクション所属のディレクター。『そるだむ』ではプランナーを担当。
■上田祐美氏(右端)
シティコネクション所属のグラフィックデザイナー。『そるだむ 開花宣言』ではアートディレクションほか、企画にも参加。
甲南電機製作所との統合により、ゲーム会社に
──まずはシティコネクションさんについて、簡単にご説明ください。
吉川 会社自体は設立して12年目で、“クラリスディスク”というテレビゲームのサウンドトラックレーベルを始めたのが、いまから5年前です。社名は、私がジャレコの同名ゲームを好きだったことからつけたのですが、それがきっかけなのか、偶然に偶然が重なって、いまから3年前にジャレコのIP(知的財産)を受け継ぐことになりました。このほかにも、サントラCDの制作をきっかけに、スターフィッシュさんのゲームライセンスを一部引き取ったりもしています。
──どのあたりから、自社で開発をしようと?
吉川 スタッフ全員、ゲームが大好きだったので、ふつうのゲーム好きの人と同じかそれ以上の温度で、漠然とゲームを作りたいと思っていました。
上田 (クラリスディスクで)サントラCDを作るには、どの曲がどこで流れるかを調べるために、クリアーするまでプレイしているのですが、それがぜんぜん苦ではありませんでした。むしろ「毎日こんなにゲームやっていて、いいのかな」って感じで(笑)。リアルタイムで触れていない初見のゲームをプレイするときは「このゲーム、こういう風になったらもっと楽しいかも」という話を雑談レベルでしていましたね。
吉川 しばらくは、いっしょにできそうな開発会社を独自にあたったりしていたのですが、昨年(2016年)の夏、ニンテンドー3DS用ソフトの『たたかえ ぶたさん』(ジャレコのアーケードタイトル『ぶたさん』のアレンジリメイク版。2015年配信開始)を開発した、甲南電機製作所の井上代表(※当時)に、喫茶店で、会社統合の話を持ちかけました。
井上 最初は冗談かなと思いました。
吉川 すると間髪入れずに「いいですよ」と言われたので(笑)、それならばと会社統合の手続きを進めた上で、開発部門の子会社“ノーティ”を設立しました。
──甲南電機さんをパートナーに選んだ決め手は、シティコネクションが展開していきたかったゲーム開発のビジョンに近かった、ということでしょうか?
吉川 古いIPをあのようにアレンジきる会社は、ほかにないなと思いました。
井上 『たたかえ ぶたさん』は、原作自体がおもしろいのは大前提ですが、元のタイトルのイメージを崩さずに新作としてリメイクしていくのが難しく、手探りな部分がありました。ディレクターの松下が主導で研究を進めて、最終的にあの形になりました。
─
─ところで、子会社の名前ですが、ひょっとして……。
吉川 ジャレコのアーケードゲーム『ノーティボーイ』(1982年)から引用して、なんとなくつけました。
開発着手は2016年12月から!?
──第1弾ソフトが、1992年リリースのアーケードゲーム『ソルダム』のリメイク作に決まった経緯を伺います。2016年12月に、シティコネクションさんが秋葉原のイベントスペースで開催されたジャレコ展を取材したとき、未発売のファミコン版『ソルダム』がプレイアブル展示されていましたが、その時点ですでに開発は決まっていたのでしょうか?
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吉川 展示した時点ではまったく考えていませんでした。直接のきっかけは、ジャレコ展の帰りですね。プログラマーのひとりが「『ソルダム』のリメイクだったら、(その時点で2017年春ころと予想されていた)Nintendo Switchのローンチに間に合うんじゃないだろうか……」とつぶやいて、じゃあそれでいこうとなりました。
井上 じつは、正式な会社統合の前から、甲南電機の中で、シティコネクションブランドでリリースするタイトルの開発をいくつか進めていたのですが、それらがNintendo Switchの発売日に間に合うかどうか微妙な規模感でした。その点『ソルダム』は、落ちものパズルというゲームの性質上、ある程度完成形が見えるので、急きょ開発ラインを切り替えました。
──昨年末から怒涛の展開だったんですね。もしプログラマーが『キメラビースト』(※ジャレコの未発売アーケードゲーム。グロテスクな自キャラがグロテスクな敵と戦う、横スクロールシューティング)を出したいなとつぶやいていたとしたら……。
吉川 (開発は)なくはなかったですね(笑)。それくらい、新ハードのローンチ近辺で出したい気持ちがありました。『ボンバザル』(※スーパーファミコンの初期タイトルのひとつ。販売はコトブキシステム)とか、ずっと記憶に残るじゃないですか。そもそもNintendo Switch自体、クラシックスタイルを踏襲したコンセプトを打ち出しているので、うちが所有しているIPを生かせるプラットフォームだと思っていました。
上田 『ソルダム』はふたり用の対戦モードがあるので、ふたつのコントローラー(Joy-Con)が標準でついてくるNintendo Switchにピッタリな題材ということもありました。
井上 『キメラビースト』はここ(社内)では嬉しいかもしれないけど、一般ユーザーはそうでもないかなと(笑)。
“ソルダム脳”を煥発する、フレンドリーな構成
──実際に『ソルダム』をアレンジ、リメイクするとなったときに、重視したことは?
吉川 『ソルダム』って、『テトリス』や『ぷよぷよ』に慣れている人ほど、コツをつかむのに時間がかかるゲームだと思います。それをどうわかりやすく、あるいは別のアプローチで楽しめるようにするかを考えました。
松下 自分は、ジャレコ展で初めて『ソルダム』を見ました。たまたま、すごくうまいプレイヤーが遊んでいるのをじっくり見る機会があって、“同じ色の実ではさむと色が変わる”ということはなんとなくわかるものの、色が変わるだろうと思っていたところが変わらず、逆に思ってもいないところが変わったりして、けっきょく最後まで実が消える法則がわかりませんでした。そのときはそれで終わりだったのですが、いざ開発するとなったときは、あの“よくわからないけど楽しそうな感じ”を多くのプレイヤーに味わってもらいたい、というところから考えていきました。ちなみにそのときのプレイヤーは、スコアが1000万点に達していました(笑)。
上田 私も実際にアーケード版を遊んで、難しいと思いました。初心者の人たちが本作ならではのおもしろさを実感できるまでの過程で何か目標になるものがないだろうか、という中でまず考えたのが“そるだむ”を消していくことに何か意味を持たせられないかというところでした。そこで提案したのが“そるだむ”に知恵の実的な役割を持たせて、アーケード版『ソルダム』、『ロッドランド』に出てくるかわいい魔物たちにそれを与えることで成長・進化をさせる、というものです。“そるだむ”を消す→魔物に与える→姿が変わる、という流れがあれば見守る楽しみも目的にできるのでは、と思いました。
吉川 本作ではモンスターを“プラミー”と呼び、形態変化を“開花”と呼んでいます。いきなりまったく別の姿になることを成長や進化というのは、少し違和感があるので。
──だからタイトルが“開花宣言”なんですね。
吉川 本当は、まったく別の単語をあるスタッフが聞き間違えたことから浮上した単語なのですが、Nintendo Switchのローンチが3月3日だし、季節的にもちょうどいいかなと(笑)。
──プラミーの種類はどのくらい用意されているのですか?
吉川 既存キャラクターの20体と、新たにデザインした20体の、計40体です。“開花”の法則はツリー構造になっていて、“何色をよく消したか?”などのプレイスタイルや結果によって、ツリーのラインが分岐していきます。すごくうまい人用のラインや、難しい条件を満たすと入れるラインもあるので、うまくなってからも楽しめると思います。
──スコアではなく、プラミーの開花に意識が向いていれば、知らず知らずのうちにうまくなっている……ということですね。
松下 より初心者向けのゲームモードとして、“つめだむ”と“らくだむ”も用意しました。つめだむは、決まったお題を決まった色の実でクリアーするというモード、“らくだむ”はひとり用のエンドレスモード(“そるだむ”)とほぼ同じ内容ですが、いずれのモードもそるだむの実が自由落下せず、じっくり考えてから自分のタイミングで落とせるようになっています。これらのモードで消すコツをつかんでもらって、最終的には“そるだむ”モードで高得点を目指してもらいたいですね。
──そこまで新規ユーザーに対策するほどのおもしろさがあるということですね?
吉川 連鎖消しのない、ストイックなタイプではありますが、落ちものパズルゲームとしてのおもしろさは、確実にあります。
上田 確実に“脳汁”が出る瞬間があるんですよ。
松下 そういう状態は、社内的には「“そるだむ脳”になった」と言っています(笑)。ああ、こういうことなのかとわかる瞬間が段階的にあって、それが3回訪れると、だいぶ楽しくなりますね。
吉川 もともと「あの『ソルダム』がこうなりました!」という売りかたをするつもりはありませんでした。初めて触れる人に、新しいパズルゲームとしてやってもらえたらいいなと思っていたので、こうした方向性でまとまっていくことを、安心して傍観できましたね。
そして、気になるサウンドは……?
──アーケード版『ソルダム』のファンなど、往年のジャレコゲームを知っているユーザー層にとって、本作は、“シティコネクションはこういうスタイルでIPタイトルをリリースしていきます”という宣言でもあると考えてよいのでしょうか?
吉川 「ビジュアル面含めて、原作をこれだけ変えちゃいます。でも、大事なところは変えていません」という作りは、『たたかえ ぶたさん』と同様です。
──本作の1500円という価格は、かなりがんばっているように思えますが。
井上 制作期間などを考慮しても、妥当なところかなと。今後のラインアップに関しても、「ちょっと買ってみようかな」と気軽に思えるくらいの価格帯になるようにはしたいですね。
──ファンが気になるのはサウンド面ですが……?
吉川 『ソルダム』のBGMはキメキメのフュージョンサウンドで、ジャレコゲームの中でも三本の指に入るほどの人気です。『そるだむ』では、オリジナル版に収録されている全曲のアレンジバージョンを楽しめます。アレンジを担当したのは、クラリスディスクでもマスタリングをお願いしている方で、それほど派手なアレンジではありませんが、ゲーム音楽ファンのツボを押さえた音になっていると思います。もちろん、オリジナル版のBGMも、ゲームをある程度進めることで聴けるようになります。
井上 しかも、サントラCDよりも安い(笑)。
上田 クラリスディスクをずっとやってきたこともあって、サウンド面でも満足してもらえるものにしたいですね。今後もこだわりたい部分です。
──それを聞いて、多くのファンが喜んでいると思います(笑)。ゲーム会社・シティコネクションとしての今後の展望や具体的な予定を、可能な範囲で教えていただければと。
吉川 今回、Nintendo Switchで開発してみて、本当にいいハードだなぁと思いました。気軽にマルチで遊べるし、本体ディスプレイの視野角も広いし、プログラマーから見ても、開発しやすいそうです。今後マルチプラットフォームで展開する際にも“Nintendo Switchと何か”という感じになりそうなくらい、気に入っています。まだプラットフォームは公表できませんが、今年の夏までには、現在開発中のタイトルをふたつほどリリースしたいですね。
──いきなりハイペースですね! いちおっさんゲーマーとしても、どんなタイトルが遊べるのか、楽しみにしています。それでは最後におひとりずつ、読者に向けて『そるだむ』のアピールを。
吉川 Nintendo Switchのすばらしさを手軽に体験するのに、ぴったりなタイトルだと思います。価格も手ごろなので、本体を買った皆さん全員に買っていただければと(笑)。
井上 全体的に、初心者に楽しんでもらえる要素を詰め込んでいます。アーケード版のままだったら1回で挫けるかもしれないところを、5回、10回……と遊んでもらえるようフォローしています。
松下 買ったばかりのNintendo Switchを仲間内で遊ぶときに、『そるだむ』だったらちょっといっしょにやってみようかと勧められます。コミュニケーションツールとしてもいいんじゃないかと思います。
上田 Nintendo Switchには、本体だけでTwitterやSNSに簡単に投稿できる機能があります。「このプラミーはこうやったら登場した」という情報をユーザーどうしの交流も含めて、楽しんでください!